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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第一章 教師生活一年目 ―前期
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第二十九話 授業計画と確認事項


 生徒達の元気な声を聞き、早速とばかりに授業を始める。


 まあ、授業内容としては変わらず、模擬戦やら体力向上のための走り込みを主にしてたものだが、そこに形稽古…擬きをぶちこむ事にした。

 擬きといだけあって、構えや武器ごとの基本動作を繰り返すことで、改善できる点がないかを探っていくのだが、やはり俺が形を知らないことは大きかった。


 くそ。やっぱり、体型だった流派としての動きがないから、ズレや違和感を感じにくいな。

 どうにかして、生徒達が使っている武器の形を知ること、もしくは形を作り上げる事はできないかな。

 ディータやアニータは親父さん達に習ったと言っていたし、クラウディアも母国の騎士団で模擬戦なんかを通して今の戦い方の基本は習っているはず。

 …ん?ということは、元になった対象がいるってことじゃないか。


「そうだ!!」


 こんな当たり前のことを見落としているなんて。形を習っていないという話で、先入観を持ってしまったようだ。


 俺が突然大声を出したことに驚いたのか、生徒達は形稽古擬きをやめて、こちらの方を向いてくる。


「突然大声を出してどうしたんです、ハーン教諭?」

「ああ、すまない。いや、見落としていたことに気付いて、自分の馬鹿さ加減に呆れてたんだ」


 そう答えるが、生徒達はなんの事やらという顔をする。

 

「いやな。形を知らないなら知ればいい。形がないなら作ればいい。こんな当たり前の事に気付かないなんてどうかしてたよ。そうだな、まず確実なディータとアニータ!!」

「えっ、何ですか?」

「親父さん達を紹介してくれ。今日…いや、明日でもいいから、話を通してくれないか」


 そうだよ。まず、親父さん達の戦い方を見て、それがどの程度ディータとアニータに伝わってるのか確認すればいいんだよ。

 上手くいけば、そこから形を見つけて二人に定着させればいいし、無いなら無いで親父さん達の使い方を元に形を作ればいい。


「あの、興奮しているとこ悪いんだけどさ。それは無理だよ」

「家も無理ですね」


 え?無理?いやいや、なんでだよ!

 はっ!?まさか、SSランクの伐剣者に紹介するには腕が足りないとか、先生を紹介するにはちょっととか、そんな理由か?

 くっ、結構信頼関係も構築できてきたと思っていたのに、あんまりだ。


「いや、先生さ。なんか誤解しているようだけど、家の親父、今依頼で危険領域に行ってんだよね」

「家もそうです。ディータのお父さんと一緒に依頼で危険領域に行ってるので、すぐには紹介できないです」


 あっ、そうですか。それじゃあ、無理ですよね。

 危険領域での依頼は、準備やら移動やらを含めて考えると、かなりの日数が掛かることになる。

 国外の危険領域に行っているなら、最低でも半月単位の大仕事なので、確かに今日明日にでも紹介してくれというには無理があるか。

 せめて前期の授業が始まる前から依頼を受けていて、もうすぐ帰ってくるとかならいいんだが。


「その依頼は、いつ頃終わるんだ?」

「分かんないけど、夏の長期休暇までには帰ってくるってさ」

「多分、それくらいですね」


 あちゃー、それはキツいな。長期休暇では、俺はガルクブルンナーに強制的に帰らされる事になるから、そうなると実際に会えるのは後期になってからか。


「それなら、後期に改めてお願いすることにして、次はクラウディアに聞きたい。ジギスムントにグラフベルンの騎士とかいないかな?」

「母国の騎士ですか。一応、姉上がこちらに嫁ぐとき何人かは付いてきています。ただ…」


 ビンゴ!!よしよし、ならその人達にお願いすればいいじゃないか。


「それじゃあ、その人達を紹介してくれないか」

「ハーン教諭、落ち着いてください。まだ続きがありまして、今その騎士達は、姉上の里帰りに付いてグラフベルンに帰っているところです」


 だぁー、くそったれが!!なんで、揃いも揃ってジギスムントを離れてるんだよ!!

