第二話 帰路にて1 ―説明しよう
『帰路にて』は二話で構成された話です。
『帰路にて2』は明日の同じ時間に投稿します。
あまりに予想外の人物の登場に戸惑っていると、大声で笑いながら肩を叩かれる。
「ハハハ。なんて顔をしてるんだレーヴェ。そんなに俺に会えたのが嬉しいのか、んん?!」
いや、確かに懐かしい顔に会えたのは嬉しいが、ここで会えたということに何らかの作為を感じるんだよな。
何故って、ロッホスさんのランクはSランクに留まっているが、戦闘能力だけならSSランクの実力はあるし、ぶっちゃけると瞬時強化を使ってやっと互角というとこだ…と思う。
「先生。その人だれ?」
「おお、お前の生徒達か?事務長から話を聞いた時は、半信半疑だったが本当に教師をしてたんだな」
さらにバシバシと肩を叩かれるが、どうして半信半疑なんですかね。
そこのところを詳しく聞こうと口を開きかけたが、何故か生徒の前で突っ込んで聞くことに危機感を覚える。
これはまたの機会にした方がいいなと考えると、ふぅとため息を吐いて生徒達に目の前の人物が誰かを説明することにした。
「この人はロッホス・ベーラーといって、シュラフスの街の先輩伐剣者に当たる人だ」
「おう。ただいま紹介に預かったロッホスだ。ここまでの護衛とシュラフスまでの雑談相手と思ってくれていい。よろしく頼むぞ」
いやいや、なにを言ってんですか。
帰り道もちゃんと護衛をしておいてくださいよ、ギルドからの依頼でしょ。
「まあ、そういう訳だからそろそろ行こうか。このまま此処にいると凄く疲れるしさ」
「あん?ジギスムントに来てから、お前も言うようになったな」
この性格は昔から変わらないでしょ!!
しかし、ここで言い返したのではロッホスさんのペースに巻き込まれかねない。
そう判断し、それ以上の事は言わずに、適当に相槌を打ちながら進んでいくと小馬竜車が見えてくる。
遠目にもその巨体が見える位置にまで来ると、生徒達もこれから何に乗ってシュラフスに行くか分かったようで困惑していた。
「えっ、先生さ。もしかして、小馬竜車に乗って帰るの?本当に?」
「おう。ディータの想像通り、小馬竜車に乗って帰るぞ。あれなら、ライナックより速いだろ」
「しかし、ハーン教諭。小馬竜車は普通はよほどの大事に使われているのではないですか?それとも、ガルクブルンナーではこのような事にも使えるほど、小馬竜の増産に成功したのですか?」
いや、そんな話は聞いたことがないな。
今も昔も、小馬竜の飼育は困難なようで、一定数をなかなか超えれないはずだ。
念のためロッホスさんにも尋ねるが、俺の考えたような回答が返ってくる。
「えっ。じゃあどうして…」
「坊主。そういう細かいことは乗ってからじっくりと聞けばいいじゃないか。小馬竜車での移動といっても、三日ほどかかるんだし、きっと教えてくれるさ。なぁ、レーヴェ先生」
そうニヤニヤしながら俺に言うと、自分はさっさと行こうぜと先を歩き出していった。
絶対楽しんでるよな、あの野郎。
生徒達はどういうことかと更に聞きたそうにはしていたが、確かに小馬竜車に乗ってからでも遅くはないと思い直したのか、揃ってロッホスさんのあとに続いていく。
そうして、小馬竜車に近づくと、御者台から人影がサッと飛び降り、俺の前にやって来る。
「お久しぶりです、レオンハルトさん」
「あれ?確か、ベティーナだったか。久しぶりだな、君も来ていたんだ」
「はい、ロッホスさんのお目付け役として、事務長に付けられました」
目の前に立つ少女、そう言ってはもう失礼かな?
とにかく、この女性はロッホスさんの弟子で、名をベティーナ・ザイツといい、俺がジギスムントに発つまではCランク伐剣者として活動していた。
そう記憶にある通り生徒達に説明するが、腰に片手をあて指を振りながら訂正を入れてくる。
「チッチッチッ。もうレオンハルトさんが知ってる頃の私じゃないんですよ。レオンハルトさんがジギスムントに行っている間に、なんとBランクに上がっちゃいました!!」
そう言うと、両手を上げて天を仰ぐ決めポーズをとる。
なんだろう、アルファベットのYのような形をしているのが面白く、プッと吹き出してしまった。
「おお、もうBランクに上がっていたのか。それは、おめでとう。しかし、頑張ったんだな」
「師匠が鬼ですからね。早く俺に追い付いてこいと、せっついて仕方なかったんですよ。とにかく、ここまでは順調に来れましたし、この調子で師匠にもレオンハルトさんにも追い付いて見せますよ」
満面の笑顔でグッと親指を突き出してそう宣言する。
これは、大分前に俺が見せた仕草で、ロッホスさんやベティーナなど一部の伐剣者は気に入って使ってくれていたことを思い出し、少し懐かしくなる。
ただ、Bランクのベティーナが俺に追い付くと言ったことで、さっきからモヤモヤとした物を持っている生徒達は、今度こそ何か言いたそうに俺の顔を見ていた。
「さあさあ、とにかく積もる話は後にして、とりあえず乗っちゃって下さい。早速、ガルクブルンナーはシュラフスの街に帰りましょう」
そんな生徒達の心情を知ってた知らずかそう言って、俺達を小馬竜車の引く屋形に乗せると、ギルド職員の御者に声をかけ自分達も乗り込んでくる。
とりあえず荷物を置いて、備え付けられている席に座ると、タイミングよく小馬竜車は進み始めた。
◇◆◇◆◇◆
テーブルの上に置かれたコップから、中に入った氷の音がカランと鳴る。
ジギスムントのを発してから、ベティーナが気を利かして入れてくれたお茶を飲みながら一息つくと、話をしたくてウズウズしている生徒達の方を向く。
