表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第三章 教師生活一年目 ―後期Ⅰ
79/81

第一話 小馬竜車にて


 日の光が幾多の影を作る中、その影を置き去りにするように、小馬竜(ピュティック)は疾走する。

 光も音も、まるで小馬竜の後を追いかけるように届いてくる。だからだろうか、小馬竜が引く屋形の中にいると、外の空間とは別の空間にいるように感じ、少しだけだがゾワゾワっとした気分になる。

 とはいえ、その感覚も最初だけのもの。しばらく乗っていると、自然とその状態が当たり前のようになるのだから、人間の慣れって凄いななんて思ったりもする。

 つまり、何が言いたいかというと…。

 

「あー、また負けたよ。もう一回、もう一回やろう」

「そう言って、もう何度もやってるのだから、そろそろ少し休憩しよう」

「そうだな。クラウディアの言うように、結構やったし、そろそろいい時間だろうからお茶とお菓子でも食おうか。そんで、またやるならやればいいじゃないか」


 屋形の中、俺達は簡単な遊び。いわゆる、カードゲームに興じていた。

 それも、普段通りの感じ、学院や夏期長期休暇の間シュラフスで過ごしていた時とまったく変わらない感じで過ごしているのだった。いや、本当に慣れって凄いね。


「ちぇっ、負けが込んでたから、そろそろ俺にもツキが来ると思ってたのになぁ」

「いや、ディータ。それ、典型的な負けが込んだ人間の発想だぞ。時に引く事も覚えような」


 ギャンブラー。それも、かなりイカン方のギャンブラーの発言に、思わずツッコミを入れる。

 チャレンジ精神も、対象と方向を間違えるとエライ事になるぞ、ディータよ。


「ハーン教諭。どうぞ」

「ありがとう」

「ディーも、ほら」

「あんがとさん、クラウ」


 休憩しようと言って直ぐに立ち上がっていたクラウディアが、用意していた水筒から、各自のコップにお茶を注いで渡してくれた。

 それを貰いながら、改めて聞く二人の呼び名の変化に、教える側としては嬉しいものがある。


 気付いたのは、ゴズァーテン・ベアークから帰って来た翌日だったか。ギルドで、依頼の完了手続きをしている時に、二人の呼び名が変わっていたので聞いてみると、お互いに呼びやすいから愛称で呼ぶことにしたと話してくれたっけな。

 依頼を通して絆が深まったからとか言ってたが、伐剣者(ブレイバー)として信用できる相手が出来るのは重要だ。なにせ、依頼によっては、本当に命懸けの場合もあるし、その時に背中を任せれる人間がいるだけで、成功率も生存率も跳ねあがる。

 信用という数値化できないものを図る物差しとして、一つには親密さを挙げていいと俺は思っている。そして、呼び方というのは親密さの一つの基準になる。距離があれば、さん付け。徐々に距離が縮んでいけば、呼び捨てや愛称とそれぞれが親しい間柄を

示すように呼び合うようになる。

 今のディータとクラウディアがそうなっているように、時間があまり掛かからない場合もあるが、せっかくの少人数クラスだ。将来的には、全員がお互いをある程度信用して、親しく呼び合うようになって欲しいかな。


 そう考えて、コップに口をつけると、ゆっくりと喉を潤していく。うん、美味いな。


「なにニヤニヤしてるのさ、先生」

「ん?いや、別に。というか、笑ってたか?」

「うん。何か、スッゲー嬉しい事があったようだったよ?だからさ、なに考えてんだろなーって思ったんだ。なっ、クラウ」

「そうですね。まあ、お茶を飲んだ後も、幸せそうに笑っていたので、私はディーと違いお茶を楽しみにしていると取りましたが」

「まあ、そんなところだな」


 そう曖昧に同意して、再びお茶を飲む。

 テオとロッホスさんにもよく言われてたけど、やっぱり顔に出やすいのかね。公私で違うとも言ってたが、俺自身そんな意識はないんだがなぁ。

 そう、頬を撫でながら、皆で菓子に手を付けながら、話をしていると、どうにも一つの話題だけでは会話は続かない。

 

