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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第一章 教師生活一年目 ―前期
23/81

第十九話 ハーン式訓練法2 ―戦闘訓練


 限られた時間内に野外修練場を整備するというミッションを無事に終えると、パンと水だけの寂しい昼食を済ませて第三修練場に行く。


 午前中に行ったハーン式走行訓練のせいか、午後になって集まった生徒達の顔には疲労の色が張り付いているように見えるな。


「みんな。午前中の走行訓練はよく頑張った。まだ疲れが残っているだろうが、これから午後の個別訓練に入る」


 そう声をかけるも、生徒達はノロノロと顔を上げるだけで返事は返ってこなかった。


 みんな疲労困憊といったところか…しかし、さっきも思ったんだが、ルディや百歩譲ってクラウディアは伐剣者の訓練に慣れていないとしても、ディータやアニータがここまで辛そうなのは何でなんだ?

 オリエンテーションの時には、父親達から鍛えられていると、あんなに自信満々で言ってきたじゃないか。


「ディータ、アニータ。その…以前、伐剣者の父親に子供の頃から鍛えられていると言っていたけど、どんな訓練を受けていたんだ?」 

「…え?…えぇっと、走り込みと、得意な武器の扱いに慣れていく事、身体能力強化の魔術を使っての組手…ぐらいかな?」

「…私も…多分、ディータと同じです」


 いやいや、ちょっと待て。

 伐剣者の依頼は、対人戦闘や魔獣の討伐だけじゃないんだぞ。なんで、そんなに偏った訓練をしているんだ?


「なんと言うか、体力のある状態が当たり前での訓練内容だな。それに…どうも戦闘に重きを置いた訓練内容に聞こえるが、なにか理由があるのか?」

「え~と、何か言ってたような…確か戦闘技術は教えれるが、それ以外の技術なんかは個人の感覚や感性によるから教えられないって言ってたような…」


 個人の感覚によるか。

 確かにそれもあるかもしれないが、SSランクにまで登り詰めているなら、他の訓練も必要なのは分かっているだろうに、どうして限界の底上げをしなかったんだ?


「…………そういえば、何年間か前に酔ったお父さんが、お母さんと自分の子供だから分かっているけど手心を加えてしまうって、話していたような気がします。もしかしたら、ディータのお父さんも同じだったんじゃないですか?」


 不思議に思って首をひねっていると、アニータが夜遅くに偶然聞いたという内容を話してくれた。


 なるほど…な。自分の子供だからってのは、確かに理由としてはあるのかもしれない。

 前世でも、自分の子供だからと手心を加えて育てたことで、大成させることが出来なかったという話は聞いたことがある。

 そのため、教えるときには、父と呼ばさず『師匠』や『先生』と呼ばせて、肉親の情を断ち切るようにしていたんだったか。


「話は分かった。ただ、午前中にも言ったが、伐剣者は単に戦闘技術を鍛えていただけでは、Bランクで躓いてしまう事になる。限界をしり、尚且つ、それをも克服する訓練をしていくぞ。そこで、二週間に一度は午前中を走行訓練、午後からを戦闘訓練を行うことで各自の技能向上を図ることにする」


 俺がそう言うと、何故か全員が絶望した顔になり、小さく「はい」と言うと俯いてしまった。


「よし、では午後の訓練を始めるか!!各自、修練場内にある訓練用の武器で自分に合ったのを用意してくれ。それと、ルディは得意武器がないとの事だったが、何か使ってみたい武器はあるか」


 ルディに問いかけてみると、暫く考えてから首を横に振る。


 まだ決まってないのかな?それじゃあオーソドックスに剣と盾を勧めるか。いや、まずはどんな武器を使った事があるかを聞いておく方が先だな。


「ルディは、今までどんな武器を使ってみたんだ?参考までに教えてくれないか」

「えっと、普通のと大きい剣、斧……槍と弓…とか…です」


 当たり前と言えば当たり前だけど、ほぼ全部の武器を試しているのか。それなら、どの程度使えるのかを確認する意味でも、今日のところは剣から始めてみるか。


「それなら、今日のところは剣を使ってみてくれるか。まだルディがどんな戦い方をしているか知らないから、一度見て判断したい。大丈夫そうなら、そのまま鍛えていくというのでどうだろう?」

「わかりました」


 身体能力強化の魔術を使えることで、少しは自信がついたのか、コミュニケーションがスムーズに進むようになったな。このまま、うまく成長していってくれればいいが…まあ、それも俺とルディの努力次第ってところかな。


◇◆◇◆◇◆


「よし、準備できたな。みんなは今、体力や魔力がほとんどない状態にいる事と思う。その状態で、自分がどの程度動けるかを見てほしい。つまり、今の状態で戦闘するとどうなるか、それをしっかりと自覚してくれということだ」

「ハーン教諭…それは分かったのだが、どういうやり方でそれを判断すればいいのだ?まさか、この状態で教諭と戦うというのではないでしょう?」


 最後の方はお願いみたいな感じだったが、流石に今の状態で俺と戦うにはキツすぎるだろう。まあ、そのうちにやることに変わりはないが、それは今の段階じゃない。


「俺はそれでもいいんだが、今日のところは生徒同士での試合に止めておこう。まずは、ディータとアニータ、そしてルディとクラウディアに別れて戦ってみてくれ。審判役は俺がするから…そうだな、まずはディータ達から始めるか」


