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黒い聖女   作者: どんC
4/6

 ~ ある王の嘆き ~

王太子の話は書くつもりが無かったけど。無理矢理ぶっこみました。

 

 どうしてこんな事になった?

 私達は何を間違えた?



 私の国はオキニスと言う。

 私はその国の王太子として産まれた。

 母は隣の国から嫁いできて后妃となった。

 母は気位が高かった。

 母が嫁いできたときに父には好きな女がいた。

 何でも学生時代からの付き合いで男爵令嬢だとか。

 私から言わせると昔は可愛いかったんだろうが、今ではただの平凡なおばさんだ。

 彼女の母は平民でメイドをしていたのを男爵が手を付けて産ませた娘だった。

 王族の側室になるにも両親ともに貴族でなければならないと王族法に書かれている。

 だが……平凡なおばさんは子供を生んでいる。

 腹違いで同い年の弟だ。

 この国では后妃は伯爵以上の家柄でないと后妃になれない。

 しかも男爵令嬢の産んだ子供では王族に認められない。

 弟は私生児となる。

 男爵令嬢とその息子は虎視眈々と王位を狙っている。

 后妃(母)はそう感じていた。

 愛人の地位など王の寵愛が無くなれば城から追い出される惨めなものなのに。

 母はいつも不安を感じていた。


「あの女には負けないで‼ あの女の息子には負けないで‼」


 哀れな母はいつもそう言って、私にはっぱをかけていた。

 母と父は国同士の政略結婚だ。

 本来なら二人の間には恋愛感情はない。

 はずだった。

 しかし……

 不幸なことに母は父に恋をした。

 まあ確かに父は美丈夫だ。

 しかし政治的手腕も経済的センスも持ち合わせていなかった。

 恋とはするものではなく落ちるものだと、訳知り顔に側近が言っていたが。

 人を愚かにする恋などごめんだ。

 母はそれが無ければ聡明で優しい人だった。

 国民の教育や福祉や衛生に心を砕いていた。

 だから父は自分より国民に人気のある母を疎ましく思っていたのだろう。

 所詮父は王位に相応しい者では無かった。

 まだ王弟である叔父の方が王位に相応しかった。

 最も叔父は神官の職がたいそう気に入っていたが。

 母が父に恋すればするほど、父は母を疎んじ愛人の男爵令嬢にのめり込んでいった。

 まるで当てつけのように。

 だからなおさら恋に狂った母を醜く感じたのだろう。

 私は父の恋も母の恋も醜悪に感じていた。

 父の愛人の男爵令嬢は平民として暮らしていたが、男爵は子の産めない夫人を追い出して親子を引き取った。

 そこで貴族が通う学園に入り父に見初められた。

 その時父には婚約者がいた。

 伯爵家のその娘は男爵令嬢を虐めたと言うあり得ない罪で婚約を破棄させられ家を追われた。

 後で知ったのだが、その伯爵令嬢を憐れんで祖父(先王)は密かに伯爵令嬢を引き取り侍女にして。

 城の片隅に住まわせた。

 伯爵令嬢は魔道具のペンダントで姿形を変えていたので誰も彼女だと気が付かなかった。

【黒い聖女】の世話をする侍女長がその伯爵令嬢だと知ったのは黒い聖女が死んだ後だった。

 それはさておき愚かな父はこれで男爵令嬢と結婚できると思ったらしいが。

 祖父(先王)は隣の国の王女と父の結婚を進め、父と母を結婚させた。

 そして祖父は男爵令嬢を騎士団長の息子と結婚させ。

 全て丸く収まるはずだった。

 しかし二人は先王に隠れ逢瀬を繰り返す。

 元男爵令嬢は父の愛人となった。

 宮廷では王の愛人に誰もが成りたがった。この国は王以外側室は持てない。

 しかし側室には厳しい条件がつく。ある意味王妃より条件が厳しいのだ。

 魔力と知性と品位。

 この国では側室は王妃のサポート役なのだ。

 忙しい王妃の為に外交を担当する者。

 侍従達を取り纏めパーテイやもてなしを担当する者。後宮を取りまとめる者。

 数代前の側室には、王に代わり軍を采配した強者もいる。

 ただ子供を産めばいいと言う訳ではない。