 一人でお茶とお菓子を楽しむ分には構わないのだが、こうして皆で集まっているのに会話が途切れると、どうにも落ち着かない。何か共通の話題はないかな。

 そう考えを巡らせていると、ふと一つ確認しておきたい事が浮かぶ。


「そう言えば、今聞くことじゃないかもしれないが、二人はシュラフスでの伐剣者生活はどうだった?恐らくだけど、冬期長期休暇でも戻ってくるかもしれないから、その時に活かせれるように何か意見があれば聞いときたいかな」


 せっかく、ジギスムントを離れ、遠い異国に来ていたのだ。

 教師の俺としては、二人が何を学んで何を得たのか。その部分が知りたかった。もし、何か得たものがあれば、後期の授業でより発展させる手助けとかもしてやりたいしな。

 まあ、本当は何か日誌みたいなのを付けてもらっておけば良かったのだが、そういう準備をしていなかった。だから、なるたけ記憶が鮮明なうちに何かあれば聞いておいて、メモなり記憶に留めるなりしておくか。

 うーむ、慣れない教師生活のなか、授業内容を考えたり、他にもチョロチョロっと仕事が入っていて、この期間の準備が疎かになっていたのは、反省だな。


「うーん、そうだなぁ。俺としてはジギスムントでやってたEランクの依頼。それがどういう意味を持ってたか復習できたのが良かったかな」

「私は、騎士の訓練ばかりしていたので、いざ伐剣者として依頼を受けてみると考させられました。知ってはいるが、ただそれだけだった事が如何に多いということか。Eランクの依頼は、我々騎士や衛兵よりも、遥かに市民に密着したモノだったのを、肌で感じれたのはいい経験でした」

「フムフム。Eランクのでの依頼の復習と、伐剣者が如何に市民の生活に根差しているかを知れたのが大きいと。なるほどなるほど」


 二人に共通する感想としては、やはり伐剣者の在り方、なんだろうな。Eランクの依頼は、荷物配達から薬の素材採取、果ては装飾品の素材採取と多岐に渡っていた。

 そして、そのどれもが普段の生活に欠かせない、あるいは生活を彩る上で大きな位置を占めているものばかり。それを、実体験したことで、改めて伐剣者の役割というのを意識したのだろう。

 それを、実感できたなら、今回の長期休暇での収穫としては上出来ってとこかな。


「じゃあ、次はもう少し具体的に聞くけど、今回のシュラフスでの生活で、一番嬉しかった事や印象深く残ってる事。そうだな、やって良かった事とか何かあるか?」

「そりゃぁ、な」

「ああ、そうだな」


 もう少し掘り下げてみようと、さらに具体的に言えるように質問を変えて聞いてみると、二人は言葉を一旦切ると目を合わせてニヤリと笑う。

 

「準危険領域、ゴズァーテン・ベアークでの訓練!!」


 あー、そうですか。やっぱりというか、伐剣者や騎士を志し鍛えているものには、ああいうものの方が印象深くやって良かったと思えることなんだな。それに、そこで採れた鉱石なんかの目に見える形での土産もあるしな。

 そう思い、横目でチラリと屋形に積んだ、シュラフス土産を見る。採れた鉱石は、大部分はギルドを通して売り払ったが、残りは二人と学院に残ってるアニータとルディの土産として確保して持って帰ってきている。

 そのせいか、荷物に圧迫されて、少々狭くなったが、まあよしとしよう。


 あとは、本来なら二人のランクでは立ち入れない場所に入れて、尚且つ魔獣との戦闘を経験できたってのは大きいんだろうな。

 てことは、冬期長期休暇でも何かそういう訓練を考えておいた方がいいのかな。いや、冬期にはルディも来るかもしれないし、後期の成長度合いによってはやめた方が無難か。

 うーむ、まあ一応考慮に入れておいて、無理なら止めて別の訓練をするようにするかな。


「そういやさ、先生は何かないの?その、やっぱり伐剣者の仕事は面白いって言うか、燃え尽き状態を解消できる道筋が立ったとか、さ」


 後期の、果ては冬期長期休暇の予定をどうしようかなんて考えていると、やや遠慮がちにディータから質問が飛んで来る。

 うーん、どうなんだろうな。一応、俺自身にも個人的な土産はいくつかある。あるのだが、それが、果たしてディータの言う、燃え尽き状態を解消できるものかって言うと、分かんないな。