 …いや、俺がちゃんと周りを見て気付いていたら、もっと早くにお願いできたはず。それに、今回はちょっと間が悪かっただけなんだから、落ち着け俺。


「あー、その人達も帰ってくるのは夏頃なの?」

「さぁ、それは分かりません。なにせ、ようやく動けるようになった姉上が初孫を見せに帰っているので、いつ頃戻るかまでは」


 あっ、それは長引きそうだな。初孫ってことは、向こうで大分引き留められる可能性が高いな。

 ということは、クラウディアの方も後期になってからってことか。


「そう言えば、騎士団の戦い方ってどの国でも同じなのかな?」

「どうでしょうか。うーん、言われてみればあまり変わらないような気もします」


 気もする…か。何とも判断しにくい返答がきたな。

 同じだったなら、すごく身近に最適な人材がいるんだけどな。


「聞き方を変えるな。俺の前に教えていた教師、ヨーゼフ先生かレオ先生の戦い方はどうだった?」

「そうですね………細かな部分は違うような気がしますが、大体は一緒ではないかと思います」


 そうか。なら、ヨーゼフ先生とレオ先生の戦い方を見せてもらって参考にすることもできるか。

 しかし、クラウディアと同じ騎士団に所属していた人達は夏頃に帰ってくることだし、それまで待った方が無難とも言える。

 

 うーん、ディータ達の親父さんが帰ってくる事と合わせると、後期にまとめて教えてもらう場を設けるかな。

 前期は当初の予定通り基礎訓練とハーン式走行訓練をしつつ、ルディの刀も作る取っ掛かりを掴むことに集中する方がいいのかもしれない。

 そう言えば、刀作りについてルディに一つ言っておくことがあったな。


「そうだ、ルディ。オットーさんに会いに行く時に、木刀を見せながら同じような形に作ってくれるよう頼んでみるから、その鍔付きの方を貸してくれないか」

「え?先生だけで行く予定だったんですか?あの…僕も。僕もついて行っていいですか?」

 

 ついて来るって、面白いようなことはないと思うぞ。むしろ、厄介事が待っている公算の方が高い。


「あの、僕の武器が作られるなら、始めから見てみたいと思ったんです」


 なるほど、分からなくもない。ようやく自分に合った武器が見つかるかもしれないとなったら、居ても立っても居られないか。

 それじゃあ、一緒に行くかな。待ち合わせ時間は……そういや、何時ごろ行けばいいかは聞いてなかった。

 でもまあ、昼少し前くらいなら大丈夫だろう…きっと。


「よし、それなら一緒に行くか。そうだな、十時にホフマイスター工房で待ち合わせるとするか」

「はい」


◇◆◇◆◇◆


 それから何時も通りに授業を行い、終わる段になってからルディのために用意していた竹刀袋ならぬ木刀袋をプレゼントすると、大事そうに受け取り二本の木刀を納めていた。

 それを見ていたアニータとクラウディアは、その袋の見たこともない花弁の刺繍が可愛らしいと言ってどこで購入したのか聞いてくるので、俺が縫ったと正直に答える。

 ルディの手にしているそれが俺の手縫いの袋と知ると、驚いた顔で木刀袋と俺の顔を交互に見て、嘘だろという顔になったが失礼な。


 いやいや、確かに「顔に似合わず裁縫が上手いよね」とはよく言われたが、大体の伐剣者はこの程度は出来るぞ。

 まあ、以前見たルディの魔力に合わせて桜色の布地に金糸で名前と花弁の刺繍をしたのはやり過ぎたかもしれないが、それでもそんな顔をしなくてもいいじゃないか。


 それに、刺繍も精神鍛練の一つになるし、手先も器用になるからやってみるのもいいかもなと言うと、揃って嫌そうな顔をするのだった。



 そんなやり取りをしてから生徒と別れると、教職員室に戻らず事務課の方に足を向ける。


 先程の授業で、俺は長期休暇にはガルクブルンナーに帰ることが義務付けられており、生徒の希望があれば連れていくという話だったことを思いだしたため、そこら辺の手続きはどうなっているのか確認しておこうと思ったのである。

