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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第一章 教師生活一年目 ―前期
22/81

第十八話 ハーン式訓練法1 ―走行訓練

 お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 少し間が空いたので、ルビをふり直している部分もありますので、少しは読みやすいのではないかと思います。


 ハーン式訓練法2は、明日の18時頃に投稿します。

 

 ラザフォスの街を発ってからは何事もなく、三日目の昼を過ぎた頃には帝都に帰って来ることができた。


「ようやく帰ってこれたぁ~」


 そう言うアニータに同調するように皆も頷いている。

 この課外演習では色々な事があったし無理もない。俺でさえ、帝都を囲む城壁を見ると、短いようで長かった旅の思い出が次々と甦ってくるしな。


「ホンマにレオンハルトさん達にはお世話になりましたわ」

「いえいえ。あそこで会ったのも何かの縁ですし、そんなに気にしないで下さい」


 そう返すと、キョトンとした顔をした後、微笑まれながら「縁ですか?不思議な言い方をしますね」と言われる。

 そんなに面白いかなと思い「そうですか?」と返すと、生徒達まで「そうだよ。先生は、たまに変な言い回しをするよ」と言ってくる…失礼な!!


 そんな会話を交わしながら門を通る順番を待ち、手続きを済ませると帝都の中へと入っていく。

 途中、新聞社に向かうと言うコロナさん達と、ジギスムントが誇る英雄クラウディオの像が設置されている"竜人の広場"で別れ、俺達はそのまま学院に戻り課外演習が終わった報告をして解散することにした。


「それじゃあ、次の戦闘技術の授業で会おう。場所は野外修練場…この前ルディの魔力検査をした所を予定しているからそのつもりで。後は、課外演習で疲れたろうから、ゆっくり休んで体調を整えておくんだぞ」

「はい!!!」


 皆の元気のいい返事を受けたあと、俺は報告書を書いて提出するために教職員室へ戻ることにした。


 伐剣者(ブレイバー)の時は、報告書なんて書く事なんてなかったから面倒くさいな。いや、これも教師の仕事の一部だと割りきって、さっさと書いてしまうか。

 あっ、それに楽土の大樹を触媒として加工しておかなくちゃいけないし、結構やることは多いぞ。


 そう思うと、足早に教職員室の方へと向かって行く。


◇◆◇◆◇◆


 学院に提出する書類について、書式を見せてもらいながら必要なことを書き、途中牛魔に襲われ臨時護衛依頼に発展した事や巨大に成長していた楽土の大樹の事をイリス先生に報告するなどして、ようやく次の戦闘技術の授業になる。


 野外修練場に集まった生徒達を前に、その顔を見渡すと皆やる気に満ちているようだった。


「顔を見る限り疲れも残って無さそうだし、しっかりと休めたようでなによりだ。それじゃあ、授業を始める前に…ルディ。楽土の大樹を触媒として加工したものを渡しておくぞ」


 ポケットからペンダントのように加工した触媒を出して渡すと、首からかけて肌に当たるように身に付けておくようにと伝える。

 ルディは、それが宝物であるかのように大事そうに受け取ると、早速首からかけて触媒を服の中に入れる。そうしてから、俺の方を向くと心から嬉しそうに微笑んだ。


 ふふ、ようやく身体能力強化(アクセル)の魔術を使えることが嬉しいんだろうな。とにかく、これで我がレオンハルト戦闘技術クラスも本格的に始動することができる。


「よし!!それじゃあ、今日の日程を伝える。これからは、俺が両親から受けた訓練法、云うならばハーン式訓練法を使って、君達を鍛えていくことになる。今日の午前中は、基礎訓練の一つである、身体能力強化の魔術を使った状態での走行訓練をしたいと思う。この走行訓練は、現時点での君達の限界を見せてもらう事、それを主軸を置いたモノである。ここまでで、なにか質問はあるか?」


 そう言って生徒達の顔を見るが、聞きなれない名称に戸惑ってはいるが、特に質問はなさそうだ。まあ、一度受けてみないと、どんなものかも分からないか。


「では、ディータ、アニータ、クラウディアの三人は、そのままでもいいが自分が走りやすいようにしてくれ。ルディは、動きながらの身体能力強化にまだ慣れていないのであれば装備を外してくれてもいい。それでは、各自準備をしてくれ」


