第十二話 想い・覚悟・基本魔術
俯くルディを前にして俺は悩んでしまった。
こういう時になんと声をかければいいのか、前世を含めておれの記憶を探るが、まったくと言っていいほど言葉が見つからない。
くっ!!なぜ、もっと色々な経験を積んでおかなかったんだ?!
しかし、このまま何も話さない訳にもいかないし、出来ればルディの問題が解決出来るという方向で話していきたい。
そのためには、いま分かっていることを整理しながら考えてみる事から始めてみるか。
まず前提として、ルディは元々、人見知りで内気な性格なため、人と会話することを苦手としていた。
次に、魔術を感覚的に捉える才能があり、それによって周囲が勝手に期待して勝手に失望したため、従来の人見知りが悪化し周りと上手く付き合えなくなった。
最後に、その現状をはね除けるだけの能力が現時点ではない。
つまり、問題となっている事は、これから俺が鍛えることでどれもこれも修正や挽回可能なものばかりと見ていいはずだ。
あれ?修正や挽回の可能性があるなら、何も問題ないんじゃないか。
……いや、落ち着け。これらの問題は、本人の気持ちがなければ、対処のしょうがないじゃないか。
ルディ自身がどう思っているか聞いて確認しておかないと、見当違いの結論を出すことになってしまうぞ。
そうだな。まずは、そこら辺をしっかりと確認しておかなければならないか。
「ルディ君、顔を上げてくれ」
そう言うと、やや間があったが、顔を上げて俺の顔をじっと見てくれる。
「ズバリ聞く。君は、この学院の中級者コースに自分の意思で入った。これは間違いないのかな」
「先生!!!それは」
アニータが食って掛かってくるが、「すまないがアニータさん。今、俺はルディ君と話している」と強い口調で遮る。でもと言い募ろうとしていたが、ディータが肩に手をおいて押さえてくれた。
「首を振って返事してくれるだけでもいいんだ。教えてくれないかな」
そう言うと、首がゆっくり縦に振られる。
よしよし、少なくとも自分の意思で入ったんだな。それならまだ手の打ち用はいくらでもある。
「それじゃあ、君は今の自分を変えたい。…言い換えるなら、今の自分よりも強くなりたいという思いはあるのかな」
アニータやディータ、クラウディアが固唾を飲んで見守っているなか、少し待つと今度はゆっくりながらも自分の言葉で答えてくれる。
「おと…さんや…か…あさんは、この…ま…まじゃ…し…んぱ…だから…僕…を中…きゅ…コース…に、入…れて…くれ…た。僕…も、もっ…と…して、お父…さん…のよ…うに…強く…な…りた…です」
えっと、『両親が心配して中級者コースに入れてくれたから、もっと訓練して父親のように強くなりたい』でいいのかな。
よし、ここまでしっかりと自分の意思を持っているなら大丈夫だ。卒業までの三年間、君の理想とする伐剣者に少しでも近付けるように、俺も教師として決して諦めず、最後の最後まで付き合おう。
そう強く思い、俺自身の教師としての覚悟を声に出し宣言する。
「ルディ君。そこまで自分の意思を持っているのなら、俺は君が成長できるように最大限努めよう。そして、一人前の伐剣者となれるように、持てる限りの戦闘技術を君に教える事を約束する」
そう答えると、ルディは涙ぐんで俯いてしまった。
え?どうしてだ?
そう混乱し周りを見ると、アニータやクラウディアも涙ぐみ、ディータは生暖かな視線を送ってきていた。
えっと、大丈夫そう…だよな?
よし!!それじゃあ、早速さっきの稽古の総評をして生徒達の成長を促すとしますか。
◇◆◇◆◇◆
「えっと、まずは、さっきの質問に対する返答からしようと思う。ディータ君とアニータさんは主に武器と体術関係のこと、クラウディアさんとルディ君は魔術関係の事に興味を覚えたということだったね」
そう、まとめて確認する。すると、ディータが手を挙げて発言を求めてくる。
「その前にさ、先生。俺達のことは呼び捨てでいいぜ。君づけで呼ばれるとなんかムズムズすんだよね。後、しゃべり方も普段通りにしてくれない」
あれ、先生らしく呼んでたのに不評なのかなと思い皆に確認すると頷かれる。「なんか丁寧な言葉と普通な言葉が混じってて変だった」とまで言われた。
くそぉ、これでも先生らしく頑張ろうとしてたんだぞ。まあ、そう言われればしょうがない。普段通りの言葉で話そう。
「ゴホン!!それじゃあ、さっきの稽古の総評をするぞ。まず、俺の武器は魔獣の角をこの形に削り、金属で裏打ちして作った刀と呼ばれるものだ。主に引いて切ること、攻撃を受け流すことを目的に知り合いの職人に頼んで作ってもらったモノだ」
「かたなっていうの。曲剣とはまた違った武器だよな。そんな武器今まで見たことなかったから、対応の仕方を誤っちまったぜ」
「それは私もだ。まだまだ修行が足らんな」
そう、ディータとクラウディアは言っているが、俺の攻撃にいきなり対応できたら君らSSランクを名乗っていいよ。というか、そうなったら俺の立つ瀬がないだろうが!!
