第十三話 魔術触媒
その目を見返しながら、それに応えるためにも生半可な気持ちでいたんじゃダメだなと、俺自身も覚悟を決める。
しかし、生徒達にどう応えていくべきか。俺が必要と思うものだけでは足りない場合もあるし、ましてや生徒達の理想像とズレる事になっては意味がない。
そうなると、俺が抱いた感想だけじゃなく、生徒達の目指す目標を聞いてから前期の指針を定める方がいいか。
そう結論付け話を聞いてみると、ディータとアニータ、それにルディはSSランクの伐剣者になることで、クラウディアも自国の最高位の騎士になることを目指しているとの事だった。
理想は最高位に登り詰めることか。そのためには、この三年でどれ程の技術や知識を教えればいいか…暫く考えてから、まずは未熟なところの改善と今の技術を伸ばすことから始めてみようと決めて、生徒達に今後の方針を伝える。
まず、ディータは先程の稽古の際に見せた補助的な魔術の向上を図りつつ、双槍での攻撃のパターンを増やす事を勧める。
それに対して、アニータは攻撃自体がやや大振りになっていることから、付加魔術より武器の使い方に重点を置く事にした。
次に、ある程度完成していたクラウディアは、それを伸ばす方向にした。故郷では、盾による味方の防御を担当する<守護騎士>に所属していたらしいから、どんな場合でも瞬時に防御することと攻撃や魔術の行使のタイミングを工夫することを勧める。
そして最後にルディは、まずは身体能力強化の魔術を使えるようにする事とし、その過程で得意な武器種を選別することにした。後の事はそれが出来てからだ。
すでに前期が始まっていて、長期休暇まで残り約三ヶ月強。俺も気合いを入れて教える必要があるな。
◇◆◇◆◇◆
目標を定めると昼食休憩を挟むこととする。
皆と学院の食堂に行き、少し早いため空いていた大きなテーブルに座り、質問を受けたりオリエンテーションの反省などをしていると時間が過ぎていった。
そして、午後からは、気分転換と広い空の下で新鮮な空気を吸いながらの方がルディも魔術を上手く使えるのではないかという考えから、外の運動場らしき場所で授業を行うこととした。
ディータ達はどんな風に重ね掛けを使えるかを相談するようで、大きな木の下の方に行ってなにやら話し込んでいる。
他人の意見というのも大事だし、何より自分が考えてないような使い方の発見もあるかもしれないので、まず話し合うという選択をしたのはいい事だな。
まあ、何かあれば声をかけてくるだろうし、こっちはこっちでルディと一緒に身体能力強化の魔術を使えるよう訓練することにした。
しばらく付きっきりで教えていて分かったのだが、ルディは身体能力強化の魔術の使い方、正確には魔力を触媒にキチンと通せてるように"感じる"のだ。だが、適切に魔力を触媒に通しているのに、何故か術が発動しないのである。
その状況に落ち込んでいく姿を見ると、何とかしてやりたいのに出来ないもどかしい気持ちが溢れてくる。
どうしたものか…体内の魔力になにか問題があるのかと思うが、その場合には俺には手の施しようがない。魔力に問題があるなら、俺以外の手助けが必要がだな。ジギスムントにいないなら、ガルクブルンナーの知り合いに無理を言って来て貰う方が良さそうだ。
他には……この触媒では身体能力強化の魔術を発動できないという可能性があるかな?
たまにいるのだ。魔力の性質が違いすぎるために、同じ魔術を発動させるにも違う触媒を必要とする人が。
それは当然に他の幾つかの魔術を行使する場合にも当てはまり、魔術行使のため自分に適した魔術触媒を見つける必要がある。
まあ、ルディの場合には、身体能力向上の魔術は使えるらしいから、そこまで性質が違うということもないだろう。
俺の知っている魔力の性質であれば対処できるのだが、知らない魔力の場合にはどうするか。
いや、悩むよりも先に、初級者コースの時に何か検査をしたか聞いてみる方が先か……
「先生。先生ってば、聞いてる」
思考の渦に飲み込まれていると、ディータの声が聞こえてくる。
「あっ。ああ、どうした?何か問題でもあったのか?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあったんだけど…先生こそどうしたのさ、そんなに考え込んで」
「いや、ルディの魔力について考えてたんだ。もし、それが分かれば身体能力強化の魔術を使えるようになるかもしれないからさ」
そう言うと、沈んでいたはずのルディは勢いよく顔を上げた。
「ホント、で…すか?」
「ん、ああ。本当だとも。それでなんだが、ルディは初級者コースの時に何か検査を受けたか」
そう尋ねると少し考えて首を横に振る。
あれ?何も検査してないのか?
