第一話 帝都ガルフベルン
お待たせしました、新章の開幕です。
テオと色々な契約をした翌日には、俺がシュラフスを離れることがギルド内で話題になっていた。
ただ、幸いなことに、俺がジギスムントに行くというひどく大雑把な話のみが広がっており、カティに対して行った交渉、もとい騙り行為については広まってはいないようだったので安心した。
もし、そんな事が広まっていたら、俺はギルド職員はもちろんの事、カティを可愛がっている伐剣者連中にもボコボコにされていただろう。
とにかく、俺がジギスムントに行くならと、その日の夜にはギルドに併設されている酒場で送別会という名の酒盛りが開かれることになり、騒がしい一夜を過ごすことになった。
そこでは、テオとカティは勿論のこと、テオの家族に俺の家族、ミューランさんといった知り合いが大勢集まって一時の別れを惜しんでくれた。
まあ、途中から俺の燃え尽き状態をからかわれたり、昔の暴露話になりひどく疲れた送別会となったのだが、不思議と悪い気はしなかった。
さらにその翌日の早朝、ギルドの用意した小馬竜車に乗り込むと、俺達はシュラフスを発ちジギスムント帝国の帝都ガルフベルンへと向かう。
途中、テオの予想したように俺のタグについて怪しまれたが、テオの身分証と説明に、あっさり疑いが晴れ通行を許可された。
そして、シュラフスの伐剣者ギルドでジギスムント帝立学院教員募集の貼り紙を見てから五日後の夕刻、俺達は帝都ガルフベルンに到着したのだった。
◇◆◇◆◇◆
ジギスムント帝国は、俺の故郷であるガルクブルンナー王国から見て遥か北に位置する大国である。
その歴史は古く、大陸中部にあるいくつかの国家の中でも、最古の国と言われている。
また、伐剣者発祥の地として有名なこの国は、北にギルドが指定する危険領域である『大森林』、南に準危険領域の『霧の渓谷』があるため、そこに棲息する魔獣から民を守護する精強な騎士団も数多く存在していた。
それ以外にも、農業・酪農・工芸・商業と実に多くの産業が盛んで、それらの中心である帝都ガルフベルンは歴史と伝統に裏打ちされた大都市として今日も栄えている。
…というのが、小馬竜車の中で暇だった事から読んでいた"ジギスムント 帝都探訪"という書籍に書かれていた。
ジギスムントに行くからとシュラフスの本屋で買っておいてよかった。本当によかった。
道中でテオは寝ているだけだし、風景を楽しむにも小馬竜車は速すぎたため、読書しかすることがなかったもんな。
とにかく、小馬竜車専用の門で降りた俺の目に映った巨大な外壁を見上げると本の内容も頷けると言うものだ。
「帝都ガルフベルンへようこそ。小馬竜車を使うほどの重要なご用件とお見受けします。恐れ入りますが、来訪の目的と身分証をご提示願います」
俺が、帝都を取り囲むように存在している巨大な外壁の威容に呆けていると声がかかる。
声のした方を振り返ると、まだ幼さを残した若い衛兵が俺達の前に立っていた。
ああ、何時もの検査か。なら、さっさとやっちまうか。
…ん? あれ、重要な用件ってなんだ?
