第七話 お使いクエスト1 ―手紙配達依頼
外から入ってくる鳥のさえずりと陽の光に、もう少し眠りたいという意思を示すかのように開かない自分の目蓋を気合いで開ける。
…もう朝か。
そう考えると、昨日は飲み過ぎたようで、頭の中を早鐘がなってるようにガンガンと痛んだ。
み、水と台所の方にゾンビのようにふらふらと向かっていく。
冷魔棚から冷やしておいた水を取り出し、コップに水を注ぎ一息に飲み干すと、さらにもう一度コップに入れて飲み干す。
こうして、酒を飲んだ翌日に冷たい水を飲めるのも魔動力学様々だな。
そう思いながら一息つくと、昨日の事が徐々に思い出されてくる。
確か、待ち合わせて三人でギルドに併設されている酒場に行ったんだよな。
それで、最初の内はディータやクラウディアを紹介しながら和気藹々としていたと思っていたら、途中から両脇から抱え上げるようにして端の方に連れていかれ、吊し上げにあった。
理由はカティに騙り行為をしたことらしいが、代わる代わる職員や伐剣者達がやって来ては、一言から時間をかけてじっくりと実に多彩に文句を言われる。
やって来る人達に、「本当にごめんなさい。あの時の俺は、千載一遇のチャンスだと思って、何とかしようとどうかしてたんです」と必死で弁解をし続けて何とか解放された。
俺が燃え尽き状態の事は広まってたので、この説明で何とか納得してもらえたが、あの突き上げは本当に怖かった。
あの時の視線を思い出して思わず身震いすると、身支度をしてからギルドに向かうことにした。
◇◆◇◆◇◆
朝のギルドに到着すると、そこは喧騒に包まれており受付もフル稼働しながら依頼の手続きをこなしていた。
昨日、酔いつぶれる前にギルドで落ち合おうと言ったと思うが二人は来ているかなと、キョロキョロと探すと受付から離れたテーブルに座っているのを見つける。
「二人ともおはよう」
「あっ、ようやく来た。先生さ、少し遅いんじゃないの。で、おはようございます」
「おはようございます、ハーン教諭。しかし、ディータの言うように遅いのではないですか。昨日の宴にも来ていた伐剣者は、もう来て依頼を受けて出ていきましたよ」
うぐ。そう言われると、深酒をして眠りこけていた身としては謝るしかできない。いや、本当にごめん。
「あー、それでだな。シュラフスでの街でどのように過ごすか決めたから、それを今のうちに伝えておく。まずは、およそ一週間ほどだな。この期間は、街中での指定依頼を優先してこなす。それから、残りは街の外に出て探索術等を学ぶ機会にしたいと思う」
街中での指定依頼。そう聞くと、二人は揃って不満そうな顔をするが、昨日テオと話した理由を語っていく。
クラウディアは自身の伐剣者ランクを上げる事が、ディータは少し昔を振り返って勉強し直すという事が必要だと説明すると、しばらく考えてから頷いてくれる。
「分かってくれてよかったよ。じゃあ、指定依頼はテオの奴に頼んでいるから、さっそく受けにいくとするか」
二人を促し立ち上がると、空いている受付に向かっていき指定依頼の話をする。
すると、話は聞いてますよといくつかの依頼が箇条書きにされた紙を提示されたので、その中から良さそうなのをピックアップする。
「手紙や荷物の配達に、商売の手伝いとかが良さそうだな」
「えー、他の方がいいよ。この薬草の調合手伝いとか、鍛冶手伝いとかの方がクラウディアにも勉強になるんじゃない?」
「そうですね。調合だと学院での薬学の復習になりますし、鍛冶手伝いでは様々な武器を見ることが出来そうですし、私としてもこちらの方がタメになるものと思うのですが」
確かに、そっちの方がクラウディアには合ってるかな。
でも、今回はちょっと思うところがあるし、なにより騎士ではなく伐剣者としての接し方も見て貰いたい。
俺の思う通りなら、この依頼がクラウディアにとっても成長する良いキッカケになるんじゃないかな。
それに、今のディータの発言からジギスムントではこの手の依頼はあまり受けていないような気もするし、良い勉強になるだろう。
「んー、それじゃあこうしよう。とりあえず、この配達依頼をしてみて、俺が合格と思えば君達の言うような依頼を受けようじゃないか」
