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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第二章 教師生活一年目 ―夏期長期休暇
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第三十四話 旅立ち・仲間・宿題


 ゴズァーテン・ベアークから疲労困憊、今すぐにでも倒れそうになりながら、なんとかシュラフに帰ってこれた。

 そう帰ってこれた。それを思うと、あまりの嬉しさに我ともなしに涙が頬を伝った。


 初めての魔獣との戦闘に、気力・体力・魔力のほとんどを持っていかれ、地面に倒れ込みそうになったのに、まさかその状態で地上に向かうことになるとは思わなかった。

 採掘、そしてテンワカの戦利品を持てるだけもって、地上へと向かって歩いたのは、学院での先生の授業よりも遥かにきつく、心がポッキリと折れそうだった。

 もっとも、そうならないように、先生達が疲れ具合を見ながら適度な休憩を多めに入れてくれたのだが、最後の方はクラウディア共々目が死んでいたと思う。 


 ただ、無事に帰ってきて、はい解散とはいかない。ギルドに報告し、全員の無事と依頼の品を手に入れたことを伝えて、ようやく依頼から解放される。

 まあ、本当は他にも色々とやることはあるのだが、今回は先生達も大目に見てくれたのか、早めに切り上げてくれた。その時には、もう何を話したかも記憶になく、俺とクラウディアは重い足を引きずりながら、ギルドが借りてくれている部屋へと向かっていった。

 そうして、部屋へと戻る頃には寝ることしか頭になく、鍵をかけ防具を無理矢理に脱ぎ捨てると、足を引きずりながらベットへとダイブし、早々に意識を手放した。


 翌日、昼を越えた辺りだろうか。体はダルく、まだ疲れは完全には取れていないのに自然と目が覚める。あー、もう少し寝てようかな。いや、でも昨日の依頼の事も気になるしギルドの方にいった方がいいのかな。

 しばらく、脳内で眠気との格闘があったが、結局は起きてギルドに行くことにする。そうして、起き上がろうとして体が固まった。


「うぐっふ。全身が筋肉痛で動くのがめっちゃつれぇ」


 幼い頃は親父から、最近では学院での先生の授業といった厳しい訓練は受けて来たが、それでもここまでキツイ筋肉痛は始めてだ。

 これが、先生達が言っていた「実戦に勝る訓練なし」の意味か。今までの訓練では感じたこともない場所にまで筋肉痛になるなんて。

 こんな場所まで神経を尖らせて使ってたのかと、痛みを感じながらしみじみと思っていると、そこで体が俺に重大な指令を下してくる。


 …やべぇ、トイレに行きたくなってきた。でも、激痛で体が動かしにくい。もっ、漏れる。

 のたうちながら必死に体を動かし、両足を震わせながら一歩一歩確実にトイレに向かって進んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。


「ごめん。今急いでるから、誰かは知らないけど、用があるなら後にして!!」


 今まで、この部屋を訪ねてくるような人はいなかったので、ノックした人に心当たりはない。誰かは分からないが、ちょっと待って欲しい。こっちも緊急事態なんだ。

 

「おっ、もう起きてるのか。それは良かった。悪いが、部屋に入っていいか?」

「いいけど、今は本気でヤバイから相手できない」


 いつも通り、普段と変わりのない先生の声が聞こえた。何しに来たんだとは思うが、先生ならこの状態でも部屋に入る分には構わないと大声で返事をしながら、よろけながらも少しずつ少しずつ進んでいく。

