第二十三話 そんなに単純だったの?
考えていたより早くシュラフスに帰ってくることができたため、ギルドには昼前には着くことができた。
まあこれも、最初は待っているか分からないんでしょと気にもしていなかった義母が、何を思ったのか急に自分も付いてくると言い出し、凄い勢いで走ってくれたお陰てもあるのだが。
と言うか最後の方は、ヤバッと焦っていた俺の方が急かされるってどういうことだ。
しかも、何故だか機嫌も良いし…、本当に何を考えてるんだか。
「しかし楽しみね。他所の国とはいえ生徒達って事は伐剣者なんでしょ。ガルクブルンナー以外の伐剣者にはあまり会う機会もないし、せっかくだし色々と聞きたいわ。ああーもう。依頼で外に出てて、この前の宴に参加できなかったのが悔しいわ」
「いや、お袋。確かにディータは伐剣者だけれども、クラウディアって子は騎士だったんだよ。あっ、でもシュラフスで伐剣者登録はしてたから、一応伐剣者かな?」
「あらそうなの?まあ、騎士から伐剣者になる人もいるしその逆もまたいるのよ。だから、一緒よ一緒」
いやいや、仕事内容も一部重なるとはいえ、流石に騎士と伐剣者は別物でしょ。
ただ、特段問題にするほどでもないし、お袋がそう思っているならもうそれでいいやと、昼の閑散としたギルドを見渡すも二人の姿は見当たらない。
うーん。休みと言ったし、何かあればギルドに来てくれとしか伝えてないから、もしかしたら各自自由に休んでいるのかもしれない。
ただ、そう考えるにしても二人が来ていて入れ違いになった可能性もあるので、まずは受付での確認だな。
「何?居なかったの?」
「そうみたい。だけど、入れ違ったのかもしれないし、受付に伝言でもないか聞いてみるよ」
そう言って、受付に確認に行ったものの、どうやら今日はまだギルドには到着してなかったみたいだった。
来るかどうかは半々だったので、しょうがないという気持ちしかない。
ありがとと顔馴染みの受付嬢に言うと義母のところに戻って二人は来ていないみたいだと告げる。
「ありゃ、やっぱり来てなかったの。それじゃあ、しょうがないわね。久々に親子二人の昼食に行きますか」
「いや、別にお袋と一緒に行かなくても…」
「そうねぇ。どこが良いかしら…、久しぶりに宿り木亭にでも行きましょうか」
「いや、だから聞いてる?それに親父はどうすんだよ」
「あー、いいのいいの。元々今日は私が簡単な依頼を受けるつもりだったから、昼食も別々にって決めてたのよ。あの人もどこかで適当に食べてるでしょ」
そう言って腕を取ると半ば引きずられるようにギルドを出ていく。
いや、ちょっと。流石にこの年でそんな事をされると恥ずかしいんだけど。
ほら、受付や伐剣者からの生暖かい視線で見てるって。
そうした周りの目などどこ吹く風といった感じで、それより俺が手を離したら逃げると思っているのか、スタスタとギルドの入り口まで来ると、さっさと扉に手を掛け鈍い音を響かせながら開いていく。
ちょっと、待って。このまま、外に出て知り合いに見られたら、またからかいのネタにされてしまう。
そう思い、お袋に声をかけようと口を開こうとしたところで、横から知った声が聞こえた。
「あれ、先生じゃん。よかった。まだ、ギルドに居たんだ。って、ごめん。昼飯でも一緒にって思ったんだけど、お邪魔みたいだし、また別の機会に誘うよ。行こうか、クラウディア」
「むっ…。そうだな、今日の昼は私達だけにするか」
オゥ、ジーザス。よりによって、生徒達に見られるってどういうことですか。
しかも、知り合いに見られたくないと思っていたのに、ギルドから出て直ぐって、どんだけフラグ回収が早いんだよ。
「いやいや、待て二人とも。この人は俺の義母。お袋なんだって」
「うっそだぁ。そんな綺麗で若そうな人がお母さんって。先生、自分の年覚えてる」
「確かに、早婚が盛んだった昔ならいざ知らず、今の世でそのように若々しいご母堂がいるなど貴族でも考えにくいですよ」
「だぁー、本当に本当だって。お袋からもなにか言ってくれよ」
ダメだ。まったく信じてもらえない。
