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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第二章 教師生活一年目 ―夏期長期休暇
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第十二話 暗き森2 ―旅の薬師


 辺りが夕焼けに包まれるとほぼ同時に、俺達は暗き森に到着した。

 思ったよりも早く到着できたなと思いながら、二人に声を掛けるが、どうやら疲労困憊のようでグッタリとしている。

 うーん、所々休憩も挟んでいるから、肉体的な疲労はほとんど無いはずだろうから、この疲れは精神的なものなんだろうな。


 精神的な疲れは早めに回復しとかないと尾を引くから、今日は拠点となる場所まで行ったら訓練を終えて、明日からまた頑張った方がいいかな。

 そう判断すると、二人を励ましながら夜営するのに適した場所まで行くことにする。


「二人とも、もうちょっと頑張れ。こっちの方に休むのに丁度いい場所があるから、そこに着いたら今日のところは飯を食って休もう」


 暗き森。

 木々が鬱蒼と茂っていることから陽の光がほとんど入らず、日中であっても薄暗いのだが、森に入ってすぐの場所には若木のためか陽が当たる場所がある。

 そして、その場所は開けてかつ水場があるため、森を探索する拠点とするには適していた。

 まあ、先達の伐剣者なりが木々を切り開いて拠点としていた可能性もあるが、なんとも都合のいい場所である。


 とにかく、そこまで行くことにして、一歩森へと入ったのだが、多少の違和感を感じた。

 …なんだろう?前に来たときと何かが違うような気がする。

 上手く言葉に出来ないが、森から受ける雰囲気とでも言うのか、それが決定的に違っていた。


「二人とも、歩きながらでいいのでよく聞いてくれ。今やってる魔力を一定に維持する事は止めて、自分が一番楽な状態になってくれていい。それと、少なくともこの森の中では魔力を一定に維持する事はやらなくていいぞ」


 経験から来る勘。

 そこには何の論理性も無いものだが、この勘に救われた事もあるため、石橋を叩いて渡るつもりで慎重に行動することにした。


 何もなければそれでいいのだが、万が一にも何かあればここに来るまでで既に一つ気になったことがあるため、同時に二つの問題に直面してしまうことになる。

 俺一人であれば、切り抜けられることも出来るかもしれないが、疲れきった生徒達を連れては無理かもしれない。

 それなら、今直接感じている違和感に対する処置をとった方が合理的だろう。


「ハーン教諭。本当に維持する事を止めていいのですね」

「それにこの森の中では止めていいって、後でなにも言わない?」


 そう思って二人に言ったのだが、何故だか俺の言葉を疑うような反応が返ってきた。

 …ああ、二人とも。まさか、そんなに疲れてるとは思わなかった。

 その発言も、疲労から正常な判断が働かないで、疑ってしまってるだけだよな?

 

「もちろんだ。ただ、森の中は今通ってきた街道よりも視界が悪く、獣もいるだろうから周囲には注意するようにしてくれよ」


 二人の発言に少しだけ傷ついたが、それよりも森の中での安全確保の方が重要であるため、そう注意を促しながら拠点に適した場所へと歩いていく。


 一応、前からの対応にすぐ反応できる事と、リーチの長さ急襲に対応できる事を考慮して、俺を先頭に槍を持つディータと盾持ちのクラウディアという順番にする。

 そうして、辺りに注意しながら歩いていると、目的地が見えてくるが、そこから微かに魔力の気配を感じる…ような気がする。


 人がいるのか?

 神経を尖らせて探ってみると、ひどく漠然としたものだが人がいるように感じる。

 一応、一人のようだから何かある訳ではないが、念のために注意しながら進むと、開けた場所に到着した。

 

 森の入り口付近にポカリと空いた空洞のように広々とした空間と、近くに水場としてある池が夕日に照らされて仄かに赤く彩られている様は、通ってきた暗き森の雰囲気とはまた違った別空間のように美しかった。


「へぇ、綺麗な場所だね!!さっきまで通っていた暗い雰囲気とは全然違うじゃん」

「そうだな。自然に出来たのか人工的に作られたのか分からないけど、結構いい場所だろ。少しの間だけど、ここを拠点に暗き森の探索に乗り出すぞ」


 そう二人に言いつつ、俺は微かに感じる魔力の出所を探る。

 ざっと見、視界内には人の姿はなし。

 さっきは前方から感じたから、もしかしたら別ルートでここに向かっている駆け出しの伐剣者でもいるのか?


