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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第二章 教師生活一年目 ―夏期長期休暇
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第十四話 暗き森4 ―イレギュラー過ぎない?


 俺を先頭にして一行は、普段よりも更に音を出さずに進んで行く。

 特に、何気ないことでも普段と明らかに違えば、より大きな注意を払う必要があると考えているのだが、これは伐剣者から見れば臆病者というマイナスのイメージに繋げられる事もある。


 俺がまだ駆け出しのぺーぺーだった頃には、それで臆病者と馬鹿にされたこともあったが、時と場合によっては臆病と言われるほど慎重であれというのが俺の持論でもある。

 そのため、今も魔力感知に意識を割きつつ、一歩一歩慎重に進んでいっているのだが…。

 

「先生さ。もう少し早く進まない?これじゃあ、依頼品の鐘茸(グロッカス)を見つけるのに時間が掛かっちゃうよ?」


 今回依頼にあった鐘茸は、カサはかなり小さく直径は一センチ程度しかなくカサの形は饅頭型または鐘型で、表面の色は淡い橙がかった黄色で中心部分の方がやや色が濃いのが特徴的な茸である。

 薬の材料になるので依頼としてはよくあるのだが、その見た目から見付けづらいことで有名な茸で、探すのに根気と忍耐力が必要とされている程だった。


 そのため、ディータやクラウディアとしては少しでも早く進んで、多くの場所を見回りたい気持ちがあるのだろう。

 それなのに、先頭をいく俺が牛のような歩みであるのに、ストレスを感じつつあるようだった。

 

「気持ちは分からなくもないけど、俺が判断できるだけの材料が揃うまでもう少し我慢してくれ」

「もう少し待てというのなら待ちますが、なぜそこまで慎重に進んでいるのか理由だけでも教えてもらえませんか?魔獣の話がありましたが、ここに出る魔獣はそれほどまでに強力なのですか?」

「…そうだな。魔獣が強力かと聞かれたら、俺はどんな魔獣も強力だし怖いと思っていると答えるしかないな」


 俺の答えがよほど意外だったのか、二人は顔を見合わせると何を言っているんだという表情を見せる。

 いやいや、魔獣は一番弱いとされる覇種でも普通の動物よりはるかに大きく、俺達人間が使うような魔術みたいなものも使えるやつもいるんだぞ。

 そんなもんを相手にするなんて普通に怖いわ。


「でもさ。先生は、SSランクの伐剣者として危険領域にも行ってんでしょ?それなのに、こう言っちゃなんだけど、こんな普通な場所でそんなに神経質になるもんなの?」


 普通な場所…ね。

 確かに君達、いやこの世界の人間にとっては普通な場所かもしれないが、俺の認識ではここも危険な場所に当てはまるな。

 その危険の度合いにも強弱があるだろうから、正確には少し危険な場所と言った方がいいのかな。

 ちなみに危険領域は、伐剣者になってなかったら絶対に近づきたくないほど危険な場所だろう。


 ただ、この説明は前世の記憶を持つ俺と同じような感覚の持ち主でないと分ってもらえないだろう。

 いかんいかん。こんな事を考えてもディータの質問に対する回答にはならないし、なんの学びにもならないな。

 そう思い、軽く首を振って愚痴めいた思考を放り投げると、少しでもタメになる理由を絞り出す。


「……俺は、街から一歩でも外に出ると、常に多くの危険があるつもりで行動している。なぜなら、俺達は魔術を駆使してやっと獣や魔獣と対等にやりあえるのに、魔術の効果を抑えて使っている今の状態で急襲されれば、怪我を負うか最悪死んでしまう。そんなのは、怖いし嫌だから慎重に進んでいっているんだけど…、これで答えになったか?」

「うーん。分かるような気がする…けど、先生ならそこら辺の対応も出来るだろうし、俺達もそこそこやるよ?」

「まあ対応しろと言われればするが、それは本当に最後の最後になるように色々と考えながら動くことも大事なんじゃないかな?」


 伐剣者の依頼にイレギュラーな事態が生じることは、実は結構あったりする。

 この場合には、口では対応できると言いつつも、いざ直面すれば多くの者は動揺し行動の幅が制限されることになる。

 この場合の対処法は、一つには似たような事態を経験して対策を知っていればいいのだが、ディータやクラウディアではここら辺の経験が足りていないというのが俺の判断だ。


 ならばどうするか。

 俺なりの意見を言うとするならば、イレギュラーな事態をレギュラーな事態に変えればいい。

 今回で言えば、獣や魔獣に急襲されるかもというイレギュラーを、獣や魔獣との戦闘というレギュラーなものとすれば、ある程度経験のあることなので、二人でも対応できるだろう。

