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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第二章 教師生活一年目 ―夏期長期休暇
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第三話 帰路にて2 ―夜話


 俺にとっての伐剣者ってなんだろう?


 物心付いた頃には、親父は<疾風迅雷(ヴィレッツェン)>という二つ名を持ったSSランクの伐剣者として活動していたし、その親父に憧れて伐剣者を志したのを覚えている。


 つまり、俺にとっての伐剣者ってのは親父であって、単に二つ名を持つ伐剣者じゃあないんだよな。

 でも、伐剣者になってからは、アニータと一緒に二つ名持ちの伐剣者を目指して頑張っていたのだし、いつかそうなれる様に周りからも応援されていた。

 そのため、名乗る資格があるのに名乗らないということに、どうしてもモヤモヤしてしまう。

 実際に伐剣者になってみると、それが遥か高みだという事が分かるだけに尚更だ。


 大体の先生もさ、初めからちゃんと説明してくれてたら、今こうしてウダウダと考えなくてすむのに…。

 いや、話しを聞いたとしたらもっと反発してたかな?あの時は、まだ先生の実力や人柄を知らなかったし、オリエンテーションを受けずに帰っていたかもしれない。


 あー、もう。ゴチャゴチャと考えすぎだってことは分かってるのに、どうしても納得できねぇ―!!


 同じような考えがグルグルと頭の中を回っている内に、ボアルズ連邦に着いたらしく、余裕もあるし降りて休むかという話になっていたようだ。


 小馬竜車の引く屋形の中にも簡易ベッドとかはあるけれども、それよりはちゃんとした宿泊施設で寝た方が楽だし、ゆっくり考える事も出来るしと思い、先生達に続いて降りていく。



 小馬竜車のために設けられた街道沿いには、いくつかの施設が点在しているらしい。

 主に小馬竜車の御者が休むために作られたようだが、もちろん俺達も使うことができるし、小馬竜を休ませる施設も完備している。


 先生は「ホント、まんま無人パーキングエリアだな」とか意味のわからないことを呟いているが、相変わらず何を言っているのか分からない。

 本当に、ふとしたときに出る単語といい、独特な知識といい、掴み所のない人だよな。


 宿泊施設の前にある大きめの広場で焚き火を囲みながら晩御飯を食べると、みんなはそれぞれ宿泊施設に入っていった。

 その時、俺はどうするか聞かれたが、もう少し此処に居ると答えて焚き火の明かりを見つめながら考えを再開することにした。


 しかし、考えれば考えるほど泥沼に陥っている感じがして、最初から一歩も前に進んでいかない。

 そんな堂々巡りが続いていたとき、後ろから足音が聞こえたので振り返ると、そこにはロッホスという伐剣者が立っていた。


 その立ち姿には隙はなく、焚き火の炎に照らされ煌めく甲鎧の輝きは、間違いなく高位伐剣者と分かるだけの貫禄を醸し出していた。


「よう、坊主。相も変わらず、どうでもいいことに思い悩んでるのか?」


 開口一番に言われた言葉に思わずムッとすると、空に向かって声高らかに笑われる。


「ハッハッハ。男がそんな顔をしても、可愛くともなんともないから、止めとけ止めとけ。でだ、俺の質問には答えてくれねぇのか、ひよっこの坊主?」

「質問て…ああ、そうだよ!あんたの言うようなどうでもいいことに、まだ思い悩んでんだよ!!」


 半ばヤケクソ気味になったが、そう答えるとロッホスという男は素直でよろしいと笑いながら言ってきた。


「しかしなんだな。レーヴェと話しているとこを見ていたから、アイツみたいに変に礼儀正しい奴かと思っていたが違ったようだな」

「そりゃ、教師と生徒の関係もあるし、多少の礼儀をもって接するのは当たり前さ。でも、そんな関係性がないあんたには同じ伐剣者として接するつもりだけど、こんな態度は嫌か?」


 目の前の男は先生と違い、まさに伐剣者としての雰囲気と話し方をしていた。

 そんな男の口から、小馬鹿にするような口調で話しかけられると、ついつい生意気そうな口調になってしまうが、意地でもこいつに丁寧に接するものか!!