「あー、聞きたいことがあるならなんでも聞いてくれていいぞ」
そう水を向けると、待ってましたとばかりに話始める生徒達。
「色々と聞きたいこともあるけど、まずはこれかな。先生さ、いったい何者なの?」
「何者って、伐剣者兼ジギスムント帝立学院の戦闘技術の教師だろ」
それ以外にはないだろうに、なにを今さら当たり前の事を聞いているんだ。
多少…いや、かなりの割合で違うと分かってはいるが、ディータの質問に対する回答としては合ってるだろう。
「ククク。全く変わらねぇな、お前も。コイツらが聞きたいことは、そんな事じゃねぇだろうに」
「そうですよ。分かってるのにそんな回答するなんて、酷くないですか?!」
横で聞いていた二人に、そうダメ出しをくらってしまうが、俺自身どういう順番で説明すればいいのか、生徒達が何について聞きたいのかよく分かっていない。
そのため、ディータの質問にストレートに返したのだが…もっと具体的に聞いてくれれば別の答え方もあるんだけどな。
「ふむ。では、先程ベティーナ殿がハーン教諭に追い付くと言っていました。彼女はBランクということらしいですが、教諭のランクを教えてもらえますか?」
少し考えて自分の疑問を点を見直したのか、クラウディアがそこから聞いてくる。
なるほど。生徒達の疑問の肝はそこか。
「俺のランクはSSだ」
「はぁ、でも、だって。そうだ、ドァミバーズに行くときに燃え尽き状態になったって言ってたじゃない!!えっ、もしかしてあれって嘘なの?」
おー、雑談の中で出てきた話題だろうに、よく覚えているな。
そう感心していたのだが、生徒達の目は真剣だった。
これは、俺がはぐらかしたり、適当な事を言うと今までの信頼関係が破綻するな。
そう判断すると、この燃え尽き状態の事から順を追って話していくことに決め、まずはディータの質問に答える事にする。
「いや、嘘じゃない。俺が燃え尽き状態、伐剣者の仕事に疲れたっていうのかな。そう言う状態になっていたのは本当だぞ」
そうキッパリと答えると、生徒達は唖然とした顔になる。
どうやらテオも言ったように、この燃え尽き状態になるのはBランクの者が圧倒的で、それ以外にはその下のランクの者が少しいる程度なため、最高位のSSランクの伐剣者がなったことが心底意外だったようだ。
「プププッ、いや悪い。シュラフスの街のギルドで聞いたときも面白かったが、本人の口から聞くのは更に格別だったようだ」
「本当ですよね。この話を聞いたときは、まさかと思って自分の耳を疑いましたもん」
そこの外野二人うるさいよ。
全く、こっちは真剣な話をしているんだし、少し黙っててくれないかな。
そういう遺志を込めて軽く一睨みすると、「おお、怖い怖い」とおどけた反応が返ってくる。
あー、もういいや。ロッホスさんの相手をしていると話が進まないし放っておこう。
一つ咳払いをして、生徒達の方を向くと話の続きを語り始めることにした。
俺がSSランクにも関わらず、燃え尽き状態になったことは話した。
そうすると、次に話すのはなぜ教師になろうかと思ったのかだが、それについては偶然に募集の紙をギルドで見つけたからという他ない。
まあ、その前にさんざん他の職業を当たっていたのだが、色好い返事をもらえなかったという事情があるにはあるが、そこは省略しようかと思う。
「君達が持っている疑問、この場合は不審の方が適切か。とにかく、その不審を解消するために、一から順を追って説明しよう」
俺がシュラフスのギルドで教員募集の用紙を見つけ、親しくしている受付嬢や事務長を通じて離籍届けをもらい、面接のためジギスムントにやって来たこと。
ジギスムントのギルド本部で、ギルドマスターのアロウズさんやクララさんの助言で、二つ名がない状態が不味いので暫くの間は伏せておく方針にしたこと。
また、学院でもそれは同様だったが、シュラフスの街でキチンとSSランクの伐剣者として実績を積んできているので、それを説明すると納得してくれたが、ジギスムント特有の理由から俺の紹介は優秀な伐剣者とするに止めたこと。
ただ、SSランクの伐剣者とはいえ、一伐剣者が小馬竜車を使えることについては、ギルドと学院の契約上の秘密として、君達には話すことが出来ないということにする。
これらを、俺の主観も交えながら話していくと、生徒達から俺に向けられる不審さは消えていくが、今度はなぜ二つ名を名乗らないのかと不思議がられた。
まあ、そう思うよな。
もはやお約束と言ってもいい展開なんだが、色々と考えてはいるのだが、相手を納得させれるような理由は思いついていなかった。
「えー、なんと言いますか、その…理由は特にないんだよね」
恥ずかしかったという理由以外だと、本当に何もないのでこのように言うことにする。
ただ、自分としては割りきっていたつもりでも、微妙に声が上ずり敬語になってしまった。
「理由はない。…普通は考えられませんが、ハーン教諭は普通ではないということで、一応納得しておきます」
クラウディアの言い分に、何か貶された気分になるが、それで納得してくれるなら、今のところは良しとしておこう。
しかし、一方のディータはなかなか納得できていないようで、難しそうな顔をしながら黙り込んでいた。
あー、以前学院長も、ジギスムントで二つ名がない事は受け入れられにくいと言っていたし、ここは暫く静観した方がいいのかな。
そうして多少の気まずさを残して、キルジオンを抜けボアルズ連邦での一日目の夜を空かすことにするのだった。




