第六話 登録・予定・どうしよか?
事務長室に向け、ディータの手を引きながらクラウディアと進んでいく。
何度も通い、歩き慣れた廊下のはずなのにいやに部屋までが遠く感じる。
「あの…レオンハルトさん。ランダウさんでしたっけ。そのお弟子さんは大丈夫なんですか?」
「ああ、長旅で疲れたんだろう。そのうち戻るだろうから放っておいてやってくれ」
そう言ったはいいが、やはり気になるらしく時々チラリチラリと様子を見てくる。
最初のうちは出来るだけ気にしないようにしていたが、だんだんとその視線に、クラウディアと二人居たたまれなくなってきた時にようやく事務長室に到着した。
カティがノックをして俺の到着を告げると、それに反応するように中から久しぶりに聞く友の声が聞こえる。
それを受けてから、ゆっくりと扉を開けると振り返り俺たちの方を見ながら片手で中へと促してくる。
「どうぞお入りください、レオンハルトさん、ランダウさん、ラヴクラフトさん」
「ありがとう、カティ。さてと、これから会うのはここの責任者だから、二人とも行儀よく頼むな」
念のためというか、ディータ。君のために言っているんだけだ聞こえている?
すぐに戻るだろうと思っていたのに、ここまで引きずるなんて…これなら人前だろうと遠慮せずに喝を入れておけばよかったか?
多少の不安を感じながらも部屋に入っていくと、丁度巨漢のギルド事務長が立ち上がりこちらにやって来るところだった。
「お帰りと言ったところだなレーヴェ。後ろにいるのがお前の生徒達か?」
「ああ。ジギスムント帝立学院で教えてるディータとクラウディアだ」
「そうか。ディータ君とクラウディアさんといったね。私は、ここシュラフスのギルドで事務長をしているテオ・ユンカーという。ギルドを代表して君達の来訪を心より歓迎する」
後ろの生徒達紹介するために半身になると、俺から視線を生徒達に移して挨拶するが、その巨体からの威圧感は半端ないものがあるな。
生徒達は大丈夫かなと思ってチラリと見ると、まずクラウディアがテオの挨拶に応じ自己紹介をする。
「歓迎していただき私達も嬉しく思います。ハーン教諭の紹介にもありましたように、私はクラウディア・ベルタ=ラヴクラフトと申します。どうぞクラウディアと呼び捨てて下さい。以後お見知りおきくださいますよう、よろしくお願いします。それと、いきなりで失礼ですが、ユンカーという事はカティさんのご家族の方ですか?」
「いかにも。私はカティの兄にあたる」
テオがそう応じると、ディータが驚いた顔になりカティを見てからテオを見る。
まあ、似ても似つかないし、誰でも最初はそう思うさ。
この事実がディータに上手く作用したのか、ポンコツから何時ものディータに戻る。
「僕は、帝都ガルフベルンのギルドに所属しているDランク伐剣者ディータ・ランダウって言います。僕もディータとだけでいいです。よろしくお願いします」
復活したことでなんとか無難に挨拶ができ、顔合わせ的なものも終わったことだし、これからの事を話すとするか。
まず、生活の拠点になる住居について確認すると、ギルドの方で用意しているので安心するように言われた。
それから、シュラフスの街のギルドに対して在籍届を出すことが話されたが、その前にクラウディアの立ち位置というか身分については伝えておかなければならないだろう。
普段はジギスムント帝立学院の生徒として扱っているが、元はグラフベルン王国の貴族で騎士、尚且つジギスムントの貴族の姻族である。
大丈夫だとは思うが絶対ということはないし、何かあってからでは遅すぎる。それに、登録をしていなくともを伐剣者の依頼を受けれるよう許可を貰わなければならないだろう。
そう思って話すと、テオは器用に片方の眉をクイッと上げてから、少し考え込んだ。
「一応確認しておきたい。レオンハルトがどのような依頼を受けるかは知らないが、それでも危険がないとは言えない。そこのところは、君はどう考えているのだろうか」
「無論危険があることは承知しています。幸いハーン教諭は優秀な方ですので予期できるものについては、私達に及ぶ前に芽を摘んでくれるでしょう。そのため、シュラフスで伐剣者の活動をしていて身体に故障が生じる危険に遭遇した場合は、それは私の責任です」
無茶苦茶高いハードルをぶち上げてくれるが、クラウディアの俺の評価ってこんな高かったの?
