同業者同士で飲むと愚痴になりませんか
「え、君も? 僕もだよ、ご同業だねえ」
居酒屋のカウンターで隣になった無駄にイケメンな紳士がそう言って冷酒の盃を掲げた。彼とは初対面だが同業者ということで意気投合して、俺も合わせてライムサワーのジョッキを掲げ、何となく二人で声を上げて笑った。ほどよく混んだ居酒屋は騒がしく煙っぽく、多少大きな声でも迷惑にはなりそうにない。
だが案の定、見ず知らずの同業者同士の会話は仕事の愚痴へと変わっていく。
「失敗する度に次のプランをすぐ作れ、そんで来週実行! とか無理なんすよ。そりゃあ頑張りますよ? 努力はしますよ? でもコンスタントに名案が浮かぶならそりゃ苦労しませんって」
「確かにプランニングから一切合切部下に丸投げして、失敗すれば部下のせいにするんだからやってらんないよねえ。ああいうのをパワハラって言うんだよーーーーあ、ほら、グラス空だよ」
「ああ、ホントだーーーーすんませーん、ライムサワーもう一杯」
はあー、と二人でため息をついた。少しの間お互い黙って厚揚げとポテサラをつつく。
店内は結構な混雑で、ライムサワーは少し遅れて届いた。俺は上下逆に返した箸をライムサワーのジョッキに突っ込み、ガシャガシャと掻き回してからぐいっと三分の一ほどを一気にあける。
「あー、やんなっちゃうなあ」
と俺がジョッキをカウンターに置くと紳士は苦笑いしながら冷酒をやはりぐいっと煽った。
「まあ、めげずに頑張りましょうよ、お互い」
ポンポン、と紳士の手が俺の肩を叩く。
わかってる。俺だって本気でこの仕事が嫌になったわけじゃない。ただ鬱屈した中間管理職としては愚痴でも言わなきゃやってられないのだ。
紳士もきっと同じような立場なのだろう、わかるよその気持ち、と目が語っている。
俺は大きく一つ息を吐き、猫背になっていた背中を伸ばした。
「ですね。こういうのを承知でこの業界選んじゃったわけだし?」
「僕もですよ。ロマンですよ、ロマン」
「ロマン! そう、男のロマン!」
その言葉をきっかけに、なんだかテンションが上がってきて更に声が大きくなってしまった。
今の仕事に憧れて門戸を叩いたあの日の自分を思い出す。
俺は野望と熱意に燃えたガキだった。だが現実は非情で下っ端は使い潰されていくものだ。そこを何とかかいくぐり昇進したものの、上司に結果を出せとせっつかれ、気がつけば全品二百円のツマミが売りの安居酒屋に通って愚痴をこぼしている始末だ。
だが俺の気持ちの根底にはあの日の情熱がくすぶり続けていたのだ。一度気がついてしまえば腹の底でメラメラと闘志が燃え始め、俺は酔いが回ったもつれる呂律で拳を宙に突き上げた。
「いつか、いつか必ず勝利して見せぇぇぇるっ!悪の秘密組織は不滅だあ!」
「おう!正義の味方がなんぼのもんじゃあああ!」
「「目指せ世界征服!」」
やはり酔いが回っているであろう赤ら顔の紳士と共に酒を高く持ち上げ、おー!と勢い良く乾杯し、盃とジョッキから飛沫が上がった。
お互い別の「悪の秘密組織」幹部同士、俺と紳士が飲み友達になったのは必然だったのかもしれない。
無駄な設定
俺・キラーダイル将軍
いかにも武闘派なマッチョ系。悪の秘密組織「ジュマンジ帝国」軍の司令塔。悪の帝王デビルレオンに忠誠を誓い、世界征服のために日夜暗躍する。対するは正義の味方「バルハンター5」。
紳士・宵闇のグレイディオ
イケメン中年。細マッチョとマッチョの中間くらい。悪の秘密組織「アクーリア」の皇帝に仕える幹部。この世界を闇の世界に変え、アクーリア皇国の復活をもくろむ。対するは正義の味方「キューティーエンジェル」。
ちなみに二人が通い詰める居酒屋「酔い処・銀」は往年の仮面ライダー系ひとりヒーローがヒーローを引退して経営してる店だが誰も気がついていない。
「へえ、悪の幹部ってのも苦労してるんですねえ。はい、キムチサービスしとくよ」みたいな。




