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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第二章 教師生活一年目 ―夏期長期休暇
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第二十五話 贈り物を1 ―論理と直感


 ディータとクラウディアは受けると言ったが、お袋が全員で訓練を受けてみてはとの提案に、本音をいうと物凄く不安に駆られていた。

 何せ、何度も言うがこちらの伐剣者という職業につく人は、俺の持っている常識を軽々と飛び越えるような訓練を当たり前のように課してくる。


 いや、命懸けの職業である以上半端な訓練は反って害なのだろうし、この場合は学校教育という経験に引っ張られている俺の方がおかしいと理解はしている。

 それに、厳しく辛い訓練を否定するつもりもないし必要性も理解もしているが、俺としてはそんな訓練も段階を踏んで徐々に上げていく話だと考える。

 だからこそ、俺自身の考え方や経験をブラッシュアップさせて、その段階に教え子が居ると見極める目を持ちたい。

 そのために、伐剣者教育の原点である義両親との訓練を受け直そうと思っていたのだが、それに生徒達を含めるとなると……本当に大丈夫だろうか。


 ―――――俺達全員で訓練を受けてみると話が決まると、お袋とディータ、クラウディアの三人でどんな経験を積んでいるかを話し合い、さらにいつ受けるかを話し合う。

 俺としては、シュラフスに来てから休みらしい休みもなかったので、今日明日は休養日に当てようと考えていると話すと、それなら明後日にするかという話になった。

 その際、お袋がせっかくだから明日は一日シュラフスの街を案内してあげたらと、いいアシストをしてくれる。

 そう言えば、シュラフスに着いてから依頼以外で街中を探索することはなかったし、異国の街に来ているのに何の思いでもないのでは勿体ないなと、その提案に快諾すると二人もやや嬉しそうに顔を綻ばす。

 こんな顔を見せられたら、明日は色々なところに連れていってやりたい気持ちにもなるな。

 いくつかの観光に向く場所をピックアップしながら、この日は過ぎていく。

 そうして翌日、義両親との約束の日を向かえた。


◇◆◇◆◇◆


「フフフ。よく来たわね、レーヴェ。待っていたわよ」


 繁雑時間を避けて、少し遅めの待ち合わせにしたお陰でギルド内にはそれほど人はいなかった。

 そのギルドの受付ラウンジ中央でお袋が腕を組んで仁王立ちしてこちらの方を見ていた。


 なんだろう。魔獣の甲鎧の装備と相まって昔見たヒーロー物の悪の女幹部みたいだな。

 だけど…あれ?一昨日は親父も一緒にって話だったのになんで一人で仁王立ちしてるんだ?

 そう思い、辺りをキョロキョロと見回すと受付カウンターにて何やら受付嬢と話をしている義父ゲオルグを見つけた。


「ちょっと。挨拶もなく、あまつさえ母親を無視するってのはどういうつもりよ」

「あー、はいはい。おはようございます。で、親父のやつは一体受付で何してるんだ?」

「ノリが悪いわね。それに相変わらずお父さんっ子なんだから。まあ、いいわ。依頼人が来てるかと鳥車の手配の確認をしているのよ」


 親父の姿が見えなかったから聞いてみただけなのに、なんでそんな評価になるんですかね。

 

 …ん?

 依頼人?鳥車?

 えっと、どういうこと?


「ちょっと待って!!何?訓練てギルドの修練場でやるんじゃないの。よしんば、修練場が使えなかったとしても、シュラフス近郊でやるんじゃないの?!」

「何言ってるの?この訓練は元々あなたのためにやるんでしょ。それに、一応考えている訓練に付いてこれるか一昨日、ディータ君とクラウディアちゃんにどんな訓練や経験を積んでいるか聞いて確認したじゃない。それで、大丈夫と判断したのよ」


 確認したって、ああ。あの、雑談がてら二人に色々と聞いていたな。

 って、もしかしてそれだけで判断したのか。

 これはまずいかと、お袋になおも言い募ろうとした時に、落ち着いた声が俺達の耳に届く。


「ヴァネサ待たせたな。レーヴェもおはよう。今確認したのだが、依頼人についてはまだ来ていないようだ。だが、鳥車については準備が出来ているようなので、詳しい話を聞き次第出発できるぞ」

「いや、親父。ちょっと待ってくれ。その、訓練をするとは聞いたけどそれを依頼込みでするってのは初耳なんだ。しかも、それに生徒達も参加するとなると内容を詳しく聞きたいんだ」

