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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
序章 そうだ!!教師に転職しよう
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第四話 俺と親友と妹分と

 この話が序章の最終話となります。


「そして、最後の書類は誓約書だ」


 聞き慣れない単語、特に誓約(・・)という、いやに重たい言葉に慌てて確認する。


「誓約書ってなんだよ。そんな書類、見たことも聞いたこともないぞ」

「それはそうだ。さっきも言ったように、これらの書類はお前に対する罰則的な意味合いで、新たに作成したものだからな」


 くっ、そう言えばそんなことを言っていたな。


「話を続けるぞ。この誓約書は長期間街を離れることをギルドが認める代わりに、義務書に従って戻ってきた伐剣者ブレイバー教える生徒がいない(・・・・・・・・・)場合には、そのランクに見合う依頼のみ(・・)を受けることをギルドに誓約するものだ」


 その言葉に俺は青ざめる。


 何故って、俺は最高位のSSランク。そのランクに見合った依頼はキツいものが多く揃っている事を身をもって知っている。

 しかも、戻ることになる夏と冬は恐ろしく難易度が上がる時期でもあった。そんな時期に、誓約書に従って依頼を受けていたのでは、それこそ命を削りながら生活するようなものだ。


 そう判断した俺は、書類を奪い帝立学院の教員になるという話を無かったことにしようと動く。

 しかし、それを予想していたのか、テオは書類を丸めて纏めると横に座るカティに渡した。


 ちくしょう。読まれてたのか。


「お前は思っていることがすぐに顔に出るから読みやすい。それに、付き合いも長いから行動もだいたい予測できるぞ」


 笑いながら声をかけてくるのが憎たらしいが、それよりもこの話をなんとか無かったことにしなければ。


「なあ、テオ。やっぱり、この話はなかったことにしようと思うんだ。俺はSSランク伐剣者としてこの街に居るべきだと思うしな。という訳で、カティ。燃やして灰にするから、その書類を渡してくれないかな」


 そう言ってカティに手を伸ばすもするりとかわされた。

 あれ、カティさん??


「お兄ちゃ…事務長の許可がないと、ギルド職員である私は事務長直々に作成された書類を伐剣者に渡すことはできません」


 そう言うと、カティは俺の方を見てニッコリ笑った。

 ここまで清々しい笑顔を見たことがなかった俺は固まってしまい、それを見たテオは心底楽しそうに笑い声を上げる。


「ハハハハハッ!!さしもの、SSランク伐剣者レオンハルトと言えども、カティから書類を奪うことはできないか。まあ、諦めろ。事務長の決裁印が押されれば、それは最早ギルドにとって正式な書類になる。どれぐらいの期間になるかはお前次第だが、契約がなされた以上、お前が帝立学院とやらに行くことは決定事項だ」


 ああ、伐剣者生活をやめれると思ったら伐剣者兼教師になるとは…どこで間違えた。

 そう項垂うなだれた俺を前に、テオは話を続ける。


「ふむ、この募集用紙には面接があると書いてあるな。学院の始業に間に合うか分からんが、ジギスムントには早くいった方がいいか。王都のギルド本部の承認を受けるとなると…よし、二日後にはこの街から一緒(・・)に発つから用意しておけよ。」


 もうどうにでもなれと、自棄になりながら頷く。


 ちくしょう。しばらく、テオの顔なんて見たくないのに、ジギスムントまで小馬竜車に揺られながら一緒に行くなんて最悪だ。

 …ん?テオと一緒に行く?


「ちょっと待て!!なんで、テオも一緒に行くんだ!!」


 勢いよく顔を上げ、テオに食って掛かる。

 俺は焦ってるのに、テオやカティは呆れたような視線を送ると、あからさまにため息を吐き出した。


「本当に分からないのか?」


 テオの呆れた声が聞こえるが、分からないものは分からない。

 首を捻っていると、カティまで「レオンハルトさんらしいです」と呆れながら呟いている。


 テオは一つ咳払いすると、俺の方に指を二本立て説明を始める。


「理由は、大きく分けて二つある。一つは、今ままでにないギルドの取組みであるため、学院の学生を希望者だけとはいえこの街に連れてくるのだから学院側に説明し了承を貰う必要がある。これは、責任者の私が直に行く必要があると判断した。そうして、もう一つの理由は、お前だレーヴェ」