 そう言うと、普段からそうしているのか武器や巨盾を背に回すと防具に固定するなどして、素早く準備を整えると俺の前に整列し直す。


「それじゃあ、まずは身体能力強化を使った状態を維持しつつ、野外修練場の外周での走り込みを行う。横一列になって俺の後をついてきてくれ」

「ハーン教諭。走り込みを行うなら、縦一列の方がいいのではないか?それに、軽くでも体をほぐしておく方が効果的だと思うのだが」


 そうクラウディアが疑問を呈すると皆も頷いている。


 フ、フフフ、フハハハハハハハッ。

 甘い、甘すぎるぞ。ハーン式訓練法をする以上、ただ走るだけな訳がないだろ。それに、ちゃんと走り込みではなくて"走行訓練"と言っているだろう?

 この訓練のために魔術触媒も用意しておいたんだから、しっかりと限界まで学んでくれ。


 内から溢れるモノの影響か、生徒達からは黒く見える微笑みを浮かべると、クラウディアの疑問に少し答える。


「伐剣者は、普段の依頼では体をほぐしてから戦闘や探索を行うことは出来ないからな。それは、騎士も同じことだろう。ここでは、実戦を意識した授業をする以上、普段からその状態に慣らしておく必要がある。後、横一列になって走るのは…まあ、とりあえずやってみればわかるさ」


 変に言葉を飲み込んだ俺に、いぶかしみながらも生徒達は横一列に並ぶ。


「そうだな…ディータとアニータは場所を交代してくれ。それと、皆もう少し横との間を取ってくれ……そうそれぐらいでいいぞ。よし、じゃあ走行訓練を始めるから、俺の後について走ってくれ」


 そう言うと、俺は生徒達の方を向いたまま"後ろ向き"に走りだした。

 それを見た生徒達は、笑いそうになるのを堪えると、俺に続いて走り始める。


 フフフ、その笑顔がどのくらい保つか楽しみだ!!


 暫く走ると、俺は身に付けている触媒に魔力を通し水弾の魔術(ワッツァゴルグ)を行使すると、水球を発現させ、まずはとディータに向かって放つ。

 威力は全くなく当たれば軽く吹っ飛ぶ程度に調整したものだが、突然攻撃されれば慌てるものだ。

 事実ディータは、慌てて回避しようとして右横を走るアニータとぶつかってバランスを崩している。


「ちょ、先生!!いきなり何するんだよ!!」

「何って、突発的な魔獣からの攻撃を模してみたんだ。走るという基本動作中に、予想外の事態が起きても、慌てずに対処できるようになる良い訓練だろ?」


 生徒達が、そんなの聞いてないと叫んでくるが、まあ話してないのだから聞いてなくて当たり前だよ。 それに、俺だけで、かつ、前方からの攻撃に限定しているんだから、それほど理不尽でもない…はず。


「いいか。危険領域だけでなく、普段の生活でも突然魔獣に襲われることはあるんだぞ。それなのに、自分だけでなく力無い人が危機に陥っても対処出来なかった、聞いてなかったと言うのか?守るべき立場の伐剣者や騎士を志している君達が?」


 そう、伐剣者や騎士は、高位になればなるほど、突然の脅威にも当然のように対処し、依頼者や国民を守る事が求められている。だからこそ、聞いてなかったなんて言葉は、下手な言い訳か自分の腕がヘボだと主張していると取られてしまう。


 俺に言われて思い出したのか、皆はグッと口をつぐんで走り続ける。

 

 皆の様子を見ると、納得は出来てないかもしれないが、理解はしてくれたようだな。

 …さて、それじゃあこのまま続けるとして、この走行訓練の"本当"の目的にはいつ頃気が付くかな?



 それから黙々と走り続け、ある時は近づきながら、ある時はフェイントを混ぜながら魔術を行使していく。

 生徒達は必死に避けながら俺について走るが、何度か魔術を行使したことで泥濘(ぬか)るんできた足元と、すでに五十周を越えて走り続けている事から、いくら身体能力強化の魔術を使っているといっても、疲労の色が濃くなってきていた。