「伐剣者の訓練は何も依頼を通さずにするものだけではないだろう?何をそんなに焦っているんだ?」


 そう親父に向かって言うと、軽く首をひねってから不思議そうに問い返された。

 いや確かに言う通りなんだけど、はっきり言ってしまえば、依頼を通してだとどんな訓練をするのか知れたものじゃない。

 育ての親としては信頼しているが、伐剣者としての感覚があまりにも違いすぎるだけに、そこだけは信頼しきれないんだよ。


「ねぇ、あなた。この子は、過去に自分が受けた無茶な訓練をまだまだ駆け出しのディータ君やクラウディアちゃんにするんじゃないかと不安なのよ。でしょ、レーヴェ」


 俺の顔色から判断したのか、お袋がそう言ってくる。

 それを聞き、そうなのかと親父も俺に確認してくるので、その通りという意思を込めて首を縦に振る。

 それを見て、ここではなんだし座って話そうとテーブル席を示されたのでそちらの方に向かう。


「さてと。それじゃあ、最初に簡単な概要を説明するから、疑問点があれば言ってちょうだい。そこについて、さらに詳しく話す事にするから」


 席につくと、お袋からそのような提案を受ける。

 そうだな。まずは計画の全体を聞いてから、掘り下げる方が効率的だな。


「納得してくれてありがとう。それで、まず訓練主体はあなたの伐剣者としての心構えを見つつ、私達がどういう考えをもって弟子を教えてるかという事を伝えることよ」


 ここまでは、むしろ俺が望む展開なので異論どころか両手を上げて歓迎するものだな。

 これは、俺の早とちりだったか?


「そして、次に依頼内容なんだけど、端的に言えば指輪に使う宝石の採取。詳しく言えば、自分と花嫁に贈る指輪に嵌め込む宝石採取になるわ」


 宝石の採取か。

 それなら、それほど危険な場所にいかなくても採ってくることは出来るな。

 なんだ。本当に俺の早とちりの一人相撲で、親父やお袋に突っ掛かっていってたみたいだな。

 いや、本当に恥ずかしい。もう少し、ちゃんと話を聞く姿勢でいれば良かった。


「それで、場所は|ゴズァーテン・ベァーク《とぐろを巻く大山》にしようかと思っているの」

「ちょっと待ったァ。他にも宝石が採れそうな所は沢山あったろうに、なんでよりによってゴズァーテン・ベァークに行くって結論に至ったんだよ」


 さっきまで、感動すら覚えるようないい流れで話が進んでいたのに、なんで最後の最後で落とすかなぁ。


「ああ、やっぱりここで異議があるみたいね」

「当たり前だよ。だって、準危険領域だよ?本来ならCランク以下は滅多に立ち入らない場所だよ?それなのに、DランクとEランクの二人を連れていくって言われれば、普通は反対するでしょ!!」


 そう声を大にして反対するのだが、親父はそうなのかみたいな顔でお袋の方を見るし、お袋はお袋で表情の変化はないし、一体何を考えてるんですかね。


「あなた、大丈夫よ。いいレーヴェ。ランクはあくまでもランクでしかないのよ。極論、ランクなんてギルドに登録してからの実績や試験に合格すれば上に行ける程度のもの。それに、準危険領域に関してはある程度実力のあるDランクは少しずつだけど挑戦はしているのよ」

「いや、確かに。俺がジギスムントで教え始めたときもCランクくらいの実力はあるかも知れないって思ったけど、それはあくまでも戦闘技術のみであって、準危険領域を探索するには不十分な面も多くあるんだよ」

「あら?レーヴェが、戦闘技術だけでもCランク相当と思っているならますます安心ね。これで、探索術については実戦で鍛えることに集中できそうだわ」


 ダァー。だから、それが問題なんだって。

 探索術ってのは、単に歩くだけのものじゃなくて、周りに対する注意や魔獣に突如襲われた時にも対応できるように心力を鍛えておく必要があるんだよ。

 周りに対する注意って点にはもう教えているが、その他は全然なのに他の探索できる場所を飛び越えていきなり準危険領域に行くこと自体が無謀なんだって。


「大体、何だって準危険領域に、俺だけじゃなくディータやクラウディアも連れていこうなんて結論を出したんだよ」

「そんなの決まってるでしょ。私はあの子達の話を聞いてみて、基礎はできている。もう次の段階に上がってもいいんじゃないかと思ったのよ。そうね。別の言い方だと、直感からかしらね」


