第二話 国が変われば常識も変わるのは当たり前
ガルフベルンに到着したのが夕刻を過ぎてからということもあって、このままジギスムント帝立学院に行ったとしても、面接を受け付けてもらえるか微妙なところだった。
そこで、先に帝都の伐剣者ギルド本部に向かい、もう少し詳しい情報を得ることにする。
流石に他国から来て、なんの挨拶もしないというわけにはいかないし、学院での面接に受かった場合は在籍登録が必要になるため顔繋ぎをしておかなくてはいけない。
ただ、なにぶん土地勘がないためギルド本部の場所がわからない。
そうすると、誰か適当な人に道を聞く必要があるのだが、城門を入って誰かを探すよりここで聞いた方が手っ取り早い。
手っ取り早いのだけれども、先程のやり取りがあったため、少し不安なんだよなぁ。
そう思って及び腰になるが、駄目だった時はその時に考えればいいし、何より二つ名がない程度で職務放棄はしないだろうと期待して、若い衛兵にギルドの場所を聞くことにした。
すると、若い衛兵はやや声が固かったが、期待した以上に詳しく教えてくれたので、俺達は夕陽に彩られる帝都の石畳の上をギルド本部に向けて歩いて行く。
◇◆◇◆◇◆
ギルド本部はメインストリートを通り抜けた先にあり、仕事を終えたのか多くの伐剣者達によって賑わっていた。
木とレンガで造られた木骨造のギルド本部に入ると受付に行き、シュラフスの伐剣者とギルド事務長である事と相談があると事を告げてギルドマスターへの面会求める。
他国のギルドの事務長が直々に訪ねたことに慌てた受付嬢は、少々お待ち下さいと言って、上の階に繋がっているだろう階段を駆け上がっていった。
そうして、受付嬢がギルドマスターに取り次いでいる間に、俺達はギルドの受付があるロビーで依頼掲示板や情報掲示板を見て情報を仕入れておくことにする。
しかし、掲示板を見始める俺の後頭部に、伐剣者や受付担当の者達の視線が突き刺さって、どうにも落ち着かない。
「なあ、テオ。なんかすごい目付きで見られているようなんだが、どうなってんだ?」
突き刺さる視線にただ黙々と掲示板を見ることに耐えきれず、隣で同じく情報を仕入れているテオに声をかける。
「私達が他国のギルドの者だからだろう。しかも、事務長が直々に来ているため、何かあったのかと勘繰っているのだろうな」
ああ、確かに他国の事務長がくることは、よっぽどの事があったのかと思っちまうわな。
そう納得すると、突き刺さる視線を我慢しながら再び掲示板に目を向けていると、先程の受付嬢が戻ってきてギルドマスターと面会できることになった。
◇◆◇◆◇◆
案内された部屋に入ると、目付きの鋭い老人と女性が待っており、揃ってこちらの方を向いたため、思わず体がビクッとなった。
さっきのロビーの受付嬢や伐剣者達といい、ここのギルドは目付きの鋭い奴しかいないのかよ!!
「ガルクブルンナーの方よ。よう来てくださった。さっ、こちらにお掛けくだされ」
老人の方がテーブルを挟んで向かいのソファーを手で示してくれたので、そこに一礼してから腰を下ろす。
俺達が座ると、向かいに老人が座り女性の方が入れたお茶が置かれる。
「まずは、ご挨拶させていただく。儂は、ギルドマスターをしているアロウズ・アベーユという。こっちは事務総長のクララ・イェッセルじゃ。以後、見知りおき願おう。さて、本日はどのようなご用向きで、わざわざここガルフベルンまで来なさったのか?」
アロウズさんの妙に丁寧な口調とその眼光に、俺は内心ビクビクしていたが、隣に座ったテオは淡々と来訪の目的を告げていく。
テオの話が進むにつれ、二人の目付きは穏やかになっていき、最後の方は笑いを堪えるにまでなった。
結果から述べると、テオの求めはガルフベルンのギルドマスターに承認されることになる。
学院に伐剣者がなかなか応募しない状況に、ギルドとしても依頼という形で対処するかと話が出てた中での俺達の来訪である。
そのため、他国の人間とはいえSSランクの者が帝立学院の専属で働いてくれるというのは、ギルドとしても渡りに舟とのことだったそうだ。
そう聞いてほっとしたのも束の間、今度は別の問題にぶち当たる。
そう、ここでも俺の二つ名問題が発生してしまった。
ここ、ジギスムントは伐剣者発祥の地であり、伐剣者達は今のランクより少しでも高みに―具体的には、始まりの伐剣者<竜人>クラウディオ・カレンベルクに追い付き追い越そうと日夜研鑽を積んでいる。
国民も、そんな伐剣者達を知っていることから、早く二つ名を名乗れるようにクラウディオに近付けるようにと影に日向に支援していた。
そのため、Aランク以上が名乗れる二つ名には国民も伐剣者も特別な思い入れがあるのだとか。
ああ、だからあの若い衛兵はテオの言葉に反論しかけたのか。ということは、あの反応がこの国での普通なのかな。
つまり、この国では二つ名を名乗らないSSランクの俺は異端中の異端で、"あえて名乗らない"というようなよっぽどの理由が必要になるようだ
これは学院での面接でも聞かれるだろうから、まだ二つ名を名乗らない場合はきちんと理由を説明するようにと、アロウズさんから言われてしまった。
また、面接に受かった場合は、そんな理由から受付ではなくクララさんを通して在籍登録することで、ギルド内に二つ名のないSS伐剣者と噂が広まらないように手を打つらしい。
ガルフベルンの伐剣者達と無用な軋轢を生まないための措置らしいが、そっちの方が俺が特別待遇を受けていると誤解されて問題になるんじゃないのか?
