第十一話 性格・問題・周囲の目
しかし、中級者コースの生徒ってのはレベルが高いんだな、というのが実戦形式の稽古を終えての感想だった。
自身の得意とする武器は勿論の事、必須とされる身体能力強化などの基礎魔術をある程度は使いこなせ、加えて戦術の幅を拡げる魔術も使ってくる。これなら、ソロでもCランクに近い実力になるのだろう。
そんな事を思っていると、ディータとアニータが「いちちち。あー、負けちまったか」「最後どうなったんだろ」、やや遅れてクラウディアが「くっ、まだまだ修行が足りんということか」と言いながら立ち上がってくる。
よかった。上手く手加減できていたみたいだな。見た感じ特に問題も無さそうだし、稽古の総評とルディから感想…途中から見れてないけどそれまでの感想だけでも聞いてみるか。
発光の魔術によって震えて踞るルディの背を撫でながら、落ち着いてきたのを見計らうと皆を集めることにする。
「よーし、これから稽古での感想を聞くからみんな集まってくれ」
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「先生さ、無茶苦茶強いんだな。まるで、親父達を相手にしているみたいだったよ」
ディータがそう言うと、横でアニータも頷いている。うん、ということは二人の親は俺と同じくらいの実力者ということなのかな。
「えっと、二人の親御さん達は伐剣者をしていると言っていたけど高名な伐剣者の方なのかな」
「ええ、私とルディのお父さんが<赤鬼>っていって、ディータのお父さんが<疾風迅雷>ていうSSランクの伐剣者なんです」
おお、まさかの二つ名持ち。そして、SSランクの伐剣者だったのか。その二人に子供の頃から鍛えられていたのならあの実力でもうなずける。
と言うことは、この子達のレベルを中級者コースの生徒達の実力と思わない方がいいな。
「先生もすっごく強かったですもんね。もしかして、二つ名を持っている高位伐剣者なんですか」
うっ、キラキラした目を向けてくるけど、ごめん。俺名乗ってないわ。何て言おうと考えていると、ディータが横にいるアニータに声をかける。
「ばっかだなぁ、アニータ。ここジギスムントで二つ名持ちが自分から名乗らないなんて事ないだろ。それに、学院の説明でも"優秀"な伐剣者と言ってたんだから、きっとBランク上位なんじゃないのかな」
「それもそっかぁ。先生、本当にごめんなさい。まだ、二つ名を名乗れてないのに聞いちゃって。」
うぉー、何でそんなピンポイントに俺の良心を抉ってくるんだ。ギルドや学院の面接の時といい、二つ名の存在がジギスムントでは重すぎるぞ。
しかし、いい感じに話が終わったので実戦稽古の話に持っていくか。二つ名の話?そんなもん先送りだ、先送り。
「あー、俺の事は置いておくとして、さっきやったオリエンテーションでの稽古はどうだった?感想を聞かせてくれないか」
話を実戦形式の稽古の方に持っていくと、揃って頭を捻りながら思い出そうとしているようだ。しばらく待つとクラウディアが挙手して発言する。
「そうですね。オリエンテーションといいましたか。あの稽古は、仲間との連携を意識しての立ち回りや魔術を使い相手を追い詰めるという点で実戦と代わりありませんでした。その実戦の中、私達の連携は上手くハマっていた…正直に言えば勝てるとさえ思っていました。最後の最後、ハーン教諭が逆転するために使った魔術がなければ事実そうなっていた可能性が高いものと思います」
「俺は、そうだなぁ。クラウディアの言っていることの他に、先生の武器が気になったな。何て言うの?上手く受け流されるって言うか、決定打が打ち込めないって言うか…とにかくそんな感じかな」
続けてディータが発言する。ふむ、二人は武器と魔術について疑問に思っているってことか。ルディには、最後に聞くとして、アニータはどうなんだろう。
「私は先生の身のこなしが気になりました。私の足への攻撃を流れるような動きで避けてた事です。あっ、でも最初の魔術を使ってディータの方に誘導した後も慌てることなくディータの双槍を受け流していった事も凄かったです」
