第十一話 暗き森1 ―走行訓練再び?!
夏は暑い!!
それは、人が生活出来る環境があるならば、どこの世界どこの国でも同じようで、ここシュラフスでも暑いものは暑かった。
ただ、現代日本のように蒸し暑いとでもいうのか、湿度の高い暑さでないため、それを経験している俺はまだマシだと声を大にして言える。
そんなとりとめもないことを考えながら、シュラフスを出て二日目となる今日も、夏の暑さを感じながら少しかさ張った荷物を背負って、暗き森へとゆっくりと走りながら向かっていた。
◇◆◇◆◇◆
あれからディータとクラウディアの二人は、話し合うことでお互いの意見にも見るべき点があると考えたのだろう。
そのため、最初は不必要と考えていた物も買う方向に意見が傾
き、結局は両方の主張する準備を整えることにした。
俺に助言を求めることなく正解とも言える結論に辿り着いた事に正直ビックリしているが、これも普段から相手の意見も考慮しつつ考えをブラッシュアップさせてきた成果なのかな。
そう満足していると、次は目的地への移動手段を考えなければならないので、二人は歩いていくかギルドで馬車を借りるかを話し合うが、流石にそこには口を挟んで移動手段と理由を告げる。
まず第一に、採取依頼といっても薬の材料となる茸を均一化されたギルドの採取袋でおよそ一袋分であることから、持ち歩いても支障がない重さであること。
第二に、暗き森はシュラフスから多少離れているとはいえ、徒歩でも十分に移動できるので、駆け出しの伐剣者としてもそんな事でレンタル料の発生する馬車を借りることはしない。
第三に、これが最も重要なのだが、せっかくなので前期にハーン式訓練法で走行訓練を学んだ生徒達に実戦で行えばどうなるか体験してもらおうと考えた。
こう説明すると、二人は自分達で用意した荷物を見て愕然とした表情を浮かべる。
いや、一応は俺も持つつもりだから一人辺りの荷物量はそれほど多くは無いはずだぞ。
「て言うかディータ。君もジギスムントで指定依頼を受けていたんだから、こういう事は経験済みだろ。それに、クラウディアも騎士団で背嚢を背負っての行軍訓練なんかの経験はないのか?」
不思議に思ってそう聞くと、二人はゆっくりと目を反らして空を見上げる。
…なんてわざとらしい反応なんだ。
「いや、先生さ。多分勘違いしてると思うけど、荷物を背負っての移動はもちろん経験があるよ。でもさ、それに走行訓練が加わると思うと…」
「何故ハーン教諭が騎士団の訓練に詳しいかは置いておくとして、私も背嚢を背負っての行軍訓練はしています。ただ、あの走行訓練が加わると思うと…」
ああ、これだけの荷物を背負って学院と同じような走行訓練をするとか思ってたのか。
まあ、それならあんな反応が返ってきたとしても不思議ではない…のかな。
「ああ、走行訓練と言っても学院と全く同じものをするつもりはないぞ。一応走りはするが、依頼もあるし体力魔力の限界まではせずに、余力を残しつつもどれ程の移動が可能かを見極めるものになるのかな。まあ、走行訓練の学院版と実地版みたいに分けて考えてくれていいぞ」
そういうと、二人はヨシッと握り拳を作って喜ぶ。
まあ、この走行訓練―実地バージョンにも俺が受けた時には鬼畜かと思った部分はあるのだが、二人の喜んでいる姿を見ると言い出しづらくなってしまった。
どうしようかな。…今伝えるか、依頼を開始して走りながら教えていくか、どちらの方がいいのだろう。
今伝えた場合のメリットとしては、二人がどういう点に着目して学べばいいのか知ることができ、学習効率が高くなる事だろうか。
一方のデメリットは、俺が伝えることで自分で考えるという事をしないから、肝心要の部分が伝わらないかもしれない。
開始してから伝えた場合はこの逆と考えていいだろうし、両者共通の問題としては、気力が削がれて明日からの依頼に影響があるかもしれない事くらいか。
ただ、二人とも指定依頼の後で話し合いの場を設けて考えるという下地を作っていっているので、伝えた場合のデメリットは多少は軽減できるだろう。
それに、気力が削がれるというのも、俺の話の持っていき方次第だろうし、今伝えてもいいのかもしれない。
よしっ!!