 特にルディには、衝撃もなくスピードも遅い単なる水玉を投げているだけなのだが、それでも今にも倒れそうになっている。


 横を走るアニータはその状態を確認して心配になったのか、俺に声をかけてくる。


「先生…あの、いつまで…走り続け…るんですか?」

「ん?体力と魔力が尽きるまでだぞ」


 間髪いれずにそう答えると、生徒達の顔に絶望の色が浮かぶ。


 ようやく、この走行訓練の本当の目的に気付いてくれたか。

 そう、この走行訓練は走る事と攻撃を避ける事を繰り返し、自身の限界を迎えるまで行われる。

 単調な作業だからこそ長く続けれる上、徐々に変化する足場にも気を使いながら行動できるようになるという、正に一石二鳥な訓練方法なんだよ。


 ただ、受ける方の絶望は半端ないもので、俺も始めて受けた時はそんな顔をしてたんだよなぁ…多分。

 だから気持ちは分からなくもないけど、限界までいく事で見えてくるモノもある。

 それに、ディータやアニータは、父親達から教えを受けて伐剣者の訓練にある程度慣れているはずだし、これぐらいは知っているだろう?


 そう思って、生徒達の顔を見るも、もう少し詳しく説明した方が良さそうだったのでこの訓練がどういう目的で行われているか理由を語る事にする。

 なぜ、このような訓練をしているのかをはっきりさせておいた方が、受ける側のやる気も上がるだろうしな。



「確かに、Bランクまでの伐剣者は、体力や魔力が尽きるような状況にはまずならない。しかし、それ以上になると尽きかけの状態で行動することを余儀なくされる事が普通にある。だからこそ、自分の限界は知っておくべきだし、限界を伸ばすために訓練を欠かさない事が必要なんだ」


 事実、俺なんて体力も魔力も尽きかけの状態で、危険領域深部で生き抜いたしな…あれは、本当に地獄だった。でもな、そんな過酷な依頼がAランク以上にはごまんとあるんだよ。

 君達が、Bランクで"諦める"ならともかく、それ以上を目指すと言っている以上、これは知って尚且つ越えなければならない壁の一つなんだ。


 ……だから、そんな生気の消えた目をしてないで、しっかり走りなさい!!



 少しして生気を取り戻した生徒達に、内心安堵しながら訓練を続けていると、とうとうルディが体力と魔力の限界から足をもつれさせ前方に倒れる。

 それを見た俺は、地面につく直前に抱え上げ、そのまま背負いながらスタート地点に戻ると荒い息を吐くルディをソッと木陰に横たえた。


 息も絶え絶えなルディの額に手を置いて、癒しの魔術(ハイロン)を使いながら「よく頑張ったな。少し休んで体力が戻ったら、ここら辺を歩いて呼吸と心拍を整えておけよ」と言い、ある程度回復したのを確認してから走り続けているディータ達の方に戻って行く。



 ディータ達のところに戻ってからも、魔術を行使しながら走り続ける。

 八十周、九十周と百周が近づいてくる段になって限界がきたのか、三人とも足が止まり膝をつくと肩で息をしながら喘いでいた。

 

 約百周か…今の限界はこんなものかな?…とにかく、皆よく頑張ったな。


 そう思いながら全員に癒しの魔術をかけ、「これで、午前中に予定していた身体能力強化を使った走行訓練を終わる」と宣言し、昼食を取って午後からは第三修練場に集まるよう伝える。


 暫く生徒達はその場で休むも、すぐに疲労の残った足を引き摺りながら食堂の方に歩いて行く。

 それを見届けると、俺は泥濘んだ外周の前に立ち、火炎(フレイム)の魔術を行使する準備に入った。

 


 午後からはレオ先生が使うと言っていたが…火炎の魔術で、それまでに乾かす事が出来るだろうか。

 そう思い、少し急ぎながら、必死に泥濘んだ外周をならしていく。




 せめて、パンだけでも食べる時間は有ってくれよ。



2017.6.29 修正しました。

(句読点の削除、ハーン式訓練法前のディータ達が装備を纏っている事を前提とした表現にしました)

◇◆◇◆◇◆

【魔術情報8】

・水弾の魔術[ワッツァゴルグ]

 水を弾丸状にして飛ばす魔術。

 習熟すると、形状・大きさ・速さを、ある程度調整できる。

 

【魔術情報9】

・癒しの魔術[ハイロン]

 肉体または精神的疲労を和らげる魔術。

 危険領域での依頼をこなす上で、疲労を取り除いて正常な思考を回復させるなど、伐剣者の間では意外と重宝されている。



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