第二十六話 贈り物を2 ―依頼の形、伐剣者の形
今回は、書いている内についつい文字数が多くなり、おそらく過去最大の6000字近くにまでなりました。
もしかしたら、媒体によっては読みにくいなどの不都合があるかもしれません。
やると決めたはいいが、詳しい話は依頼人が来てからってことになっている。
つまり、肝心の依頼人がいないことには話はこれ以上進まないので、酒場の方から軽い飲み物を貰ってきて、親父達とお茶を飲みつつ待つことにした。
しかし、結婚相手に指輪の贈り物か。
そういえば、日本に居たときには、婚約指輪や結婚指輪に果ては銀婚式や金婚式などの記念に指輪を贈るなんてマーケティングをよく聞いたな。
ちなみに、余談だが日本では結婚指輪をマリッジリングと呼ぶ人もいたが、どうやら典型的な和製英語だったようで、海外ではより広い意味のウェディング又はウェディングバンドっていうらしい。
まあそうだよな。単なる結婚をいうマリッジとそれを含んでさらに永遠の絆で固く結び付けるという意味も含んだウェディングとでは後者を使っている方がしっくり来るというものだ。
まあこの手の雑学なんかは、今も昔もそっちに縁のなかった俺は、結婚するっていう友人との会話で知ったんだけどな……ちくしょう。
で、このゼテウギウム大陸、もう少し細分化しガルクブルンナーやその周辺諸国では、相手と言っても主に女性に指輪やイヤリングなんかを贈る習慣はあっても、少なくとも俺の知る限り結婚するに当たってペアの指輪を贈るという習慣はなかったはず。
ならば、この依頼人というのはそのような習慣のない中で、結婚指輪なる儀礼をしようというのだから、もしかしたらジギスムント辺りの北方から入ってきたのか、そうでないとするならば新しく商売の種にしようというのだから中々発想が豊かな人間なのだろう。
そう思うと、急に今回の依頼人について興味が湧いてくる。
「そう言えば、今回の依頼人について聞いてなかったけど、どんな人なん」
「言ってなかったかしら?うーん、そうね。どんな人かと言われたらレーヴェも知ってる職人よ」
俺の知ってる職人?
まあ、指輪の装飾に使う宝石採取を依頼してるから、商人かと思ったら職人か。
だけど、職人と言ったって幅があるし、俺も伐剣者として活動をしてるから顔だけなら広い方だから、今のお袋の答えだけじゃ分からないな。
そう思って、具体的に誰かと聞こうと親父やお袋の顔を見ると、何かを懐かしむように穏やかに笑っていた。
もしかして、俺と親しい、それこそ友人関係にあるやつなのか?
そう言えば、ちょっと前に昔からの友人二人が結婚するなんていう話を聞いたような気が…。
「あら、話をしてたら丁度来たみたい。あら、ディータ君とクラウディアちゃんも一緒みたいね。なんだ、もうあの子に二人を紹介してたんじゃないの」
俺の知り合いであって、お袋が親しげにあの子と呼び、ディータとクラウディアも知っている職人。
ここまで絞り込めれば、興味を引いていた依頼人が誰だか、もう分かってしまった。
そう思ってギルドの入り口を見れば、そこにはディータとクラウディアに挟まれるように立っている一人の青年。
学園時代の旧友パルタザル・ゲッツェがギルドの入り口に立っているのが目に入った。
その姿を確認して、お袋が入り口に向かって手を振りながら声をよく通る声で呼び掛けるとこちらに気づいたのかディータとクラウディアとともにやってくる。
「おじさんおばさん、お久しぶりです。それとレーヴェも。しかし、三人が一緒にいるって珍しいですね。何かあったんですか?」
「何言ってるんだ。お前の依頼を受けるに当たってどうするかの相談をしていたんだぞ」
「…え?」
「ん?」
びっくりしておうむ返ししてしまったけど、お前が依頼人だよな?