 

「クククッ。いや、悪い悪い。別にそれで構わないぞ。その方が伐剣者らしいし、言葉を秤に掛ける事なく吐き出す事が出来るのは少年の特権だ。なぁ、坊主?」

「俺の名前はディータだ。Dランク伐剣者、ディータ・ランダウだ!」

「そうか。俺はSランク<灰走り(アーシェスリーフ)>ロッホス・ベーラーだ。改めてよろしくだ、駆け出しディータ」


 Sランク伐剣者か。しかも、二つ名をキチンと名乗っている伐剣者だ。

 そんな人物からみたら、確かに俺は駆け出しかもしれない。

 でも、それを言葉に出されたまま、黙って引き下がれるか!!


 腹に力を入れながら、改めてロッホスを睨み付けるように見ていると、何が面白いのかニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。


「若さだねぇー。レーヴェのヤツに教えられてるにしてはすこぶる伐剣者らしい。いいぞ、若い内はそうでなきゃな」

「あんた、俺を馬鹿にしてるのか?!」


 褒めてんだよと楽しそうに言うと、「レーヴェから一通り聞いたが、ジギスムントでは二つ名の意味が重いんだってな」と続ける。

 意味が分からない。二つ名の意味が重いって、どういうことだ?

 

「その顔は、あまりピンときてないな。まあ、シュラフスに着くと追々分かるだろうし、それはまあいい。それより、お前の今まで考えたことをまとめて言ってみろ。多少なりとも助言みたいなことは出来るだろう」


 そう言って向かいに座ってくる。

 ただ、一人で考えてもこれ以上思考が前に進まない以上、誰かに話を聞いてもらった方がいいのだろうが、それは果たしてこのロッホスという伐剣者でいいものか。

 暫く悩んだが、今ここには他に適任者がいないためしょうがなく、本当にしょうがなく話すことに決める。


「ハァー、どんな御大層な話かと思えば、本当にしょーもない事だったんだな」


 話が終わると、聞いて損したとばかりにため息をつき、そう吐き捨てるように言われた。

 自分から話してみろ、助言できるかもと言ってながら、そんな反応をされたことで頭に血が上っていく。

 そうして思わず拳を握り腰を上げようとすると、こちらの方に手を上げてくる。

 たったそれだけの動作にも拘らず、身が固まり行動が制限された。


「頭に血が上ってはいるが、理性まではぶっ飛んでいないみたいだな。いや、上出来上出来。さて、そんな駆け出しディータ君に、伐剣者の先輩としての助言をしよう。ディータ、お前の思ってることは間違いじゃねぇ。その上でだ。その思いを持ちつつも、世の中にはレーヴェみたいな変人の伐剣者もいるってことをまず理解しろ」

「それで納得しろってことかよ!!」


 先生が変わり者っていうことは、普段から接してよく分かってるんだよ!!

 そんなもん、なんの助言にもなってねぇよ!!


「人の言葉はよく聞け。俺は納得しろなんて言ってない。理解しろと言ったんだ。理解の上に納得があり、理解するためには前提を知らなくてはならない。つまり、アイツが変人だということを知ることから始めろっつってんだよ」

「そんなの普段の授業なんかでよく知ってるよ」


 そう言うと、ロッホスはキョトンとした顔をしたした後、腹を抱えて笑いだした。

 なんだよ。俺が話すたびに笑いやがって、そんなに面白いならもっと話して笑い死にさせてやろうか。


「ヒーッヒッハ。お前、俺を笑い死にさせる気か。普段の授業で知ってるって、ダメだ。本当に死ぬ、笑いが止まらん」

「馬鹿笑いしてるけどな、あんたのいう先生が変人だっていう判断と、どこが違うってんだよ」


 そう聞くが暫くの間は返答がなかった。

 なかなか返事がないことに痺れを切らしそうになったところで、ようやく目尻の涙を拭きながらこちらの方を向く。


「あー、笑った笑った。さて、お前がひどく狭い世界でアイツの事を判断していることは分かったが、もう少し知りたい。お前から見てレーヴェはどう写ってんだ」


 俺から見た先生?