 途中、ガチャガチャとノブを回す音が聞こえたが、そういや昨日鍵かけたっけとか思うが、ドアの方に向かうのは無理だ。

 「あー、一応ギルドの方でスペアキー借りてきたから、鍵開けるぞ」と外から言葉を投げ掛けられるが、最早そんなものに返事している余裕はない。


「おっ、やっぱりそうなってたか。あー、ディータ、本気でヤバイのも分かってるから、そのまま進みながらこれを飲め」


 近づき手に押し付けるように渡されたそれを見ることなく、何も考えずに一気に飲み干した。

 すると、全身に渡って満遍なく広がっていた筋肉痛が和らぐ。生まれたての小鹿から歩きなれない小鹿程度には回復したので、トイレまでの道を一気に進む事が出来た。


 …勝った。ギリギリの勝負だったが、俺は俺自身に勝った。

 全てが終わり、達成感に身を包ませながら、トイレから出る。


「先生さ、本当の本当に助かったよ。今まで、朝からこんなにヒヤッとしたことなかったよ」

「だろうな。俺も初めて魔獣とやった時は、そんな感じだったし、気持ちは分かるさ。まあ、だからこうやって来れたってのもある」

「ありがとう。そういやさ、さっき渡してくれたのは何だったの?あれ飲んだとたんに、筋肉痛が和らいだ感じがしたんだけど」

「あれか。あれは、筋肉痛の痛みを和らげる薬みたいなものかな。昔、俺が同じ状態だったときに、親父達から筋肉痛を和らげたり、取るようなものはないって言われて絶望してな。だから、試行錯誤しながら、俺が作ったもんだ。結構効くだろ」 


 そう言って笑い、風呂に入って着替えたらギルドに来てくれと言い残して部屋から出ていった。

 うん、と思うも昨日は帰ってきて速攻で寝たんだった。そう気付くと、着替えを用意し風呂場に向かっていった。


 汗と汚れとともに昨日までの疲れも落ちたのか、少し、ほんの少しだけ気分が楽になった。お陰で、体も起きたときより楽になっている。

 まあ、先生がくれた飲み物のお陰かもな。そう思って、借宿の建物を出たところで、クラウディアとばったり会う。


「よう、クラウディア。おはようさん」

「ディータか。おはよう」

「やっぱり、相当しんどかったようだな。顔、死んでるぞ」

「うるさい。ディータも似たようなモノだろう。大体、昼間におはようと言うくらいだ。まだ、十分に頭も回らないほど、疲労が蓄積してるのだろう」


 そういや、今は昼か。別に昼でもいいだろと思ったが、それは口には出さない。疲れてるのは本当で、防具は全く纏わず槍も一本しか持ってきてない。その槍も杖がわりについているからめっちゃ疲れてるな、俺。

 まあ、クラウディアも似たようなもので、剣を帯びてはいるが、盾なんかは置いてきているし、何より歩くペースが恐ろしく遅い。

 まあ、俺も疲れてるし、クラウディアのペースに合わせるかと、通いなれて久しい道を歩いていく。


 そうして、クラウディアとゆっくりと歩いているのだが…気まずい。非常に気まずい。

 普段ならさっさと歩いて、もうギルドに着いているはず。だけも、今の俺達ではその倍以上の時間が掛かっている。

 そのため、普段は無言でも問題ないのだが、今日ばかりはその無言状態がキツイ。

 何か話題は。何か話題はないかと必死に考えていると、一つ言いたい事を思い出した。


「そういやさ、クラウディア。ゴズァーテン・ベアークで、俺達はテンワカとの戦闘を潜り抜けたよな」

「なんだ、藪から棒に」

「いやさ、元々学友ってやつだし、今さら改めて仲間って言うのも変だけどさ。何て言うの?こう、結束力が増したというか絆が深まったというかさ」

「だから、ディータは何が言いたいだ?」

「それだよ、それ」


 男友達の時は、ある程度付き合えば、すぐに変わった。

 女友達っていうと、アニータだが。アニータとの時は、結構自然に変わっていったんだが、それはアイツとは幼馴染みって事が大きいんだろうな。

 そのせいか、あまり言い慣れてないし、こういって相手に言うのも変な感じがする。


「ディー。親しい奴は、俺の事はディーって呼ぶんだ。だから、クラウディアもそう呼んでくれよ」


 そう言ってみると、クラウディアは意表を突かれたように、立ち止まる。

 そうして少し考えると、ややあってから「分かった」と返事をする。


「確かに、その方が呼びやすいな。なら、私もクラウでいい。国で、共に騎士として励んでいた仲間からはそう呼ばれていた」

「そっか、分かった。じゃあ、クラウ。改めてよろしく、だな」

「ああ、これからもよろしく頼む」


 そうして、テンワカと戦い勝った時のように拳を握ると、コツンと打ち合わせた。


 拳を合わせたのを合図にしたように、それからの時間は本当にあっという間に過ぎていった。

 まず、ギルドに到着すると、依頼を受けた時のように先生達とパルタザルさんがいて、依頼品を渡すことになった。

 その時、パルタザルさんにとって予想外の品もあったようで、慌ててたっけな。俺達は、それを最初は結婚祝いとして渡そうとしたけど、パルタザルさんはそれはダメだと断ってきた。

