第三話 ジギスムント帝立学院1 ―その威容、壮大にして堅牢なり
ジギスムント帝立学院という話は、全三話によって構成されています。
本日を一話目とし、3日連続で投稿します。
「なあ、テオ。ジギスムントでは、伐剣者の二つ名ってのは結構重いもんなんだな」
案内されたギルドの宿泊施設。
そこで荷ほどきをしていると、学院長は明日の予定はないようで、朝一番に面接を行う事になったとギルドから連絡が入る。
思ったよりも動きが早いことに驚いたが、それならと早めに休む事に決め、風呂に入って疲れを取ってから必要な用意を済ませてベッドに入る。
しかし、目を閉じると夕陽に照らされたこの国の若い衛兵の食って掛かるような表情が浮かんできて、なかなか寝付けないでいた。
理由は違うかもしれないが、テオの方もなかなか寝付けないようで、起きているような気配を感じたため、返事を期待せずに話しかけてみることした。
「そのようだな。私も驚いたが、伐剣者が生まれた地であることを考えると納得することはできるがな」
てっきり早く寝ろと言われるかと思ったが、意外と無駄話に付き合ってくれるらしい。
確かに、発祥の地というのは生まれたモノに対して誇りと愛着を強く持つ事が往々にしてある。
そこら辺は前世でも体験して知っているのだが…上手く言えないが、それだけではないような気がする。
「じゃあさ…俺は、この国で教師をやっていけると思うか?」
まだ、採用されたわけでもないのに、不安が胸に込み上げてくる。
「そんな事は私にはわからんよ。とにかく、すべては明日の面接次第だ。そのために、そろそろ寝て明日に備えておけ」
結構不安なんだから、もう少し付き合ってくれてもいいだろうに友達甲斐のない奴だ。
「ああ、そうだな。もう寝るよ。お休み」
そう言ってから、改めて目蓋を閉じると、今度こそ俺は深い眠りについていった。
◇◆◇◆◇◆
帝都ガルフベルン。
ここは、帝城を中心にして円形に広がっている都市で、他の国には余りないような面白い特徴が幾つかあった。
その一つが、東西南北に区画は整理されているものの、街全体が一種の雑居地となっており、貴族・平民ごとに居住区画を分ける事なく混然と暮らす街並みが広がっている事にある。
帝都を歩いていると、貴族の邸宅の隣家が商人の店舗であったり、職人の工房付きの家だったりする場合があるのだから、慣れていないと今いる場所が分からず迷い続けることになる。
そんな、貴族と平民が渾然一体となり生活が営まれる帝都。
その中心たる帝城から見て、西に向かった先にジギスムント帝立学院は存在していた。
この帝立学院は元々は国の官僚を育成するために創られたごく小規模にものに過ぎなかった。
しかし、時代を経ていくうちに様々な学部が新設され、それに合わせるように増改築がされたことにより、現代では街のなかにできた別空間、一種の砦のようなの物に生まれ変わることになる。
そう、帝立学院は、まるで古城と見紛うような学舎、訓練するための運動場に鍛練場、工房に各種薬草園などが軒を連ねる巨大施設に変貌していったのである。
俺は、徐々に近づいてくる壮観とも言えるその景色に圧倒され、立派な門の前に着く頃には完全に腰が引けてしまった。
いや、いやいやいや!!
なんだよこれ!!俺の記憶にある学校と全然違うじゃないか!!
無理!!無理だって。こんなところで雇ってもらえるはずがないだろ!!
うん、帰ろう。シュラフスに帰ろう。
俺には、やっぱり伐剣者生活が向いてるんだよ。
そう思い踵を返そうとすると、テオに羽交い締めにされ引き摺られる。
「ええい。往生際が悪いぞ、レーヴェ。ここに来るまでに、私がどれ程尽力したのかわかっているのか。大人しく面接を受けてこい」
伐剣者として身体を鍛えている俺でも、何故か今のテオを振り切ることができない。
なんだよ、その馬鹿力は。お前、本当にギルド職員か?!