 テオの口から理由が語られると、なんとも複雑な気持ちになった。

 

 それは、俺の伐剣者タグに関するものであった。


 Aランク以上の伐剣者が、二つ名を名乗るのは以前語ったと思う。二つ名は伐剣者の名誉と言われるぐらい重要視されている。今までの伐剣者達は例外なくAランクになると同時に二つ名の申請をしており、二つ名を名乗らないAランク以上の伐剣者はいないとさえ言われている。


 しかし、俺はなまじ前世での一般常識があることから、二つ名を名乗る事に違和感を感じ、申請を躊躇ためらっていた。

 有り体に言えば、二つ名を名乗る事が恥ずかしかったのである。


 その結果、名乗るタイミングを外した俺は、SSランクになった現在に至るまで二つ名を名乗っていない。つまり、俺のSSランクの証、白金プラァティンの伐剣者タグには今でも二つ名が刻印されていないままである。


 二つ名を名乗らないSSランク伐剣者。

 二つ名を名乗る事は自己申請で、建前上は伐剣者の自主性に委ねられているとはいえ、俺を除くAランク以上の全ての伐剣者が二つ名を名乗る世界では異端なのは俺の方。


 ジギスムントに行くためには二三(にさん)の国を通る必要があり、通行を求める際、そんな胡散臭い伐剣者タグを持つ俺は、本物であるとの事実を確認するまで留め置かれる可能性があるとの事だ。


 今までこの伐剣者タグが問題にならなかったのは、ここシュラフスのギルドや衛兵が幼い頃から俺を知るものばかりで、偽造したタグではないという事を皆が知っていたためらしい。


 また、この伐剣者タグは学院で面接する際にも問題となる。


 真っ当な教育機関、ましてや帝立と名の付く学院が、そんな怪しい人物を雇い入れるとは到底考えられない。

 そのため、俺という人物を保証することを求められた時、対応できるようにしておくためだそうだ。


 以上が、テオが一緒にジギスムントに行く理由であった。

 

 しかし、俺はテオの口から語られた理由になかなか納得できないでいた。


「なあ、テオ。それって、新しい試みの事や俺の事を、お前が一筆書いてくれたらそれで済むんじゃないのか。そんで、学院の返事は、お前に送って貰うようにすればいいじゃないか」

「お前は、全く知らない人物が書いた情報を簡単に信用するのか?」


 ああ、そうか。そりゃ、信用できないよな。バッサリ切られちまったよ。


「でも、俺が怪しいことには変わりないんだし、テオと一緒に行ってもそれは変わらないんじゃないか?」


 そう、テオが一緒に行ったとしても、俺に二つ名が付くわけでもない。

 それなのにどうするつもりだ?


「そうだな…お前が今からでも二つ名を名乗るのが一番手っ取り早いがどうだ?」


 嫌なことを聞いてくるなよ。二つ名を名乗るつもりならとうの昔に名乗ってるよ!!


「その顔は嫌なんだな」

「えー、この際だから二つ名を名乗っちゃいましょうよレオンハルトさん。なんなら、私がレオンハルトさんのために温めておいた二つ名を使ってください」


 カティが温めておいた二つ名!?

 いや、待て。早まるなレオンハルト。落ち着け、落ち着くんだ。


「あー、カティ。気持ちは嬉しいんだが、まだ二つ名を名乗るつもりはないから…その、ごめん」


 そう言うとカティはガッカリしたように俯いてしまった。

 うぅ、今日はカティを落ち込ませてばかりだ。ジギスムントに行くまでに、なにかお詫びをしなくちゃいけないな。


 そう思っていると、テオから声がかかる。


「お前が、二つ名を名乗るのを嫌がってるのを知っているから私が付いていくのだ。ギルド職員にも身分証はあるし、それが事務長のものであれば非常に高い信頼性を有しているからな」


 身分証があるのは知ってるが、事務長のものはそんなに信頼性があるのか?