 その代わり側室は後宮を出た後には館や領地や年金が与えられて、裕福に暮らせた。

 だが……あの男爵令嬢は何も持ち合わせていなかった。

 故に元老院の長老を納得させられず、愛人の地位に甘んじるしかなかった。

 愛人には何も与えられない。

 確かに王から宝石やドレスを与えられるだろうが……

 王妃や側室に与えられるものよりランクが下がる。

 王が死んだあとは惨めな物だ。

 王との繋ぎが無くなると、嫁ぎ先から追い出されたり、厳しい修道院に放り込まれたり。

 酷い時には無一文でスラムや売春宿に棄てられるのだ。


 元男爵令嬢は自分に似た息子を産んだ。

 父は自分の息子だと思っていたが、実際誰の子供か分からない。

 勝手な父は私には王位を、弟には愛をそれぞれ与えたつもりだった。

 愚かな男だ。人の欲望は留まる事を知らない。

 母も私も男爵令嬢も弟も誰一人満足した者などいない。

 騎士団長の息子もその子供を認知しなかった。

 当然だ。王(祖父)に押し付けられた結婚。

 騎士団長の息子は初夜だけ男爵令嬢を抱いて愛人を囲った。

 いや……元婚約者だ。彼女との間に子供を儲け、その子供が跡継ぎとなった。


 平民の愛人のせいでないがしろにされた母……

 この国の為に必死で尽くしたが、最後まで愛されることはなかった。


 そんな訳で后妃(母)は成り上がった平民が嫌いだった。

 だから僻地生まれの平民の聖女を嫌った。

 今にして思えば、侍女長が母に色々吹き込んでいたのかも知れない。

 恋の為に自分の婚約者を罪に陥れ排除した父。

 今度は自分が排除されると思うようになったのかも知れない。

 今となっては母に聞くことはできない。

 父も母ももういないのだから。

 祖父は直ぐに私に王位を譲る代わりに、元男爵令嬢との事を認めた。

 幽閉同然の生活でも父はそれを受け入れた。

 父には后妃(母)の事も私の事も元男爵令嬢の産んだ息子の事もどうでも良かったんだろう。

 父が見ていたのは自分と元男爵令嬢だけがいればいい世界。

 他には何もいらなかったんだろう。

 そんな取り決めが水面下でなされた頃、叔父が【黒い聖女】を見つけ出した。



【黒い聖女】が叔父に連れられて城に来たのは私が18歳の時だ。

 謁見の間で聖女は叔父の後ろで跪いていた。

 聖女は15歳で薄い茶色の髪と瞳の美少女であった。

 その頃、私は父に代わり王太子となって居た。

 祖父は【黒い聖女】を私の婚約者に指名した。

 いきなりの事で私も后妃(母)も驚いた。

 そして驚く【黒い聖女】を城の離れにある館に押しこんだ。


「何故彼女を息子の婚約者にしたのです? 息子にはすでに侯爵家の婚約者がおります」


 母は祖父に噛みついた。


「形だけの婚約だ。【黒い聖女】を他の者に渡すわけにはいかない」


「では……どうなさるおつもりですか?」


「王太子には三人の側室を娶らせる。男子を産んだ者を后妃とする」


 母の扇子がボキリと折れた。

 母は私のためにこの国で一番権力のある侯爵家の令嬢を婚約者に選んでいたのだ。

 父は病気と称して塔に元男爵令嬢と共に閉じ込められていた。

 元男爵令嬢の産んだ息子は騎士となった。

 が閑職に追いやられ聖女の護衛騎士になり。

 彼は騎士団長の家を継ぐことを許されない。

 父は愛情を注いだつもりだったが、結局弟の性根はねじ曲がってしまった。

 彼が縋るのは愛ではなく金だった。

 元男爵令嬢に濡れ衣を着せられ追われた侍女長(父の元婚約者)は、男爵令嬢の息子の事を知らなかった。

 無理もない。騎士や兵士はヘルムをかぶり決して侍女長や聖女の前では脱ぐことが無かったからだ。そして名前では呼ばず番号で互いに呼んでいた。


 そして……私は祖父に言われるままに【黒い聖女】を婚約者にして三人の側室を迎えた。

 やがて男子を産んだ側室が私の后妃となり後に三人の子を授かることになった。

 因みに彼女は元婚約者だ。

 国は豊かに栄えた。

 聖女のお陰で日照りや飢饉に苦しむことも戦で民が苦しむことも無くなり。

 私は祖父から王位を継いだ。