 直感って。

 論理的でなく感覚的に捉えたってことだよな。

 …そんな馬鹿な。


 呆然と、本当に呆然としながらお袋を見ていると、今までだ待って話を聞いていた親父の方から声がかかる。


「レーヴェ。確かに段階を踏んで教えるという考え方は素晴らしいし賛成だ。だが、少し論理を重視しすぎているため、次の段階に慎重に行きすぎているように思うのだがな」

「いや、だって……。そもそも俺を危険領域に連れていったときも、その直感とやらに従ってたんだろ?確かに、俺は無事に帰ってこれたけど、あれを考えると直感に従った教え方は問題なんじゃないかな」


 お袋の考え方だと、次の段階に次の段階にへと進んでいった時も直感に従って教えていた事になる。

 そうなると、あの時の苦労を考え、どうしても義両親の考え方には賛同しかねる。


「……なるほど。あの時の事がそれほどまで尾を引いていたのか。レーヴェ。今さら遅いかもしれないが、すまなかった」


 親父はジッと俺の方を見たかと思うと、おもむろに頭を下げて謝罪の言葉を出す。

 

「えっ。いや、どうしたんだよ急に?」

「確かに、レーヴェの言う通りあの時も俺達は直感に従ってお前を教えていた。ただ、本来あるべき直感、…純粋な直感ではなく、雑念の混じったモノによって判断したのが大きな失敗だった」


 下げていた頭を上げると苦々しい思いがあるのか、少し顔を歪ませながら昔を思い出しつつ続きを語る。


「あの時の俺達は、教えた術を使いこなしていくお前を見て、勝手に自分達が優れた教え方をしていると誤解していた。加えて、こう言ってはなんだが、早くにSランクに昇ったことで自分達自身も優秀なんだと慢心もしていた。そのため、本来はもっと根源から来なければならない直感を鈍らせ、判断を誤ってしまった」


 そこまで言って一息吐く。

 一旦止まった親父の独白に、ふと前を向くとお袋も悲しげに俯いてしまっていた。

 じゃあ、本当にこれはあの時の親父やお袋の心情を語っているのか?


「そして、お前に伐剣者の教えるという事を正しく伝えられなかったのは痛恨の極みだ。だからこそ、お前の生徒達の成長のための訓練と共に、もう一度教えるということを伝えるチャンスをくれないか」


 そこまで言い切ると、ジッと俺の目を見て逸らさない。

 ……特に意識したことはなかったが、ロッホスさんが言うような生徒を危険に晒さないという考え方は、あの時のトラウマから来ているのかな。

 それに、親父達に訓練を受け直したいと言ったのは俺だし、本来の伐剣者がどんな教え方をするのか学び直しておきたいという思いもある。


「二つ聞きたいんだけど、ます準危険領域を選んだ根拠は?」

「それは私が答えるわ。二人の話を聞いてみると、あなたがジギスムントでした訓練から下地が出来ていると思ったわ。その証明が暗き森での事と、ここまで走り戻ってきたことね。で、足りてないと思ったのが、精神面での訓練なんだけど、これは残念ながら実戦で徐々に鍛えていくしかない。それも、確実に魔獣がいるような場所でね」

「確実に魔獣がいる場所で、万が一が起こった場合は」

「もうあの時の俺達じゃないさ。油断も慢心もないし、無茶をせずに深部はもちろん中層にも立ち入らない範囲での活動にとどめる。その上で、そのSランク伐剣者二人にSSランクのお前。ここまで揃えていれば、万一の事にも対応して見せるさ」


 言い方は変だか、高位伐剣者三名の護衛を受けつつ訓練できることで、安全性は保証されているか。

 それに、自信を持って対応して見せるという親父の言葉。


 段階を上げつつ生徒達を鍛えるという考えは変わらない。

 しかし、今のままだとペーパーテストで図れない、その段階を何時上げるのかという指針がない状態なのだ。

 なら、伐剣者としての直感というものを学んでみて取り入れてみるか。ダメならその時はまた別の方法を模索すればいい。

 


 そう考えると、今回の依頼を受けるという意味で首を縦に振って答えた。


―次回投稿は9/11 18時頃を予定しています。

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