 伐剣者の仕事として得たものなので、キチンと対価を得るべきだ。残念だけど、自分には高額で手が出ないので、店を紹介するとまで言ってくれた。

 そこは、先生が気を効かせて買い取って、さらに先生と俺とクラウディアからの結婚祝いだという方便を使って、渋るパルタザルさんに渡した。それでも、パルタザルさんはしばらく考えて、お返しに俺とクラウに、今回の採掘品を使って装飾品を作ってくれるという。今度は、俺とクラウが少し迷ったが、それでパルタザルさんが少しでも納得できるならと了承した。


 話し合いが終わると、その日は疲れを取るという事で休みとなったが、翌日からは早速とばかりに訓練と依頼を受ける日々が戻ってきた。

 途中、パルタザルさんとクリスタさんの結婚式があったが、訓練と依頼の日々は最後の最後まで続いた。

 そして、俺達がシュラフスの街にいれる時間が残り少なくなったという頃、とうとうギルドの指定していた条件全てを満たしたとして、クラウはDランクへと昇格することになった。

 まあ、先生達がいたという事情があったにしろ、ゴズァーテン・ベアークに行き、無事に帰ってこれたというのも多少は加味されてるのだろう。


 伐剣者タグは変わらず赤銅のままだが、Dランクになったことで“希望”と“常に前進”を意味する花車(ガーベラ)の刻印が押される。

 その花車に引かれるように時間は進み、とうとう夏期長期休暇は終わりを向かえ、俺達がシュラフの街を去りジギスムントに帰る日がやって来たのだった。


◇◆◇◆◇◆


「トイレには行ったか?忘れ物はないな?忘れたからといって、取りに帰ることはできないぞぉ~」

「ん、大丈夫大丈夫。昨日の内に、荷造りとか土産とかバッチリ準備してるから。あと、トイレにはさっき行ったよ」


 先生とギルドで集合し、点呼とかいうやつを受けながら、俺とクラウは荷物を指差して見せる。


「よしよし、なら大丈夫そうだな。なら用意してもらっている小馬竜車に乗って、ジギスムントに向かって出ぱ」

「待て。お前が、忘れ物をしているぞ。まったく、帰る前に私の部屋に来てくれと言っておいただろうに」


 先生が、拳を振り上げてジギスムントに帰ろうと言いかけた途中でテオさんが呼び止め、引きずられながらギルドの二階に連れていかれた。


「えっと、どうしよっか?」

「ここで、待つしか仕方ないだろう」

「だよなぁ~。でも、依頼も受けられないし、ただ待つのって結構暇なんだよなぁ」


 机に突っ伏しながらぼやく。次の冬期長期休暇までシュラフスには来れないし、最後にカティさんと少し話そうかとも思うが、相手は仕事中なので邪魔になるなと諦める。まあ、昨日に先生とゲオルグさん達やギルドの人達から送迎会をしてもらって、結構話せたからそれで我慢しよう。


