第二十八話 ハーン式訓練(本家)の説明
鳥車から降りると、幾つかの家屋と堅牢そうな砦が目に入る。
一応、準危険領域とされるゴズァーテン・ベァークに程近い場所であるから万が一のため監視を行う国の施設であるので、幾つかの家屋と言っても小さな村くらいの規模で軒を連ねていた。
そして、国の設置した砦とそこに詰める兵士や騎士の食事が出来る場所や娯楽施設が軒を連ねる先には、夜になれば閉じられるであろう門が大きく開き辛うじて道と言えるような跡が土の上に付けられているのが見える。
その先人達が立ち入り踏み固めた足跡を表すように出来た薄茶色い道跡をのんびりと眺めつつ、不用意に立ち入られないための通行確認の様子に耳を傾けながら待つ。
「所属と立ち入り目的、それを確認するための書類の提示をお願いする」
「俺達はシュラフスの街の伐剣者だ。目的はゴズァーテン・ベァークでの素材の採取。これが、その依頼書だ」
親父が代表して依頼書を騎士に見せて、その内容を確認すると次は伐剣者タグの提示を求められる。
それに応じるように、俺達はチェーンを手繰り胸元からタグを取り出し見せるとその騎士は軽く目を見張った。
SSランクの白金一にSランクの金二、DとEランクの赤銅二。
高位伐剣者が三名もいること、一見するとバランスのひどく欠いた組み合わせに驚きと少しの違和感を感じているのだろう。
まあ、普段相手にするのはCランク以上の銀からなので、赤銅タグは場違いにも程がある。
ただし、そんな感情もタグを確認して間違いなくギルドから発行された物と分かると、立ち入りには許可がいる場所でもないため特に問題もない以上引き留められることなく俺達は門を潜り抜け道らしきものを進んでいく。
「道らしい道がないとやっぱりしんどいね」
「そうだな。だけど、ここら辺はまだマシな方だぞ。奥に行けば行くほど道なんて見当たらないしな。…いや、獣道があるから道はあるか」
「いや、それ道じゃないよ。少なくとも、俺は通れるような気がしないや」
背嚢を背負い、片方の槍を背嚢に挟むように斜めに掛け片手に短い方の槍を持ったディータが愚痴るように呟くが、気持ちはよく分かる。
背嚢までは単なる登山と変わらないと言い張れるかもしれないが、伐剣者になるとそれに加えて自身が着けている装備に武器など幅と重さを加えた形になるのでたまったものではない。
特に大型の武器や防具、鎧の素材によっては魔獣の甲鎧や金属類を使っているものにとっては魔術を強めに掛ける必要が出てくるから神経を使うことになる。
だからって訳ではないが、外に意識を向ける割合が高くなるという利点があり魔力の調整にそれほどまで気を使わなくて済むぶん皮革の装備、鎧状に強化せず鞣して服状にしたものを俺は選択しているのだ。
それに、皮革製だと軽い・動きやすい・音がしないと三拍子揃っているので、逃げる時なんかは実にいい。
だけど、そう説明しても高位になるにつれて納得というか同意してくれる人は少なくなる。
大分前に、ロッホスさん達と飲んでいた時なんかは、俺の装備で魔獣に立ち向かうのは無謀じゃないかとベティーナに聞かれたので攻撃を全部避ければ大丈夫だと答えるとドン引きされ、ロッホスさんには腹を抱えて笑われた記憶があった。
そして今、ゴズァーテン・ベァークの麓に向かう途中に雑談がてら、二人に話したのだがディータにはベティーナと同じようにドン引きされた。
ディータも今はだが魔獣の皮革を使った装備を使っているので同意してくれるかと思ったのだが…おかしいな。
「いや、おかしくないよ。普通の感性を持ってたらそんな無茶な考えは浮かばないって。特に先生や俺って魔獣に接近して戦うことを前提にした武器でしょ。万が一にかすりでもしたら動けなくなるし、それに囲まれでもしたら一貫の終わりじゃん」
「いや、そんな時は一目散に逃げるさ。で、追ってきた足の速い奴の順にこうバッサバッサとやれば」
そう言いながら、空手に刀を持った仕草で振って見せる。
それに、俺が教えるつもりの瞬時強化を使えば一撃離脱も可能だし、大丈夫だろう。きっと。
「なるほど、各個撃破というわけですね。理に叶ったやり方です」
「いやクラウディア、それおかしいから。なんで納得してるの?」
信じられないとばかりに突っ込まれているが、クラウディア自身はどこ吹く風で、そうかなんて返している。
俺からしたら、重装備で足を止めまたは魔獣に接近し続けて戦う方が恐ろしいんだが考え方は人それぞれか。
「ほらほら。そんな益体もない議論してないで、そろそろ麓に着くからどういった訓練にするのか説明した方がいいんじゃない?」
やや呆れたような声で前からお袋が言ってくる。
そうだな。鳥車の中では肝心の訓練内容を話していなかったし、何時までも関係の無いことで時間を使ってもしょうがない。
そう思うと、どこから説明しようか考える。
一番初めに、今回は俺が伐剣者としての訓練を学び直すという事だが、これについては昼飯を食いながら話したから問題はないだろう。
となると、二人には俺がどんな訓練を受けるのかを見てもらいつつ、自分達も似たような訓練を受けるという認識をもってもらう事から伝えればいいか。
「あー、今回は主に探索術の訓練を中心に俺が親父やお袋から学び直すという事をしたいんだ。まあ、依頼が宝石の採取だから、もしかしたら足場が不安定な場所に行くかもしれない。そんな中で辺りに気を配りつつも進むという事を考えながら俺の動きや親父達がどうするかという事を学んで欲しい」
