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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第二章 教師生活一年目 ―夏期長期休暇
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第四話 シュラフスの街よ。俺は帰ってきたぞ!!


 ボアルズ連邦で一夜を過ごした翌朝、皆で集まり朝食を取っているとディータから話しかけられる。


「先生さ。あー、なんと言うか昨日の態度はなかったよね。それで、その、ごめん」


 言いづらそうにしてはいたが、そこまで一息で言うと手に持っていたスープを飲み干した。

 ふむ。一晩とはいえ、一体どういう心境の変化があったんだろう。


 そう思っていると横から視線を感じたので、そちらの方を向くとニヤニヤとこちらを見ているロッホスさんと目があった。

 …さては、何かロッホスさんから吹き込まれたか?

 ただ、良い方向への変化だったので、先輩として気を利かして俺の事をフォローしてくれたのだろう。


「俺は別に気にしてないさ。どちらかと言えば、さっさと言わなかった俺にも落ち度があるんだし、ディータもこれ以上は気にしないでくれよ」


 ディータも俺も気にしないなら、この話はここで終わりだ。

 あまり引っ張るものでもないし、シュラフスで過ごしていたら、ジギスムントでの視点以外も見えてくるだろう。

 そこから、自分なりの視点なりを見つけてくれたら万々歳といったとこだな。


 そんな事を思いながら朝食の時間は過ぎていき、俺達は再び小馬竜車に乗り込むとシュラフスを目指してボアルズでの一夜の宿を発っていった。


◇◆◇◆◇◆


 それからは特に問題もなく旅程は消化されていき、このままいけばもう間もなくシュラフスに着くとはずであった。


「そろそろ着く頃だな。…おっ!!そういやレーヴェ。お前、コイツらに何を教えるつもりなんだ?」


 さっきまで欠伸をしながら窓の外をボーッと眺めてたのに、話の種が思い付いたのだろう、突然こちらの方に話を振ってくる。

 それに自分達に関することが話題に上がったためか、ディータとクラウディアもこちらの方に意識を向けたのが分かる。


「うーん。具体的にはまだ決めてませんよ。ただ、学院では戦闘技術に重点を置いた授業をしていましたから、それ以外で考えてはいます。例えば、探索とか…ですかね」

「ほー、探索ね。それなら、シュラフスから危険領域も近いし、そこでやりゃいいんじゃねぇか?なんなら、俺も協力してやるよ」


 あんた、なに言ってんの。

 危険領域は、読んで字のごとく、『危険』な領域ってことですよ。そんな場所に生徒達を連れていくわけがないでしょうが。

 馬鹿なの?脳筋なの?ピクニック気分で行ける場所な訳がないでしょ、まったく。


「えっ、ガルクブルンナーじゃ、Aランク以上じゃなくても危険領域に入れるの?」

「ふむ。グラフベルンでも、ディータの言うように制限があったはずですが、本当なのですか?」


 そう問いかけられると、本当だと言うのが回答である。

 確かに、ガルクブルンナー全体で見れば制限が掛けられていることに変わりがないが、ある条件が整えばディータ達を危険領域に連れていくことは可能である。


 そもそも危険領域といっても、その領域全体が壁で囲われているといったこともなく、自由に領域の中に入ることは可能であるが、普通の人はそんな馬鹿なことはしない。

 また、伐剣者も命の危険があるのに、依頼以外で入ろうとする命知らずは、それこそSランク以上の伐剣者でも少数の酔狂なヤツラだけだ。


 では、ディータ達の言う制限とは何かというと、ここではランク以下の者には領域への侵入を禁止する許可制の事を言う。

 つまり、規則で禁止の網を被せ、資格を有する者にはその禁止を解いていくという制度であり、危険領域に入る者、例えば伐剣者であればギルドが、騎士であれば国がそれぞれ許可を出していた。

 そのため、伐剣者で依頼や私的利用のために危険領域に入る場合はギルドに申請し許可を求めることが必要で、それがないと最悪の場合には資格剥奪処分を受ける事になる。


 これが原則ではあるが、ガルクブルンナーではこの制度に少しの手を加えて独自ルールを作り上げ運用されている。

 そんなローカルルールとでもいう制度が出来上がるまでには、ある事件の存在した。


 十三年前の事、あるSランク伐剣者二名がAランク未満の伐剣者を連れて危険領域に入るという暴挙に出たことがあった。

 その二人は修行をつけてやるといった軽いノリで連れて入ったのだが、細心の注意を払っていたにもかかわらず魔獣の襲撃を受けてしまい、その際低ランクの伐剣者とはぐれることになったのだ。

 魔獣を討伐したときには、すでに低ランク伐剣者の姿はなく、数週間に渡って領域内を探して回ったのだが見つけることができなかった。

 そうして、失意と自分達のしでかした事態の重大さに、二名の高位伐剣者達は重い足取りで街に戻ると、ギルドに事の顛末を報告し処分を待つ事にした。


 一応、捜索に出るかという話もあったようだが、捜索対象が駆け出し同然のペーペーであること、場所が危険領域であることから、その提案は見送られることになる。

 それから、低ランクの伐剣者については特に進展もないまま時は過ぎ、ギルドに事態を報告してからさらに二週間後。

 とうとうギルド内の会議で伐剣者資格剥奪処分で話が決まるかという時になって、想像していなかった事情により決定しかかっていた話が一旦止まることになった。


 想像していなかった事情、つまり生存が絶望視されていた低ランク伐剣者が、商人の駆る鳥車に乗って街に帰って来たのだった。

 それも、ただ帰るだけでなく危険領域深部でしか採れない薬草や鉱石を持って。


 ギルドでは、というよりはこの話を聞いた者全員が驚き、その伐剣者の生存を絶望視していたにも関わらず無事に帰って来たことを喜んだ。

 そこから、この事情を考慮しながら更に会議が続き、二名の伐剣者には降格と五年間の昇格禁止及び自分達で受けるのとは別にギルドからの依頼を無償で引き受ける事といった処分が下った。

