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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第二章 教師生活一年目 ―夏期長期休暇
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第十七話 芯・おんぶ・報告準備


 シュラフスの街、その城壁の上から街の外を見張っていた二人の衛兵は街道をこちらに向かってくる影に気付き、目を凝らしてその方向に視線を向ける。

 しばらくすると、ボヤけていた影は人のようであると確認でき、魔獣ではなかったとホッと胸を撫で下ろす。


 しかし、徐々に近づく人影が自分のよく見知った高位伐剣者であると分かると、一人はこの場に残りもう一人は仮眠をとっている同僚を起こしに走る。

 俺とロッホスさんが、言い換えるならSSランクとSランクの伐剣者が全力で駆けてくる。

 そんな普通ではない事態に城門内は慌ただしくなっていった。



「それで、こんな夜更けに二人が揃って駆け戻ってきたってことは何かあったんだな。何があった?」

「暗き森に魔種と王種の魔獣が出た」

「なっ!?」

「ああ、安心してくれ。どちらも既に討伐済みだ」


 城門に集まっていた衛兵達に、ロッホスさんが簡潔に答える。

 危険領域ではなく、シュラフスから近い位置に恐ろしい魔獣が出たという話に衛兵達は顔色をなくすが、続くすでに討伐済みという言葉に胸を撫で下ろしていた。


「ただ遺骸は残しているので、ギルドに言って素材を回収しに行きたい。通してくれるか?」

「それはもちろんだが…レオンハルト。さっきから街道の方を見ているが何かあるのか?」


 心ここにあらずといった感じで、ロッホスさんと知り合いの衛兵達との会話を聞き流しながら街道の方を見ていた俺に気づいたのか声を掛けられるが、気の抜けた返事しかできなかった。


 まだその姿は完全には見えないが人影は見えている。

 この調子で行けば、あと少しで到着するな。

 

「すみませんが、水を用意しておいて貰えませんか」

「ああ、それは構わないが…ん?」


 俺が街道の方から視線を離さないので、不思議に思った周りもそちらの方に視線を向けると人影が見えた。

 その影は、足取りも重くなって体がぶれているように見えるが、こちらの方に確実に向かってきていた。


「まだ仲間がいたのか?」

「あれは、レーヴェの生徒達さ。まだ駆け出しだが、俺達の全力疾走について暗き森から走ってきてんだよ」

「はっ?」


 ロッホスさんの言葉にしばし唖然となった。

 そりゃ、駆け出しがトップクラスの移動術を持つ<灰走り>と俺の全力疾走に付き合って走ってくるなんて聞いたら、俺でも驚くだろう。

 そうして呆けていたが、ハッと正気に戻ると俺の言葉を思い出し、水を用意してくれるために慌てて宿直室へと行ってくれた。


「しかし、アイツらも言うだけあって頑張るな」

「ええ、本当に。でも、まだ俺達の全力疾走に付いてくるには、まだ無茶だったんじゃ」

「優しいと甘いは違うし、厳しいと無茶をさせるもまた違うぞ。ディータとクラウディアはお前の走行訓練をやりきったんだろ?なら、その事実をもう少し信頼してやったらどうだ」


 そう言われるが、例え信頼していたとしても心配する気持ちはどうしても湧いてくる。

 ただ、俺は戦闘技術、それも伐剣者(・・・)に必要な技術を教えるための教師である。

 その事を強く意識して、二度と腑抜けと言われないためにも、俺自身が中途半端な現状を越えて伐剣者としての芯をしっかりと入れておかなければならない。

 そうでなければ、生徒達に伐剣者として必要な事を教えることはできないだろう。


 そう決心しつつも街道の方を見ていると、二人の影はどんどんと近づき、もう少しだなと思ってから間もなくシュラフスの城門へと辿り着いた。

 直ぐさま息も絶え絶えな二人に治癒の魔術をかけ、衛兵からもらった水を渡すと二人は一気に飲み干したのを見計らって声を掛ける。


「お疲れ様。これからギルドに向かうが歩けるか?」

「な…んとか、歩…ける…と思う」

「わた…し…も、まだ…いけ…ます」


 俺の問いに言葉少なく返事をする様子を見ると、少し無理そうな感じがする。

 どうする。衛兵に頼んで馬を借りるか?