「嫌だ!!もう帰る。俺は、シュラフスに帰るんだ!!」
「ダメだ。大人しく散ってからにしろ!!」
「何で、散ることが前提なんだよ!!」
さては、テオのやつも混乱しているな。
それなら、一旦落ち着くためにも帰ろうじゃないか。
「あのぉ~」
「だいたい、これはお前が選んだ事だろう。なら、せめて最後までやり通さんか!!」
「予想外の事態に直面したら、状況を整理するために一時撤退するべきなんだよ!!」
伊達に十数年も伐剣者業をやってない。
引くのは恥ではない。引くべき時を知らないことが恥。そう、今は戦略的撤退をすべき時なんだよ!!
「あのっ!!」
門の前でテオと馬鹿なやり取りをしていると、大きな声で呼び掛けられる。
そちらの方を向くと、長い金色の髪に翠の瞳の女性がこちらの方を睨んでいた。
「申し訳ありませんが、ここは厳粛にして清閑を旨とする学舎ですので、あまりに騒がしい行動はお控えください」
確かに、二十をとうに越えたいい大人が、学校の校門前で学生のように騒いでいたのでは流石に外聞が悪い。
その事に改めて気づいた俺達は、揃って頭を下げ謝罪する。
「それで、見たところ伐剣者の方と…あなたは、ギルドの職員の方ですよね?当学院になにかご用でしょうか?」
そう、俺は学院長との面接を受けるに当たって、伐剣者としての完全な装備で来ているため一目で分かって貰えた。
昨日の内に、装備を整え武器と防具を磨き、徹底的に身綺麗にしておいたのだ。
うむ、我ながら頑張った。
だけど、伐剣者と分かるなら何で目的がわからないんだ?
そう疑問に思っていると、テオが女性の方に向かい来訪の目的を告げる。
「失礼した。私は、カルクブルンナー王国にあるシュラフスのギルドで事務長をしているテオ・ユンカーという者だ。昨日、ガルフベルンのギルドから連絡が入っているはずなので、これから学院長との面談を希望する」
そう言うと肩からかけていた鞄から、シュラフスのギルドで見た懐かしの薄汚れた教員募集と書かれている紙を取り出して見せる。
それを見た女性は目を見開いて俺達をみた後、嬉しそうに笑いながら、涙ぐむというなんとも器用なことをする。
「やっと…やっと応募してくれる方が出てきました。学部を新設して三年、誰も教員に応募して来ないので半ば諦めていたんです。あっ、私はその教員募集の原案を考えた事務課のエリー・オイレといいます。えっと、あの、それで…そうだ、学院に連絡し院長室にお連れ、じゃない、ご案内します」
おお、どうやらあの教員募集の文句を考えた事務課のエリーさんらしい。なるほど。諦めていたなら、伐剣者と分かっても目的までは分からないか。
よっぽど、嬉しいのか言葉がしどろもどろになっているが、指摘しないのが人情だろう。
あー、仕方ない。
まあ面接を受けるだけでとって食われる訳でなし、いっちょ気合いをいれて挑みますか!!
◇◆◇◆◇◆
【ジギスムントの教育制度】
・基礎学校
ジギスムントの帝都や各領にあり、6歳から9歳までの子供達が通う。
なお、この時期の総合成績順で上位者しか、帝立学院官僚学部に行くことは出来ない。
・帝立学院
帝都にあるジギスムント唯一の帝立の学校。
多様な人材の育成を目的としており、生徒の自主性を尊ぶ校風である。
騎士学部等も、従来は八年制であったが、隣国の教育制度を採用し、五年制と三年制に別れた。
・初級者[ノービス]、中級者[インタァムミディア]コース
初級者コースは、基礎学校を卒業仕立ての10歳から14歳までの生徒が通う。ここで、一通りの技能を身に付けた後、中級者コースに進むもの、就職するものに別れる。
中級者コースは、そのまま進学した場合15歳から17歳まで通うことになる。ただ、一旦働きに出ていたものも少なからず在籍し、年齢層はバラバラである。
【ジギスムント帝立学院】
・学部
[八年制の一貫コース]
官僚学部
[五年制の初級者と三年制の中級者コース]
騎士学部
伐剣者学部[新設]
魔術学部
薬学部
商学部
工学部
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【伐剣者学部設立の背景】
ジギスムントでは伐剣者の人気が高いことから、他国に比べ伐剣者になりたい者が多く、ギルドだけでは後身の育成が困難になりつつありました。
そこで、複数人に同時に教えれるように学院に学部が新設されることになったものです。
どう困難になっていたかは、後々の話で出す…かもしれません。
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2017.6.24 文章と言い回しの修正を行いました。