「あん?お前ら、まだいたのか?」

「あれ~。ディータ君にクラウディアちゃんじゃない。どうしたの。もう、ジギスムントに帰る時間じゃないの?大丈夫なの?」


 暇だなと思っていると、そう上から声がかかった。

 あんまり、会いたくない奴に会っちまった。


「いえ、何か忘れていたのか、ハーン教諭がテオ殿に連れていかれてしまって」

「ハハッ。アイツもしっかりしてるようで、時々抜けてるからな。まあ、なんやかんやとやることが多かったし、ド忘れしてたんだろ」


 そう言うと椅子を引き、俺達の前に座った。

 ベティーナさんも、そんなロッホスの奴の行動に何か言おうとしたが、諦めたのかため息をつきながら席に着いた。


「何か用事があってギルドに来たんじゃないのか?」

「やることはやったし、別に急ぐ用事もないな。それより、しばらくはお前達にも会えなくなるんだ。せっかくだから、ちょっと話でもしようかと思ってな」


 そう言ってニヤリと笑うが、どうもこの男の笑顔を見ると対抗心がメラメラと湧いてくる。

 先生と同じで、実力も経験も数段どころではないほど上なのだが、何故か負けてたまるかという気になるのはどうしてだろうか。


「クククッ、いいねぇ。坊主達の年なら、そういう負けん気は常に持っとけよ。あまりにお行儀よすぎるんじゃ、アイツのようにこの先大変だぞ」

「もう。ロッホスさん、そんな風に言ったら、ディータ君に悪いですよ」


 そうベティーナさんが注意しているが、「いいじゃねぇか」と言って俺達の方を向いた。

 この男は絶対に自分を飾らないし、大きく見せたりもしない。何があっても、自分を貫き通すタイプだ。それは、自分に確固たる芯があるから。その芯がぶれることはないだろうし、この男に対峙する以上は、例えそれが軽い雑談でも、覚悟をもって(のぞ)まないと呑まれてしまう。

 そう思い、腹に力をいれて笑みの浮かんでいる顔を見返した。

 

「失礼。ロッホス殿の言うアイツとは、ハーン教諭のことですか?」

「ん?ああ、アイツってのはレーヴェの奴のことだよ。まあ、なんだ。お前達は気を付けておけよっていう程度の忠告として受け止めてくれや」


 先生が大変?俺達に接している時は普通だし、特に気になることはないんだけど。

 クラウも俺と一緒で、特に気になる事はないようだし、この男が言わんとしていることに、見当すらつけられない。

 そう首を捻っていると、この男にしては珍しく少し悩んでから口を開いた。


「確認だが、……アイツが何でジギスムントくんだりまで行って、教師をしてるか聞いたりしたのか?」

「前に先生が話してくれたから知ってるよ。燃え尽き状態になったからでしょ」

「なら、少し話すか。その燃え尽き状態ってのは、伐剣者は誰でもなっているんだが、坊主に嬢ちゃん。伐剣者の燃え尽き状態ってのが、具体的にどんなもんか知ってっか?」

「私は、知らないな。ディータはどうだ?」

「俺も具体的には知らない。なったって人はギルドには来ないから見たことないし、…Bランクの伐剣者がなるってのを聞いたことがあるくらいかな」


 Bランクになった伐剣者は、必ずといっていいほど燃え尽き状態になっているという。

 なぜ、Bランクで起こるかは分かっていないが、魔種と王種では魔獣の強さにかなりの差があること、このランクから単純な強さだけでは通用しない依頼が増えてくることなどから、伐剣者としての自分に限界を感じるためと言われている。

 

「坊主の親父さんは、伐剣者だって話を聞いたんだが、駆け出しも駆け出しのケツの青いひよっこには、まだ教える必要はないと思ったのかねぇ。…まあ、坊主も嬢ちゃんと組めば、覇種の魔獣を相手にできる腕になったことだし、一回詳しく聞いておいても損はないか」


 なんだろう。少しは認められたと思うのだが、この口調とこの喋り口で話されると、物凄く馬鹿にされた気になった。

 横ではクラウも少しムッとした空気を出しているし、ベティーナさんは、また深いため息を吐いているのだから、俺の考えすぎって訳では無さそうだ。

 だけど、いちいち突っかかったのじゃ、話が先に進まない。そう思って、グッと堪えて目だけで先を促した。


「そうだな、まず最初は体が疲労を覚えはじめる。ダルい、しんどいとかってやつだな。そんで、体の疲労に引っ張られるのか、今まで出来ていたことが出来なくなったりと、段々と依頼も上手くいかなくなってくる。そして、とうとう壁にぶち当たるのさ。そうなると、次第に思考は悪い方向、マイナス思考に陥っていく。なんで、俺はこんな辛い思いをしてんのか。なんで、俺は伐剣者としての依頼でなく、他の事に逃げてるのかってな。やらなきゃいけないのは、こんなことじゃないだろと自分で自分に嫌気が差す。そんな、暗い嫌な状態が続くと段々と症状が重くなっていき、ある日突然にポッキリと心が折れる。そうして、逃げたという負い目だけもって伐剣者を辞めていっちまうのさ」

