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変わり者の伐剣者  ~教師生活は思った以上に大変だ!!~  作者: 源五郎
第一章 教師生活一年目 ―前期
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第十七話 ラザフォスの街と名物料理

 今話は、ラザフォスの名物料理を食べるということで、十五話の後書きに述べたように、詳しく描写しようと書いてみました。初の料理描写(主に食べた感想など)になりますが、楽しんで頂ければ幸いです。



 鳥覇ライナックを急かしながら、今まで来た道を駆けていく。一度通った道なため、ある程度の速度を維持することが出来たためか、ドゥミバァーズ遺跡を発って数時間、日が暮れ門が閉まる前にはラザフォスの街に到着することが出来た。


 門を守る衛兵に学院の発行する教員証と課外演習の許可証を見せ、生徒達も本人であると告げる。そこには、俺と生徒達の名前が書かれており、教員証と照らし合わせることで本人確認ができるため、俺の伐剣者タグを見せる必要はないのはありがたい。

 

 俺達の検査が終わると、コロナさんとエッダさんも帝都新聞社の社員証を見せ、ラザフォスの街に来た目的を告げる。

 伐剣者のコンビがドゥミバァーズ遺跡の方から来なかったか確認するも、自分がここにいる時には来なかったので、詳しいことは分からないとの返答を受けた。


 コロナさん達と相談し、それならこの街の伐剣者ギルドに先に向かうかと決めると、門を通り抜け街へと入っていく。


 ここラザフォスは、帝都とヴィズヴァーディン辺境伯領の領都ヴェローディンへの中継地として発展した街である。そのため、この街には商人や辺境伯領を越えて危険領域に向かう伐剣者達が立ち寄るため、日が暮れた後でも灯りの付いた大通りには、多くの屋台や酒場が軒を連ね、思い思いに食事に酒を楽しむ多くの人の喧騒に包まれていた。 


 そんな中を、ライナックに引かれる鳥車はゆっくりとギルド支部に向かって進んで行った。


◇◆◇◆◇◆


「ちょいとすみません。昨夜か今日にカミラさんとドミニクさんていう帝都ギルド所属の伐剣者コンビが来んかったですか?」


 ギルドに入り、情報受付の方に行って受付嬢にコロナさんがそう尋ねる。

 しかし、直ぐには分からなかったようで、聞かれた受付嬢は「確認してきます」と奥に入っていく。


 コロナさん達に、改めて伐剣者がいなかった場合は帝都まで送るという事を伝えながら待っていると、奥からさっきの受付嬢と男性の職員がこちらの方へやって来る。

 

「お待たせしました。私は、このギルドの事務主任をしていますオイゲン・アブトといいます。お聞きになられた伐剣者の事について、確かに当ギルドに来てはいたのですが。とにかく、ここではなんですので、申し訳ありませんが二階の応接室まで来ていただけませんか」


 オイゲンさんはそう言うと言葉を区切ってこちらを見る。この人達は誰だという視線に気付いたのかコロナさんが俺達の事を紹介してくれた。


「この人達は、帝立学院の先生と生徒さん達ですわ。ウチらが、牛魔に襲われてるとこを助けてくれはったんですよ」

「そうでしたか。帝都ギルド所属とはいえ、依頼を受けた伐剣者の仕事を補助して頂き有難うございます。私からもお礼を申し上げます」


 そう言って頭を下げるも、あなた方も二階へどうぞとは流石に言ってこない。

 まあ、当たり前か。いくら俺達がコロナさん達と一緒にいるからといって、依頼とは関係のない他人に伐剣者がどうなったかまでを"ギルド"からは教えづらいよな。

 ただ、"依頼人"であるコロナさん達が、場所を選んで知り合いとの"会話"として話す分には問題ないのだが…まあ、形式や建前は大事ということだな。


 そう納得し、「俺達は、ここで待ってるから行ってきてください」と伝える。その言葉に申し訳なさそうにしながら、コロナさん達はオイゲンさんに従い二階に上がっていった。


 さてと、この間に宿屋の事を受付嬢に聞いておくか。


 受付嬢から、おすすめの宿とラザフォスの街について聞くと、生徒達の所に戻るため踵を返す。


 ドゥミバァーズ遺跡に行く時は、少しでも早く到着するために素通りしたんだよなぁ。せっかく泊まるんだし、何かラザフォスの名物料理でも食ってきたいよな。

 それに、ギルドに来るまでに良さそうな酒場がいくつもあったし、出来れば一杯引っかけていきたいんだが…


 いやいやいや、何を考えているんだレオンハルト!!お前は今、引率でラザフォスの街に来ているんだぞ。それにコロナさん達もいる中で、皆を放って夜の酒場に呑みに行こうだなんて、そんな責任感のない行動は謹まなければいけないはずだ。大体、今までそう思って、一杯で済んだ試しがないだろう!!