「こりゃ、歩かせるのはやめた方がいいな。レーヴェ、お前はそっちの嬢ちゃんを、俺はこっちの坊主でいくか」

「えっと、いくかって?」

「あん?そんなもん決まってんだろ?背負って行くんだよ、背負って」


 ロッホスさんはそう言うと、自分とディータの武器をひょいひょいと外して半ば無理矢理に背負う。

 背嚢は必要なものを抜き出して暗き森に置いてきているので、武器以外に荷物になるものはない。そのため、ロッホスさんの行動は物凄くスムーズで、ディータが気付いた時にはあっさりとその背に収まった。

 ただ、ディータ自身がロッホスさんに背負われるという事が嫌なのか、多少抵抗するも体力がない状態なため軽くいなされている。


「おら、さっさと行くぞ。レーヴェも早く背負えって」


 面倒くさそうにディータをいなしながら、俺にせっついてくるのだが。

 あー、そう簡単に言われましても、女の子を背負うのって結構心の準備が必要なんですよ?

 伐剣者の依頼中なら楽だったのだが、それ以外だとどうしても変に遠慮してしまう。

 いや、今も広い意味では依頼中と言えば依頼中か。


 そう自分に言い聞かせ、背にディータを背負いながらせっついてくるロッホスさんと、こっちを見ているクラウディアとの板挟み状態の中、なんとか声を絞り出す。

 

「えっと。それじゃあ、クラウディアの武器…は大丈夫だから、おぶさってくれるかな?」


 出来るだけ平静な声で話しかけるが返事がない。

 遠慮しているのか、俺に背負われるのに抵抗があるのかどっちなんだろうか。

 …どうしよう。こういう時、同性にやるみたいにバッといってガッと背負うのも憚られるんだよな。

 

「だから、早くしろっての。なんならお前が以前言っていた、えーと……そう。お姫様抱っこでも何でもいいだろ」

「本当にお願いですから少し黙ってて貰えませんかね、ロッホスさん」

「お姫様………抱っこ」


 ほら、クラウディアも抱っこの部分に反応してしまって、固まっちゃったじゃないですか。

 しょうがないとため息をついて、クラウディアの前に行ってしゃがむことでおぶさり易くする。

 そうして、しばらくの間しゃがんだままの姿勢で待機していると、ようやく失礼しますと言いながらおぶさって来た。

 

 よしこれでギルドに向かえるな。

 そう思いながら立ち上がり城門を越えていくのだが、……なんでニヤニヤ笑いながらこっちの方を見てんですかね、ロッホスさん。


◇◆◇◆◇◆


 人気の全くない夜道を小走りになりながらギルドに到着すると受付においてある夜間用のベルを鳴らす。

 普通の店なんかは深夜帯になると軒並み閉じるのだが、ギルドはその職業ゆえか夜間でも人を置くシフトを取っていた。

 まあ、それでも仮眠や夜食をとったりするために奥に引っ込んでいるため、必要がある者はベルを鳴らして呼ぶ必要がある。


「あれ、レオンハルトさんとロッホスさんじゃないですか。こんばんは。……いったい何があったんです」


 ベルの音によって奥から出てきた受付嬢は、俺達の顔を見てのほほんと挨拶してくるのだが、その視線がうしろ。

 背負われるディータとクラウディアに向いた瞬間に表情を引き締めて聞いてくる。


「ああ、コイツらは別件だ。それでな。暗き森に魔種と王種の魔獣が出たんで、その報告と討伐したので素材の回収を依頼したい」


 簡潔な報告を受けると、直ぐ様お待ちくださいと残して奥に駆け戻って行く。

 しばらくすると奥が慌ただしくなり、それとほぼ同時に何人かの事務職の人が出てきた。


「レオンハルトさん、ロッホスさん。今事務長を呼びにいっていますのでしばらくお待ち下さい」

「あっ、ちょっと待って。考えをまとめたいんで、出来れば紙とペンを貰えるかな」


 俺の頼みに受付嬢はカウンターに置かれているペンと紙を渡してくれると、他の受付嬢や事務職の人の方に行って流れの確認をしに戻って行く。

 ふぅ、とりあえずテオの奴が来るまで、休みつつどう報告するか考えるか。


 そう思ってロッホスさんに声を掛け、備えられているテーブルの方に向かうと、クラウディアを下ろし席に着けてから俺も腰を掛ける。

 ロッホスさんも同じようにディータを席に着けてから俺の向かいに腰掛ける。


「とりあえず、一段落つきましたね」

「ああ、本当にな」


 ギルドの受付でぐったりとしているディータとクラウディアを見ると帰って来たという実感がようやくに湧いてきた。

 行くときには、こんなに大変な目に遇うとは思ってもいなかったので、特に二人には大変だっただろうな。

 ただ、この後にはテオに報告することが待っているため、労うのは後回しにして、さっさと報告の流れだけでも考えておかなければならない。



 そう思うと受付の方の騒がしさをBGM代わりに、暗き森に着いてからの事を思い出していくのだった。


―次回投稿は8/13 18時頃を予定しています。

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