第四話 ジギスムント帝立学院2 ―その言葉、逆鱗に触れる
面接を受けるだけでとって食われる訳じゃない、なんて考えるんじゃなかった。
あれが完全なフラグになってしまったのか、目の前に座る学院長とエリーさんは食い殺さんばかりの視線を向けてくる。
どうしてこうなった!!!
◇◆◇◆◇◆
俺達は、落ち着きを取り戻したエリーさんに連れられ、事務課に寄って連絡を入れた後に学院長室に向かうことになる。
そこで俺達のことを話すと、他の事務員は知っていたらしく、エリーさんが慌てて話を聞いていた。
漏れ聞くところによると、どうやらギルドからの連絡があった時にはすでに帰宅していたようで、その事実自体を知らなかったようだ。
通りで俺が伐剣者と分かっても目的までは分からないはずだと納得していると、同僚の人に話を聞き終えたエリーさんが「先程は申し訳ありませんでした」と謝ってくる。
いやいや、あの程度の行き違いなど大したことではないし、そこまで謝ることじゃ無いですよと笑いながら答えると、恐縮するエリーさんを促して学院長室へと向かうことにした。
事務課を出てしばらく歩くと、学院長室と書かれたプレートが見えてくる。
その部屋の前に着くと、扉をエリーさんがノックする。すると、中から「お入り」というやや嗄れているが優しそうな声が聞こえた。
「失礼します、学院長。伐剣者の方が教員面接に見えましたので、ご案内してきました」
そう言いながら扉を開けて俺達を促し、学院長室に入っていくと、白い髭を緩やかに撫でている初老の男性が仕事机から立ちあがり、こちらの方にやって来くるところだった。
「おお、ようこそ来ていただきました。さっ、どうぞこちらにお掛けください」
そうして、仕事机の前に置かれている応接用のテーブルとソファーを示してくれたので、その通りソファに並んで座ることにする。
そこまで見届けると、エリーさんは、「それでは失礼します」と言って出ていこうとしたのだが、学院長が待ったをかけた。
「エリー。貴女もここにいなさい。貴女の作った募集書類で来ていただいた伐剣者の方だ。どのような人物が来たか興味があるでしょう?」
そう茶目っ気たっぷりにいわれると、少し躊躇いを見せたのだがやはり気になるのだろう、そそくさと学院長の後ろに控えるように立った。
うーん、失望されなければいいが…大丈夫だろうか。
「さて、失礼ながらお名前を教え頂いて宜しいかな。ギルドマスターのアロウズからは、面白い人材が面接をしに来ているぞとしか聞いていないのでね」
「これは、失礼しました。私はガルクブルンナー王国シュラフスの街に所属していた伐剣者レオンハルト・ハーンと申します。こちらは、同じくシュラフスのギルド事務長を勤めておりますテオ・ユンカーです」
そうして始まった面接は、俺の自己紹介から入っていくことになる。
しかし、この面接というやり方は、何回受けようが慣れるということがないから、声が固くなり普段と違う口調になってしまうな。
そのため、テオを紹介する時に横を向くと、"なにを似合わない事をしている"といったような視線とぶつかったが…俺も流石に時と場所によって言葉遣いを変えるくらいは考えてるんだよ!!!
「そうですか。そちらは、ギルドの方でしたか。なぜ、ギルドの方がおられるかは一先ず置いておくとして…レオンハルト・ハーンさんと仰いましたね。わざわざカルクブルンナーから遠く、よくぞ来て頂きました。それでは早速になりますが、幾つか質問させて頂きますがよろしいですな」
うっ、とうとうこの時が来たかと身を固くして質問を待つ。
ヤバい…前世でやった会社の面接を思い出してか緊張してきた。
「まずは、貴方の伐剣者としてのランクを教えてもらえないでしょうか。装備からはよく分からないのですが…CランクいやBランクといったとこですかな?」
ああ、やっぱりそう思うか。この質問は、当然に予想していた。
なぜなら、俺が纏っている装備は、最上位の魔獣である"竜種"の皮革を使っているとはいえ、見た目は完全な服なのだから。
Aランク以上の伐剣者の装備は、依頼における危険性の高さから"鎧"、それも"王種"や"竜種" の甲鎧を素材に金属で補強したものが当たり前で、俺のように皮革のみを使用している者は一人もいない。
また、Bランクでも"魔種"などの"革鎧"を使っている事から服のような装備はまず見ないだろう。
だから、学院長のように思ったとしても不思議ではない。
昨日もアロウズさんから、「キチンとした防具で面接に行けよ」なんて言われたものだ。
この装備が俺の正式な防具だと答えたら、クララさんと一緒に驚いていたな。その後、俺を見る目が珍獣を見るものから変態を見るものにランクラップしたのだが…まあ、それはいいか。
「いえ、学院長。私のランクはSSです」
そう言って、俺は装備から白金のギルドタグを引っ張り出して見せる。
俺の答えと白金のギルドタグに学院長は勿論、後ろで立っていたエリーさんも驚く。
まさか、こんな装備のSSランク伐剣者がいるとは普通は思わないもんな。
ジギスムントに来たときに検問をしていた若い衛兵も、"こんな装備のSSランクの伐剣者がいるものか"と言いたかったのだろう。
途中で言葉を飲み込んでいたから推測になるが、それが一般的な反応なんだろうし、しょうがない。
「S…Sランクの伐剣者、ですか。失礼ながらギルドタグをもう少しよく見たいので、よろしければ少しお貸し願えないでしょうか」
ギルドタグを渡す?!俺の二つ名がないタグを見てどう思われるか考えると、貸すことを少し躊躇ってしまう。
ただ、事ここに至っては見せないということは、変に隠し事をしているように見られかねないし…ええい、なるようになれ!