道中では「ギルドの仕事でジギスムントに行く」ってだけで通れてたし、用件なんて俺が教師の面接に来ただけだぞ。
重要と言えば重要なんだけど、この若い衛兵の言う重要とは意味が違う気がするしなぁ。うーむ、どうしたものか。
そう思い、テオの方を見る。
そうすると、テオならきっとうまく言ってくれるだろうという考えを読み取ってくれ、やれやれという感じで一歩前に出て説明を始める。
「ふむ。私は、ガルクブルンナー王国にあるシュラフスのギルドで事務長をしているテオ・ユンカーという。こっちは、同じくシュラフスの伐剣者レオンハルト・ハーンだ」
テオがギルドの事務長と名乗ると若い衛兵は身を固くする。
おいおい、定型文で重要な用件と言ったが、まさか本当にそんな用事なのって顔に出てるぞ。
「ああ、そう固くならないでくれ。まずは、驚かせたことを詫びる。すまなかった」
テオも同じ考えだったらしく、若い衛兵に謝罪して肩の力を抜いて貰ってから、来訪の目的を告げていく。
曰く、カルクブルンナー王国のギルドで新しい試みをすることになり、それに関連してジギスムントのギルドと学院に説明するとためジギスムントに赴いたこと。
その試みに、俺が関わっていることから、一緒に連れてきた事を告げると、若い衛兵は本当に緊急事態でないことに安堵したのか、ホッと息をついた。
「あっ、失礼しました。ご用向きは分かりましたので、お手数ですが身分証の提示をお願いします」
そう言うと確認業務に入ったので、俺とテオはタグと身分証を出して見せる。
「はい、確認し…あの、すみません。この伐剣者タグに二つ名が刻印されていないのですが」
SSランクの白金のタグに驚いていた若い衛兵は、二つ名が刻印されていないことに気付くと、恐る恐る問いかけてきた。
「あー、その、なんだ。俺は、二つ名を名乗ってないんだよ。だからタグには二つ名は刻印されてないんだ」
そう告げると途端に胡散臭いものを見る目になった。
あー、まあそうなるよな。道中で散々見てきた目だから慣れたけど、結構くるモノがある。
という訳で、テオさん。お願いします。
「こいつが胡散臭いのはしょうがないが、レオンハルト・ハーンは確かにSSランクの伐剣者だ。それは、私が保証するのでどうか信用してほしい」
「そんな!!二つ名を名乗らないAランク以上の伐剣者が居るはずはあり得ません。それに、こんなそう…取り乱してしまい、申し訳ありません。他国とはいえ、ギルドの事務長が保証して下さるのなら大丈夫でしょう。分かりました、どうぞお通りください」
あれ?ジギスムントに来るまでに通ったとこにいた衛兵達とは、若干違う対応だな。
これまでは、テオが説明すると渋々ながらも納得されるだけで食って掛かられることはなかった。
俺の事を見て何か言いかけた事といい、えらく他国と強調していた事といい、どうも変な感じだ。
そう思っているのは俺だけじゃないみたいで、テオの奴も驚いた顔をして若い衛兵の顔を見ているな。
ただ、ギルドの事務長の保証に、若い衛兵は言いかけた言葉を無理矢理に飲み込んで、本人確認ができたとして門を通してくれた。
入るまでに少し引っ掛かりを覚えたが、俺は無事に帝都ガルフベルンに足を踏み入れる事ができた。
まだまだ、書き方が粗いところもありますが、これからもよろしくお願い致します。
―ご意見、ご感想をお待ちしております
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【お知らせ】
・"ジギスムント帝立アカデミー"の表記を"ジギスムント帝立学院"に変更します。それに伴い、"学園長"の表現を"学院長"とします。
・この章以降は、一話を空白等を除いて二千字前後で書いていく予定です(2017.6.23現在この予定は変更しました)。
・この章以降は、物語で使われた設定・用語等の解説は後書きに書く事とします。
・2017.6.23 加筆修正を行いました。
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【伐剣者[ブレイバー]】
クラウディオ・カレンベルクと同志が立ち上げた民間の組織『伐剣者ギルド』に所属する者達。
その業務は、魔獣との戦闘・危険領域の探索・商人の護衛・民間人同士の争いの仲裁と多岐にわたる。
国が異なっても伐剣者ということに代わりはなく、在籍届でその国のギルドへ登録でき、登録後はギルドがその人物を保証することで、国にとらわれず仕事をすることができる。
【騎士団】
国家に所属する騎士及び兵士からなる集団。
その職務は伐剣者と重なるところもあるが、国に属していることから、柔軟な対応に欠けるところがある。
その職務は、国境の警備、危険領域付近に設けられた砦に常駐しての魔獣の監視、国内の犯罪の取り締まりと内向きの仕事が多い。
【衛兵】
街や村に常駐する一般職の兵士を指す。
その職務は、門に詰めての身元確認、不審物の確認や街の巡回などの雑務一般だが、民と一番近くで接するため重要視されている。
そのため、騎士団入りした者は、衛兵から始まることが多い。また、重要な街ではベテランが衛兵となる事があるが、その場合は実際の階級とは異なる。