4話 激戦
ーーとてつもない閃光が周囲を照らし、轟音が響き渡る。
「おやぁ?」
「なんだ!?」
突然の衝撃に思わず地面に伏せる二人。一人は茶髪の男、もう一人は赤髪の女。見たところ人間の冒険者だろうか。
しばらくして衝撃が収まった後、二人は顔を上げ状況を確認する。
「--!?なんだありゃあ!?」
「山が…」
緑に覆われた山が消し飛び、溶けだしている。まるで地獄のような光景だ。
「噴火…ではなさそうですねぇ‥となると人為的な…?」
「い、いやいや…人為的にったって、何のためにあんなことーーって!そんな場合じゃなかった!下がれ!」
飛び出してきた狼を剣で迎え撃つ男。出てきたのは小さな民家ほどの大きさを誇る巨大な狼だった。狼は冒険者達を警戒するように睨みつけ、低く唸り声をあげる。
「しつけえな…!さっきの雷でビビってどっかいけよ!しかもお前なんかでかくねえか…!?」
男は悪態をつきながらも狼に切りかかる。太刀風で回りの木が両断されるほどの威力、だが狼はそれをあっさりと躱し木々の間を軽快に走り回る。あの巨体でよくあんな動きができるものだ。男はつい感心してしまう。
「って、感心してる場合じゃねえな…!しゃーねえ、火災の原因になるからと封印してたリョーダ様の必殺剣!今ここで解き放つぜえ!」
叫びと共に男ーーリョーダは剣を頭の上にかざす。
明らかな隙が生じ、体を引き裂いてやろうととびかかる狼。凄まじい速度で迫る爪に、脆弱な人間の体は哀れに引き裂かれーー
「--ンバーニングウウ!ソオォォォォド!」
ーーー轟ッ!!
子供が三秒でつけたような技名と共に振り下ろされた剣は、そのふざけた名前とは裏腹に大気を焦がす程の熱量を伴い狼に襲い掛かる。狼はそれをかわし切れず、鼻先からしっぽにかけて両断される。その断面は一瞬にして焼かれ、臓物どころか血も出ない。周囲に肉の焼ける匂いが充満する。
「流石ですねぇリョーダさん」
「へっへっへ!どーよリシータちゃん!まあ俺にかかればこんなもんよ!って遠いね!?」
数十メートル離れた木の陰から声をかけるリシータに思わずつっこむリョーダ。信用されてないのかな…と少し自信を無くす。
「いやあスゴイです、こんな巨大な狼を一撃なんて流石ですよぉ、天才って言葉はこういう人のためにあるんだろうなぁ」
「え…?そ、そうか?いや、まあ、たしかにね!うん!俺ってやっぱ天才だな!…んあ?」
おだてられて調子に乗るリョーダ。しかし喜びもつかの間、何かを察知し再び剣を構える。
リシータをかばうように立ち、神経を集中させる。一瞬の静寂。
--来る!
茂みから飛び出してきたのは、先程と同じ種類の狼。しかし、先程とは違う点があった。
「おいおいおい、嘘だろ…!」
--7匹。ただでさえ厄介な狼が、群れで襲ってきたのだ。ーーもしかしたら、さっき殺した奴の仲間かもしれない。それならば怒ってるはず、かなり危険だ。ーー
そう判断したリョーダは決死の覚悟でリシータに呼びかける。
「リシータ!ここは俺に任せろ!お前は先に逃げて助けをーーっていねえし!はやいね!?いやいいんだけどね!?でももうちょっとこうーーおっとぉ!?」
叫び声をあげる男にじりじりとにじり寄る狼の群れ。再び剣に火をともし、迎撃の構えをとる。
「くそ‥!こいやぁぁ!今夜はステーキ祭りじゃぁ!!」
自分に発破をかけるリョーダに、狼たちが一斉に襲い掛かる!--生き残りをかけた壮絶な戦いの火ぶたが切られたのだった!!
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「ひえぇぇぇーー!やっぱ無理だあぁぁぁ!誰か、だれかたすけてぇ!」
「む?」
ファリナ達が森の中を歩いていると、どこからか情けない声が響いてきた。気まぐれに声の主を探すことにする二人。
「おや?あれは…ブラックウルフの群れですね」
ファリナとエリーゼが声と魔力を頼りに捜索をしていると、ブラックウルフの群れが何かを取り囲むように円状に並び唸り声を上げていた。その中心で震えてるのは…
「ハハハハハ!見ろエリーゼ!人間が殺されそうになってるぞ!」
「…人間のふりをするつもりあります?」
「なぜだ?人間は他人の不幸を喜ぶものではないのか?」
「偏見がすごい」
やはり人間のふりをするのは難しそうだ。前途多難な未来に溜息を隠せないエリーゼだった。