「えっと、自分用とクリスタに贈る指輪、その装飾に使う宝石の採取依頼を出したのはお前だろ?」
「あっ、ああ。確かに、それはギルドに依頼を出したけどさ。えっ?まさか、その依頼をおじさん達とレーヴェが受けるのか」
「それと、ディータとクラウディアもだな。一応、俺達五人で受けようと話は決まったんだけど何か問題でもあるのか?」
問題があるなら言ってくれとパルタザルの目を見ていると、すぐには返事がなく視線をさ迷わせて、何か言おうと口を開けては閉じるを繰り返したのち、言いづらそうにしながら「依頼料がな」と呟くように言ってくる。
ああ、なるほど。今回の依頼は、第三類の依頼だったのか。
「あの、ハーン教諭。パルタザル殿は依頼料の事を気にされているようですが伐剣者の依頼書には金額が書かれているのではないのですか?」
パルタザルの呟きに、俺とディータピンときて納得したが、まだ伐剣者に成り立てのクラウディアはよく分からないといった顔をして聞いてくる。
「そうだな。クラウディアはまだ伐剣者に成り立てでよく分からないか。そうだな、依頼形態の説明をしながら今回の依頼についても話すとするか。その前に、まあ席についてくれ。パルタザルもそれでいいか?」
「ああ、そうだな。お願いするかは置いておいて、なんだか疲れたみたいだから座らせてもらうよ」
「あっ、じゃあ俺飲み物もらってくるよ。先生さ。もう俺も知ってることだから、先にクラウディアに話しておいてくれていいよ」
ディータはそう言って酒場の方に向かって行き、パルタザルとクラウディアの二人は椅子をもってこちらのテーブルに座った。
「さて、それじゃあ依頼の形式について説明するか。伐剣者の依頼には大きく分けて三類型ある。まず第一類は、ランクさえ合えば誰でも受ける事ができ、依頼内容が明確で報酬もハッキリしている、いわゆる通常依頼だな。次に第二類は指名依頼というもので、特定個人又は猟団を指名して依頼を遂行してもらうものだ。この場合、依頼書に詳しく書かれていない条件なんかは、依頼人から直接依頼内容について詳しく説明されることもある。ここまではいいか?」
「一つ疑問が。私が騎士団に居たときには、突然魔獣の被害報告が出て出陣したことがあるのですが、似たような場合には伐剣者では対応をとるのですか」
「それは緊急依頼だな。一応、ギルドからの指定依頼に分類され、ギルドから対処可能な伐剣者や猟団に依頼が出る形になる。該当する伐剣者なんかがいない場合には、ギルドからの通常依頼として人数を集めて数で押しきる場合なんかもあるかな」
もっと詳しく説明するなら、パターンごとに細分化されていたはずだが、基本となるこの二つを理解していればケースバイケースで対応できるだろう。
あとは、俺のこの説明でちゃんと伝わったかだが。
そう思って、クラウディアの方を見ると顎に手を当てて考えていたが、しばらくしてなるほどと頷いた。
「もう一ついいですか。猟団とはなんですか?」
俺がさらりと言った猟団という言葉に馴染みがないようで、クラウディアが首をかしげながら聞いてくる。
シュラフスのギルドで登録をしたはいいが、猟団なんてのに関わる機会もなかったし、必要もないことだったので言ってなかったか。
まあ、いい機会だしついでに教えてしまうか。
「あー、猟団ってのは伐剣者の集団で、言うならば伐剣者版の騎士団みたいなものかな。俺やロッホスさんを見てもらえれば分かるかと思うが、伐剣者ってのはソロやコンビ、パーティーといって多くても四五人で依頼をこなすんだ。だけど、それじゃあ効率的じゃあないっていうんで集団として集まって組織化したのが猟団なんだよ」
「効率的…ですか。でも、ハーン教諭はソロでも十分に依頼をこなしているのではないですか?」
「うーん。例えば、さっきの緊急依頼が起きた場合を想定してほしいんだが、一人なんかでは当然その依頼に対応できないだろ?その点、猟団なら自分のしたい依頼を受けるのと拠点とする場所に残る組を分けて行動できるので、どんな事態にも対応できるっていう利点があるわけだ」
「ああ、そういう意味での効率的ですか。しかし、伐剣者の集まりだというだけで、本当に対応できるのですか?」
そう不思議そうに訪ねられたが、どうやら俺やロッホスさんを基準にしているため、高位伐剣者は猟団に所属していないという考えのようだ。
「普通のというか少なくともガルクブルンナーにある猟団はSSランクやSランクを筆頭にして構成された組織なんだよ。だから、一つの猟団に複数の高位伐剣者がいることは当たり前なんだよ」
「えっと、ではなぜハーン教諭はソロで行動しているのですか?」
「なんでなのかしらね。この子は、ロッホスのようなひねくれた性格もしていないのに本当におかしいわよね」
どう答えたものかと俺がいい淀んでいると、横からお袋がおかしそうな声で口を挟んできた。
「ちなみに、私とゲオルグも猟団を結成しているのに、レーヴェったら入ってくれなかったのよ。本当になんでなのかしらね」
「そうなのですか?ハーン教諭の事ですし何か理由があると思うのですが、不思議ですね」
「お袋。今説明中だからあまり横から茶々いれないで。クラウディアも、まだ依頼の説明途中だしパルタザルも待ってるから次にいっていいかな」
俺がパルタザルに向かって同意を求めるように視線を向けると、急に話を振られたためにびっくりして頷き返してきた。
