第十六話 ドゥミバァーズ遺跡にて
ドゥミバァーズ遺跡
元々は、危険領域から溢れ出ていた魔獣との生存闘争を行っていた古代人が、当時の人の領域を守るために最終防衛拠点として使っていた城塞都市の一つであった。
現在でも、古代人が使用していたであろう城壁に砦がある程度残っており、周辺にも目玉となるような場所が多くあるという。中でも、花が咲き乱れる湖や古代の街道跡の残る豊かな森は観光に最適であるらしい。
まあ、伐剣者を連れてという制約は付くが、四頭だての馬車なら三日程度と帝都とも比較的近いため、ラザフォスの街に宿泊し、ここまで足を伸ばして、風光明媚なこの遺跡を訪れる価値は十分にあるだろう。コロナさんからの説明を聞きながら、目に写る景色にそう納得する。
「いやー、なんとかドゥミバァーズ遺跡に到着しましたな。突然、牛魔の群れに襲われた時は生きた心地がせんかったですが、無事につけてよかったですわ」
そう安堵の声を出すコロナさんとエッダさん。
そりゃ、魔種が出ないとされている場所で襲われたなら、さぞや怖かっただろう。
何はともあれ、目的地に着いたことだし触媒となる楽土の大樹を取りに行くか。それと、万が一と言うこともあるし、二人と行動を共にしていた方がいいな。
「コロナさん、エッダさん。俺達は楽土の大樹を採取に行きたいんだが、ドゥミバァーズ遺跡の中の撮影は後回しにしてもらってもいいかな」
「気ぃ使ってもらって、えらいすいません。森の方はウチらも撮影したいと思とりますんで、同行さしてもらいます」
コロナさん達の同意を得たところで、ライナックを遺跡内の良さげな木陰に繋ぎ、鳥車から荷物を出して必要な準備を整える。
そして、俺を先頭にしてアニータとルディ、コロナさんとエッダさん、ディータとクラウディアという順に森の中に入っていく。
楽土の大樹は、魔力を多く含んだ土壌に生育しているため、樹自体に高い魔力が宿っているはず。その魔力を手がかりに森の中を探していく。
途中、木漏れ日が踊る森や湖の回りに群生している色とりどりの花を撮影しながら、少しずつ古代の街道跡に沿って森の中に入っていく。すると、少し先に魔力が集まっているような気配を感じた。
これかな?とりあえず、その方向に向かうかと決め、後ろを歩くアニータ達に声をかける。そして、その場所に行くと、俺が見たこともないような、巨大な楽土の大樹がそびえ立っていた。
「おお、デカいな」
「本当だぁ。こんな大きい楽土の大樹なんて、今まで見たことないですよ」
アニータ達もそういっているところを見ると、この楽土の大樹はジギスムントでも規格外ってところか。
ここに、何らかの魔力溜まりでもあるんだろうか。学院に帰ったら、一応イリス先生に報告がてら聞いておこうかな。
「これは、観光の目玉になりそうですわ。ここまで大きい楽土の大樹はそうそう見つかりませんよ」
「ええ、そうですよね。でも、こんなに立派な楽土の大樹がどうして今まで話題にならなかったのかしら」
コロナさん達が感心しながらコラムの記事にする写真と内容を話し合っている。
そんな事を言われると切りづらいんだけど…まあ、必要なのはほんの少しだし、さっさと枝の先を切り取るか。
そう思い、身体能力強化と向上の魔術を重ね掛け、高く飛び上がると一閃。腰に差している刀を抜刀し、風を受け緩やかに揺れている枝の先を切り落とした。
そうして触媒に必要な分の枝を切ると、コロナさん達に確認を取りドゥミバァーズ遺跡に戻って行った。
◇◆◇◆◇◆
触媒採取や撮影という目的を果たして戻ってくると、昼頃だったこともあり、昼食をとりながらこの後の予定を確認することにした。
コロナさん達は、当初の目的通り遺跡の良さそうな場所を写真に納めるつもりのようなので、別行動をとる事になった。
まあ、遺跡の中なら、今のところ変な気配もないし危険はないだろう。それに、こっちはこっちでやることもあるしな。
そう、コロナさん達が戻ってくるまで多少なりとも時間があるので、ルディが楽土の大樹を触媒にして身体能力強化の魔術を行使できるか試してみることにする。
