14話 食い逃げは犯罪
「はぁ…結局有力な情報は無かったな…」
図書館にて死の國についての本を、それこそおとぎ話から小難しい哲学書まで読み漁ったファリナ達だったが、特に役立つ情報もなかったため、仕方なしにギルドへと戻ろうとしていた。
「まあ魔人ですらわかっていないことが人間にわかるとも思えませんからね」
最近では人間は科学と魔法を融合させ、独自の魔道具などを創り出しているようだが、未だに純粋な魔法については魔人には遠く及ばない。その魔人ですら知らない魂のみの世界への行き方など、考えてみれば人間が知っているはずもなかったのだ。
しかしそうなると宝剣を手に入れるのはかなり難しくなる。もとよりそう簡単に手に入るとは思っていなかったとはいえ、まさかここまで情報がないとは───
「私としては今の姿の方がいいと思うのですが」
「冗談じゃないぞ…とはいえ、打つ手なしか…ん?」
悩むファリナの鼻孔に香ばしい香りが入ってくる。朝にリシータにもらった串焼きの香りだ。───頭を使ったせいで腹が減ったなーーと、そう思ったファリナは露店に売り出されていた串焼きを適当につかみ口に運ぶ。……今までに我儘放題に生きてきた魔王様は、どうやら金銭という文化をご存じでないらしい。
あわてて財布を取り出すエリーゼだったが、ふと違和感に気づく。店主や、店の前にいた客らしき人たちが
何も言わないのだ。もしや試食だろうか?と思ったが、一応、
「あの…お代はいいのですか?」
と、声をかける。すると、
「………え?…あ‥!ちょっと嬢ちゃん!困るよ!金を払ってからじゃないと!」
まるで夢から覚めたようにファリナを追いかけ始める店主。背が低いから見えなかったのだろうか。美形だけに小さくともそれなりに目立つと思うのだが───
「金?俺はもってないぞ。これくらい別にいいだろう」
「はい、もちろんです」
「───えっ!?」
急いで代金を払おうとするも、態度の急変した店主に困惑するエリーゼ。もしや子供だから見逃しているのか、それともよもや幼女趣味かと思い店主の顔を覗き込むも、そんな風はなく、むしろ人形のように無表情で───
と、そこまで考えたエリーゼの頭に、ふとあることが思い起こされる。王都に入った時、不自然なまでのザル警備。
「───あ」
何かに気づいたエリーゼは横を通りがかった若い男に指を向ける。すると、一瞬、ぴたりと男の動きが止り、その後先程の店に向かって歩き出した。そして自然な動きで串焼きを掴み、そのまま歩き去ろうとする。
「おい!何やってんだ!お前、金を払え!」
が、当然そんな行為は法が許さない。男は店主につかまると正気に戻り、「あれ…?」とあたりを見回した。
「人間を操ってどうしたんだ?ストレス解消か?」
「お嬢様、命令の魔法は使っていませんよね?」
呑気なことを呟くファリナに溜息をつくエリーゼ。念のため魔眼を使って確認するも、やはり魔法を使った形跡はない。
「…多分さっきの店主や門番が見逃してくれたのはお嬢様が原因だと思います」
「…?別に言葉に魔力を込めたりもしてないぞ」
上位の魔人が魔力を込めた言霊には、自然と周りを従わせる力がある。が、今のファリナはそれすら行っていない。ではこの現象はなんなのか。
「おそらくですが…存在としてあまりにも格が高すぎて無意識のうちにお嬢様の機嫌を損ねないようにしているのだと…」
「‥‥そんなこと言われても。これ以上魔力は抑えられないし…むしろラッキーなんじゃないか?面倒なことにならずに済むだろう」
「いえ、一般人ならともかく、実力者にはさすがに通じません。そんな輩に今のような状況を見られたら…」
「おー!ファリ嬢!なにやってンだ?」
「───っ!?」
「ん?お前はたしか…ギルドにいた奴か」
道の正面から呼びかけてきたのは、ギルドに入った時に道をふさごうとした長身の女だ。あの時は結局震えながら道を開けていたが、そんなことはもう気にしていない様子で、気軽に歩いてくる。
…というか、
「‥‥ファリ嬢とは俺のことか…?」
「おー、アンタたしか「ファリナお嬢様」とか呼ばれてたろ?あァ、そうだ、私ァガルドナってンだ。よろしくな」
そういって気さくな笑みを浮かべるガルドナ。改めて見ると、人間にしてはそれなりに強い。魔力や筋肉の付き方もそうだが、何より隙が無い。明るい笑みを浮かべながらも警戒を怠っていないらしい。流石は冒険者といったところか。
「うむ!知ってるようだが俺はファリナだ。よろしく!」
差し出された手を握り挨拶を返す。魔の國ではまずありえない行為だ。なかなか人間らしくなってきたのではないか、とファリナは思った。
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ファリナとガルドナがいい顔で握手をしていたころエリーゼは───
「ば、バレてない───見られてない…ですよね?今の…」
いつ人間じゃないとバレるかと、ハラハラでそれどころではなかったという。




