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3話 宝剣

 今後の方針を決定してから数日が経った頃。


「そろそろその体にも慣れましたか、ファリナお嬢様」


「ああ。だいぶ使いこなせてきたな」


ゼノファリウスは変わり果てた肉体に少しづつ慣れはじめ、エリーゼもまた、使い果たした魔力をほぼ全快していた。

 ファリナというのは貴族令嬢という設定でやっていく以上、さすがにゼノファリウスという名前ではまずいだろうということで考えられた仮名である。面倒だからそのままの名前でいいだろうと言い放った彼を無視し、エリーゼが勝手につけた名だ。なんでもこの名前を非常に気に入ったらしい彼女は、それ以来ずっとこの呼び方でゼノファリウスのことを呼んでいるのだった。

 

 ちなみにゼノファリウス、もといファリナは蛮族スタイルから文明開化を迎え、高級そうなローブをあえて少しボロにしたものを着用していた。これもエリーゼが用意したものだ。元とはいえ仮にも魔王の腹心、服を創り出すくらいはお茶の子さいさいだ。

 できれば百獣の王のたてがみのような髪型も直したいと思ったのだが、こればかりはどうにもならなかった。

宝石のような美しい髪だけに非常に惜しい。下手をすれば本人より頑固な髪を撫でつけるには、エリーゼでは力不足だったのだ。


「それで?弱体化しているとのことでしたが、実際のところどうなんです?」


「肉体はかなり弱まっている。元が俺様だからそこらの人間や魔人には腕力で負けることもあるまいが、まあ魔王軍の幹部級になると肉弾戦では厳しいだろうな」


 そういって力こぶを作ろうとする彼だったが、ほんの少し膨らんだだけで、かつての筋肉は見る影もない。もともと腕力でごり押しする戦闘スタイルだったので、この変化はかなりの痛手だ。


「ふむふむ。では魔力の方は?」


「む…?そうだな…ふむ」


 何を思ったかファリナは唐突に横を向き、軽く腕を水平に走らせた。それまでは生命の音に満ちていた森から、すべての音が完全に消え去る。そしてーー


 ーー世界を灼き尽くすかの如き閃光。一拍おくれて震動。見れば、巨大な落雷が山々をすっぽりと覆いつくしているではないか。まさに神話の再現、怒れる魔王の鉄槌とはこのことか。


 理不尽な天罰を受けた山には悠久の自然など欠片も残らず、赤熱し溶けだした地面が溶岩のように斜面を伝っている。哀れ、山で自由を謳歌していた獣たちはもはや跡形もないだろう。まぁ、そんなことを気にしないが故の「魔王」なのだが。


「あの程度のことならひとまず問題なさそうだ。あえて言えば魔力が制御しにくいな。まだ体に慣れきっていないのか、それとも肉体に対して魔力が多すぎるのかはわからんが」


「そ、そうですか。それはなにより…」


 なんでもなさそうなファリナに、ひきつった笑顔を浮かべるエリーゼ。あまりにも弱体化しているようなら、今まで散々振り回された腹いせに思いきりからかってやろうかと密かに考えていた彼女だったが、下手なことをしなかった自分に感謝せずにはいられないのだった。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて。では我々は明日より人の國に行くが、そこでやるべきことがある」


「観光旅行ですか?それなら昔から行ってみたいところがありまして」


 どうやらエリーゼは人間の世界を満喫するつもりらしい。元魔王の部下だけあって図太い精神をお持ちのようだ。


「たわけ。そんなことは後回しだ」


「あ、一応行くには行くんですね」


 どうやらファリナも満喫するつもりらしい。流石は主従というべきか、似た者同士のようだ。


「話を戻すが、人の國に行ったら『宝剣』の情報を集める」


「四宝ですか。…いります?今のままでもレナータといい勝負できるんじゃ…」


 『宝剣』。『覇界の四宝』などと呼ばれるそれは、世界の創造と共に創られたとされる四振りの剣である。一振り持つだけで一国の王となることを約束され、全ての宝剣を手に入れれば全界の覇者になると言われている。

 が、先程の轟雷を見る限り必要ないのではと思うエリーゼ。別に、山一つ消し飛ばすくらいなら彼女にもできる。ファリナの恐ろしいところは、あれが通常攻撃の範疇にあるということだ。その気になればあれを連発するのは容易なこと。エリーゼとほぼ同等の実力のレナータに、ファリナが負けるとは到底思えない。


「魔王の座を奪うのに宝剣の力など借りるつもりはない。だがこの呪いを解くのは俺でも容易ではない。何せ、レナータが俺を貫いたあの剣、あれはおそらく宝剣の一振り、『天ノ剣』だ。もともとは神の國にあったと聞く、神がレナータに与えたのだろう」


「なるほど。別の宝剣ならば『天ノ剣』に載せられた呪いも解ける可能性があると」


 エリーゼは密かに溜息をついた。観光旅行はしばらく先になりそうだ。

 


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