採ったばかりで加工してはいないが、発動できるかどうかの確認程度なら問題ないだろう。そう思い、ナイフで楽土の大樹の枝の一部を小さな四角四面になるように切り分けると、その一つをルディに渡した。
楽土の大樹の欠片を手に持つと、魔力を込めて身体能力強化の魔術を行使しようとする。その様子を、俺の記憶違いや魔術の性質が更に違っていたなどというイレギュラーが無いことを祈りながら見守る。
皆も固唾を飲んで見守るなか、ルディは触媒に少しずつ魔力を通していき……時間がかかったが、無事に身体能力強化の魔術を発動することができた。
それを見たアニータはルディに駆け寄ると、そっと抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でながら喜びを分かち合う。
今まで出来なかったことが出来るようになる。例え、周りにとっては当たり前の事でも、本人にとっては高い壁だったに違いない。その壁を一つ乗り越えたことがよほど嬉しいのか、涙を流して喜ぶアニータとルディを見ていると、手助けできたことにこっちまで嬉しくなるな。
二人が落ち着つくまでそっとしておこうかと、離れて帰る準備を始めた瞬間、俺の感覚に妙な気配が引っ掛かった。
これは…人の気配か?より感覚を研ぎ澄ませてみるも、その時には既に気配はなくなっており、生徒達やコロナさん達だけの存在しか読み取れなかった。
気のせいか?
刀の鍔に指を当て、不意の襲撃に備えながら尚も周囲の気配を探っていくが、やはり俺たち以外の反応はなかった。
暫くそうしていると、俺の様子を不思議に思ったのか、ディータやクラウディアだけでなく、落ち着きを取り戻したアニータやルディも首を傾げながらこちらの様子を窺っている。
まあ、ちょっかいを出されているわけでなし、妙な気配にこれ以上気を配ることもないか。
「せんせ。どうも、ありがと…ございました」
刀の鍔にから指を離すと、ルディは俺の方に駆け寄ってきて頭を下げると感謝の言葉を出す。それに、どういたしましてと返しながら、少しは教師らしい事ができたんじゃないかなと安堵する。
後は、自分に自信を持ってくれるといいのだが、こればっかりは焦ってもしょうがないか。
「とにかく、これで全員が身体能力強化の魔術を使えるようになったな。後は学院に帰って重ね掛けと個別目標を達成するための"猛"特訓するだけだ」
「えー!!!」
そう楽しそうに声を上げる生徒達を見ながら、学院に帰ってからの予定を組み立て、自然と頬が上がっていくのを自覚するのだった。
◇◆◇◆◇◆
「いやー、お陰さまでいい画がたくさん撮れましたわ。ウチも遺跡を実際に見たことで、より事実に則した記事が書けるっちゅうもんです。レオンハルトさん達には、改めてお礼を言わさしてください」
「私も、この子を通して可愛らしい画が沢山撮れて満足です。現像できましたら、皆さんにもお渡ししますので、是非見てくださいね」
上機嫌にコロナさんが言う後ろで、エッダさんも満足そうな顔をして魔動力映写機を掲げている。というか、エッダさんの方がはるかに上機嫌のようだ。
若干変な言葉が混じっていたようだが、…まあ、気のせいだろう。さっきの妙な気配といい、もしかしてあまり慣れていない生活だったから、気付かない内に疲れていたのかな?
そう結論付けると、二人に「そろそろ帰ろうかと思っているのですが、そちらはよろしいですか?」と問いかける。
「もちろんです。本当に、レオンハルトさん達にはお世話になりました。また、これからラザフォスの街までよろしくお願いします」
そう揃って言われたので、帰り支度を済ませると鳥覇ライナックを停めている場所まで行き鳥車に乗り込んでいく。
さらば、ドゥミバァーズ遺跡。
俺達は、実際にはあまり見れてないが楽しかったぜ。後でエッダさんが撮った可愛らしい写真とやらでその雄姿を確認するから、それで勘弁してくれよ。
友に告げるように別れの挨拶をすると、ドゥミバァーズ遺跡を後にし、一路ラザフォスの街に向かうために鳥覇ライナックを駆ってゆく。
次回投稿は、5/6 12時頃を予定しています。




