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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
序章 そうだ!!教師に転職しよう
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第三話 書類にサインする際は、内容をキチンと確認しよう


「カティ。手続きはしないでいいので戻ってきなさい」


 突然、後ろから聞こえたやや低い声に思わず体が硬直する。


 くそっ!!カティを丸め込む事にのみ意識を集中しすぎて、周りに気を配ってなかった。

 しかし、そんな声で呼び止めるなよな。カティもビックリして固まってるじゃないか、可哀想に。


 だが、事ここに至ってはしょうがない。

 渋々後ろを振り向くと、声の主が俺の方に視線を移した。


 そこには、やっぱりというか思った通りの人物が立っていた。


 ここシュラフスのギルド事務長にしてカティの一番上の兄、そして俺の幼い時からの悪友テオ・ユンカー。

 カティと同じなのは、蒼い髪くらいなもので赤い瞳に狐目の筋骨粒々とした大男。その外見と仕事が出来る事から、気が荒い伐剣者ブレイバー達にも一目置かれる存在である。


 子供の頃は同じくらいの容姿だったのにどこで差がついた。俺は慢心も怠けてもなったんだぞ!!


 しかも、なんだその気配を消す技術の上手さは!!

 気付かない俺も大概だが、何でお前は伐剣者をやってない!!


「それで、レーヴェ。お前は、この街から離れてジギスムントで教師をするのか?」

「ちょっと待て。お前どこから聞いてた!!」


 内心で毒づいていると問いかけられた内容に驚き、慌てて確認すると、テオはニヤリと笑って目を細める。


「お前が幼い頃から兄と同様に慕っている妹分を騙し始めた時からだ。何が"ギルドが次世代育成に非協力的"だ。お前の妄想で可愛い妹が騙されるのを見逃すとでも思ったのか」


 くそぅ、ほとんど始めからじゃないか。

 それに騙したなんて人聞きの悪い言い方をするなよ。単なる方便じゃないか。

 …そう思っていると、後ろから棘のある視線を感じた。


「レオンハルトさん…私の事を騙してたんですか?」

「あっ。いや、違うんだカティ…」


 やや涙目になりながら睨んでくるカティに、慌てて言い訳をしようとするも、上手く言葉が出てこない。


「まあいい。お前がいい加減な性格なのは、今に始まったことではないしな。それと…カティ。レーヴェの言うように、所属している街の伐剣者ギルドからの離籍は事務長の決裁印がないと認められない。また、どこに在籍するかは伐剣者の自由意思に委ねられていることだ。それを、一事務員が留めるのは越権行為に当たるので覚えておきなさい」


 そうだった?!伐剣者なら、どこに所属しようが、そこから離れようが、全部自由意思で決めれるんだった。

 …あれ?それじゃあ、さっきまでのやり取りって全部無意味なことだったのか。


「でも、お兄ちゃ」

「カティ、ここでは私の事は"事務長"と呼びなさい。しかし、受付業務に携わる者が伐剣者に簡単に丸め込まれてはいけない。今回は問題のない事例だったが、これからは気を付けなさい」 


「…はい」


 カティはそう言われると目に見えて落ち込んでしまった。

 うっ、流石に良心の呵責を感じる。


「ふむ、ここではなんだな。カティ、空いている会議室はあるか」


 一人悶絶しているとテオは空いている会議室をとり、俺に「付いてこい」と言ってくる。


◇◆◇◆◇◆


「それで、何でまたジギスムントで伐剣者…学部の教師なんぞをしようと思った」


 テオは会議室に入り座ると直ぐに本題に入る。


 まだまだ、伐剣者学部というものに対して馴染んでいないのかやや戸惑った口調だったが。

 それについての回答はすでに用意しているが、それより気になることがある。そう、テオの隣で半眼で睨んでくるカティの存在である。


「その前にちょっといいか。何でカティも居るんだ?」

「お前に対する罰則ペナルティだ」


 あっ、そうですか。

 くそぅ、身から出た錆とはいえやりにくい。


「いや…な、次世代のSSランクを育ててみるってのも面白いかと思ってな」

「そうか。で、本音は?」


 完璧な回答だったじゃねえかよ!!

