15話 勇ましき者
「しかしお前───初めてあった時は随分とビビっていたが、もう平気なのか?」
たまたま大通りでガルドナと遭遇したファリナ達は、だらだらと話をしながらギルドに向かっていた。
「あァ、あれか? ははっ 情けねェとこ見せちまったが、こう見えてもかなりのビビりなんだよ。───んー違ェな…なんつーか───初見ビビりってとこか?」
「? よくわからんな。人見知りか?」
「いや、それとも違う‥‥私ァな、初めて見た奴に感じる恐怖?みたいなやつの大きさや感覚で、相手がどんな奴で、どんくらい強ェかがわかンだよ」
「ほう?それはおもしろそうな特技だな」
高位の魔人ともなれば見ただけで相手の実力がある程度わかる者もいるが、人間の中にもその類の能力を持っている者がいるというのはかなり興味深い。そして興味深いといえばもう一つ───
「で、どうだ?俺より強そうな奴を見たか?」
最上級冒険者とかはかなり強いと聞くし、もしかすると魔王軍の幹部より強い奴もいるかもしれない。もしそうなら是非とも一度戦ってみたいものだ。
「あっははは!別に私ァ全世界の人間を見てきたわけじゃねんだ、アンタより強ェやつなんてそうそういねェよ!───でもま、そうだなァ‥‥アンタほどじゃねェにせよ、結構やべえのは見たことあるぜ。最上級の奴らとかさ」
「『最上級冒険者』か…俺も気になってたんだ。どんな感じの奴らなのだ?」
「そうさな、ちょっと前まで四人だったんだけどよ、死んじまってな…今は三人、『烈剣』と『鉄壁』と…そして『勇者』。そいつらは皆見たことあんな」
「ほう…勇者か…」
『勇者』の名はファリナが魔王をやっていた頃にもしばしば聞くことがあった。魔王軍の幹部を二人殺した要注意人物だ。俄然興味が高まるファリナ。
「あァ、アイツはヤベェぞ。強さで言ったらファリ嬢のが幾分上だけどよ、アイツはとにかく不気味なんだよ」
不気味とは、またなんとも『勇者』の名には相応しくない評価だ。
「他の二人──『烈剣』と『鉄壁』を見た時はさ、なんかスゲェ強くて、でっけー怪物に睨まれてるような、そんな恐怖を感じたんだ。んで、アンタとあった時は───なんていうかもっとヤバイ、それこそ、神や魔王がいたらこんな感じなんだろうなって感じた‥‥はは、改めて考えっと、アンタほんと何もンだよ」
…ふむ。流石に元魔王と気づいたわけじゃないだろうが、それでも比喩に魔王やら神やらを使うあたりかなりのものだ。精度については期待してもいいだろう。
ファリナがそんなことを考えていると、ガルドナは思い出したように少し震えながら立ち止まり、勇者のことを話し出す。
「…で、勇者なんだけど…初めて見た時、私ァアレを人間とは思えなかった。……強さじゃねェんだよ。例えば、暗闇で一人でニタニタ笑ってるやつと目が合った時みたいなさ、いや、違う、ちがう、もっとおぞましいさ、…………」
「───心の底からゾッとしたんだ。…アンタを見た時ですら、そんな気持にはならなかった」
なんとか言葉をひねり出したといった様子のガルドナは、「はぁ…」と疲れたようにゆっくりと息を吐いた。そしてハッとして周りを見回す。
「おっと…いつの間にかギルドじゃねェか!さて、私も久々に狩猟でもしてくっかな!」
話を逸らすかのように不自然に明るく振舞いながらギルドに向かうガルドナを尻目に、ファリナは勇者の話について考える。
ゾッとする、と、そんな評価をされる輩は何度か見たことがある。大抵警戒心が強く、目的のためなら手段を選ばない。卑劣な手段を、当たり前のように取れる連中。
人間にも魔人にも、卑怯な手段を使う者を批判する奴は必ずいる。正々堂々とした戦いを尊び、卑怯な策略に頼る奴は軟弱者と。だが、ファリナはそうは考えていない。むしろ、勝利に対するその貪欲なまでの執着。相手の裏をかくその知能。──それもまた、強さの形。
──素晴らしい!もし勇者がその名に似合わず、あらゆる手を尽くしてくるような奴なら──
「勇者か…!一度会ってみたいものだ!」
「───────────────ん? 呼んだかな?」
──ぞわり、と。ギルドの扉の前にいたガルドナが、ドアノブに手をかけようとした姿勢のまま凍り付く。
「ハロー、ハロー。やぁやぁ!少し、どいてくれる?」
ぎぃ、と小さな音と共に扉が開き、出てきたのは鎧に身を包んだ長身の…顔は兜で見えないが、声からして恐らく、男だ。
扉の前にいたガルドナは、邪魔になっていたことに気づき、よろめくようにその場をどいた。そんなガルドナに、男は顔、というか、兜を向ける。
「あれ? ガルドナ、今日は酒は呑んでないのかな? グ~ッド! いいね! 酒は百薬の長なんて言うけどね、毎日やるのは体に悪い!」
男は、ぽん、とガルドナの肩をたたくと、ゆっくりと首を動かす。
「ん~~?」
男はそのまま体の向きも変え、ゆっくりとファリナ達に近づいてくる。彼が近づくにつれ、エリーゼの髪がわずかに逆立ち、瞳孔が開く。戦闘態勢、とまではいかないが、警戒態勢といったところか。
「ハッハー! 君たちのことは聞いたよ! 若い姉妹が入ったってね!思ってたよりずっと若かったけどね! グッドグッド、怪我には気を付けてね!」
そしてファリナ達の目の前で立ち止まり。
「君たち名前は? っと、その前に自己紹介か! ハハッ! ソーリーソーリー! …ゴホン!」
「俺は、しがない冒険者さ! ギルドの皆には──」
膝立ちになり、ファリナと目線を合わせて。
「──勇者…と、そう呼ばれてるよ。よろしくね!」