こうなったら、お袋の口から直接話をしてもらった方がいいやと、話を振るが返事がない。
おかしいなと、そちらのほうに視線を向けると何故だか物凄く嬉しそうな顔をしながらディータとクラウディアの方を見ていた。
「レーヴェ。この二人があなたの生徒なの?」
「えっ、ああ。ディータとクラウディアっていう…」
「まあまあまあ、ディータ君とクラウディアちゃんと言うのね。あのひねくれ馬鹿のロッホスが気に入ったというからどんな子達かと思ったけど、素直で見る目のある良い子達じゃないのよ」
そう言うと、俺の腕を離し二人に近寄って俺の母だと挨拶をしてくれる。
恐らくだが、俺と良い仲だと勘違いしていた二人は、まさか本当の本当に俺の母親だったと知るとビックリして固まってしまう。
まあ、外見だけで言えばまだ二十代でも十分に通じるし、知らない人間からすれば当然か。
「これで分かってくれたか?本当にこの人は俺のお袋なんだよ」
「えっ、でも…だって。えっ?」
「そうよ。この子の言い方で混乱してるかもしれないから、より正確にいうと義理の母。義母と言えば分かるかしら?」
「なるほど。ハーン教諭は養子だったのですか。それなら、納得出来るという…ものです?」
おい、クラウディア。なんで最後は疑問で終わるんだよ。
そこはちゃんと納得してまとめるところでしょ。
「それより、ディータ君とクラウディアちゃんはレーヴェをお昼に誘いに来たんでしょ?それならちょうどよかった。私達もあなた達をお昼に誘おうと思っていたのよ。せっかくだし、一緒に食べに行きましょう」
まだ、少し困惑を残している二人にそう言って微笑みかけると
、その微笑みにつられるように二人は深く頷く。
そうして、さっき話に出た宿り木亭まで行こうと二人は踵を返したのだが。
「痛たたたたたっ」
「くっ、くぅ~」
二人が苦悶の表情で顔を歪ませると、ビキッと背筋を伸ばした状態で止まる。
さっきまでは、普通な感じだったのに、一体どうしたんだ。
…まさか、暗き森で怪我でも負っていたのか?
「いや大丈夫。単なる筋肉痛。さっきはビックリして忘れてたけど、動いたら急に思い出したように痛んだんだよ」
「私もです。しかし、久しぶりでしたので、今朝はなかなか起きれませんでしたよ」
息を吐きながら不自然な状況の理由を言ってくるので、ほっと胸を撫で下ろす。
そういえば、今日の二人は珍しく武器や防具をつけていないラフな格好だな。
もしかしなくても、筋肉痛で動くのも辛いからそんな格好なのか。
しかし、筋肉痛か。
筋肉痛の痛みは傷ついた筋線の修復だと言われ、より強固で柔軟なものになると言われてるから今流通している薬なんかは使いづらいんだよな。
治癒の魔術も疲労軽減だし、筋肉痛には効果のほども怪しいから、より強い魔術を使うことになるのだが、それだとせっかくの修復機能が損なわれる。
ああ、湿布なんかがあれよかったんだが、あれどんな成分が入っているか知らないから、自分で作ることもできないんだよな。
今まで俺自身は濡れタオルで代用していたから不要だったけど、これからの事を考えると誰か知り合いに言って作ってもらった方がいいかな。
そんな事を考えていると、横からの視線が突き刺さる。
ん?と思いつつ、そちらの方を向くとお袋がじっとこちらの方を見ていた。
「えっと、なにかな?」
「いえ、今はいいわ。でも、こんな良い子達にどんな教え方をしたか後で聞かせてちょうだいね。さっ、ディータ君とクラウディアちゃん。ゆっくりでいいから行きましょうか」
そう言って、ディータとクラウディアを促しつつ宿り木亭へと歩いていく義母の姿を呆気にとられて見つめる。
えっ、まさか若くて綺麗って言われたから、ほぼほぼ初対面の二人にそんなに優しい…とか。
そんな、いくら我が母と言えどそんなに単純じゃないだろ。
いや、本当にそんな理由じゃないよね。
母の意外な一面について深く考えていると、「早く来なさい」という言葉にハッとなると、すでに距離ができている三人に追い付くため慌てて走っていった。
―次回投稿は9/4 18時頃を予定しています。