「いや、どうにも俺自身では、それを解消できてる気はしないし、道筋も立ってないかな。まあ、今は教師業をしているんだし、それはおいおい焦らずにのんびり見つけていくさ」

「まあ、それもいいでしょうね。そのお陰で、私達はハーン教諭から教えを受けれていますし、ある意味幸運と言えますし。でも、テオ殿からは、何か言われたのではないのですか?変える直前、支部長室に連れていかれてましたし、そこで何か言われたのでは?」

「ん、…ああ、あれか。いや、あれは本当に俺が頼んでいたことをうっかり忘れててさ。あとは、テオからの言伝てと手紙を預かるために、支部長室に行ってたんだよ」


 いやいや、夏期長期休暇中は色々とあって、初日に頼んでいたことを綺麗さっぱりと忘れていた。そのせいで、最終日にテオの奴からの小言を聞かされたが、まあ俺が悪いので仕方ない。

 

「それって何か聞いてもいい?」

「ディーよ。こういう場合、聞いて簡単に教えてもらえるものなのか?SSランクの伐剣者の頼み事と支部長からの言伝てだぞ。私達がしたEランクの依頼でさえ、守秘義務があったのに難しいのではないかな」


 興味津々なディータにクラウディアが疑問を口にする形で釘を指している。まあ、普通はそうなんだが、今回のは授業にも関係のあるヤツなんで、俺の方は問題ないがテオの方はどうだろう。

 言伝ての内容と、それから推測できる範囲で手紙の内容を考えてみる。

 言伝てはいいけど、手紙の内容が不確かだな。まあ、不確かな手紙の方はともかく、言伝ての内容ぐらいは問題ないものだし、言ってもいいな。


「いや、大丈夫な内容だから、別にいいぞ。テオの方は言伝ての内容だけだけど、それだけなら問題ないものだしな」

「いいのですか、ハーン教諭?」

「いいじゃんいいじゃん。先生が、言ってもいいって判断したんだし、固く考えすぎだよクラウ」


 疑問を持って確認してくるクラウディアに、調子よくディータがそう言う。

 クラウディアが、そう疑問を持つのも最もで、なまじテオからの言伝てと言ってしまったから重要なものと思い、こうまで念押ししてるのかもな。なんせ、支部長ってギルドの要職に付いてる者からの言伝てだからな。

 まあ、いくら俺でも、本当に重要な情報は、簡単に言ったりしないから大丈夫だぞ。


「まあ、簡単に言うと、テオの奴がまだ何時かは分かってないけど、出来るだけ早い時期にジギスムントに行くから、向こうのギルドのギルドマスターアロウズさんと事務総長のクララさんによろしく言って手紙を渡してくれって内容だな」

「えっ、テオさん、ジギスムントに来るんだよ」

「ああ、予定としては秋の終わりくらいらしいが、ギルド内の調整やらで、どうなるかなって感じだな。そこら辺は、手紙を渡したアロウズさんとクララさんと調整するだろうから、俺には分からないけどな」


 テオがジギスムントに行くのは、俺の面接の時依頼だから、もう結構前だな。あの面接も、テオが学院長に見せてくれた俺の実績なんかが決め手になったようだし、それをシュラフスから持ち出してまで応援してくれたのは感謝だな。

 そう、約半年近く前の事を思い出していると、目の前ではディータが「カティさんも来てくれるかな」とか呟いている。だが、ディータよ。一事務員のカティがテオと一緒に来ることは難しいんじゃないかな。