 そう思いながら、森に入ったからここに来るまでと同様に、刀の鍔に指を当て周囲に注意を払いながら拠点に入っていく。

 すると、後ろからガサリとした音が聞こえた。


 すぐさま反転し、何時でも行動に移せる臨戦体勢をとって音のした方を見ると、そこには俺達と同じような背嚢を背負い、やや薄汚れた外套を纏っている一人の男と目があった。


「ひょええ、お、おお、お助け。わ、わ、私は旅の薬師です。見た通り、お金は持ってませんから、薬。薬でどうか命ばかりはお助け下さい」


 そう言うやいなや慌てて腰の辺りを探ると、顔を下げて薬を両手で捧げるような姿勢を取った。

 こうして、伐剣者が得物をちらつかせながら、怯えた一般人から物を巻き上げる構図が出来上がってしまったのだった。

 …はっ、いかん。阿呆なことを考えていないで、早くこの人の誤解を解かねば。


「すみません。森の方から音がしたので、獣が来たのかと勘違いしてしまいました。私は、依頼でこの森に来ている伐剣者でレオンハルトといいます。ですので、どうかその薬はしまって下さい」


 俺がそう言うと、男は顔を上げてこちらの様子を伺うが、すでに臨戦体勢を解いている俺と連れがまだ子供だということに気づくと、胸に手を当ててホッと一息ついた。


「いやー、野盗かと思いましたが違って良かったです。私はアルノルド・ファウストといって見ての通り旅の薬師をしています。あっ、見ては分かりませんよね。アハハハ」


 勘違いを笑って誤魔化すためか、元からなのかは分からないが、妙にテンション高く笑うとこちらの方にやってくる。

 後から誰か来る様子も気配もないし、この人一人で森に入っていたのか?

 

「失礼ですが、お一人で暗き森に入っていたのですか?」

「えっ?…ええ。そのお恥ずかしい話ですが、薬師と言っても頭に貧乏と付いてしまうもので、なかなかに人を雇うと言うことが出来ないのですよ。それよりも、お連れさんは大丈夫ですか?見たところ、何やら顔色が悪いようですが」


 そう言われたので、振り返りつつ二人の顔色を見てみると、慣れない訓練で疲れているのか、確かに顔色が少し悪いな。

 いや、クラウディアの方の顔色が夕日に照らされているのにハッキリと分かるほど悪くなっているようだが、もしかして体調に何か異変でもあったのか?

 そう心配になり声を掛けようとすると、ディータからクラウディアに視線を移したファウストさんが驚いた表情になり、クラウディアに問いかける。


「おや?そちらの御嬢さんは…失礼しました。貴女はクラウディア様じゃありませんか?グラフベルンのラヴクラフト伯爵令嬢、クラウディア・ベルタ=ラヴクラフト様じゃないですか」


 この二人、知り合いか?

 でも、ファウストさんが森から出てきてから今までクラウディアから何も言われていないし…何かあるのか?

 念のためだが、何かあれば即座に対応できるように、触媒に通す魔力を一定に保ちつつ様子を伺う。


「ファウスト殿でしたね。あの時はお世話になりました」

「いえいえ。薬師として当然の事をしたまでですよ。それに、私だけでなく、あの場にいた医師の方々の尽力があってこそです」


 あの時?医師?