 …いや、でもジギスムントに来てからほとんど酒を飲んでいないし、次にラザフォスの街に来るのはいつになるか分からない。それに、安全な街の中にいるんだし、ちょっと位はいいのではないか。こう、自分へのご褒美的な物もたまには必要なんじゃないだろうか。


「ねえねえ、先生。せっかくラザフォスの街に来ているんだし、コロナさん達が戻ってきたら、名物料理でも食べに行きましょうよ」


 いつの間にか生徒達の前まで戻ってきており、やや浮かれたアニータに声をかけられた事で、内なる自分との戦いは決着をみないまま終わりを迎える。


 しかし、危なかった。おそらく、あのままだと悪魔が勝っていただろう。


「そうだな。せっかくラザフォスの街に来ているんだ。美味い飯でも食っていくか」


 俺が応えると、生徒達から歓声が上がる。


 ふふ、楽土の大樹の採取に臨時護衛依頼みたいな事もして頑張ったからな。よし、美味いもんを腹一杯食べさせてやるか。


 そう思いつつ、ギルドが珍しいクラウディアやルディの質問を受ける形で雑談をしていると、二人が降りてきてオイゲンさんと二言三言話しをするとこちらの方へやって来る。


 その顔を見ると、悲嘆にくれるているようなものではないし、雇っていた伐剣者が亡くなったという事はなさそうだ。これなら、明るく夕食に誘ってもいいよな。


「コロナさん、エッダさん。これから、ラザフォスの名物料理でも食べに行こうかと話していたんですが、ご一緒に如何ですか?」

「名物料理ですか、ええですね。ウチらは、来るときにええ店を見つけたんで、そこなんてどうですか?」


 ほう、それなら任せてもいいかな?


「ええ。あの店なら人数が多くても大丈夫でしょうし、何よりお肉が美味しいんですよ!!」


 エッダさん、まさか貴女が肉食系女子とは思いませんでしたよ。あまりに意外だったので、思わず意味の違う単語が出てきてしまう。いや、この場合でも合ってるのか。


「それなら、その店にしましょうか。案内をお願いしますね」


 そう言って、コロナさん達とギルドから出ようとすると、オイゲンさんがこちらのほうをじっと見つめているのに気付いた。


「ハーン教諭。どうかしましたか?」


 クラウディアはもちろんコロナさん達もこっちを見ていたので、オイゲンさんがこっちを窺っていた事を説明しようとするも、さっきいた場所にはもう影も形もなかった。


 二階でコロナさん達と何かあったのかな?

 まあ、食事中にでも聞いてみるかと思い、何でもないよと言って、皆の後に続いてギルドから出ていく。


 さてと、ラザフォスの街の名物料理を堪能するか!!それに、記者であるコロナさん達が勧める料理だし、これは期待できるぞ。



 そう浮き足立ちつつ、みんなと一緒に待ちへと繰り出していく。


◇◆◇◆◇◆


 案内された店は、街の中心部近くにある森の穴熊亭(もりのあなぐまてい)というレンガ造りのおしゃれな店だった。

 ここは、その外観に似合わず、引退した元Bランク伐剣者が営む伐剣者御用達の店で、ラザフォス特産の食材を使った料理が有名だという。


 店の中に入ると、外観に違わぬおしゃれな内装に、本当に伐剣者がやってる店なのかと戸惑うが、それは俺とディータだけのようで、女性陣とルディには好評のようだった。


 戸惑って動けないでいると、コロナさんから声がかかり、促される形で大きめのテーブルのある席に向かう。席につくとウェイトレスさんからメニューを渡され、何を頼もうかと目を落とし内容を確認する。


 ふむ、この店は元伐剣者がやってるだけあって、外観と内装はあれだが、値段も手頃だし何より量が多く美味そうだな。

 特に、この地方で取れた二種類の小麦粉にライ麦を混ぜて焼き上げたパンやラザフォス牛を焼いた料理、現地で取れた季節の野菜を煮込んだ―肉も入っているしポトフみたいなのだろうか?―スープが美味そうだ。


 その他にも気になったメニューを見ながら、暫く悩んでから皆が注文を済ますと、コロナさんにギルドでの事を確認する。


 雇っていた伐剣者達は、命は助かったが怪我がひどく、帝都の治療院に入れるため、先に帰らせたとの事だった。また、新しい伐剣者を付けようという申し出を断ると、その理由である俺の事を根掘り葉掘りと聞かれたらしい。


 ギルドでこっちを見ていたのはそれが原因なのかな?しかし、契約は伐剣者と依頼人の合意によって成立するから、一方が続行不能になれば契約自体が切れるはずだし問題はないはずだよな?