 まっ、まったく無いかと言われれば、そうとも言い切れないし、今はせめてディータの妄想は壊さないでおいてやろうか。

 そう考えると、次に俺が頼んでいたことを説明するために、足下に置いてあるリュックから一冊のノートを取り出した。


「で、俺の方の用事はこれだ」

「何ですかそれは?」


 未だ、妄想の海から帰ってこないディータに代わり、クラウディアが俺が持つノートを見ながら聞いてくる。

 何処にでもあるようなノート。ただ、書いてある中身がひっじょうに、今の俺には必要なんだよ。正直、このノートだけで、今の俺にとっては千金の価値がある。

 

「フフフ。これはな、俺の昔使っていた刀、そして現在使っているこの刀の製法をジィオンていう爺さんが書き記したもの、その写本だ」


 そう、この世界での刀の製法を書き記したもので、これを持って帰れば、ルディの刀の作成に参考になるだろう。もしかしたら、もう完成しているかもしれないが、それでも次回以降やルディが修理なりを頼むときに絶対に役立つはずだ。

 本当なら、爺さんに一から聞いて新製法なんかがあればと思っていたんだが、帰ってきて直ぐに開いてもらった歓迎会ならぬ俺の粛清会で聞いたとこによると、どっかにブラっと出掛けているらしく、今はシュラフスにいないらしい。

 まあ、あの爺さんは、気が向いたら適当にブラっと出掛けていくのは何時もの事だし、下手をすると半年や一年は帰ってこないなんて事もある自由人なので、しょうがない。


「刀の製法。しかし、良いのですか?鍛冶師にとって、武器の製法などの詳しい情報は、弟子などを除いて教えないと聞いたことがあるような」

「あー、俺も最初はそう思ったんだが、爺さん曰く『儂は、鍛冶師じゃないから構わん』ということらしい。それに、爺さんは放浪癖が結構あって居ないことが多くてさ、そん時に俺の刀を見てもらうように書き記してくれてたんだ」

「それは、なんと言うか豪気な方ですね。いくら鍛冶師でないと言ったとはいえ、惜し気もなく製法までを書き記すとは」

「あとは、俺の弟と妹が、何故か刀を自分の得物に選んだんで、刀の需要が増えたって言うのも原因の一つかな。俺の刀を見て、自分も使いたいって駄々をこねたんで、あの時は大変だったよ」


 うん、大変だったな。だが、幼いながらも、刀に宿る美を感じとる所なんかは、流石は俺の弟と妹。

 まあ、金砕棒をダサいと拒否された親父と、剣をこれじゃないと言って拒否されたお袋は二人して凹むし、俺は俺で毎日毎日毎日、欲しい欲しいとねだられ続ける事になって、なんと言うか非常に面倒くさかった。

 あの時の事を、少しの懐かしさと共に思い出していると、目の前では妄想の海から未だ帰ってきてないディータと眉を寄せて何やら考え込んでるクラウディアがいた。


 というか、ディータよ。そろそろ、帰ってきてもいいんでないかい?

 そう思っていると、クラウディアはおもむろに手を伸ばすとディータの頬をツネリ上げる。


「イデデデ。何すんだよ、クラウ!!!」

「痛い。ということは、狐に化かされているわけでは無さそうだ」

「そう言うのは、自分の頬でやるもんだ!!てか、なんだよ。狐に化かされてるって」

「いや、なに。ハーン教諭が刀を持った弟と妹がいると言うのだ」

「えっ。先生、弟と妹がいたんだ。それも、武器を欲しがる?」


 頬を擦ってクラウディアの方を向き文句を言っていたディータだが、俺に弟妹がいると知ると、顔をグインと動かして、俺の方を向け。

 あまりの勢いに、ちょっぴりビックリしながら頷いて返す。


「親父とお袋は結婚していて、俺を引き取った時は二人はまだまだ若かったんだぞ?なら、二人に子供がいてもおかしくはないだろ?それに、親父達のランクがSで止まってるのは、いくら俺の件でランクダウンして昇格禁止期間があったとはいえ、おかしいと思わなかったか?あれ、子育てしてて、なんやかんやとランクアップを後回しにしていた結果なんだけどな」


