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12話 大図書館

「んーーー!いい朝だな!」


 朝食をすませ、宿の外でゆるゆると伸びをするファリナ。人間の中では魔人は夜や闇が好きで太陽は嫌いなどという思い込みがあるようだが、実際はそんなことはない。魔王といえど日向ぼっこくらいするものだ。


「図書館は街の西という話でしたね。まだ少し早いですが散歩がてら見に行きますか」


 町中に繰り出すファリナ達。朝だというのにすでにすっかり目覚めた街には、昼間ほどとはいかないまでもそれなりの人影が見える。だが、


「なんというか…どんよりしてないか?」


 たしかに、ちらりと見ただけでも浮かない顔をしている者が多いことがわかる。中には、どうみても顔色が悪い者までいるようだった。せっかくのいい天気だというのに辛気臭い奴らだ。もしかすると人間は総じて朝に弱いのだろうか。


「えぇ、なんでも最近奇妙な現象が起きているようでしてねぇ」


 考えごとをしながら歩いていたファリナ達の背後から、聞き覚えのある声がかけられる。振り返ると、そこにいたのは赤髪の魔法使い、リシータだった。


「やぁやぁ、昨日ぶりですねぇ。ギルドにはちゃんと登録できたようでなによりです。はい、これどーぞ」


 ひらひらと手を振りながら近づいてくるリシータ。渡されたのは、串焼きになった虫のような何かだ。昨日近くの露店で売っているのを見かけた気がする。試しに少しだけかじってみると、口の中に香ばしいタレの匂いがじわりと広がった。なかなか悪くない食べ物だ。朝食もそうだったが、人間の食事は魔の國に比べてレベルが高い。


「たしか図書館にいきたいのでしょう?ご案内しますよぉー」


 同じく串焼きを食べながら大通りを歩き始めるリシータ。ファリナ達も彼女についていくことにする。


「それで?奇妙な現象とはなんのことだ?」


 串焼きをほおばりながらファリナは質問する。


「何の脈絡もなくある日突然人が死体となって発見されるんです。死体には外傷も見つからず、毒や酸欠などの痕跡もなければ、生前特に病気を患っていたりするわけでもない。亡くなった方々には特に関係性もなく無作為に…巷では魔王の呪いだーなんて騒がれてますよ」


 無論そんな呪いはかけていないファリナだが、話を聞いたエリーゼはファリナを見つめてくる。


(そんな呪いかけてないぞ‥‥!魔力の制御が上手くできないから多少魔力が漏れるくらいはあるかもしれんが、流石に人間を殺せるほどのものではない!)


 必死にエリーゼにテレパシーを送るファリナ。リシータは二人の様子に気づく素振りはなく、そのまま話を続ける。


「しかもそこに畳みかけるように…森の奥の方で見たこともない巨大な蛇の魔獣の目撃が相次いぎ、それとほぼ同時に森の魔獣達が凶暴化したのです。さらには不穏な事態が重なり気が滅入ったのか、気分が悪いと訴える人が続出しーー」


「…なるほど、それで今の状態というわけか」


 そこまでのアクシデントが重なっていたとなれば、この状態にも納得だ。というより、それでも街に出て活動をしているのだからむしろ元気すぎるくらいだろう。


 --しかし、とファリナは考え込む。突如として現れた大蛇、そしてそれと同時に凶暴になった魔獣達ーーハッと何かに気づいたように、顔を上げる、エリーゼを見るファリナ。エリーゼもまた何かに気が付いたかのように、ファリナを見ていた。


 そう、二人はその現象に思い当たる節があったのだ。

 --魔王軍幹部が一人、ヒリマ。ファリナが魔王の座を追われたあの晩も姿を見せた召喚術師。彼女が飼育している魔獣の中に、デスヒドラとかいう魔獣がいたはずだ。手足がなく、蛇のような体をしたその竜は、体内から特殊な瘴気を噴き出し、周囲の生物を凶暴にする性質を持っている。

 また、魔人の中には人間の魂のみを喰らう者もいる。つまりそこから考えられることはーー


(魔王軍の奴らが俺を追ってきたか)


(その可能性は高そうですね。おそらくヒリマの奴でしょう)


しかしそうなると厄介だ。今起きている怪現象のようなことが今後増加する可能性が高い。

 二人がテレパシーで会話をしていると、ふいにリシータが立ち止まった。ふと顔を上げたファリナの目に、巨大なドーム状の建造物が映る。


 リシータはわざとらしく手を広げ、ファリナ達の方に向き直り、


「さてさて!正面に見えますは人の國が誇る智慧の宝殿!ヴァシュドール大図書館にございます!なぁんてねぇ。さ、つきましたよぉ。ごゆっくり」


 案内されたのは人の國で最も大きな図書館、ヴァシュドール大図書館だ。すでに開館時間を迎えているらしく、 まだ朝だというのに人が入っていく。


「じゃ、私はまた別の用がありますので。失礼しますよ」


「うむ!ご苦労だった!」


 こうして無事図書館についたファリナ達は早速図書館に足を踏み入れることにするのだった。


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