そう疑問に思っていると、アロウズさんから声がかかる。
「お主の実力がハッキリせんからな。実力が解り納得できる理由があるなら、うちの伐剣者達も突っかかることはないじゃろうて、それまでの臨時の対応じゃ」
それじゃあと、あの若い門衛とのやり取りを伝えると、ギルドの方から、「しばらくの間は他言無用である」と伝えてくれる事になった。
「しかし、儂もギルドマスターになって久しいが、まさか二つ名を名乗らない者がいるとは思わなかったわい。まあ、学院で教師をするなら、ここのギルドはそうそう使わないじゃろうから、その間になんとかせい」
そう言って、こっちを見たアロウズさんとクララさんの目は正に珍獣を発見した時のようだった。
「ええ、私もかねがね彼に二つ名を名乗るように言っているのですが、一向に聞き入れてもらえなくて困っているのですよ」
てめぇ、この野郎。今まで一回もそんな話してないだろうが!!
いや、五日前にしたか…とにかく、その時が最初で最後だろうが!!
「ほぉ、テオ君と言ったか。若いのに君も苦労しているんだな。まったく、伐剣者達は自分なりの信念を持って、それに従うのだから厄介極まりない。まあ、そこが、彼らの強みであり頼れるところなのだがな」
いや、アロウズさん信じないで!!クララさんも頷かないで!!
というか、そんなに持ち上げないで!!
もう、『やっぱり二つ名を名乗ります』と言える雰囲気じゃなくなってしまった。
その後も、テオとアロウズさんは伐剣者の誇りや仕事に対する誠実さを称える。
おそらく、俺を半分からかっているのだろうが、それを横で聞かされる方はたまったものじゃない。
平静を装ってはいるが内心では身悶えするほど恥ずかしかったよ。ちくしょうめ!!
「では、そろそろ終わるかのぅ。学院にはこっちで連絡しておくから、今日のところはギルドの宿泊施設に泊まりなさい。誰か適当な者に案内させるから、ゆっくり休んで面接のため英気を養ってくれ。クララ、あとは頼んだぞ」
そう声をかけられた俺達はアロウズさんに一礼してクララさんと部屋を出ると、手配されたギルドの事務員の案内で宿泊施設に向う。
しかし、二つ名を名乗らないことがそこまでの問題だったとは思わなかったな。
しかも、名乗らない理由を考えろって、面接直前に言ってくるなよ!!
あー、学院での面接どうしたものかな。
◇◆◇◆◇◆
【ギルド】
・ギルド本部
各国の首都に置かれる(帝都ガルフベルン、カルクブルンナーの王都等々)
・ギルド支部
国内の主要な都市に置かれる(シュラフスの街等々)
・ギルド出張所
本部、支部のない場所に置かれる
【ギルド人事】
・ギルドマスター[ギルド本部所属]
ギルドの意思決定者にして政治的代表者
・事務総長 [ギルド本部所属]
ギルドマスターの下につき事務を統括する事務方のトップ
・事務長[ギルド本部所属又はギルド支部所属]
ギルド本部においては、事務総長を補佐し事務を采配する
ギルド支部においては支部のトップとして事務の統括、出張所の采配等その地方の事務を一手に引き受ける
・事務主任[各ギルド所属]
ギルド本部・支部においては、事務長を補佐し事務員を纏める
ギルド出張所においては出張所のトップとして出張所の事務を取りまとめる
・事務員[各ギルド所属]
事務主任の下につき、受付等の通常業務を担当する
◇◆◇◆◇◆
※テオの作った書類の効力について
テオは事務長なため、作成された書類はその地方でしか効力を有しません。
ただし、意思決定者たるギルドマスターの承認があれば、作成した書類はその国全体で効力を有することになります。
そのため、王都に確認し承認手続きを取ったのですが、その手段は、もう少し物語が進行してから登場します。
◇◆◇◆◇◆
2017.6.24 加筆修正しました。