 知らない情報が出てきて話についていけていない俺を尻目に、二人の会話は続いていた。


「しかし、驚きました。まさか、グラフベルンから遠く離れたここガルクブルンナーでこうしてお目にかかるとは。失礼ですが、もしやあの時の事が原因で騎士団を辞められ、今は伐剣者として活動しておられるのですか?」


 そう言うとチラリと俺の方を見る。

 ああ、さっき伐剣者の仕事で来てると言ったから、クラウディアも伐剣者になったと思ったのかな。


「いえ、そういう訳ではないのですが…」

「ああっ、申し訳ない。ついつい立ち入ったことを聞いてしまいました」


 クラウディアが言いづらそうに口ごもると、辺りに微妙な雰囲気が漂う。

 き、気まずい。ここは、俺がフォローをいれた方がいいんだろうけど、なんと言えばいいんだ?

 ディータに肘でつつかれるが、ちょっと待ってくれ。考えを整理させてほしい。


 クラウディアが口ごもっていることから、二人がどうして出会ったかの質問は地雷だろうし、自分から言い出さない限りは学院の事や伐剣者の事は控えた方がいいんだろうな。

 となると、無難に森の様子やファウストさんに聞くなんかして、ガラリと話題を変えた方がいいな。


「あー、その。もう辺りも夕闇に包まれますし、そろそろ夜営の準備をしたいのですが。あと、ついでに森の様子なんかも聞きたいので、ご一緒に夕食でもどうですか?」

「えっ…あっ、そうですね。そうしましょう。いやー、森の中を一日中歩いてお腹がすきましたよ、私。ご一緒させてもらえるとの事ですが、簡単にですが薪になりそうな木の枝を拾ってきたので、もしよろしければこれを使ってください」


 そう言って背嚢を下ろすと、一まとめに括っていた枝の束を渡してくる。

 予定としては、簡単に夜での探索術を話ながら取りに行くつもりだったが、二人の状態を考えるとここはありがたく使わせてもらおう。


 そうして、組んだ木の枝に魔力を絞って火炎(フレイム)の魔術を使い火を灯すと、簡易テントを組み上げて夕食の準備に入った。



「いやー、美味しいですね。レオンハルトさんでしたっけ。貴方は、料理人としてもやってけるんじゃないですか?」

「ハハハ。そう言ってもらえると作った方としては嬉しいですね。でも、何だかんだいっても素人料理に毛が生えた程度なので、これを商売にするのは難しいと思いますよ」

「えー、結構旨いと思うけどな。俺なんて、アニータとコンビを組んでたときには、あいつに任せっきりで料理なんて全然できないし」

「まあ、出来るに越したことはないぞ。旨い飯は自身に活力を与えてくれるからな。だから、力仕事はディータ、料理なんかの細々としたのはアニータと分けるより、幅広く挑戦してみることをお勧めするぞ」

「ありゃ。やっぱり分かっちゃう?うーん、先生がそこまで言うなら苦手だけどやってみようかな。…指切らないといいけど」


 おどけながらディータが答え、それを見た俺とファウストさんは笑い声を上げる。…上げるのだが、空気が重くなったまま動かない場所があった。

 そちらを盗み見るように視線を動かすと、クラウディアが椀に目を落として黙々と食事を続けている姿が映る。

 

 ふぅ、ダメだな。全然気持ちが持ち直していないようだが、どうしたものか。

 ディータだけでなく、ファウストさんもややばつが悪そうに視線を泳がせているし、ここは俺がフォローのために話しかけた方がいいのだろうか。


「ハーン教諭。少し気分が優れないので、申し訳ないが先に休ませてもらいます」


 どうやら、頭の中でごちゃごちゃと考えている間に食べ終わったようで、スッと立ち上がるとそう言ってくる。

 しまったな。気を逸してしまったが、顔色を見てみると本当に疲れているようなので、休ませた方が良いだろうと判断する。


「あっ、ああ。ゆっくりと休んで明日に備えてくれ。それと、片付けはこっちでやっておくから、歯だけ磨いて寝ろよ」


 俺がそう言うと、「そこまで子供じゃありませんよ」とクスリと笑い、水桶の方に行ってからテントの中へと入っていった。

 さてさて、笑えるって事は、まずは大丈夫だと思うんだが、どうするかな。

 まあ、明日の朝の様子を見てから決めるか。



 暗き森での依頼。

 その一日目の夜は、少しの問題を孕んだまま更けていくのだった。


―次回投稿は7/30 18時頃を予定しています。

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