 

 そのため、今現在は前提となる獣や魔獣がいるのかいないのかを、魔力感知や周辺の状況を観察しながら進んでいるという訳だ。

 まあ、いなかった場合はただの時間のロスなのだが、俺や生徒達の安全に比べたら微々たる差なので、本当にもう少し待って欲しい。

 そう思いながら、俺の言葉を理解しようと考えている二人に声をかけてゆっくりと進んでいく。



 ―――――――しばらく歩き、もう少しで森の中層付近に差し掛かるという所までくると、前方に幾本もの木が折れ重なっているまま放置されているのが目に入った。


 なんで木が折れているんだ?

 あまりにも不自然だが、魔力感知には何も引っ掛からない上に、周囲を見渡しても獣の姿すら見えない。

 自然に倒れたのか、それとも原因となるとものはこの場を去って森の奥に戻っていったのか。

 

 立ち止まり考え込んでいると、横からあっという声が上がると共にディータが、その不自然な場所の方を指差す。


「先生さ。あそこに見えるのって鐘茸じゃない?」

「むっ、どこだ?……ああ、確かにあるな。あれだけあれば依頼にあった量に達するな。ハーン教諭、さっそく採取に行きましょう」

「二人とも少し落ち着け。確かに目的のものはあるが、あの場所はあまりにも不自然だ。一応だが、何かあったときのために、ディータは槍をクラウディアは盾を準備して、お互いが連携できるような位置取りをしながら進むんだ」


 そう言うと、背嚢の位置を整えると刀を引き抜き、辺りを窺いながら一歩一歩確実に進んでいく。

 二人は、最初こそかなりの警戒を見せる俺の姿に驚いていたようだが、真剣な顔になると槍と盾を構えて、慎重に俺に続いてくる。


 採取は片手の空いているクラウディアが行うように指示し、その間は俺とディータが周囲を窺いながら警戒をするが、採取の間は何も起こらない。

 杞憂だったかとも思ったが警戒は続け、クラウディアが最後の鐘茸を採取している間、辺りを窺ったあとに何気なく折れた幹の方に目を向けると背筋が寒くなる。


「ディータ、クラウディア!!森を全力で抜けて、外に出るぞ!!」


 採取を終えギルドの袋に鐘茸を入れていたクラウディアと周囲を窺っていたディータは、突然大声を出した俺の方を驚いた表情で見るが、説明している暇はない。


 何だってあんな奴等がこんな場所に居るんだ。

 くそっ、イレギュラーが過ぎるだろ!!生徒達にあれだけ言っていたのに、結局俺自身が過去の記録の枠内で行動しているなんて情けない!!

 

 焦る俺から何らかのイレギュラーな事態、それもとびきりのものが起こったと分かったのか、二人は俺と共にすぐに来た方向へと駆け出す…が、突然俺の魔力感知に魔獣の気配が引っかかる。

 

「二人とも止まれ!!」


 俺の叫びを聞くと、二人は足に力を入れて踏ん張りなんとか急停止すると同時に、前方から轟音が響くとともに噴煙が上がった。

土煙から腕で目を庇いながら微かに揺れる大地を踏みしめ、視界が晴れるのを待ってから音のした方に目を向けると、そこには十数体の白い毛並みを靡かせる巨体が立ち並ぶ。


 白猿魔ナバラ。

 猿魔の中でも、高位に位置するほどの膂力を誇り、一度闘争本能に火がつくと自分か相手が息絶えるまで戦いをやめない獰猛さを併せ持つ。

 ただ、本来は群れで行動することは無いはずなんだがな…。


 人が急いでるときに限ってややこしい奴等が厄介な形で絡んでくると悪態をつきたくなるが、それよりも今は二人をどうするか。

 何故かコイツらには、俺の魔力感知に引っ掛かることなく易々と接近してきた。そうなると、今回は魔力感知に引っ掛からないだけで他にもいるかも知れないと考えざるを得ない。