俺は、首から鎖ごとギルドタグを外すと、学院長に渡す。
そうして、学院長は渡されたギルドタグをしきりに見ているが、本物なんだからなにも問題ないですよ…一部を除いてはだが。
「どうやら本物のようですな。大変失礼しました。…おや?」
どうやら気付かれたようだ。まあ、当たり前と言えば当たり前か。
「ハーンさん。失礼ながら、このタグには、貴方の二つ名が刻印されていないようですが、どうなっているのでしょう?」
そういう学院長の視線はやや厳しいものになっているが、さてどう説明したものか。
「はい。私は確かにSS伐剣者ですが、二つ名を名乗っていないので、ギルドタグには二つ名が刻印されていません」
「二つ名を名乗っていない?それは、どういった理由でですか?」
やや声の固くなった学院長に、どう答えようかと頭を捻る。
一応、昨晩にそれらしい理由を考えていたのだが、果たしてこれで納得してくれるだろうか。
「私は、確かにSSランクの伐剣者です。しかし、いまだ何かを成したとは言えないため二つ名を名乗るには時期尚早と判断し、申請を躊躇ているまま現在に至ります」
躊躇っているのは事実だが理由は全く違う。流石に二つ名が恥ずかしいからなんて言えない。
そう思っていると、横から小さなため息が聞こえたが気にしない。
「なるほど。それはつまり、いまだに自分が何かを成すことも出来ない未熟者であると言うことですか?」
俺の答えに、学院長は髭を撫でながら目を閉じ考え始めた。
うっ、やっぱりこの理由では、そういう風に解釈されてしまうか。しかし、他にいい言い回しが思い付かなかったんだよ。
しばらく、学院長室は沈黙に包まれる。
胃が痛い。早く、なんか言ってくれ。
俺の願いが届いたのか、学院長がようやく沈黙を破ってくれた。
「ふむ、当学院は、ただの伐剣者ではなく、<竜人>クラウディオを目指す生徒がわざわざ入学するのです。その学生に、最高位のランクを持つとはいえ、本人が未熟と言う者に生徒達を任せるという訳にもいきますまい。それに、その装備では、普通の伐剣者とは違う…云わば邪道を教えることになるかもしれない。申し訳ないが今回のお話はなかったことにしていただきますかな」
それに、「ここジギスムントでは、二つ名がない高位伐剣者など、人間性に何か問題があるとしか見られませんからな」と付け足された。
ああ、やっぱりそうなりますか。
俺が、そう落ち込んでいると横から声がかかる。
「ふむ。この帝立学院の学院長というのは、あれだけの質問で人物が分かるほど優秀なのですかな?それとも、貴方が僅かな情報で判断を下すほど短絡的な性格なだけなのか…どちらなのですか?」
えっと、テオさん?
ようやく。
ようやく主人公の装備…の一部を書くことができました。
2017.6.25 文章、表現等修正しました。
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【お知らせ】
・上手く物語を区切る能力が欲しいと、切実に願うほど長くなってしまいました。
そこで、第一章第一話にて記載していた、一話二千字前後との制限は撤回し、物語の区切りがいいところまで続けることにします。
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【一般的な伐剣者の装備】
・頭部分の兜[ヘルム]
頭を保護する
・胴部分の胴鎧[メイル]
胴や肩を保護する
・腕部分の籠手[ガード]
指から肘部分までを保護する又は手首から肘までを保護する
・腰部分の草摺[コイル]
腰、股関節部分を保護する
・足部分の伐剣者靴[サバトゥン]
足全体を保護する又は足先から膝までを保護する
【魔獣の素材 ―防具編】
・皮革
魔獣の革。一般的には、皮膚部分なことから皮革と呼ばれる。
竜種に近づくほど強度はハネ上がるが、王種や竜種と戦うには防御力が圧倒的に足りない。そのため、伐剣者や騎士団では鎧の下に着る事が一般的。
また、Bランクまでは、この素材を使って鎧としていることが多い。
・甲鎧
魔獣の内、"王種"と"竜種"は皮膚の上に、発達・硬化した甲殻を纏っている。
それが、鎧のように全身を覆っていることから、甲鎧と呼ばれている。
伐剣者や騎士団の騎士は、この素材に金属で補強した鎧を纏う事が常識となっている。
ただ、戦闘によって傷付く又は破壊される部位が多いため全身鎧[フルプレートアーマー]を装備する者はSランク以上の伐剣者や騎士団の極一部となっている。
Aランクの多くは、急所や手足を防御するような半胴衣[ハーフプレートアーマー]の鎧を装備する。
※イメージしやすいように、フルプレートアーマーとハーフプレートアーマーの表記しています。