 そう言うと、皆は安堵のため息をつき、ディータとアニータが前に出ていき構える。

 そして、始めの掛け声と共に相手に向かっていくのだが、オリエンテーションの時に比べると、二人とも動きに精彩がなく繰り出す攻撃は単調なものとなっていた。


 ディータは木槍で突きを出すには出すが、突き自体が鈍く、その先端もブレているため狙いが粗くなっている。さらに、アニータが近づいても、一方の槍を出すタイミングがズレたことで、逆に決定打を打たれそうになって慌てて回避していた。

 一方、アニータの方も、力任せに木造斧を振るため大振りになっていることから、簡単に回避を許している。それに、接近してチャンスを作るものの、足がついてきてないため、決定打に欠き、ディータの双槍を前に攻め込む隙を見つけられずにいた。


 それから暫くは、ぎこちないながらもある程度の攻防が続いたが、双方ともに決定打を打ち込めず、そのうち足が止まると膠着状態に陥ってしまった。


「ここまでだな。双方、それまで!!」


 そう言うと、二人とも、武器を納めて息を切らしながらやってくる。


「ハァハァ…よかった。これ…も、走行訓練と一緒で、体力が尽きるまでやるのかと思ったよ」

「ん?そっちの方がいいなら、今からでもそうするぞ?いやー、そこまでヤル気に満ちていたとは、俺も嬉しいよ!!」


 ディータの軽口に、俺が意地悪く返す。それに慌てたのはアニータで、一瞬でディータ詰め寄ると食って掛かる。


「ちょっとディ!!あんた余計なこと言ってんじゃないわよ!!」

「ちょっ、アーニ。ごめん、ホントごめんて!!」


 おお!!なかなか素早い動きではないか!!

 やはり人間、追い詰められれば出来るもんだ。しかも、素の自分なのか、呼び方も口調も違っているな。


「ハイハイ、そこまでにしなさい。じゃあ、次はルディとクラウディアの番だな。双方前に出てくれ」


 もう少し放っておいてもいいが、後もつかえてることだし、二人を止めながら振り返り声をかける。

 そうすると、クラウディアが先に前に出て、それに続くようにルディも前に出る。


 ルディは、緊張しているのか体がガチガチだ。

 …そういえば、ルディが武器をもって戦う姿を見るのはこれが始めてだったな。


 さて、どうなるかと思いながら、始めと声をかける。


 クラウディアは、やはりというか木盾を前に出し防御よりの構えに出た。相手に関わらず、自分のスタイルは崩さない堅実な姿勢だな。

 一方、ルディは、剣を正眼に構えたまま動かない。ただ、体力の限界からか、剣先はプルプルと震えている。


 さっきとは、違った膠着状態になったな。このままだと、先に動くのは…


 そう思っていると、クラウディアは構えをとき、一気にルディに詰め寄り剣を振るう。それを見て、ルディも防御しようと動くが間に合わず、剣が眼前で止められると崩れ落ち尻餅をついた。


「それまで」


 ふむ、ルディは疲れからか、クラウディアの動きに全く対応できていなかったな。しかし、これではルディの剣の腕を見る事ができないし、早速相手を代えて試合を続けるか。



 そうして、相手を代えて試合を続けるが…ルディは自分から積極的に仕掛ける事はなく、ディータやアニータが掛かってくるように言われて、ようやく向かっていく。


「ルディ!もう少し、自分から積極的に動くんだ。それと、相手の目を見ろとは言わないが、視線は下げすぎず、口元くらいには固定して、それ以上下げないように意識してみてくれ」

「…は…い」 


 返事は返ってくるが、動きにはなかなか結び付いていない。それに、ルディの攻撃を見ていると、剣を叩きつけて切るという事ができていない。正確には、叩きつけた後の押し切るという部分が上手くいっていなかった。


 うーん、今が体力を使い果たした状態であることを考えても、剣を使うのはキツいか?それと、押し切ることがダメなら斧とか押し切る事を目的にした武器も選択肢から外れるな。

 あとは性格によるものか、接近しての攻撃を苦手にしてそうだし、離れて攻撃を出来る槍とかの方が、ルディには合ってるのだろうか。


 あれこれ考えるが、結局は答えは見つからなかった。授業中にこれ以上悩んでも仕方がないので、次回の体力が万全の状態を見てからにするかと一旦問題を棚上げし、生徒達の試合に意識を向け直す。


 あれから、何回か組み合わせを代えて試合を繰り返した為か、とうとう体力の限界を向かえ、へばってしまった生徒達を見て、今日はこれまでとする。



「これで、本日の戦闘技術の訓練を終わる。みんな、よく頑張ったな。今日は、体をしっかりとほぐしてから、休むようにしてくれ。それと、次回は最初から第三修練場に集まってくれ。では、解散!!」




 こうして、学院での初めての授業は、俺にいくつかの宿題を残して終わるのだった。



―次回投稿は5/25 18時頃を予定しています。

2017.6.29 句読点等の修正をしました。


◇◆◇◆◇◆

【ハーン式訓練法】

 義両親が、レオンハルトを鍛える上で確立していった訓練法。

 体力、精神、戦闘術、魔術、体術、探索術など、鍛える項目は多岐にわたり、幾つかの項目を、複合的に組み合わせた訓練となっている。

 今回、授業で行った走行訓練は、体力と精神を鍛えることを目的にしている。その後に行った模擬戦は、精神、戦闘術、体術を鍛えることを目的にしたものである。

 なお、ハーン式訓練法は、常に自身の限界まで行われる事で、現時点の自分の能力を知ることができる。

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