第一話 帰郷・準備・意外な出会い
お待たせしました。
本日より、第二章が開始します。
前期の終わりとともに、ジギスムント帝国は夏の季節を迎えていた。
俺が、ガルクブルンナー王国から教員の面接のためにやって来た頃は春だったことを考えると、時間が経つのは本当に早いものだと感じる。
それに、光陰矢のごとしとはよく言ったもので、無為の時間を過ごしたつもりはなかったが、それでもやり残したことは十分にあった。
生徒達に瞬時強化を教えるための下地作りも不十分だし、ルディの刀作りもいまだ道半ばと考えると、後ろ髪引かれる気分ではある。
しかし、ギルドとの正式な契約である義務書の存在と、心のどこかに望郷の念があるため、一度帰りたいという思いもある。
そんな、なんとも複雑な思いを持ちながらも、結局は予定通りに帝都ガルフベルンを発つ準備に勤しむことになる。
ただ、発つ準備と一言で言ってもやることは沢山ある。
まずは、生徒から預かった同意書と俺の署名入りの申請書を提出し、事務課に受理してもらうことから始まる。
それから、部屋の片付けや今回の旅程のために手配していた品物を確かめる。
一通りの準備が整っている事を確認し終えると、帝都ガルフベルンの伐剣者として在籍登録しているため、離籍手続きを執りにギルド本部に向かう。
忘れていたが、いまだ正規の手続きを執っていないので、わざわざ事務総長であるクララさんを通すことになるため、周りから不審な目で見られる。
そんな不躾な視線になんとか耐え、クララさんに手続きと小馬竜車が到着しているかの確認を取ってもらって、やっと終わったと思っていると、何故か凄くいい笑顔で手紙を渡された。
何でも、テオの奴に渡してほしいとの事だが、内容が気になる。
パッと見、ギルドの用紙や封印を使っていないことから私的なものに見える…まさか、恋文なんて事はないだろうな?!あの野郎。一体いつの間に!!
はぁ、もういいや。一通りの書類手続きは終わったし、今日はもう帰って寝よう。
あっ、でも一応ホフマイスター工房に寄って挨拶だけはしておくかな。
そうして、書類手続きしかしていないのにかかわらず、尋常じゃないほど疲れてしまい、ギルドから工房に向けて足取り重くトボトボと歩いていくのだった。
◇◆◇◆◇◆
一切の手続きが終わった翌日、旅支度を整えたであろう生徒達を学院で待つことにした。
前期の終わりに皆で集まって晩御飯を食べた際に、時間と集合場所なりを伝えておいたのだが、そろそろくるかな。
空に浮かぶ雲を見ながら、こっちでも夏の雲は岩のようなんだな等と他愛ないことを考えていると、先にクラウディアがやってるくる。
「お早うございます、ハーン教諭」
「お早う、クラウディア」
クラウディアの様子を見ると、上手くまとめられているのか、それほど多くの荷物を持ってはいなかった。
確か、母国では騎士団に所属していたこともあったって言ってたし、そこら辺で教えられたのかな?
旅装と一口で言っても、色々と難しいものである。
何しろ、前世では普段着や下着の類い、あとは細々とした物を用意するだけでよかったのだが、こちらではそうはいかない。
旅程で、どんなトラブルがあるか分からないため、普段使っている装備はもちろんのこと、いざという時のための魔術触媒や簡易食など、何が必要か考えることが求められる。
今回は、俺がある程度の用意しているとはいえ、それだけでは凌ぎきれない場合もある。
そのため、俺が伝えた情報を基に、自分には何が必要か、想定される場合にはどんなものがあるかを考え、持っていく荷物を取捨選択しなければならない。
つまり、上手くまとまっているとは、その取捨選択の判断を下す能力がすでに身に付いている事を意味していた。
もし、上手くまとめられてないようなら、助言なりするつもりだったが、クラウディアには特に言及することはないな。
そう、結論付け頷いていると、ディータが学院への道を歩いてくるのが視界に入った。
流石に、伐剣者として活動していただけあって、彼も必要な分の荷物を整えているようで、こっちに気づくと小走りになって向かってくる。
「先生もクラウディアも早いねっと、いけね。お早うございます、でした」
「お早う、ディータ。さて、これで全員といっても二人だけだが集まったことだし、そろそろ行こうか」
そう二人を促し、小馬竜車が停留しているはずの南の城門に向かうことにする。
南の城門を使うのはジギスムントにやって来たとき以来だなと考えていると、ふとあの時の若い衛兵のことを思い出す。
あれからまだ三ヶ月たらずだし、もしかしたらまた会えるかもしれないな。
まあ、俺の格好は同じだし、ジギスムントでこれといった活動を余りしていないから態度というか、反応は変わらないような気がするな。
そんな事を考えていたため、普段は何かと雑談をする俺が黙々と歩いていたのが不思議だったのだろう、クラウディアから話しかけられる。
「失礼。なにやら考え込んでいるようですが、何か問題でもあったのですかハーン教諭?」
「ん?いや、問題とかじゃなくて、俺がジギスムントに来た時のことを思い出してたんだよ。あの時も、南の城門を使ったなぁーと思うと、なんだか懐かしくってな」
俺の説明に納得したのか、クラウディアはなるほどと頷く。
もしかしたら、自分がジギスムントに来たときの事と重ね合わせているのかな?