「先生が逃げてるっていうのか!!!」


 さっきからのこの男の話し方と、あまりといえばあまりの内容に、一気に頭に血が登る。

 先生が、理想とした自分から逃げて、ジギスムントで教師をしている?

 この男は、今そう言ったのか!!


「まあ、落ち着け。嬢ちゃんも、そんな殺気を込めて俺の方を見んなって。反射的に攻撃しそうになったぞ、まったく」

「貴方は、ハーン教諭が伐剣者として越えるべき壁を越えれずに伐剣者を辞め、逃げているという。SS伐剣者なのに現実から逃げて、学院の教師になり私達を教えている。ああ、立派な侮辱だ。これでも怒らずにいろと?」

「やっぱり相当慕われてるな。一緒の話を聞いたとしても、うちのベティーナなら俺を指差し腹を抱えて笑ってそうなんだが。うーむ、レーヴェと同じように厳しくも優しく教えているのに、何でなんだろうな?」

「いや、流石に腹を抱えて笑わないし、多分私でも怒ると思いますよ。相手が、ゲオルグさんにヴァネサさん、レオンハルトさん、あとその他大勢の人は除きますけど」


 ベティーナさんがそう目を逸らしながらゴニョゴニョと言うと、「そりゃ、ほぼ全員じゃねえか」とぼやいて頭をかいてから、こちらの方を改めて見る。


「今の話は、燃え尽き状態になったBランクの奴らが、どういう心理だったかって一般論で、辞めてった奴らを逃げているなんて言ってねぇだろが。まあ、他ならぬレーヴェ自身はそう思ってそうだがな」

「ロッホスさん。最後が余計です。ややこしくなるので、本当に止めてください」

「へいへい。まあ、そんなわけで、今話したのが、典型的な燃え尽き状態な。んで、これがどうさっきの話に繋がるかってぇと、坊主。お前みたいに、向上心と負けん気を持って、時には俺みたいな大人に噛みつくのは、その年のガキには当たり前のこと。心と体のバランスがきっちりと取れている証拠だ。一言でいや、健全なんだよ」


 さっきまでは、どこかふざけた部分が残っていたのに、今は真剣な顔で俺達に語りかけてくる。

 この男は、いつもそうだ。大事なことは、決して冗談めかして言わない。あの暗き森で先生、先生に言うことで間接的に俺達にも言って聞かせたように。


「だが、アイツはガキの頃。まあ、俺が知ってんのは、坊主より少し下くらいからだが、その頃からアイツは大人びていた。いや、もう大人だった。周りの顔色を読み取り、空気を読み、時には自分を抑えて慎重に行動していた。いや、中にはガキの時分からそういう性分のやつもいるが、それでもどこかで気の合う仲間と発散なりするもんだ。が、アイツにはそれがなく、外見はガキなのに、その中身は成長して現実を知っている大人そのもの」


 自分を抑えて、周りの状況もキチンと判断できる。…確かに、それはもう子供とはいえないだろうな。少なくとも、今の俺にそれが出来るだけの自信はない。

 そう思うと、無意識的に横を見ると、クラウもこちらの方を見ていた。互いにそっと目線だけを動かすと、無理だろうなと会話し目の前の方に意識を戻す。


「燃え尽き状態ってのは、要は伐剣者としての壁にぶち当たり、打ちのめされる事だ。大体Bランクになるのは遅くとも二十代中盤くらいだから、そうなるのはまだまだガキっぽさの残ってるのと大人になりたての奴等だな。そんな連中が現実の…理不尽ってのかな。そんなもんに打ちのめされ、心と体のバランスを崩して疲労を感じ始めるんだ。が、俺の知る限り健全に成長していった奴は回復するのも早いし、悪化するってケースも少ない。それなら、アイツはどうか。何度も言うように、心はすでに成長した大人のそれだった。健全に成長している心のように見えたのに、突然燃え尽き状態になるってことは、他人からは分からない何かによって、心に負荷がかかっていたことになる。アイツは完成していた心によって、今まで無理矢理に現実と合わせていたのに、それがズレて苦しんでいる。俺の見るところ、それがアイツの燃え尽き状態だ」