困惑のあまりクラウディアの方に視線を向けるが、微笑みとともに頷かれてしまう。
この微笑みが作られたものでないのは見ればわかるため、ますます困惑の度が深まっていると、ふと視線を感じて前を向く。
すると、テオとカティが面白そうにこちらを見ている視線とかち合った。
「なるほど、それだけの覚悟があるのなら問題ないだろう。伐剣者活動については登録をしなくともレーヴェの監督の元にシュラフスでの伐剣者活動を認めよう」
これで一通りの意思疏通もできて問題点の解消ができた。
そう安心していると、クラウディアの口から意外な言葉が出てくる。
「テオ殿といいましたか。ご配慮は感謝しますが、私としてはシュラフスで伐剣者登録をしたいと思っています」
「ふむ。今回の事はこちらの不手際だから、君がそこまでする必要はないと思うが…」
「いえ、私が伐剣者登録をしたいと思ったのは、それとは別の理由です」
別の理由?
チラリとテオが俺の方を見るが、皆目見当がつかないので小さく首を振って分からないという意思を伝える。
いや、本当に分からないんだけど、ここまで伐剣者について興味を持つようなことが、何かあったか?
「…よろしい。ではカティ。クラウディアを連れて伐剣者の仕事について、権利・義務についての説明をしてやりなさい。ディータも、シュラフスは初めてだろうから、一緒に詳しい説明を聞いたらどうかね」
特に拒否するような事情がないからだろうか、テオはクラウディアの申し出を受け入れ登録する手続きをカティにするように言う。
そのついでにディータにも、シュラフスの街の説明を受けるように言ったので、三人は後で落ち合うということにして部屋を出ていく。
そうして、事務長室には俺とテオの二人だけが残されることになった。
「ジギスムントでは上手くやっているようだな。生徒達はお前の事を余程信頼していると見える」
「ああ。四苦八苦しながらなんとかだけどな。そういや、お前は俺が生徒達を連れて帰らない方に賭けたんだってな。ロッホスさんに聞いたぞ」
「今までの、そしてシュラフスでの生活を見ていれば、そう思っても仕方ないだろう?」
そう断言され、過去の自分を思い返してみると否定できないな。
そこで、お茶を濁して別の話題に移ることにする。
「そうかもな。それで、ここではディータとクラウディアに伐剣者の依頼をこなしながら俺の技術の一端を教えることにしているんだが、どうしたらいいかね。俺としては、探索とかを教えたいと思っているんだが」
「そうだな。ディータはDランクの伐剣者と言っていたな。クラウディアも含めて、二人の実力はどの程度なんだ?」
そうだな。戦闘技術に関しては二人ともCランクに近いDランク上位ってところかな。
ただ、学院での俺以外の授業の成績等を踏まえて考えると、精神面・他の技術面についてはランク相応の実力ってとこだな。
まあ、俺から見てってだけで、他人が見たらもう少し上になるのかもしれない。
それらを簡潔にまとめながらテオに伝える。
「それなら自分の身を最低限守れるようだし、探索術という点を考慮するなら、暗き森か群生の広野でやればよいのではないか?」
暗き森は、巨大な木々がところ狭しと成育しており、太陽の光があまり差し込まず薄暗い事から、そう名付けられていた。
一方の群生の広野は対照的で、遮るものがほとんどなく見張らしものの、そこに棲息している獣は総てが群れを作っているためこう名付けられていた。
どちらも一長一短があるものの、最深部や深部を除けば危険な魔獣がおらず獣だけの領域であるから、安全に探索術を学ぶという点においては申し分のない場所である。
また、両方に共通していくつかの薬草や魔術触媒等の資源を採ることが可能なため、伐剣者の仕事を学ぶという点でも魅力的だ。
「悩んでいるようだが、クラウディアは登録したてのEランクであるのだし、騎士とはまた違った力が試される事になる。彼女のためにも、そこら辺から徐々に学んでいく方がいいのではないか?」