「荷物は俺も分担して持つから一人辺りの配分としてはそれほど多くはならないし、二人とも荷物を背負っての移動経験があるなら、分けて持てば大丈夫だろう?それに、二人は学院での走行訓練を曲がりなりにもやり通して、しっかりと成長しているのだからもっと自信を持て」
そう言うと二人ともキョトンとするが、配分が減ることと自信を持てという言葉を受けてやる気が出てきたのか、徐々に目に力が入ったのが分かる。
掴みとしては上手くいったようだし、後はこのやる気を維持させたままどういう訓練をするかの説明をするだけだな。
「二人ともシュラフスに来てから今日まで、色々な指定依頼を通じて考え学び、それを次の指定依頼に活かしてきた。それなら、学院でしっかりと学んで身に付けた力を、この指定依頼で試してみようじゃないか」
あくまでも俺の感想なのだが、身に付いている、成長しているとの実感があれば、より新たな事を学んでみようという感情が湧いてくる。
そのため、出来ればこの走行訓練―実地バージョンで成長の実感を持ってもらい、残りの夏期休暇での学びに繋げていってほしい。
「二人は、前期に学院での走行訓練で魔力を一定に維持して、その限界を知ったと思う。今回は、その内魔力を一定に維持し続けて移動する事がどれだけできるようになったのか、やってみようじゃないか」
「あー、先生さ。それってどういう意味で言ってる?」
言葉から意味を読み取ろうという姿勢が備わって来ているのか、質問を返してくる。
横を見ると、クラウディアも何か言いたそうな顔になっていることから、同じような疑問が出ているのだろう。
「ちなみに、どの部分に引っ掛かりを覚えて、意味を聞いてきてるんだ」
「えっと、維持し続けるってことかな。」
「私も同じです」
そこが引っ掛かったということは、二人ともちゃんと要点に気付けている証拠だな。
走行訓練―実地バージョンでの要点は、魔力をコンスタントに維持し続けることに尽きる。
簡単そうに言ったが、一定に維持し続けるということは、かなりの神経を使う。
そう、目的地へ行って採取し帰ってくるまでの数日の間、ずっと一定に維持し続けることは非常にしんどいものである。
まあ、俺がこの訓練を初めて受けた当時を基準にしているのだから、今の二人には当てはまらないかもしれない。
ただ、それはやってみなければ分からないので、もしかしたら大丈夫かもしれない。
「二人とも、きっちりと訓練の要点に気付けているんだな。質問がなかったら俺から言おうと思っていたのに、やるじゃないか」
「えっ?!そう?何となくだけど、そこが大事なのかなって思ったんだけど…そういや、何でだろう」
「……もしかしたら、指定依頼を通して、そして依頼について感じたことについて意見をぶつけ合った成果でしょうか?」
クラウディアがいいところに気付いてくれた。
最初の指定依頼で、言葉の大事さについてさらりと語り、その他にも依頼が終わる度に散々意見を戦わせた事で、言葉に対してしっかりと考えるクセが付いてきているのだろう。
「クラウディアの言い分も正しいが、それよりももっと大きいのは、二人が学びとってやろうという姿勢があったことだろう。それがあったから、今のように学院での時は流していたことに気付くことが出来たんだ。つまり、二人はあの時より成長しているってことだな」
「そっか。…俺達、ちゃんと前に進めてるんだな」
「ああ、間違いない。君達はキチンと前に進めているし、この調子でさらに前に進もう!!」
俺が少し声を張りながらそう言うと、二人の顔に笑みが広がっていき、やってやるという雰囲気になった。
本当に言葉って、この場合はさらに言い方なんだろうが大事だよなと思う。
こうして、上手く二人のやる気を出し、別の言い方をするなら上手くのせることが出来たので、いい形で翌日から暗き森に向かうことに成功した。
―――――そうして、シュラフスを出てから二日目となる今日も、起きたときから触媒に魔力を通しながら走り続けているのだが、二人の目には昨日のような活力はなく、微妙に疲れたような感じを漂わせていた。
…まあ、理由は分かるんだけどな。
この走行訓練―実地バージョンでの要点である魔力を一定に維持し続ける事は、回復させるための睡眠時間を除いて常に行われる。
つまり、起きた瞬間から寝る時まで気が休まるところはない。
そうして、今日も今日とて起きてからすでに何度か揺らぎを感じたので注意しながら走り続けているのだから、しんどい部分もあるだろう。
「だぁ~!!てか、先生は何で俺らの魔力が一定になってるのか分かってんだ」
「おいおい、忘れたのか?ほとんどの高位伐剣者は、魔力知覚能力を備えてるんだし、それは当然俺にも備わってるぞ。だから、正確無比って訳じゃないが二人がどの程度の魔力を出してるのかは大体のとこで分かるんだよ」
正確無比にやるなら兎魔の目を使う必要があるんだが、今回は大体でもいい。
そう思っていると、またもや二人の魔力に揺らぎを感じて、一定に維持するように注意する。
それを受けて、二人は一定になるように神経を使いながら魔力を調節しながら触媒に通して身体能力強化の魔術を行使していく。
よしよし、大分安定してきたじゃないか。この調子だと今日中には暗き森には着くかな。
「ちくしょお~!!やっぱり走行訓練は走行訓練だったぁ~!!」
そう考えていると前を走るディータが叫んだが、その叫びは少しの余韻を残してシュラフスの澄んだ夏の空へと昇って消えていった。
―次回投稿は7/27 18時頃を予定しています。