 そう悩むが、頼んだ料理が運ばれてくると、まあ大した理由はないだろうと結論付け、並べられていく料理の方に意識を集中させる事にする。



 まずは肉だよなと、目の前に置かれたラザフォス牛を一口分だけ切り分けようとナイフを当てると、抵抗を感じることなくスゥっと筋に沿って押し切れる。

 表面はしっかりと焼かれ、中は熱の通った赤身で肉汁が溢れるその断面を見ると思わず喉がなった。しかも、ソースにはニンニクと玉ねぎ、バターや赤ワインを使っているのか、濃厚な香りが鼻孔をくすぐって食欲を沸き立たせてくるではないか。

 そのソースを絡めて、口に入れ咀嚼すると…肉汁と合わさり、えもいわれぬ恍惚感に浸される。

 

 肉料理がこれほどならスープはどうだと、カップ型の入れ物に入った季節の野菜スープを飲む。しかし、口に一口含むと先程の濃厚な味が残っていたため非常に薄く感じてしまい肩透かしをくらってしまう。

 他の料理と合わすならもう少し濃くしてくれてもいいのに、これは期待はずれだったな。


 やっぱり肉をメインに食べるかと、再び肉を切り分けて口に入れると、先程より強くなった味と共に野菜の甘味までが口に広がる。

 そうか!!薄いと思っていたこのスープは、口の中を整え、肉料理を引き立てるためのものなのか。

 

 そう納得し、さらにスープを飲もうとすると、メニューに肉が入っていると記載されていたことを思い出す。肉はどこだと底の方を探り、見つけると野菜と一緒に口に入れる。すると、一噛みするごとに、口角が自然と上がっていった。


 ……これが愉悦…か。


 薫製されているのか、肉の旨味が凝縮された上に、薫製用のチップの旨味と合わさって噛めば噛むほど味が染み出てくる。さっきは引き立て役かと思ったが、それは明らかに間違っていて、これだけでも十分に通用する料理だった。



 そう痛感し、肉、スープ、肉と食べていくと、視線の端に注文していた薄めにスライスされたパンがあるのに気がついた。


 しまった!!!!肉とスープに夢中になりすぎて、まだパンを食べていない。


 しかし、その存在に気付いたなら食べないという選択肢は存在しない。

 早速千切って食べてみるもパサパサ感が強く、口の中の水分を取られてしまう…こういうパンにはソースにつけて食べたいんだが、その行為はちゃんとした店なんかではやりにくいんだよな。どうしたもんかと悩んでいると前の席から声がかかる。


「ありゃ、レオンハルトさん。パンだけ食べるやないてダメですよ。ちゃんと、ソースやスープをつけないと美味しないですよ」

「えっ?つけちゃってもいいんですか?」

「ここは、伐剣者御用達の店ですよ?キチンとしたマナーを求めるような店ならともかく、そんな事はここでは気にしないでいいのではないでしょうか」


 そう、スープにパンをつけながら食べているコロナさんやエッダさんに指摘される。

 そうだった。おしゃれな店だと変な遠慮が出たが、ここは伐剣者の店じゃないか。

 早速、パンを肉汁をも含んだソースに絡めてみる。パン自体に水分が少ないためか、ソースが中まで染み通っていったのを確認して口に入れる。

 一噛みする度にソースが溢れでてきて、それがパンの持つ甘味と少しの酸味と合わさって…。


 もはや言葉など不要と無我夢中に食べ進め、頼んだ料理を食べ終わるとホッと一息ついた。


「いや、本当に美味しかったですね。いい店を紹介してもらってありがとうございます」

「いえいえ、ここまでお世話になってますし、このぐらいお安いもんですわ」


 落ち着くと席を立ちつつ会計を済ませようとするが、コロナさん達が「お世話になってますし、ここは私達が出しますわ」と言ってくる。さらに、多分経費で落ちますし任せてくださいと言われると、断りづらいしここは甘えるかな。


 心地いい満足感と共に店を出ると、俺達はギルドで薦められた宿に向かい、明日に備えて眠ることにする。



 さて、帝都まで後三日程度で着くだろうし、もう特に問題もなく帰れるだろう。

 そう考えながら、満たされた気持ちで宿へと続く道を歩いていくのだった。



―色々と予定が立て込んでしまい、書く時間がなかなか捻出できないため、次回投稿は5/22 18時頃を予定しています。


 当作品につきまして、少しずつではありますが、読んで下さる方が増えてきており、物語を書いていく上で励みとなりましたこと、この場を借りて感謝申し上げます。

 また、中にはブックマークをして頂いた方もおり、この物語を少しでも気に入っていただけたこと、合わせてお礼申し上げます。


 少し間が空きますが、これからも「変わり者の伐剣者」をよろしくお願いします。


―ご意見、ご感想をお待ちしております。


◇◆◇◆◇◆

【森の穴熊亭】

 ラザフォスの街にある伐剣者御用達の店で、亭主が元伐剣者で熊のような外観をしていることから、この店の名前にしたという。

 しかし、その外観と内装に加え美味しいと評判の料理のため、伐剣者以外にも多くの人が一時の楽しみを求めてやって来る。また、奥さんと二人の息子、看板娘となる一人娘が店を手伝っているアットホームな店としても有名である。


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