6話 到着!王都アルヴァース
「おお、ここが…」
街を取り囲む壮大な壁、その中央にそびえる荘厳な門。ただでさえ巨大で偉大さを感じる壁と門には、見る者を感動させるような彫刻が刻まれており、まるで神話で語られる天国への門のようだ。魔法に精通するならば一目見ただけで、それらがただ豪華なだけの壁ではなく、魔法結界が張り巡らされた強固な防壁であると気づくだろう。
そしてその中の街の中心、壁の外からでも見える巨大な城こそーー
「あれが王の住まう城、アルヴァース城ですか。これまた立派な…」
そう。この場所こそが人の國の中心にして要。人の憧れの集う都。
ーー王都アルヴァースである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まだか…?」
少し不機嫌なファリナが呟く。その後ろには彼がいつ暴れだすかと不安でソワソワしてるエリーゼ。そのさらに後ろにはリシータとリョーダが並んでいる。
「あ、ほら、あと…3組っすよ。もう十分もかかりませんって。んーそれにしても…あー立ち疲れたー…」
現在、ファリナ達一行は門の前にできた行列に並んでいた。なんでも巨大な門を開けることはほとんどないらしく、その横についている小さな門から入るのが普通なようだ。危険因子を取り除くためとのことだった。ご苦労なことだ。
それにしても、とファリナは考える。人間のお行儀の良さには驚かされる。魔の國でこんなものを作ったらどうなることか。きっと大暴動が起きて翌日には門がなくなっているだろう。魔人達の中には人間と魔人の共存を訴えてる者もいるが、もし実現するにせよまだまだ先の話になりそうだ。
「そういえば、お三方はいったい何の用で王都へ?」
ふと思い出したかのようにリシータが質問をした。
「俺たちは宝けn…ごほん、ちょっとした‥なんだ、旅行みたいなものだ。…ん?今お三方といったか?お前たちは一緒ではなかったのか?」
「リョーダさんとは森に入るときにたまたま出会って、目的地が同じだったので一緒に行くことにしたんですよ。なにせ一人で森に入るのは危険ですし心細いですしねぇ。」
「そしたらあまり話す暇もなくいきなり魔物に襲われちまって…狼は見たと思うんすけど、それ以外にも小鬼とかでけえ蛇とか…なーんか今思うといつもより凶暴だったんすよねー」
リョーダの言葉を聞き森で遭遇した黒狼の群れのことを思い出した。今思えば、たしかに普通よりも魔力に満ちていた気がする。もしかすると魔王が変わったことで何かしらのーー
「次の方ー」
「あ、ほらファリナさん達の番すよ」
考え事を中断し、門番の前に移動するファリナとエリーゼ。
「どこから来たんです?」
「赤の平原だ」
「ふーん?そりゃまた随分遠くから…何の用で?」
「…観光…?」
「観光ね。荷物は?」
「ない」
「ないの?遠くから来たのに?ん、確かに見当たらない…んー…ちょっと詰め所まで来てもらえる?」
「断る。何も問題はない、早く通せ」
「‥‥わかりました。大丈夫そうですね。どうぞお通り下さい」
「え…?」
面倒なことになったと頭を抱えていたエリーゼだったが、さすがに違和感を覚え顔を上げる。このまま通ってしまっていいのだろうか。
「いくらなんでも適当じゃ…いや、数も多いですしこんなものなんでしょうか‥?」
とはいえこれ以上詳しく聞かれたら困るのも事実なので、ここは大人しく雑な審査に感謝することにするエリーゼ。ちらりと後ろを振り返ると、門番は何事もなかったかのようにリョーダの検問をしている。
「おお!見ろエリーゼ!あの食い物はなんだ?」
まるで本当の幼女のようにはしゃぐファリナを見て、気持ちを切り替えるエリーゼ。そんな二人の背中を、リシータは静かに見つめていた。
「ん?リシータちゃん、どうかした?」
「いえ、なんでも。さて、我々も早く行くとしましょうかねぇ」
「そうだな!おーい!まってくださいよー!」
そういうなり小走りでファリナ達を追いかけるリョーダ。リシータもまた、走りはしなくとも少し速足で歩きだす。ーーが、何かを思い出したかのように立ち止まり。
「山を消し飛ばし魔獣を従え……ああ、そういえばつい最近…‥魔王が変わったらしいですねぇ…‥」
リシータがぽつりと漏らしたその呟きを聞いていた者は誰もいない。リシータもまた、何事もなかったかのようにファリナ達を追いかけるのだった。