そう言われると、そうかもなという気になる。
この伐剣者という職業は、強ければ即上のランクに就けるのではない。
極論、強くかつ生き残れる力があるほど上のランクにいくのである。
まあ、強く生き残れる力があっても、犯罪に走ったり暴力的な奴は問答無用で切り捨てられるが、そんなのは一部の例外だけだ。
では、生き残れる力とはなにか。
それは例えば、薬草を見分け自分である程度の調合が出来ること、獣や魔獣と自分との力の差を見抜くことや相手に気付かれずに観察してギルドに報告できることである。
薬草等については自分のためであるので割愛するが、魔獣については個人や少数では対応できない場合が普通にある。
そこで、自分で対応できない場合には、発見して無事にギルドに戻り報告する義務が伐剣者には課せられていた。
なぜなら伐剣者とは、民のためにあらゆる魔を伐つ存在だからだ。
自己の虚栄心や慢心のために報告できず、民やその生活に被害が出るような事態になっては伐剣者の存在理由が失われる。
そこで、ギルドはそれらの力が備わっているかを見るため一定の依頼を指定し、いくつかのテストを行っている。
その指定依頼をこなし、ギルドに力があるとして認められて初めてEランクからDランクに昇格することを認められるのだ。
まあ、指定依頼だけを優先的にこなしてDランクになり、後は魔獣の討伐をこなしてさっさと上のランクにいく方法もあるにはあるが、何故かそれをした伐剣者は対人関係という点で行き詰まる事がよくあった。
それを思うと、出来るだけ幅広く受けるようにした方が後々の自分のためでもある。
「そういや、クラウディアも伐剣者に登録したんなら、その流儀に従うのが当たり前か。…それなら、テオの提案もいいが、伐剣者のランクを上げる指定依頼をこなすのもありだな」
そこまで考えてみるとさっきまでの悩みが晴れ、どういった授業にするかの道筋がたった。
「Eランクの指定依頼は最初の内は街中でのものばかりだぞ。それでもいいのか?」
「そうだな。指定依頼だけを優先的にしていれば、一週間ほどで街中での依頼は終わるだろう。クラウディアには騎士とは別の視点もあることを、ディータには復習という意味も込めて伐剣者の仕事の意義を改めて見直してもらいたいしな。それに、そっちの方が二人のためになるだろうし、なにより急がば回れって言うだろ?」
自信満々に決めの言葉を言うが、テオはそんな言葉は知らんとバッサリと切ってくる。
あー、でも良い言葉だからこれからも使って定着させるようにしようかな。
とにかく、道筋がたったので後は具体的な詳細を詰めるだけだ。
「まあいい。お前達三人がそれで納得するなら、私としては口を挟むことではないしな。それより、レーヴェ。この後、職員と伐剣者がお前のために宴を開いてくれるらしいぞ。二人の登録と説明が終わったら、一端を帰って旅装を解いてきたらどうだ」
えっ!?マジで?
そういう話なら、二人と落ち合い次第旅装を時に帰るが、一体全体どういう風の吹き回しだ?
こっちには、歓迎会での宴とかの習慣は無かったろうし、何でまた突然そんな事を言い出したんだろう。
…まあ、いいか。宴なら酒を飲むいい口実だし、断る理由はない。
そうして、宴に出ることを了承し、話は終わったと部屋を出ようとすると、手紙の事を思い出した。
忘れるかもしれないし、今のうちに渡しておくことにするか。
「あっ、そういやテオ宛にクララさんから手紙を預かってきたんだ。忘れない内に渡しておくよ」
「クララ殿から私に手紙だと?」
訝しむテオに手紙を渡すと、今度こそ用事も残ってないだろうし部屋から出ていく。
さーてと、それじゃあ受付で二人を待ってから、旅装を解きに一旦帰るかな。
そうだ。シュラフスの職員や伐剣者と知り合っておくのも良い経験になるだろうし、二人もその宴とやらに招待しよう。
そんなことを思いながら、鼻唄混じりにギルドの受付に向けて歩いていくのだった。
―次回投稿は7/14 18時頃を予定しています。




