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黒い聖女   作者: どんC
5/6

 ~ アスル ~

とある子供とその両親の話。

 僕の名前はアスル。

 魔の森に住んでいるんだ。

 魔の森って言ってもそんなに危険な場所じゃ無い。

 僕と父さんと母さんが住んでいるのは、魔の森でも比較的浅い場所で家のすぐ側に女神様の泉があるから魔物は近づかない。

 母さんの名はミーアと言うんだ。良くある名前だと、母さんは笑ってた。

 父さんの名前はアルって言うんだ。父さんは狩人で魔物を狩っては街に売りに行っている。

 父さんは焦げ茶の髪でかなりカッコいい。背も高くてモテるけど母さん一筋なんだ。

 母さんは黒髪で黒い瞳、美人さんだ。

 僕は母さんに似て黒髪で黒い瞳なんだ。

 母さんは薬師で森に生息している珍しい薬草から薬を作っている。

 父さんと母さんは幼馴染で隣の国に住んでて。

 二人ともお城で働いていたんだって。

 凄いでしょ。

 10年程お城で勤めていたけど暇を貰って二人でこの国に来て結婚したんだって。


「ねえねえお父さん。また【黒い聖女様】のお話をして」


 僕はベットに腰掛ける父さんにいつものようにお話をおねだりする。

 いつも寝る前にお父さんかお母さんがお話をしてくれるんだ。


「アスルは【黒い聖女様】のお話が好きだね」


「うん大好き♡ 特に聖女様の幼馴染が黒い粉を湖につけると聖女様が蘇る場面が大好き♡」


 お父さんは苦笑すると【黒い聖女様】のお話をしてくれる。



 若い兵士が湖に聖女の黒い粉を流すと。

 黑い粉はキラキラと輝くと大きくなりやがて人の大きさになると。

 ざぶりと水面に現れました。

 兵士は驚きました。

 それは死んだはずの娘でした。

 薄い茶色の髪と瞳が黒く染まっていても、確かに愛した娘でした。

 女神様は死んだ娘を憐れんでこの世に生き返らせたのです。

 兵士は娘を抱きしめました。

 こうして二人は結ばれて可愛い子供も授かりました。

 めでたしめでたし。


 お話を終えるとお父さんは微笑んで、僕のおでこにキスをした。


「お休み」


「おやすみなさい」


 ぱたりと戸が閉まる。

 僕は眠りについた。





「アスルは寝たの?」


 ミーアは薬の調合の手を止めるとアルを見た。

 机の上には作りかけの薬があり。こぽこぽと鍋が煮えている。

 天井から干した薬草がぶら下がり棚にはずらりとクスリの瓶が並んでいる。

 薬が出来上がるのに後一時間半はかかる。

 冬が来るので風邪薬を作っているのだ。

 この森に生えているユユイエ草はとてもユダル風邪に効く。

 大量に作って町の薬屋に卸すのだ。

 ミーアの作る薬は良く効くと町でも人気だった。

 ミーアにはもう聖女の力は無かった。

 その代わり見習い聖女だった時に学んだ薬草学の知識を使って薬を作っている。


「ああ。また【黒い聖女】のお話を強請られたよ」


「アスルも好きね。男の子なら勇者様のお話や城でのあなたの話を聞きたがるものなのに」


「あの子は君に似て頭がいい。薬師の後を継ぐつもりなんだろう」


「アルは子どもの頃、騎士になりたかったのよね~~。跡取り息子は騎士にはなりたくないそうよ」


 クスクス笑いながらミーアはアルのお腹を突っつく。


「力が欲しかったのはミーアを守りたかったからだよ。だけど力じゃミーアを守れなかった」


「でも。アルは私を生き返らせてくれた」


 ミーアは潤んだ瞳でアルを見つめる。

 ミーアには死ぬ前の記憶も蘇った時の記憶もあった。

 アルはミーアを抱きしめる。


「ああ。ダメよ。薬をかき混ぜなくっちゃ。焦げちゃうわ」


「ちぇ」


 アルはミーアの後ろの暖炉に薪を投げ込み、側に置かれている小さな椅子に腰かけるとナイフの手入れをし始めた。

 秋の夜は長い。よく二人は互いの仕事をしながらおしゃべりをする。


「町の肉屋に角うさぎを下ろした時に聞いたんだが。あの国俺たちが国を出た頃に無くなったそうだ」


「あら? 戦争の噂は聞かなかったのに?」


「いや。戦争ではなく。王や貴族におかしな病が流行ったらしい。平民は被害が無かったそうだ」


「あの辺境の村は無事なのね。良かった。でも……おかしな病?」


「何でも【黑い病】と呼ばれている。全身黒く染まって粉になって死ぬんだとさ」


「まあ怖い。どこの神様を怒らせたのかしら?」


 ミーアはしれっとして言う。


「その病で王族はみんな死んだそうだ。恐れた貴族は国の外に逃げ出して助かったが、王の従兄弟が外国から兵をあげて王になる為にあの国の城に入った途端左足が黑い粉になって崩れ落ちたそうだ。這う這うの体で逃げ出して足と腕を無くすだけで助かったらしい。王族や貴族が居なくなったのであの国は都市国家となるらしいよ」


「外国の侵略に遭わないかしら?」


「うーん。どうだろうね。貴族や王族があの国に入ると黒い粉になって死んでしまうからな~。いつおかしな病が自国に蔓延しないかと王族や貴族は怯えているらしい。むしろ関わり合いたくないんじゃないか? あの国は自給自足できるから外国から閉鎖されても困らない」


「あの人はどうしているかしら?」


「あの人? ああ。王弟かい? さあね。運が良ければ外国に巡礼していて助かったかもね」


 教皇は各国の教会を巡礼する習わしがあったが。

 そう言えば巡礼途中で聖女が危篤になったから帰って来たんだっけ?

 あの後彼は聖女を死なせた責任を取らされたのだろうか?

 山々に囲まれたこの国はあまり他国の情報が入ってこない。

 それにこの国は水の女神を信仰している。

 聖女教会の事は全く入ってこないのだ。

 今度ギルドマスターに酒でも差し入れして聞いてみようか。




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 2019/11/29 『小説家になろう』 どんC

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感想・評価・ブックマーク・誤字報告ありがとうございます。

特に誤字報告は感謝感謝ですm(__)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉ、ミーアは生き返っていたのですね。 この物語に救いがあって良かったです。 [気になる点] 5話で「おかしい」を「可笑しい」に変換されていますが、この場合の「おかしい」は「変な」「怪しげ…
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