 これには、きっちりと計画を立てて行動しなければ、さっきの形稽古の時のような行き違いが有るかもしれないという不安を持ったことが大きかった。

 万が一だが、前期の終わり辺りに生徒に打診した後、そんな話は聞いていませんなんて言われたらたまったもんじゃないし、今の内に確認して予定は立てていた方がいいだろう。


 そう思うと、気が逸ったのか、事務課に向かう足取りは幾分速まった。



 事務課は、学院内の手続きの他に学院にやって来たものが始めに訪れる場所なだけあって、正門を入ってすぐの場所にある。

 そのため、対外的に見映えを良くする目的なのか、事務課の扉は記憶にある学院長室の扉には劣るが中々に立派な作りをしているのだった。


 教員になってから事務課に訪れることは、まず無かったことなので扉に気圧され少し躊躇するが、一つ深呼吸をすると意を決して中に入っていく。


 事務課の中は、かなり広い間取りでカウンターを挟んだ奥にいくつもの机が向かい合うように並んでおり、事務職員が机に座って作業しているのが見える。

 さらに、カウンターの上には学生部‐授業履修申請‐や寮生部‐備品管理‐といったようなプレートが置かれており、どこに行けばいいかを示してくれていた。


 それに従って扉から奥の方へ通路を進んでいくと、教職員部‐書類審査・書類管理‐と書いてあるプレートが目に入る。


 ここかな?まあ、違ったら違ったで、その時はどこに行けばいいか聞けばいいかと思って声をかけることにする。


「すみません」

「はい。なんでしょうか…あれ?レオンハルト先生じゃないですか。お久しぶりです」


 同じ学院に勤めていながら、お久しぶりですとの挨拶に驚くが、そこには学院長面接の時に見た懐かしい顔があった。


「お久しぶりですね。えっと、オイレさん…でしたよね」

「そうですそうです。同じ学院に勤めてても、顔を合わせる機会が無かったので、何か懐かしい気がしますね」


 いや、本当だよ。オイレさんに会うのは、面接の時以来になるから、久しぶりに合えた知り合いのようで少し嬉しいかな。


「それで、今日はなんのご用でしょうか?」

「えっと、夏期長期休暇で私がガルクブルンナーに帰る事はご存知と思いますが、その時に生徒達が付いてくる事を希望したら、どういう手続きをするか確認に来たんです」


 あの場にいたなら話が早いと尋ねてみると、考える素振りは見せたものの、直ぐにちょっと待っていてくださいねと言って、奥の書類棚の方に向かって行った。

 暫くして、二枚の書類を持って帰ってくると、それを俺が読みやすいようにカウンターの上に置くと説明をしてくれる。


「一応、現段階ではこのようになっています」


 置かれた二枚の書類を指差しながら説明してもらうと、どうやら保護者の同意書と学院への申請書とのことだった。


 保護者の同意書の内容を要約すると、他国へ行くことになるので、ある程度の危険が発生することもあるが、それを知っても同意しますかというようなものだった。

 もう一方の学院への申請書は、教師が学院に向けて同意書と合わせて出すもののようだ。この場合は俺になるが、同意書も貰いましたので、これらの生徒を連れてガルクブルンナーに行ってくるけど、後期にはちゃんと帰ってくるよというような内容だった。


 何分、初めての試みなので、今はこれらの書類だけだが、繰り返す内にもう少し増えるかもしれないと補足されるが、もう充分な準備が整ってるように見える。


「あの、すごく準備が早いですけど、何時くらいから準備していたんですか?」

「えっと、確か面接の後すぐくらいからですかね。ほら、レオンハルト先生が、誓約書を見せたじゃないですか。あれで学院長がすごく感動してしまって、面接が終わったその足で、直接事務長に掛け合いに来ていましたからね」


 そういや、そんな事もあったな。誓約書を見せたのはテオの奴なんだが…それはまあいいとして、そこまで感動していたのか学院長!

 学院長自ら動くって事は、周りからは学院長の肝いりなんだと見られていることだろう。

 大丈夫とは思うけど、ガルクブルンナーに生徒を連れていって下手を打ったりしたら、かなり不味いことになるんじゃないか?


「あっ、それでですね。もうすぐ、これらの書類も正式に認可されるので、来週末以降でしたら、何時でも生徒さん達に伝えて、取りに来るように言っていただいて結構ですよ」


 俺が、内心でおののいていると、そう笑顔で言われる。


 とりあえず、来週末以降であれば、生徒に話しても大丈夫と分かっただけでも良しとしよう。




 そう自分に言い聞かせ、オイレさんに感謝の言葉を述べると、事務課を後にした。



―次回投稿は6/15 18時頃を予定しています。

2017.6.30 修正をしました。

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