 そのついでとばかりに、危険領域に入る際の条件が新たに発表されることになる。

 すなわち、Sランク以上の伐剣者が二名以上護衛(・・)に付いている場合には、申請がなされギルドの審査を経て認められたならば、Aランク未満の伐剣者についても危険領域へ入ることを許可する…と。


 このローカルルール誕生の原因となった大馬鹿の伐剣者の名をゲオルグ・ハーンとヴァネサ・ハーンという。

 そう、俺の義両親であり、伐剣者としての師匠達であった。



 このローカルルールについて、今にして思えばおかしいな話だと分かるが、当時の俺は生きて戻れた喜びにそこまで意識が向かなかった。


 本来であれば、ギルドにも面子があり制度として広く認知されているモノを破ったのだから、見せしめ的な意味でも資格剥奪処分も考えられたのに、親父達には降格と伐剣者として見ると軽いいくつかの罰則が付いただけなのだ。

 当時から少し前までの俺は、この事に特に意識を向けることなく伐剣者として過ごしてきたが、改めて意識し直す出来事があった。

 

 ――――非公式(・・・)ながら、その危険領域『深部』での単独活動の『最長記録』、資源採取の記録を『最年少』で塗り替えたのです。

 ――――ギルド本部の方からも、お前が伐剣者を辞めようとする場合には説得(・・)して引き留めてくれと言われていた。


 言われた場面は異なれど、テオの言った言葉から推測するに、ギルドはこの非公式記録の事実と伐剣者としての将来性から、俺をどうしても伐剣者として留め置きたいと思っていたようだ。


 もし、ギルドのローカルルールが無ければ、義両親だけでなく俺の伐剣者資格についても剥奪の可能性があった。

 これが普通の伐剣者ならばなんの躊躇もしなかっただろうが、危険領域深部で長期間生き残り、資源まで採取していると話は変わってくる。


 それにギルド会議でも、ギルドの面子を守る勢力だけでなく、Sランクの伐剣者を切ることに反対する勢力もあっただろう。

 そうでなければ、義両親がギルドに報告してから俺が帰るまでの間に処分がなされないのはおかしな事なのだ。


 ギルドの面子を守りきる勢力やSランクの伐剣者を失うのはどうかという勢力の意見の対立はなかなか解消されなかったろうし、そのやり取りも一筋縄でいくものでは無かっただろう。

 たまたま面子を守るという勢力がほんの少し上回っていたところに、俺という存在が出てきたことで話がややこしくなったのではと、どうしても思ってしまう。


 とにかく、俺が街に帰ってきてから、さらに幾度かのギルド会議を経て、ギルド上層部はSランクの伐剣者二人に加えて、そんな伐剣者を切るにはギルドにとって余りにも損害が大きいと判断し、なんとかそれを回避する方向に舵を切ったのだろう。

 しかし、義両親が剥奪で俺だけが降格ないし罰則のみではあまりにも均衡を欠いた処分になってしまう。

 そこで苦肉の策として、今回の事はローカルルールが制定されてはいるが、それが発表される前に独自の判断で連れていったという、手続き違反に対する罰という話にすり替えてしまったのではないかと邪推してしまう。



 ロッホスさんからの提案に、あの時の事を熟々(つらつら)と思い返してみたが、いくらローカルルールがあるとはいえ、生徒達を危険領域に連れていくことには反対だな。

 経験しているから分かることだが、あの環境で鍛えるにはまだ早すぎる。


「ロッホスさん。やっぱり、危険領域には生徒達を連れては行きませんよ」

「過保護だねぇ~」


 やれやれと言ったような感じで返事をされるが、なんと言われようが首は縦に振らんぞ。

 だから、ディータにクラウディア。そんなに残念そうな顔をしながら俺を見てもダメなものはダメだぞ。


「ディータ君にクラウディアちゃん。レオンハルトさんは伐剣者としては、かなりの石頭の頑固者だから諦めた方がいいわよ。それよりも、そろそろシュラフスに着くから降りる準備をしましょう」


 そうベティーナが俺に微妙な評価を下しながら、二人を促した。

 いやいや、こんなもん常識的に考えればひどく当たり前だろが。

 学院を通して預かってると言ってもいい生徒達を、なんで危険にさらす事が出来るんだよ。

 伐剣者の常識?そんなもん知るか!!



 学院の教師になるためにシュラフスを離れて数ヶ月。

 ようやくというか、とうとうというか、俺はこのシュラフスの街に帰って来た。


 しかし、漠然と何をしようかという計画はあるが、具体的なものはまだ決めかねている状況だ。



 そう思うと、これから具体的に予定を立てる必要があるなと、頭を悩ませながら俺も降りる準備を開始したのだった。



―次回投稿は、7/9 18時頃を予定しています。

2017.7.9 誤字脱字等に関して修正しました。

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