 そういや最初の印象は、伐剣者らしくない人だったな。

 俺からしたら、丁寧すぎるほど丁寧に接してきたし、俺から普通に話してくれていいと言うまで学院にいる理論系の教師みたいな話し方だった。

 そんなんで、最初は頼りないかなとも思ったが、オリエンテーションでは重ね掛けを使って格段の強さを見せたし、課外演習で見た牛魔との戦闘とかを合わせて考えると、かなりの実力者と言っていいんじゃないかな。

 人格面も、ルディの事を含めて、俺達に寄り添ってくれてるのが行動や発言の端々から分かるくらいだし、優しくていい人だよな。

 本当に二つ名を名乗っていないという、高位伐剣者らしからぬ欠点がある以外には、欠点らしい欠点は無いよな。


 そんな感じの事をまとめながら話すと、ロッホスは意外そうな顔をして聞いていた。


「なんだ。レーヴェのやつ、瞬時強化までお前らに教えていたのか。まあ、お人好しの面もあるから、それはそれで納得か」

「なんだよ。学院で学んでるんだから当たり前だろ」

「あん?ディータは、伐剣者から直接学んだことはないのか?」


 伐剣者から直接学ぶって、そういや俺は親父が伐剣者だったから他の伐剣者からは学んだことがなかったな。

 そう思って伝えると、軽く首を捻りながら答えが返ってくる。


「それなら知らなくてもしょうがないのか?いいか、普通の伐剣者は自分の奥の手とも言うべき技術は、そうそう教えたりしない。俺も弟子のベティーナに教えていない技術は多々ある。弟子が教えていない技術をどうしても学びたい場合には、ギルドにある魔術目録を読み、自分なりに試行錯誤するのが普通なんだよ」


 当たり前を当たり前と思い込み過ぎるなと、やや厳しめの視線を送りながらロッホスが言ってくる。


「まあいい。お前の話で大体の事が分かった。俺の意見は少し違うが、戦闘面については異論はないとしておこう。瞬時強化までなら俺と同程度、つまり王種なら余裕を持って討伐できるだけの強さはあるのだしな。しかし、お前の言う人格面については、単なる優しくていい人ってだけだと五十点もやれんな。そうだな…例えば俺達は、その時々によって仮面を付け替えながら生活している。レーヴェで言うと、さしずめ今は教師の仮面ってとこかな」


 仮面を付け替えてながら生活しているか。

 確かに、職業だけじゃなく、自分の地位や対峙する相手によって接し方を変えるのはごく普通にやってるよな。

 そう思って頷くと、ロッホスは続きを話始めた。


「お前の言った優しくやいい人ってのは、この教師の仮面を被ってるレーヴェを見ての評価だ。だが、個人の人物評をするには、その下まで見る必要があるんだが、この仮面は森を覆い隠す霧のように人の内面を見えづらくしていて、普通では外れることはない。ただ、絶対外れないかというとそうでもなく、仮面が剥がれ落ちることはある。それこそ、自分ではどうしようもない困難や危機に瀕することでポロッとな」


 ロッホスの語り口に、意識せずに喉が鳴る。

 続きは、続いて一体なにを言おうとしているのか。

 そう思って視線で訴えかけていると、閉じていた口が開いて…。


「とまあ、そういう訳だから、仮面がポロッと落ちるその時が来るまでレーヴェに張り付いて人柄なんかを見てればいいんじゃねぇか。そうすりゃ、アイツが変人と分かって、ディータの二つ名云々の考えが小さな事だって納得できるさ」

「なんだよ。教えてくれるんじゃないのかよ!!」

「ハハハ。直ぐに答えを求めるのは良くないぞ坊主。それに、あくまでも、これは俺が持った印象であって、お前のとは違う可能性もある。その時に、余計な情報を持ってたんじゃ引っ張られるだろ?」


 ひどく肩透かしを食らった気分になっていると、それを見たロッホスはニヤリと笑うと、話は終わりだとばかりにそのまま立ち上がった。

 

「さて、そろそろ休むとするか。お前も来い。これ以上、ここにいても無駄だから、さっさとベッドに入って寝るぞ」

 

 腕を捕まれ無理矢理に立たされるが、確かにロッホスの言うとおりだ。

 そう考えて、ロッホスに続いて宿泊施設に入っていく。


 悔しいが話を聞いてもらったことで少しはスッキリしたのだろうか、ベッドに横になるとゆっくり寝れそうだというと気になる。

 


 眠りに落ちる直前、ロッホスが言ったような仮面が剥がれ落ちることはそうないだろうし、まずはシュラフスでの先生を見て、自分の考えをまとめ直そうと決める。



 こうして、夏期長期休暇中の目的を一つ定めると、静かに眠りに落ちていくのだった。




―次回投稿は7/7 18時頃を予定しています。

2017.7.29 ルビになっていない箇所の修正をしました。

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