 いや、そんな俺の家族構成を事細かに言うのも変な話じゃないかな?実際、昔通っていたシュラフスの学園の先生も、前世での先生も家族構成までは知らないんだけどな。

 あっ、いや。前世では年賀状のやり取りをしていた中高の先生は知ってるか。

 

「あー、まあ親父とお袋を紹介していて、弟と妹を紹介しないのも変な話だったか。だけどな―――――」

「いやさ、先生。紹介とかはいいんだ。それより、ゲオルグさんとヴァネサさんの子供って事は、多分だけど俺達と年は近いよね」

「そして、刀を自分の武器にする。それは、騎士や伐剣者など、私達と同じような者ということですね」

「あ、ああ。弟が十六でディータと同じ、かな。そんで、年子の妹が十五だな。二人とも伐剣者をしているよ」

 

 あれ?弟達の事を言わなかったことが、気になったんじゃないのか?でも、二人の口ぶりからして、それは別にいいみたいだし。はて、何にそんなに興味を持ったんだ?


「先生さ、その二人」

「強いのですか?」


 あっ、そっちですか。そうですか。

 ディータもクラウディアも、同年代となるとやっぱり相手の力量というか強さに興味があるのか。まあ、俺も昔というか、前世で同じくらいの年には、こんなもんだったか。


「どうなんだろうな。今んとこDランクになってるみたいだし、頑張ってはいるぞ。ただ、ぬるま湯に浸かってられないとか言いだして、二人して親父の知り合いの猟団に武者修行に行ってるくらいだから、帰ってくる頃には前より腕をあげてるだろうな」

「それは、帰って来た時にでも一度手合わせしたいですね。私の知らない動きがあれば参考になるかもしれない」

「だな」


 なんだろう。前期の時と全然印象が違うのだが、こんなにも好戦的というか、経験を積むのに貪欲だったかな。

 ……よく考えたら、前期に俺のハーン式訓練法に付いてきてたし、シュラフスでは本家訓練法も一部とはいえ乗りきっていた。さらに言うなら、イレギュラーとはいえ、王種の魔獣とも邂逅したことで、より強くなりたいと思ったのかな。


 まあ、いい方の変化なので良しとするが、前期終わりに持たせた通信簿の内容、大丈夫だったかな。

 あれ、前期の生徒から受けた印象を元に書いてるから、下手したら全然見当違いの事を書いてるかもしれないぞ。


 事実、この予想は一部当たっていた。特に、アニータの通信簿は猫を被りまくった時の印象だったので、それを見た母親は、笑いすぎてルディの時とは別の涙を流していた。

 ただ、その事を今は知る由のないレオンハルトであった。


「まあ、それはその時になってからだな。でだ、話を戻すと、俺が持ち帰っているのは、この刀の製法を記した写本。そして、参考になればと思って、昔俺が使っていた刀を持ってきているんだ」


 そう言って、シュラフスの街で積んだ荷物を指差すと、つられるようにして、ディータとクラウディアもそちらの方に視線を向ける。

 

「あー、あのでっかい箱、何だろうって思っていたけど、先生の昔使っていた刀が入ってるのか」

「それにしても、大きいですね。何本くらい入っているのですか?」


 二人が視線を向けたのは、かなりの場所を取っている、とはいえ小馬竜が引く屋形のというほどだが、布にくるまれた大きな箱であった。

 いや、俺が指差したのは、その箱の上にあるものなんだけどな。最初見たときは、結構買い込んだなとか思って、その箱の上に無造作に布にくるんだ刀を置いたが、あれ二人のじゃなかったのか。


「いや、あれは俺が積み込んだんじゃないぞ。二人の土産か何かかと思ってたんだが、違うのか?」

「えっ、違うよ。そもそも、あんな大きな箱で持ち帰るほど、沢山の土産なんて買わないよ」

「私もです。まあ、私の場合、土産が必要なのが義兄上と姉上、あとは世話になっている屋敷の人達ですから、多いには多いですが、あそこまで沢山の荷物にはなりませんよ」


 二人のじゃないなら、なんだこの荷物?テオの奴が積んだかとも思ったが、それなら出掛けに何か言うはずだし、おかしいな。

 