「あんまり新しい魔術は学生には教えないし使わないよ。そういや、先生が使った強化と向上の重ね掛けってのも、こっちではあんまり広まってないんだよな」
疑問に思ってどういうことかと話を聞いてみると納得した。
ジギスムントのギルドにもガルクブルンナーから有用そうな新しい魔術の使い方の情報は幾つか入ってきている。
しかし、実際に使える者がいないから、本当にこれでいいのかは誰にも分からない。そんな不確かなものを仕事では使わないし、ましてや生徒に対して教えたり使ったりする事は安全性の面から言ってもまず無いとのことだ。
さらに、伐剣者の仕事はその魔術がなければ出来ないという事もないため、特段興味を引かなかったことも大きいらしい。
つまり、命を懸ける伐剣者達は聞いたこともない魔術行使を覚えるよりも、今現在の技術を高める方を優先しているということだ。ただ、現在ではCランク以上の伐剣者の間で、この重ね掛けに関心が高まって来ているという。
そりゃ、命懸けなら見た事もない知らない知識に頼ることはしないか。前世のRPGゲームとかアクションゲームとかを参考に幾つか出来ることを発見した俺でも、他国で開発された見た事も聞いたこともない不確かな魔術なんて怖くて使わないもんな。
…あれ。なら、検査のために必要な魔術触媒もないかもしれないよな。
いかん!!ルディに対して安易に返答して期待させてしまった。こうなったら…無かった場合にはひとっ走りして触媒自体を調達してくるか。
「なあ、みんな。俺が検査をしようと思うんだが、学院では魔術触媒をどこに保管しているんだ」
そう聞くと、魔術の先生なら持ってるんじゃないかと教えてくれる。
てことは、イリス先生か?とにかく、朝に合っているし学院にいることは間違いない。
「あー、悪い。ナイツェル先生に触媒があるか聞いて来るから、ちょっと自習しておいてくれるか?」
全員から了承を貰うと、生徒達をその場に残し教職員室に駆けていく。
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幸いイリス先生は教職員室にいて、話をすると目的の触媒があるとの事だった。それを貸してもらうと、急いでディータ達の所に戻る。
「うゃぁ!何ですかそれ!!」
「何って、検査のために必要な"兎魔の目"だよ。いやー、これは採って数ヶ月の物しか触媒に出来ないからあって幸運だったよ」
「ハーン教諭。分かった。よぉっく、分かったので早くルディの検査をしてくれ!!」
アニータとクラウディアの女性陣には不評だな。でも、学院にあるってことは、そのうち授業で使うんじゃないかな?イリス先生のコレクションって訳でもないだろうし…いや、まさかだよな。
「じゃあ、ルディ。女性陣の要望に答えて早速取りかかろう。普段触媒に魔力を通しているようにしてくれ。触媒を持っていた方がいいならそれでもいいぞ」
そう言って準備をしていると、後ろからアニータの声がかかる。
「あの…先生。出来るなら私にもその魔術をかけてもらえませんか」
振り返ると、やや不安そうな顔をしているアニータがいた。ルディの状態が姉としても気になるのかな。まあ、負担にはならないし、いいよと答えるとディータとクラウディアもかけて欲しいと言ってくる。
…こうなったら、もう纏めてかけるか。
そうして、俺の方の準備が整ったので始めてくれと伝えると、ルディは手に触媒を持ち魔力を通し始める。その状態になったと感じ取ると、兎魔の目を触媒にして可視化の魔術を行使する。
魔術によってルディの魔力が徐々に目に見え始め、暫くすると、ルディの全身を包む薄紅色の魔力が触媒の方に流れていっているのが分かった。
後ろでは、初めて見るであろう魔力に「触媒はグロいけど、ルディの魔力は綺麗」、「うむ。触媒は見るに耐えないが、ルディの魔力は美しいな」、「あれはないけど、魔力って綺麗なんだな」といったやり取りがされている。
うるさいよ!!俺も最初の頃は無理だったけど、この十数年で必死に慣れたんだよ。
そうだ!!すぐにでも兎魔の目に慣れるよう徹底的な訓練をしてやろう。俺は生徒想いだから必ず実行してお前達を成長させてやるよ。
いかんいかん。そんな腹黒い事を考えてないで、ルディの方をキチンと見ろ。
ふむ、魔力には問題無さそうだな。となると、魔力の性質の問題かな?そう思い、見えている魔力に俺の魔力を反応させてみる。
うーむ、ルディの魔力は普通よりやや柔らかい感じがするな。それに、魔力の流れが速い。これで、流れている魔力が触媒に反応しにくいのかな?
さて、俺の記憶にルディと同じような魔力の性質を持っていた人がいたかな?……あー、一人いたな。えっと、あの人の身体能力強化の魔術触媒はなんだったか。
確か、"楽土の大樹"…だったかな?!
次回は4/30 12時頃に投稿します
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【魔術情報5】
・可視化[ヴィズゥワリー]の魔術
人や魔獣など魔力を有する物に対して、その魔力を目視できるようにする魔術。主に危険領域での拠点周辺の安全確認に使われている。
ガルクブルンナーとその周辺国の一部では、他に人の魔力を目視しどのような性質などを検査したりする。また、原理は不明だが、目に見えることで自身の魔力と他者の魔力を接触でき、より詳細に性質を調べることができる。
おそらく、目に見えたことで他人の魔力を認識でき、それに触れる事ができるという意識が起こるのではないかと思われている。
【触媒情報1】
兎魔の目[ラヴィルアゥガ]
魔獣のうち、魔種に分類される大型の兎ラヴィル。雑食で慎重性格のため、相手の魔力を見て行動を決定する。
その目は魔力を視る事に長けていることから、魔力を可視化する魔術の触媒に使われる。今までラヴィルは、その大きな耳で音を聞き分け、それを頼りに行動していたと思われていたため、目を触媒にすることはなかった。そのため、可視化の魔術はここ最近開発された魔術のひとつであまり一般的でない。
触媒として使うのは目玉そのものであり、グロテスクな見た目に大きさは子供が抱えるほどなため、普及に影響を与えているものと思われる。