「ちなみに、話し合いで今回行く場所はゴズァーテン・ベァークの表層のみと決まっているわね」
俺の説明をお袋が補足しつつ付け足すと、ディータとクラウディアの方に目をやる。
ここまでで何か聞きたいことがあるかなと思ったが、特に無いようで続きを促すような視線を向けてきた。
「でだ。探索術と一口に言ってもよく分からないだろう。そこで、今回はさっきも言ったように辺りに気を配る。この事を重点的にしてみようかと思う。何故、これを重点的にするかというと、上手く切っ掛けを掴むことが出来て慣れてくれば、徐々に魔力感知といった技能にも通じる可能性があるためだ」
「えっと、魔力感知ってそんな訓練をしたら出来るようになるの?俺の親父は、気がついたら出来てたって言ってたけど」
ここにきて、ディータから疑問が呈されるが、まあそうだろうな。
もし俺が、何も知らない状況で今の自分の説明を聞いたとしても同じように思っただろう。
「もちろん、ディータの親父さんのような人もいるし、ルディのように初めから片鱗を見せる者もいる。それに、俺の訓練を受けたとしても、必ず出来るようになるとは言えないけど、もしかしたらってのはあるからな。やってみる価値はあるだろうさ」
「ちなみに、その訓練で出来るようになった人っているの?」
「何言ってんだ。目の前にいるからこそ、試しにやってみようじゃないかと提案してるんだよ」
そう言って親指で自分を指す。
まあ、危険領域で右も左もわからずに必死に息を殺して隠れながらってのはあるが、そうじゃなくても切っ掛けくらいにはなるだろう。
あの時の事を染々と思い返しながら考えていると、へぇーと関心を引いたような声が返ってくる。
「それなら、確かにやってみる価値はあるでしょうね」
「ああ、確かに。でも、出来れば切っ掛けでもなんでも掴みたいよな」
身に付けた人間がいると分かると、途端に乗り気になって 訓練を受けてみようという気になってくれたらしい。
よしよし。ここまでは上手くいったようだし、後は親父達が俺にどういった風に訓練を付けるのか、ディータとクラウディアにはどう訓練を付けるのかを説明してもらうかな。
「それで、親父達は俺とディータ、クラウディアにどういった風に教えるつもりなんだ」
前を歩く二人に声を掛けそう尋ねると、待ってましたとばかりに立ち止まると二人は振り返った。
そうして、俺達と同じように背負っている背嚢から幾つかの袋を取り出してこちらの方に見せてくる。
「ああ、それはだな」
「これを使うつもりよ」
袋の口を開けて、中から小粒な石を手の上に置き、こちらに見えるように突き出してくる。
これは、虹色石か?
魔力を込めると一定時間光るという性質を持つ石で、子供なんかの遊び道具になっているものだったか。
一応、伐剣者も探索の時の目印代わりに使うこともあるが、場所によっては目立つためあまり使う者は多くなかったはず。
「この虹色石には魔力を込めることが出来るのよね。それで、魔力感知を持つ者なら、どこにこれがあるか知ることが出来るという代物で、別れ道なんかに置いておくと行き止まりに当たってもこれを目印にして戻ってこれるのよ」
そうディータとクラウディアに虹色石の特徴を説明してから、魔力を込めると赤色や青色と色とりどりに光った石以外を親父に渡した。
「で、今回はこれを移動中や休憩中なんかに、ディータ君とクラウディアちゃんに向けて手加減して投げるから、それを避けるなり弾くなりして防いでちょうだい」
「魔力を込めなければ普通の石と変わらない。そのため、魔力にばかり気をとられていると、普通の石の反応が遅れる。それを注意しつつ捌いてもらいたい。ああ、もちろん周囲には常に気を配っていて欲しい」
そこまで言って、二人はこちらの反応を伺った。
ああ、よかった。心配していたのだが、予想していたより遥かにまともな訓練内容だ。
これに、足場が最悪な場所とか、魔獣が近づいている時とかに投げないように釘を指しておけば実戦的な訓練に近くなるだろう。
「それで、これがディータ君とクラウディアちゃんにするので、レーヴェにはこっちね」
訓練内容に胸を撫で下ろして安心していたのに、不意打ちのように背嚢からさらに布でくるまれた包みを出して開いていく。
そうして、開かれた包みの中には小振りなナイフが数本あった。
しかも持ち手の端、ソングホールには紐が通されており、微妙な変化や回収が容易なように準備万端整っているようだった。
「流石に、息子とはいえ私達より上のランクの伐剣者であるレーヴェを、ディータ君とクラウディアちゃんと同じ訓練にするのって失礼だと思ったのよ。それに、将来的にはこういう風に訓練が上がっていくと言うことを知っておけば、二人にとっても参考になるでしょ」
そう言って、笑顔でこちらに問いかけてくるお袋の後ろには、左右の大きな岩に挟まれるように作られたゴズァーテン・ベァークの入り口が見えた。
ここまで来てなんだけど、このまま回れ右して帰ってもいいかな?!
―次回投稿は9/23 18時頃を予定しています。
→本日(9/23)の18時に投稿予定でしたが、PCが強制シャットダウンしてしまい保存していない部分が全て消えてしまったので、時間がずれ込む又は明日にずれ込むかもしれません。
申し訳ありませんが、書き直すためのお時間をいただきたく存じます。