「ふーん。俺にはまだ分かんない気持ちだな、それ」
「ハハハ。まあそうだろうな。だけども、もしかしたら近いうちにディータも分かるときがくるかもしれないぞ」
俺の言葉を不思議に思ってるようだが、その可能性はあるんだぞ。
何せ、今回の事が上手く運べば、長期休暇の度にガルクブルンナーに行くことが定着するだろう。
二回目三回目と繰り返していく度に、初めて行ったときの事が懐かしく思えてくる…かもしれない。
将来の希望的観測を語りながら歩いていると、程無くして目的地に到着する。
そうして、出国しようと衛兵に書類を見せるのだが、残念というかなんというか、あの時とは別の衛兵だった。
まあ、毎度毎度同じ人物が立っている訳じゃないよなと、学院の印章の付いた書類を見せながら手続きを進める。
「あれ、先生どこ行くの?ライナックの馬車はあっちに止まってるよ?」
手続きを終え歩き出そうとする俺を、ディータが呼び止める。
そうして、指された方を見ると確かに鳥覇ライナックが引く四頭だての鳥車が見えた。
「いや、俺達が乗るのはあれじゃないよ」
「しかし、あれに乗らないとガルクブルンナーに着くのに、かなりの日数がかかるのではないですか?」
クラウディアまでそう言ってくるが、学院からの同意書に何に乗っていくかは書いていたはずなんだが?
「おかしいな?学院からの同意書に、移動手段についてキチンと書いていなかったか?」
「同意書には、先生が移動手段についてはちゃんと用意してるので大丈夫って事しか書いてなかったよ。だからてっきりあれかと思ったんだけど、違うの?」
確かにちゃんと用意はされているけど、それはシュラフスの、ひいてはテオのやつが用意してくれてるんだけどな。
まあ、知らされていないなら実際に見るまでのお楽しみにしておくか。
「久しぶりだな、レーヴェ。迎えにきたぞ」
小馬竜車を見たときの反応を考えていると、多少笑いを含んだような声が聞こえてくる。
あれ?物凄く聞き覚えのあるような声だなとそちらの方を向くと、懐かしい顔があった。
「あれ?ロッホスさんじゃないですか。えっ、なんでロッホスさんが来てるんです」
「そう慌てるなよ。俺は単なる護衛だ。まあ、護衛としては力不足ではあるかもしれないがな」
いやいや、あんたが護衛で力不足なわけないでしょうが。
シュラフスの街のSランク伐剣者、<灰走り>ロッホス・ベーラー…さん。
―次回投稿は7/4 18時頃を予定しています。
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第二章では、伐剣者としての仕事に着目して書いていくつもりです。
大体の考えはまとまりましたが、物語が進んでいくうちに、第一章のように話が増えていくかもしれません。
そんな感じで始まる第二章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
◇◆◇◆◇◆
第一章本編についてのみとなりますが、一通り見直せたのでここに記載させていただきます。
加筆修正した話としては【一話・二話・七話・八話・二十二話】となっております。
また、いくつかの話についても、句読点の修正、誤字脱字の修正、表現方法の変更等々につき、見落としがないとは言えませんが終わったものと思います。
もしよろしければ改稿した物語もお読みいただけると、作者はこういう事が言いたかったのかと思っていただけるのではないでしょうか。
―ご意見ご感想をお待ちしております。