 聖女には定期的に花やドレスや高価なアクセサリーを贈った。

 手紙は侍従が適当に書いていた。

 まさか侍女長や護衛騎士(元男爵令嬢の息子)が横領しているとは気付かなかった。

 聖女の感謝の手紙は侍女長が書いていた。

 全てを知ったのは【黒い聖女】が亡くなった後だ。


【黒い聖女】が亡くなった時、国中の鐘が狂ったように鳴り響き。

 それが惨劇の合図だった。

 始めに祖父が亡くなった。

 祖父の危篤を聞き、駆け付けた時。

 先王(祖父)は私の目の前で黒く染まり、体が崩れ落ち消えた。

 何が起きたのか分からなかった。

 その時叔父が駆けつけて何が起きたのか理解したようだ。


「これは【黒い聖女】の呪いなのか? いや聖女をないがしろにした罰なのか?」


「どういう事なのですか? 叔父上? 分かるように説明してください‼」


 叔父は全てを話してくれた。全ては手遅れであったが……


「王よ‼ 御父上が黒い粉になってお亡くなりになりました‼」


 若い騎士が駆けこんできた。彼の話だと元男爵令嬢も後を追う様にして黒い粉になって消えたと言う。


「これは一体どういう事なの?」


 母上が侍女達を引き連れてやって来た。


「聖女をないがしろにした罰が当たったのです」


 私は聖女が死んだ事を告げると直ぐに子供達と一緒に母の祖国に逃げるように告げた。

 私は母と子供達を馬車に乗せ、護衛の騎士団を付けて送り出した。

 だが全ては手遅れだった。

 馬車から手を振る子供達が黒く染まり粉となって宙に舞う。

 騎士団もガラガラと中身を失った鎧が馬の上から崩れ去る。

 慌てて駆け寄り馬車のドアを開けると母と子供達が悲鳴を上げながら崩れ落ちる。

 後には衣服だけが残った。

 私は母と子供達の名を呼びながら残された衣装を抱きしめる。

 悲鳴をあげる后妃と側室達。

 だが彼女達の悲鳴も長く続かない。

 彼女達も黒く染まり粉となって崩れ落ちたから。


 これは罰。


 叔父は教会に何か救いは無いかと隣の国にある本殿に向かった。

 叔父の右足は少しずつ黒く染まっていた。


【黒い病】


 それはそう呼ばれるようになった。

 騎士も侍従も侍女も皆城から逃げ出し。

 幾人もの貴族が門を出る前に黒い粉になって消えて、後に豪華な衣装を残すだけだった。

 行き場のない者だけが残り。

 病はたちどころに国中に広まり。

 貴族達はこの国から逃げ出した。

 運が良いものは手足を無くすだけで何とか国の外に逃れ生き延びる事が出来た。

 しかし不思議なことにこの病は平民には広がらなかった。

 死ぬのは貴族だけだった。

 私もこの病に蝕まれ。

 しかし私の病気の進行は人より遅く。

 少しずつ少しずつ黒く染まり崩れて行った。

 まるで私に最期を見届けろと言っている様だった。


 私は都市の市長やギルドマスターを呼び急いで商業国家とした。

 もうこの国はダメだと悟ったからだ。

 この国から王族や貴族は消える。

 おそらく他から入ってきた、王族や貴族もこの病に侵されるだろう。

 祖父も父も母も后妃も側室も家臣も侍女も侍従も皆黑い粉になって死に絶えた。

 私は一人玉座に座り謁見の間に跪く平民達を見下ろす。

 もうその時には私の両足は失われていた。

 それを見て謁見の間に集められた平民の顔に浮かぶのは同情・憐れみ・恐怖・怒り・不安・野心。

 様々な視線を受け私は微笑む。

 せめてこの国の民が何とか生きていける手立てが出来た。


 私は何を間違えたのだろう?

 私達は何処で間違えたのだろう?


 崩れていく体を見ながら自問する。

 でも……もうどうでもいい事だ……

 出来ればあの世とやらで家族に会えると良いなと思いながら……

 私は死んだ。






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 2019/11/26 『小説家になろう』 どんC

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