「しかし、…それならジギスムントに出すよりも、ここシュラフスで過ごさせた方がハーン教諭にとっても良かったのでは?テオ殿は、よく学院での教師をすることを認めましたね」


 言われてみればそうか。この国としても、シュラフスのギルドとしても先生を出すのはおかしい。燃え尽き状態が進行すれば、伐剣者を辞める事態にもなるのだし、ここでしっかりとフォローする方がよかったんじゃないかな。


「まあ、選んでたのが伐剣者(・・・)の教師ってんじゃなけりゃ、支部長も止めてただろうさ。この職をレーヴェ自身が選んだ以上、本人は自覚してるかは分からねぇが、まだ心のどこかで踏ん張っていると考えたんだろ。まあ、それでも心配だったようで、ジギスムントまで付いていったようだがな」

「えっ!テオさん、ジギスムントまで先生と一緒に来たの?」

「ああ。後付けで色々と理由を作ってたみたいだし、親友の事を心配して、この国のギルド本部ともやり合ったって話だ。あっ、これは事務員情報だから、内緒にしとけよ」


 そう言って、ニヤリと笑って釘を指してくるが、この顔はわざとネタばらしして楽しんでる顔だ。

 

「さてと、そろそろ時間切れくさいから、一言だけ言っておくか。そのまま、健全に心も鍛えていけよ。心は体と違って、目に見えない。だからこそ、怠るな。楽しかったら笑え。不条理には怒れ。悲しかったら泣け。そうやって、ありとあらゆる感情を経験していけ。それが、心を鍛える糧になる。それと、まあなんだ……何かアイツにあったら少しでいい。お前達ができる範囲で、手助けしてやってくれや」


 そこまで言うと、手をヒラヒラとさせ笑いながら口を閉ざし、ベティーナさんを伴って席を立つ。

 そして、二階に繋がる階段を指差す先には、ため息をつきながら降りてくる先生とテオさんがいた。 


「ふふ。ねっ、ロッホスさんて素直じゃないでしょ。あれで、本当に健全に成長したって言えるのかな」

「うるせいぞ、ベティーナ。ほれ、お前も早く来い」


 そう言って去っていく、二人の背を見送っていると、「待たせてごめんな」と申し訳なさそうに先生が席にやって来た。

 俺とクラウは、さっきの話を聞いたからか、つい先生の顔をマジマジと見るが、いつも通り変わりはない。


「ん?どうした?」

「いや、何でもないよ」


 クラウと一緒に、慌てて誤魔化すと、不思議そうにしていたが、そのまま流してくれた。

 とにかく、これでようやく帰る準備が整った。俺達は荷物を背負い、待たせている小馬竜車へと連れ立って歩いていく。



 夏の終わり。綺羅めくように薫っていた葉の色が移ろうように、これからの訓練の場もシュラフスから故郷ジギスムントへと移っていく。 

 異国でのSランク伐剣者ロッホスの宿題にも似た言葉を持って、また学院での日々を迎えるのだった。



これにて、駆け足になった感はあるものの第二章は終わり、再びジギスムントを舞台とした第三章へと続くことになります。

 この後、間奏を二、三話挟むことになりますが、これからも変わり者の伐剣者をよろしくお願いします。


 ここまで、途中にかなりの間が空いてしまい、読んでくださっている方には申し訳ないことをしました。

 また、そんな状態にも関わらず、待っていただいた方、読んでくださった方に深く感謝を申し上げます。


 最後になりますが、ご意見・ご感想お待ちしております。

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