「そして、次に魔術だが俺は身体能力強化をかけると、その状態を維持したままもう一つの魔術を重ねがけした。その目的は瞬間的な回避、接近、離脱だ。これが、ルディの言う爆発したように感じたという表現に繋がったのだろう。さて、ここで問題だ。俺は、何の魔術を重ね掛けしたのだろうか?」
そう問うと、皆は一斉に首を傾げて考え出した。
俺が使った魔術は、最も基本的で最も見落とされているものだが、皆は分かるだろうか。
しばらく待ってみると、ルディがおずおずと手を挙げる。おぉ、積極性が出てきたではないか。アニータも横で驚いているぞ。
「…能力向…上の魔術…ですか」
小さいがハッキリした声でそう言うが、間違っていたと思ったのか直ぐに俯いてしまった。いやいや、ルディ君。そこは自信を持っていいんだよ!?
「正解だ。そう、俺は身体能力向上の魔術を重ね掛けした」
そう言うと、皆が驚いた顔になるが無理もない。子供が魔術の効果を理解する基礎訓練とかに使われるため、身体能力強化を覚えると使われることがなくなる魔術だもんな。
しかし、その使い方によっては強力な武器になる。そう、俺のように一瞬の爆発力を生むのに最適なのだ。
「俺は身体能力強化の魔術をかけて君達と戦っていたが、最後の最後、急激な接近をするために足にだけ身体能力向上の魔術を掛け、瞬間的に移動速度の向上強化をしたんだ」
ここで、一旦区切って生徒達の顔を見る。その顔は、分かったような分からないような顔だったので、数字を使って説明するかな。
「いいか。普段の身体能力を十としよう。身体能力強化の魔術を使うと、それが術者によって大体百前後になる。こうして、普通なら振れないような武器を振るうことが可能になる訳だ。つまり、おおよそ身体能力は十倍に強化されていることになる」
チラッと、皆を見ると食い入るようにこっちを見ている。ちょっとは興味を持ってくれたかな?
「次に、普段の状態に身体能力向上を使うと、十だったものが術者にもよるが十五前後になる。この状態で身体能力強化の魔術を使うと、単純計算でそれが十倍の百五十になるという訳だ。そして、これは身体能力強化状態でも能力向上の魔術が下書きされるため変わらない。これによって手や足に重ね掛けすることで、瞬間的な攻撃力の向上強化や緊急回避等をすることができ、選択できる行動に幅を出すことができる」
おぉっと声が上がるが、キチンとデメリットも教えておかなければな。
「ただ、これには欠点もある。一つは、常に重ね掛けしていると、その効果に体が耐えきれなくなること。一つは、体全てに重ね掛けすると、魔力の消費量が膨大になること。最後に、その対策として体の一部に一時的に重ね掛けするにも制御が困難であることが挙げられる」
さて、極めるとものすごく有用な武器になるが、取得がやや困難であるこの技術。質問に答える形で詳しく説明したけど、生徒達は挑戦するのかな。
そう思って皆の顔を見渡して見ると決意を宿した瞳が俺を見つめ返してきていた。
次回は4/28 18時頃に投稿します
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【魔術情報4】
・身体能力向上[フュージョンアップ]の魔術
自身の身体能力を向上(筋力や五感を含む)させることが出来る魔術。
しかし、あくまでも向上に留まるため、これのみでは余程の達人でない限り、魔獣でも魔種を相手にするのが限界となる。これらの理由から、術者にもよるが強化が掛け算なら向上は足し算でしかないため、強化を覚えると使われなくなる。
また、基礎体力など、素の自分の状態に影響されるので、体を鍛えている者の方が魔術の恩恵を得られる。
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【新しい魔術行使法1】
従来、伐剣者は身体能力強化の魔術だけで仕事をこなしており、それだけで十分であった。ただ、レオンハルトが前世でのアクションゲームに触発されて試行錯誤した結果、いくつかの"重ね掛け"出来る魔術を発見した。
その一つが、身体能力強化と向上の重ね掛けによる瞬間的な移動(接近・離脱・回避)を可能にする魔術行使法である。
ただし、作中でも述べた通りデメリットも多く、ほとんどの伐剣者は「めんどくさい」といって使うことはあまりないし、身体能力強化の魔術だけでもレオンハルトより強い者は当然にいる。
ただ、現在ではCランク以上の高位伐剣者に徐々に見直されている…らしい。
*ちなみに、作者はなんと言いますか、一瞬の爆発力による攻防が超格好いいしスタイリッシュだと思っています。




