2~この漢は~
桜の木が鮮やかに染まり、出会いと別れの季節がやってきた。
玄関を開けると春の風が心地よく、俺の身体を包む。穏やかな朝・・・・・・とは程遠い光景が俺の目の前に広がっている。
「「「若!おはようございます‼︎‼︎」」」
俺の家には玄関から公道に出るまでに舗装された10メートル程の道があるのだが、その両脇を男達が綺麗に並ぶ。無論、「若」は俺のことだ。
「若!今日も決まってますね!」
「若!日本一カッコイイですぜ!」
「いやいや、若!世界一カッコイイです!」
俺がその道を通ると男達が俺を見た感想を言う。本当にそう思ってるかは置いといて。
柄の悪い男達からの賞賛を雨のように浴びて家の外へ出ると、その中から1人の男が列から外れて前に出る。
その男は長身で体格も良い。面倒見も良いことから男達の中でリーダーのようなやつだ。
そのリーダーの男の声に他の奴らも続く。
「若のお帰りを『星川組』一同お待ちしております」
「「「お待ちしております‼︎‼︎」」」
「それではお気を付けて行ってらっしゃいませ」
「行ってらっしゃいませ‼︎‼︎」
男達の野太い声が朝の慌しさがある住宅街に響く。通学通勤途中の人たちの目線が俺に刺さる。
こんなに盛大に送り出してもらっているのに無反応では申し訳ないので俺は一言。
「おう」
これが俺の朝の日常だ。
俺の一言に「若の『おう』には漢気が溢れてるぜ‼︎‼︎」などと騒いでいる男達はここら一帯の地域を縄張りとしている〈星川組〉の若い衆だ。
星川組ってのは、まあ、つまり、俗に言う「ヤクザ」である。
そしてこの俺は星川組、組長の一人息子の星川龍臣。「若」と呼ばれているのはそういうことだ。
この春から高校1年生で新生活が始まる中、俺の足取りは足枷でも付けているのではないかと言うくらい重々しい。
それもそのはず、俺がこの世で最も疎ましい存在が常に近くにいる生活が始まるからだ。
その疎ましい存在というのは
「女」
である。
前もって断わっておくが俺は「ゲイ」や「ホモ」ではない。あくまで恋愛対象は女だ。
だがしかし、女が嫌いだ。
なぜ俺がそうなったかは小学生の頃に時が戻る。
――――星川龍臣10歳、小学4年生。
家がヤクザだという事がだんだんとわかり始めた俺は必死にその事を周りに隠していた。
だが、ある日体操着を忘れてしまった俺に若衆が気を利かせて、学校へ持ってきてくれた。それもほぼ全員で。
その一件で周囲に俺の家の事がバレてしまう。
さすがにヤクザの家の息子ということもあってイジメには合わなかった。
同級生の男子からは
「ヤクザってどんな仕事するの?」
「家はやっぱり豪邸なの?」
「今度家に連れてってくれよ!」
と、興味津々の様子。
ホッと一安心して、肩の荷が下りた気がしたのもつかの間。同級生の女子からは突如として避けられるようになった。
女子の間では
「人を殺したことがあるらしい」
「ランドセルの中には拳銃が入っている」
「関わるとそっち《ヤクザ》の世界へ連れて行かれる」
と言った根も葉もない訳の分からない悪い噂を広められてしまう。
そのこともあって初恋相手だった͡娘にも避けられ距離を置かれてしまう。
俺の大事な初恋を台無しにした女どもが許せない! ということから俺は女嫌いになった。
そのことから俺は共学の中学には行かずに男子校の私立中学を受験した。
血眼で勉強した甲斐があって見事合格。しかも中高一貫コースの学校で高等部も男子校で向こう6年間の安寧が約束された。一応、念のため自分の家のことは黙っておいた。
毎日のようにバカやって、くだらない話で盛り上がり、楽しい毎日を過ごしていた。
中学3年生の夏休み明けの始業式。
雷に打たれたような衝撃が俺を襲う。
いつのだるくてあまり聞いていない校長の声が耳によく通った。
「本校の高等部は来年度から、共学になることにあたって――――――――」
耳を疑う校長の一言。
周りの同級生は「女だぁぁぁぁぁ!」と盛り上がる中、俺は一人明後日の方角を見ていたことは記憶に新しい。」
そうとなればここを出て行くしかない。
俺は他の男子校を受験すべく、他の受験生に後れを取りながら受験勉強をスタートさせる。
が、結果は失敗。撃沈だった。
仕方なく、共学になった高等部へ通うことに。
そして話しは現在に戻る――――――
「ここか」
共学になることによって新しく建設した新校舎の奇麗さに驚く。
『煌明学苑」《こうめいがくえん》』そう書かれた校門を通り、満開の桜がお出迎え。
そして三年間、聞かなかった女子の甲高いキャピキャピとした声。
環境の代わりように、もう、なんか、胃が痛い。