  

「その顔はよく分かっていないというところか。まあいい。取り敢えず私を信用して安心して準備をしていろ」

 

 さっき騙されて色々な書類にサインしてしまったから、どうしても信用しきれないんだよなと内心毒づいていると痛いことを言ってくる。


「どうだ、騙されるというのは気分が悪いものだろう?お前がカティにしたのはこういうことだ。反省して今後は絶対にするなよ」


 くっ、確かに本心を隠して言いくるめようとしたから、騙したと言えば騙したことになるんだが…いや、下手な言い訳はやめよう。

 

 ふぅ。これ以上は何を言っても無駄か。

 俺はため息を付くと、話は終わったとばかり立ち上がり扉の方に向かう。


 「そうそう。依頼完了の手続きが終わってるだろうから、報酬は受け取っておけよ」 


 後ろから聞こえたテオの言葉に軽く手を挙げ部屋から出ていった。


◇◆◇◆◇◆


 レオンハルトさんが出ていった部屋に私とお兄ちゃんが残る。


 しかし、あんなやり方をして本当によかったのだろうか。確かに、私も、レオンハルトさんに騙されたと言えば騙されたが、お兄ちゃんがしたのに比べれば悪戯程度のものでしかない。


 それに、お兄ちゃんはレオンハルトさんが帝立学院に行くことは決定事項と言っていたが、さっきまでの話だと伐剣者にそんなことを強制する事は本来できないはず…分からない。


 そう不思議に思っているとお兄ちゃんに苦笑しながら頭を撫でられる。


 むぅ、もう十六歳で子供じゃないのに!!


「まったく、思ってることがすぐに顔に出る所はレーヴェと変わらないな。…私がなぜこんな事をしたのか不思議に思っているようだが理由はいくつかある」


 そう言うと理由を教えてくれた。


 なんでも、レオンハルトさんが伐剣者を辞めようか悩んでいたのは商人や工房の人から聞いて以前から知っていたらしい。

 そこで、今日聞いた内容から燃え尽き状態とわかった事でシュラフスの伐剣者から離してリフレッシュさせることにしたそうだ。


 さらに、リフレッシュ場所として、帝立学院というものよかったらしい。他国とはいえキチンと居所がわかることから、突然伐剣者を辞め、ふらふらと旅されるよりかは遥かにマシであるとお兄ちゃんは判断したようだ。

 そこで、強制と言い切って他の選択肢を潰したらしい。


 また、義務書や依頼書を作ったのは、シュラフスに定期的に顔を見せに帰って来いというなんとも可愛らしい理由だった。

 そのついでに学院生も一緒にシュラフスの街で過ごさせることによって、あわよくばこの街の伐剣者になってもらおうという狙いも含んでいるとかなんとか。


 とにかくそんな理由なら安心だ。

 あれ?じゃあ誓約書はなんのために作ったんだろう?


「ああ、誓約書については、さっきの言葉通り、ギルド職員を騙そうとしたSSランクの伐剣者に対する罰則ペナルティだ」 


 さっきも、罰則と言っていたが、あれは本当にそのままの意味だったのか。


 うーん、やり過ぎなきもするが、新人職員である私にはどうすることもできない。


 しょうがない。



 戻ってきたときは、私も敏腕(・・)受付嬢として精一杯お手伝いするから頑張ってきてね。レーヴェお兄ちゃん!!



 これにて序章が終わり、次話から新章が始まります。

 そして、タイトル通りようやく待望の教師生活も始まる事となります。


 序章は、必要な設定を"折角なので物語形式で書こう"との計画の下で書いてきましたが、やや詰め込みすぎたため一話一話が長すぎることになってしまいました。

 新章では、この点を含めて注意し、より面白い話を書いていく予定です。


 また更新ペースですが、これからは最低でも週に一話と物凄く低い目標でやっていこうかと思っています。

 もしよろしければ、これからもお付き合いくださいますよう、よろしくお願い致します。


 最後になりましたが、ここまで読んで下さった皆様に深く感謝申し上げます。


―ご意見、ご感想をお待ちしています。


◇◆◇◆◇◆

 2017/4/4に、序章第一話を以前掲載していたものを骨子に大幅に改稿しました。少しは、物語として読みやすいものになったのではないかと思います。

 2017/4/4以前に読まれた方は、作者の未熟さからご迷惑をお掛けしまして、誠に申し訳ありません。


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