 そんな中で二人を先に帰すか、それとも俺がコイツらを仕留め終わるまで待機させ一緒に行動するかの判断を経験と勘から決めなければならない。


 …今回は引っ掛かることが多すぎるし目を離すのは論外、とすれば俺の目の届くところに居てくれた方がいい…か。

 そう判断すると、幾つかの触媒を取り出したあと、外套を脱ぎ背嚢を下ろしながら二人に告げる。


「二人とも下手に動くなよ。アイツらの相手は俺がする」

「でも、かなりの数だよ。先生一人でどうにかなるの?」

「ディータの言うとおりです。私達でも一体くらいなら、もしかしたら相手に出来るかもしれません」


 そう言ってくるが、二人の声は微かに震えており、明らかに虚勢だというのが分かる。

 前期で徹底的に鍛えたとはいえ、それでもまだコンビで魔種の魔獣を相手にするには力不足は否めないだろう。


「そう言ってくれるのは有り難い。だけどな、二人が居たのなら逆に足手まといになる」

「しかし…」

「クラウディア、悪いが議論する気はない。しばらくは、ここで周辺を警戒しながら待機。これは決定事項だ」


 いくら俺でも、あの数を相手にディータとクラウディアを無傷で守りつつ狩っていくのは、ほぼほぼ不可能に近い。

 その点、俺一人なら問題はない。後は時間との勝負なので、最初から出し惜しみなしの全力で一気に決める!!


 身体能力強化(アクセル)を全開で掛けると、能力向上(フュージョンアップ)硬化(シュレアー)の魔術を更に加え、一気にナバラとの距離を詰める。

 俺が目の前に来たことに気付いたナバラは、殴ろうと動作に入るが、そこは既に俺の刀域内。


 遅い!!

 刀を横一線に振るい首を切り裂くと、勢いを殺さずそのまま更に二頭・三頭と切り伏せていくと、派手な動きに残りのナバラも俺に注意が向けられる。

 

 …ふう、狙い通りに俺に注意が向いたな。

 出来れば固まってくれれば、魔術で一気にカタをつけるのにバラバラに広がりやがって。

 しかも、後方の二人を窺うなんてやらしい真似をして、俺の行動をコントロールしようという妙な知恵までついてるし、本当に厄介極まりない。


 ただ、このまま膠着状態になるのはいただけない。

 それなら、今後警戒されるかもしれないが魔術を使って隙を作り数も減らすかと決めると、先程背嚢から取り出した触媒と地面に魔力を通し魔術の発動と同時に駆け出す。

 

 岩山の霊槍(ディジュレージョン)

 突然、地面から現れた魔力を纏った円錐形の突起に二頭のナバラが貫かれると、動揺したのか数頭に隙ができるのを見逃さず刀を振るい屠っていく。

 

 よし!!上手く動揺したようだし、動きの鈍くなった今が勝負!!

 このまま一気に決めるつもりで、残りのナバラに向かおうとした瞬間―――。



 ガァァァァァァァァァァァァァ!!

 身が震える程の咆哮とともに、赤褐色に光る巨大な木が飛んでくる。


 突然の事に慌てて木から身を交わして避けると、飛び退いて距離をとる。

 ちっ、後少しってとこで出てくんなよ!!しかも、やっぱりお前らも魔力感知に引っ掛からないってどう言うことだよ!!


 内心罵倒の嵐の中、視線を上げ、ナバラを越える巨大な二頭の巨猿を見る。

 

 双猿王ルーガルとヴィルガル。

 本来、危険領域にしかいないはずの王種の魔獣。

 鐘茸を採取した時の木の幹に、微かに魔力が残っていたのでまさかとは思っていたが、…くそっ時間切れか。


 残っているナバラは後七頭、それに双猿王ってことはいよいよもってまずいな。

 チラリと二人の方を見ると身を震わせて地に足が着いていない感じだし、逃げろと言ってもその通り動けるという希望は捨てた方が良さそうだな。


 そう判断し覚悟を決めるかと思った瞬間、横から暢気な、少なくとも俺にはイラつくほど暢気な声が聞こえた。



「あー、レーヴェ君。頼りになる先輩の手助けは必要かな?」


―次回投稿は8/4 18時頃を予定しています。

2017.8.6 書き忘れていた後書きの魔術情報を追加しました。


◇◆◇◆◇◆

【魔術情報10】

・岩山の霊槍の魔術[ディジュレージョン]

 触媒と地面、両方に魔力を通すことで発動する対集団を想定した魔術。

 魔力を地面に流すしたのちに、地面内部にこもった魔力を岩石状の物に変え一気に突き上げるというもの。そのため、厳密には岩そのものではない。

 通常は一定の範囲に広げるのだが、一点に集めて使うことも可能。

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