 何で、お前はそんなすぐばれる嘘をつく、みたいな目で見るんだよ。

 てか、なんでカティまでそんな目で見る。


「日頃の行いのせいだな。で、本音は?」


 お前は俺の心の声を聞くんじゃねぇ!!

 くそ、仕方がない。正直に答えるか。


「いや、なんと言うか…伐剣者の仕事に疲れてな。身が入らないというか、依頼に対して直向ひたむきだった頃のようには気持ちが入らないというか…」

「なんだ。今頃、燃え尽き状態になったのか」


 正直に答えたのに、テオのやつは呆れたようにこっちを見てくる。

 えっ、なにその反応。

 こっちは真剣なのに泣いちまうだろうが!!


「いいか、レーヴェ。お前のその状態は、普通ならBランクの伐剣者がなるものなんだぞ。お前のようにSSランクに登り詰めてからなるものではない」


 えっ、そうなの?

 疑問に思っていると、テオの隣でカティも頷いているのが見えた。


「まあ、そんなわけで、伐剣者業から離れてみようかと思っていた時に募集用紙が目に入ったから応募しようとしたわけだ。それに、ジギスムント帝国にはまだ行ったことがないから、どんなとこか気になってな」


 俺は胸の内にある想いをすべて吐き出す。


 そうするとテオは目を閉じ腕を組んで考え始めた。

 隣ではカティが心配そうな視線をこっちに向けているが、そんな目で俺を見ないでくれ。

 収まっていた良心の呵責がまた首をもたげてくるじゃないか。


「ふむ、そういうことなら考えんでもない。カティ、離籍届を持ってきなさい。私は決裁印と必要な書類を取ってくる」


 …暫く待つと、二人が書類や筆記具を持って戻ってきた。


 そして、離籍届を一番上(・・・)にして重ねた状態(・・・・・)で書類をめくっていき、必要なところにサインするように求めてくる。


 俺は言われた通りにサインしようとするが、書類が多いような気がして手を止める。


 以前に受けたAランクにランクアップするための試験の時は、国外に出る前に離籍届だけにサインしたはず。

 それなのに、なぜ離籍届を一番上にし、下の書類が見えないようにサインを書く部分だけめくっているのか。


 …おかしいな?

 サインの手を止めた俺の心を読んだのか、テオは「試験で国外に出るのとは、また違う手続きが必要だからな」と言ってきた。

 まあ、テオがそう言うならそうなのかとサインを続ける。


 「こんなものか。では、私の決裁印を押して契約(・・)完了だ」


 ん?今なにか危険な言葉が聞こえたような。


 内心首を捻っていると、テオが印を押し終えたのか書類を纏めながら説明を始めたため意識をそちらに向ける。


「まず、サインした一枚目の書類はこの街、シュラフスの街のギルドからの離籍届だ。そして二枚目の書類は、シュラフスからジギスムント帝国の帝都ガルフベルンまでの小馬竜ピュティック車の使用許可申請書になる。勿論、ガルフベルンからシュラフスへ戻ってくる時にも適用される」


 ん?小馬竜車の使用許可?


 