すまんなパルタザル。
「失礼しました。そう言えば、依頼の形式について説明の途中でしたね。話の腰を折ってしまって申し訳ない」
「そうだったわね。じゃあ、この話はまた機会があればしましょうか」
後日に引っ張る気かい。
しばらくの間、親父やお袋、クラウディアの前で猟団というのは控えようと思いながら、最後の依頼の形式について説明をしようとした時に丁度ディータが飲み物を盆にのせて帰ってきた。
「ごめんごめん。ちょっと時間が掛かっちゃったけどもしかして話終わっちゃった?」
「いや、これから最後の依頼の形式について説明して依頼をどうするか決めるところだ」
そう答えると、よかったと言って自分とクラウディア、パルタザルに飲み物を渡して椅子を持ってきて席についた。
「ゴホン。あー、それで依頼の話に戻すな。依頼の第三類は交渉依頼と呼ばれるもので、これには依頼の目的となるものは書かれているが、依頼料や依頼を受ける伐剣者のランクについては特に書かれていない。伐剣者が依頼を受けると決めるとギルドに伝え、ギルドから依頼人に連絡がいき、そこから依頼人と伐剣者で内容が詰められるというものだ」
「随分と迂遠なやり方ですね。これだと、ギルドを通しさらに依頼人とも交渉するので、言ってはなんですが面倒ですね。通常依頼の方が依頼人にも伐剣者にとってもいいのではないかと思うのですが」
心底分からないという顔で疑問を口にするが、まあ普通はそう思うだろうな。
だが、この交渉依頼については依頼人と、一応伐剣者にも利点があるとされている…らしい。
「そうだな。普通はそうだが、さっきパルタザルが呟いたように規定の依頼料が出せない場合には、伐剣者と交渉して料金について折り合いをつけて貰えるよう話すことで依頼を受けてくれることもある。もしくは金銭の代わりに物を報酬で出すという事を話し合いで決めれる。これは、依頼人にとってもいいだろう?」
「なるほど。確かに、依頼人にとっては便利な制度ですね。しかし、伐剣者側の利は何かあるのですか?」
「一つには繋がりを持つ事ができる。例えば、次は指名依頼で直接自分に依頼がくるかもしれないといったものだな。または、依頼で行く場所で高額で買い取って貰える素材を入手できたり、自分の経験になる場所に行けるなんかもこの場合に含まれるかな。これが、伐剣者側の利点だな」
そこまで言うと、納得したように何度か頷いたが、何かに気付いたようで首の上下運動が止まる。
「今の説明ですと、ハーン教諭達が受ける利がないように思うのですが」
あー、気付いたか。
そうなんだよな。この交渉依頼は、駆け出しや繋がりの薄い伐剣者なんかが受けるもので、俺や親父達が受けるには余りにも意味のないものなんだよな。
事実、パルタザルも依頼を受けてくれるという伐剣者が現れたということでギルドに来てみれば、その相手が俺や義両親だったのでビックリしてたしな。
それに、さっきは交渉で決めると言ったが、この依頼形式の暗黙の了解みたいなものでは、受けてくれる伐剣者のランクに応じて依頼料が変化する。
何というのか、例えばだが高位伐剣者が好意でも安価な料金で受けたのでは、通常依頼や指名依頼をせずに皆がこの交渉依頼にするので、現在とられている運営の方法では立ちいかなくなってしまう恐れがあるためだ。
まあ、それに関しては俺にも考えがあるし、受ける気でいるので問題ないが、きちんと説明しておかないとクラウディアが誤解したままでいることになる。
そう思って説明を続けると、クラウディアだけでなくディータまでどうするのかという視線を送ってきた。
「その前に聞いておくが、もう疑問はないんだな?」
「はい。今のところはですが。それで、ハーン教諭はこの依頼をどうするつもりなのですか?」
「ん?受けるつもりだ。ちなみに、さっき親父達と話した結果、行くのはゴズァーテン・ベァークになった」
俺がその場所を告げると、パルタザルは慌ててこちらを向き泡を食って詰め寄ったかと思うと肩を揺する。
「ちょっと待てレーヴェ。だから、俺はお前や親父さん達に依頼するには金が足りないんだって。しかも、ゴズァーテン・ベァークっていったら準危険領域だろ。無理だ無理。そこまでの金はない」
「おわっと。おち、落ち着け。というか揺らすな喋れない」
パルタザルの手を振りほどきなんとか落ち着かせ、続きを話す。
「ふぅ、話は最後まで聞けよ。今回の依頼については、正確には俺や親父達は受けない」
「何言ってるんだ。最初に俺達が受けるって言っていたじゃないか」
「最初はな。あの時は、まさか交渉依頼だとは思ってもみなかったから、ああ答えたんだが今は違う。まあ、普通は代表して一番高位の俺が交渉するのが筋なんだろうが、丁度他国から来てシュラフスでの繋がりのない駆け出しの伐剣者がいる。そして、その伐剣者達は一応学院の生徒で俺はその先生だ。それを貫くなら、俺は監督者として依頼にも同行しなければならないな」
ここまで言うと、パルタザルは何かに気付いたように視線を横に向ける。
俺もそれに合わせるように視線を動かし、さっきまでどうなるのか興味深く話を聞いていた生徒達を見る。
「という訳だ。せっかくの機会だし、いい勉強になる。ディータ、クラウディア。パルタザルと交渉していい条件を引き出せよ」
そう言って、俺はディータとクラウディアを見るとニコリと笑った。
―次回投稿は9/15 18時頃を予定しています。