本当かなと疑問が顔に出ていたが、俺が納得できる仕事ぶりを見せれたら希望通りの依頼が受けれるとして俄然やる気を見せ始めた。
そのやり取りにクスクスと笑っている受付嬢に二つの依頼を受けると告げ、手続きに入ってもらう。
手始めに受けた配達依頼は手紙と荷物の配達以来だが、生徒達はどのように手順を踏んで依頼をこなしていくのか、まずは口出しせずに二人のやり方を見守ることにする。
二人は渡された依頼書をじっくりと見てから、受付で紙をもらうと必要な部分のメモを取り、依頼書に書かれた依頼人の場所を聞く。
また、地理に不慣れなことから、移動にかかるおおよその時間や依頼人の人となりを聞くとメモに加筆して相談を始める。
なるほど。二つの依頼を同時にする必要から、かかる時間やそれによって依頼人がどう思うかを判断して手順を決めることから始めたのか。
簡単なことのようだが、細かなところまで計画を立てて行動するという基礎は出来ている証拠だな。
いくつかの確認を二人でし終え受付から確認書をもらい、こちらを向くとニッと笑った。
「じゃあ、先生行こうか。俺達の仕事ぶりをじっくりと見てちゃんと判断してくれよな!!」
「分かってるよ。それじゃあ行くか」
そうして、意気揚々と進む二人を先頭にギルドを出ていく。
さて、それじゃあシュラフスの街での初めての依頼にさっそく行ってみようか。
◇◆◇◆◇◆
シュラフスの街の朝は早い。
交通の要衝であるということから商人が、危険領域が近いということから伐剣者が多く行き交っており、その雑踏を掻き分けながら依頼人の場所に行くだけでも一苦労といったところだ。
ただ、ディータはジギスムントの帝都で伐剣者をしていただけあって、人混みをスルリスルリと抜けていく。
一方のクラウディアはなかなか上手く歩けないようで、時々急停止する事があった。
まあ、金属製の鎧を纏っていることから、相手にぶつからないように気を使いながら歩いているのだからしょうがないとはいえ、すれ違う同じような装備を身に付けている伐剣者はスルリと抜けていることと比較すると、視野がまだまだ狭いのだろう。
そうして、何とか人混みを抜け住宅街に到着すると、ある一軒の住宅に到着すると扉に付けられたドアノッカーを叩いて伐剣者ギルドの依頼で来た旨を大きめの声で告げた。
どうやら二人は、先に手紙の配達をすると決めたようだな。
さて、二人は手紙を受け取ってから、どう動くかじっくりと見せてもらおうかな。
そんな事を考えながらしばらく待つと、中からバタバタとした音が聞こえたかと思うと扉が開かれる。
そうして出てきたのは、赤子を抱いたどこか見覚えのある女性であった。
「お待たせしちゃってごめんなさいね。あなた達がギルドから来てくれた方…。あら、もしかしたらレーヴェちゃん?」
「…もしかして、ミラ姉さん?」
俺が子供の頃、近所にすんでいたミラ姉?
いやー、まさかここに住んでいたとは思わなかった。
こんな偶然もあるんだな、…いや待てよ。この依頼を選別したのはテオで、当然俺とミラ姉の事は知ってるだろうし、そういうことか。
アイツなりの気遣いなのかねと思いながら、挨拶と生徒達の紹介から入ることにする。
「久しぶりです、ミラ姉さん。この子達は、ディータとクラウディアと言って俺の教え子です。今回は俺の教え子達の依頼を見届けるために同行してたんですよ」
「あら、この子達はレーヴェちゃんの教え子なの。それじゃあ、安心してお任せできるわね。これが依頼にあった手紙よ。よろしくね」
さらりとハードルが上げながら手渡された手紙をクラウディアが受けとる。
そうして任せてくださいと言って、ミラ姉の家を離れて届け先に向かうために踵を返そうとするので待ったをかけた。
「二人とも手紙の種類については聞いたのか?それとも、依頼書に書いてあったのか?」
俺が何をいっているのか分からず、二人してキョトンとする。
いや、内容を聞くのは流石にいきすぎたが、種類については聞いておいた方がいいのじゃないか。
多分だが、依頼書には手紙の配達とだけ書かれてるだろうし、それが急ぎなのかとか、大事なので折れや汚れが付かないように運んで欲しいだとかの種別はあるはずだ。
そういう風なことを話して聞かせると、なるほどとメモを見て依頼書に書かれていなかったことを確認すると、二人は改めてミラ姉に聞く。