 危ないものではないと思うが二人にはその場にいるように言ってから、中を確認しておこうと問題の荷物の方に向かう。そうして、上に置いてある刀をどかして適当なところに立て掛けると、箱をくるんでいる布、その結び目に手をかけた。

 結び目を外し、慎重に布を開いていくと、ごく一般的な木箱が現れ、その真ん中には。


「なんだ。これ、二人への土産だったよ」

「えっ、でも…」

 

 俺の言葉にビックリしながら驚いている二人に、蓋の真ん中辺りに置かれていた手紙をひょいっと掴んで持ち上げると、二人は不思議な顔をしながらこちらにやって来る。

 そうして、依然として何がなんだか分からないと言う顔をしている二人に手紙を渡す。


『伐剣者 ディータ・ランダウ

 伐剣者 クラウディア・ベルタ=ラヴクラフト』


「あれ、ホントだ」

「しかし、何時、誰が、このような荷物を積んだのか」


 その手紙を前に、二人して首を捻っているが、俺としては一人心当たりがいる。

 そうして、不思議がりながらも、封を切って中身を確認した二人の眉間にシワがよった事で、誰からのものか確信した。


 俺の雰囲気に何かを思ったのか、ディータは読み終わった手紙を無言で手渡してくるので、「いいのか?」と確認し返事をもらってから文面に目を落とす。


 目を落とすと手紙の真ん中、そこにただ一文。


『更なる成長を期待する。

 伐剣者 ロッホス・ベーラー』


 やっぱりか。まったく、一言欲しかったよ。そうすれば、余計な手間は取られなかったのに。


「そういや」

「ん」

「そういや、シュラフスのギルドで先生を待ってるとき、ロッホスが来て、『やることはやった』とか言ってた」


 ロッホスさん。伝わらないよ、それじゃあ。よしんば、付き合いの長い俺が言われたとしても、多分分からない。

 もうちょっと、ちゃんとして下さい!!


「中、一応見てみるか?」

「…うん」

「…はい」


 微妙に返事が遅かった二人と箱の方に歩いていくと、蓋を外して中身を確認する。

 そこには、牙や甲鎧といった、王種以上の魔獣と思われる素材が多く入っていた。


 これは、双猿王の素材…か?

 そう言えば、双猿王関係についてはロッホスさんに一任してて、綺麗に忘れていた。

 俺とかロッホスさんとの攻防で傷ついたのも多そうなのに、箱の中にあるものは、少なくとも黙視では傷などなく上等な物が揃っているようだった。

 武器や防具に使えそうな物を詰め込んでくれたのかな?


「上等だよ。次に会ったときには、驚かせてやるよ」

「私もだ。次に会ったときには、あの時のような体たらくは見せない。絶対にだ」


 箱の中身をざっと確認していると、上から何やら決意に満ちた声が聞こえてくる。

 そうして、顔を上げて二人の顔を見ると、真剣な眼差して箱の中を見ており、その瞳には闘志が宿っているようだった。


 …そう言えば、暗き森で双猿王と対峙しているとき二人は。


 うん、まあこれはこれでロッホスさんなりの激励なんだろう。結果として、上手く作用したようだし、すべて良し。何も、問題ないな。


 そう考えるとそっと蓋を閉め、二人を促して元いたところに戻っていく。


 ギラギラとした目付きで、闘士を全身に纏う二人。

 そんな中、次の中継地まで顔を付き合わせるのは、非常に居心地が悪いぞ。


 頼むから、さっきみたいな和やかな雰囲気でいこうぜ。

 それか、せめて早く次の中継地に着いてくれ。



 様々の感情を乗せながら、小馬竜車は疾走する。

 だが、小馬竜が停まる中継地は未だ遠い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