 小馬竜は魔獣の一種で、ギルドが認定する最上位に位置する竜種に分類される。


 魔獣は、その脅威度によって上から竜種、次いで王種、その下の魔種等と続いていく。

 竜種は、通常であればあり得ない程の能力を有している魔獣の総称で、前世でいうところのドラゴンを指すこと言葉ではない。


 だから、この世界では鳥竜や馬竜などの鳥型馬型なのに竜と呼ばれている魔獣が存在する。

 また、前世でのドラゴンは一般の生物から名を付けることが出来ないため飛竜と呼ばれている。

 まあ、蜥竜とりゅうがいるこの世界では、蜥蜴トカゲに翼が生えて空を飛ぶ生物なんて、うまいこと表現できないからしょうがない。


 ちなみに、SSランクのランクアップ試験は受験者であるSランク伐剣者が、二人以上のSSランクとパーティーを組んでの竜種の討伐である。

 パーティーを組むといっても、竜種の個体によっては受験者一人での討伐になる。

 その時々で、組んだSSランクの伐剣者は試験監督兼失敗したときの受験者の救護と竜種の陽動要因で、たまに依頼を達成するための仲間になるというわけだ。



 話を小馬竜に戻す。


 かつて人類が魔獣に対する幾つかの技術を編み出したことは以前語ったと思うが、魔獣―たとえば竜種のである小馬竜―の使役もその一つである。


 小馬竜は竜種に分類されていることもあって、通常の馬より巨大で遥かに優れた能力を有していた。

 最大速度は、前世でいう高速道路を走る車を遥かに越えるため、一頭でも十分な移動手段となる。その上、疲れ知らずで二日程度なら寝ずに走り続けることが出来るという。


 その有用性から、現在では通常の道の他に小馬竜の走行に耐えうる専用の道が各国に敷かれるほどになっていた。


 そんな小馬竜だが、飼育することが困難で数に限りがあることから、個人単位での使用はできず、国やギルドなどの集団単位での使用が一般的である。

 だだ、必要性が認められればギルドの事務長以上の許可によって個人でも使用することができる。

 つまり、俺個人が使う必要性があると認めたって事だよな。


 俺が、サインした書類は後三枚。

 …なぜ、キチンと内容を確認しなかったと大荒れしている内心を知ってか知らずか、テオは説明を続ける。


「三枚目と四枚目の書類だが…これは、今回レーヴェのしたことは事務員を騙る行為なので、その罰則として事務長権限で新たに作定した依頼書と義務書だ」


 『依頼書』と『義務書』ってなんだよ!!そんな、ポンポン新しい書類作るな!!

 いや、確かに今回のことは俺が悪いんだけど、そんな簡単にギルドの書類って作られないよね。

 しかも、なにやら嫌な予感のする名前だったので、すがるようにテオを見るが、そんな事はどこ吹く風といったように説明が続く。


 なんでも、ジギスムント帝立学院には前期と後期が終わると長期の休暇期間というものがあるらしい。


 これだけを聞くと、ガルクブルンナーの学園と違って、ジギスムントの学院ってまんま学校だよな。

 やっぱり、教育方針は、世界が異なっても変わらないもんだ。


 そう、変に感心しながら聞いていると、続いて語られた言葉に思わず固まってしまった。


「依頼書の内容は、その長期休暇期間中にお前が教えている生徒を、ここシュラフスの街に連れてきて、この街で伐剣者の仕事を通して教育する事を認めてくれるように学院に依頼するものだ。こっちの義務書の方は、今回の場合の対象はお前だが、必ず長期休暇期間は帰って来て、シュラフスで依頼をこなす事を義務付けるものだ」

「ちょっと、待ってくれ!!学院の生徒達を、他国であるシュラフスに連れてきて、伐剣者の仕事をさせるなんて学院側が許すとは思えないぞ。それに、長期休暇期間がどれくらいか知らないが、その度に戻ってもこの街で過ごす時間が短かければ意味がないんじゃないか?!」


 俺だけならともかく、生徒達をそう簡単に他国に連れてこれるはずがない。

 我に返ると慌てて反論するが、簡単に言い返されてしまう。


「ああ、そこら辺は大丈夫だ。連れてくるとしても、希望者だけにする旨、希望者には学院の判断で許可を与える旨を記載している。そして、その事は学院に提出する書類にも当然明記する。詳しくは分からなかったが長期休暇期間は夏が二ヶ月、冬が一ヶ月半ある…らしい。これなら、小馬竜車を使えば三日で戻ってこれるから問題はない」


 くっ、そう言われると、これ以上強く言うことが出来ない。

 苦い顔になった俺を見ながら、テオは最後の書類について説明を始める。



「そして、最後の書類は誓約書だ」


・2017.6.21 物語の前後と整合性を持たせるために、①伐剣者は自由意思で在籍・離籍出来ること②義務書と誓約書は罰則で作られたことを加筆修正しました。

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