「大丈夫よ。急ぎでもないし、多少折れ曲がろうとも相手に届けばそれでいいの。二人とも、気を使ってくれてありがとうね」
そう答えが返ってきたが、二人は念のため気を付けて欲しいことはあるかと確認している。
その作業が終わると、今度こそ手紙を届けるためにミラ姉の家を後にした。
「先生さ。依頼をこなすときは、いつもあそこまで確認するの?」
「んー、そうだな。時と場合、後は依頼の内容にもよるかなとしか言えないな」
ミラ姉の家を離れて歩いていると、ディータから質問が飛んで
どうやら、先程の俺のやり取りの中の腑に落ちない部分があるらしい。
「しかし、依頼を受けるときは依頼書に沿ってやれば十分ではないのですか。それに、重要なことならば依頼書に書いておくものではないのですか?」
「二人ともそこがおかしいと思ってるのか。確かに、クラウデアの言うことも納得できる。だけどな、手紙配達依頼と一口で言っても、結構ややこしいんだぞ」
この世界には、少なくとも俺が見聞きした範囲では、ギルド以外に手紙の郵便を事業としている組織はなかった。
昔は、手紙といっても貴族やら商人間でのやり取りしかなかったので使用人に命ずれば足りたため、その必要性がなかったのだろう。
だだ、現在はというと個人間の間にも手紙という文化が広まり誰かがしなければならないという事で、その間隙をギルドが埋めているというわけだ。
その方法として、定期的にギルド職員が各住宅を回り手紙があれば受け取り、まだ書いていないが書く予定であれば何時何時までに受け取りに来て欲しいとの依頼書を渡すという形を取っていた。
そこでの依頼書には、依頼人の指名や住所、内容を書いてギルド職員に渡すわけだが、こんな事情から依頼時点ではどこまで書いていいのか自分でも分からないということもあり得る。
これが次に受けるであろう荷物の配達依頼とかであれば、重要なので割れ物か否かとか書くかもしれないが、単に手紙だけであれば、依頼人としてもどこまで書いて良いものか判断がつきにくい。
現代日本のように郵便局があり、種類としても手紙の第一種郵便物、葉書の第二種郵便物、雑誌などの第三種・第四種郵便物に加え、速達や書留郵便、特別郵便など細分化していないため、依頼人としてもこれは書いておいた方がいいという認識がないのである。
俺としてもどうやって書こうか悩むこともあるのだから、郵便に種類があるという認識がないこの世界の人なら尚更だろう。
現代日本の知識を除いて、そのようなことを掻い摘まみながら話すと、二人ともなんとか理解しようと難しい顔になる。
まあ、今回は手紙の配達という依頼でのことだが、高位になればもっとややこしい依頼も舞い込んでくる。
ギルドの指定依頼には、その時のための練習という意味合いもあることだし、もう少し突っ込んで話しておくかな。
「俺達は言葉という手段で、他人と意思疎通をとることが可能なんだ。だからこそ言葉を大事にしなければならないし、自分の判断で出し惜しみしないよう注意しなければならない。まあ、さっきのやり取りのように一言確認すればハッキリする程度の事から心掛けておけば、もっと重要な場面になっても意識して使うことが出来るようになるさ」
まあ、そんな大事な言葉を騙り行為に悪用するようなド阿呆なSS伐剣者もいるがな。
だだ、そんな行為は遠くの方に放り投げて、二度とやらないように心に誓ったので、許して欲しい。
そう言われてもピンとこないのか、うーんと悩む生徒達たが、何度か繰り返していく内に分かる時が来るから、今はそんなものかと記憶に留めておくだけでいい。
それに考えるのはいいが、そろそろ大通りに出る。まだまだ人通りは多いだろうし、悩んでいたらぶつかるぞ。
さて、手紙配達の後は、荷物の配達だ。
予定も詰まっていることだし、張り切っていくぞー。
―次回投稿は7/16 18時頃を予定しています。
◇◆◇◆◇◆
暑中見舞い申し上げます。
蝉の声はいまだに聞こえずとも、暑さが厳しく夏らしくなって参りました。
皆様には「変わり者の伐剣者」を気にかけお読みいただき、誠に有難うございます。
これからも暑さの厳しい日々が続いていきますが、皆々様もご自愛下さいますよう、お祈り申し上げます。
平成29年 盛夏