アニータは、体術関連に対しての関心が高いみたいだな。さて、後は、彼だけだがキチンと喋ってくれるだろうか。まあ、最悪、首振りで意思疏通をすればいい。
「ルディ君。今回ルディ君は実戦稽古を離れた場所から全体的に見ていたけど、何か気になるところや聞きたいことはあったかい?」
そう聞くと、俯いてボソボソっと喋り始める。うーむ、またこのパターンになったか。そう思っていると、ボソボソ喋りが止まり突然顔を上げ片言片言、話し出した。
「光…で…目…が、見えな…くな…た…けど…その…前のせん…せの動き…が凄…かたで…す」
おぉ、頑張ったじゃないか。始めに比べて段違いだ。親しい人には話かけると言っていたが、俺も親しい人認定されつつあるのかな。
「そうか。他には何か気が付いた事はないかな?」
「さ…いご、せ…んせ…の周…り、魔術…がば…くは…つし…てるよ…う、感…じた」
えーと、"最後に俺の周りの魔術が爆発しているように感じた"かな。
そこに気づくとは、ルディは魔術の素養が高いのかな。とにかく、どう育てるかの取っ掛かりができたな。
しかし、魔術を知覚するなんてすごいな。普通、命懸けの実戦をこなして身に付けていくものなんだが、それを完全ではないにしてもこの年で身に付けているのか。
「ルディ。凄いじゃないか!その魔力を感覚として捉える能力は伐剣者として最も重要な宝になるぞ!」
勇気を出して"会話"をしてくれた嬉しさと教育方針が決まったことで、少し興奮しながらルディに話かけると、ビクッとしてまた俯いてしまった。
…もしかして、また地雷を踏んだか?
「あの…先生。その、ルディには確かにそういう才能があるんですけど」
自己嫌悪に落ちていると、アニータが言いづらそうに話しかけてくる。なんだと思っていたら、意を決したのかアニータが続きを話してくれた。
何でも、SSランクの伐剣者を父に持ち、訓練もせずに魔術を感覚的に捉える事が出来たことから、両親や自分が親しかった者達から結構な期待を受けていたらしい。
しかし、肝心の魔術―身体能力強化―を使うことがなかなか出来なく、また初級者コースの時に起こったある出来事から、その者達はルディに対する関心を完全に失ってしまう。
詳しくは教えてくれなかったが、初級者コースでの体験した恐怖と、様変りした態度を取る親しかった人達の変化に、当時のルディは戸惑い悲しんでいたらしい。
そのため、期待される原因となった、魔術を感覚的に捉えれる事実が話題にあがることを極度に怖がるようになり、性格もますます内向的になって他人と会話をする事も減っていったという。
それを見た両親や当時の教師達は、必死に周りに呼び掛けたり諌めたりしたのだが、一度変わった態度は元に戻る事はなかったそうだ。
その間にも、従来の内気で人見知りな性格が悪化し続け、それを心配した両親が伐剣者として独り立ちしようと活動していたアニータを呼び戻し、何とか一緒に中級者コースに入ってくれないかと頼みこんだ。
その際、アニータのコンビで家族付き合いをしていたディータも事情を聞き一緒に中級者コースに入ることになり何かとフォローしていたのだが、それでも人付き合いが上手く出来ず浮いてしまったらしい。
そんな折、俺の授業が出来たことと受講するものが全くいないという噂を聞いたことで、落ち着いて学ぶのはその方がいいかと判断して移ってきたというのだ。
それを聞くと、俺は内心ため息をつく。周囲が勝手に期待して勝手に失望するのはどこの世界でも一緒か。
しかし、そんな下らない理由でこの子の将来を潰して欲しくはないし、ルディ自身にも潰れて欲しくはない。
俺はそう思いながら、俯くルディになんと声をかけるべきか、考えを巡らせていくのだった。
次回は4/26 18時頃に投稿します
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【魔力知覚能力】
魔力は、普通目に見えない上に、感覚としても捉える事が出来ない。しかし、その魔力を感覚的に捉える者がいる。その者の能力が魔力知覚能力と呼ばれている。
なお、これは(命懸けで)訓練を積めば備えることが出来る能力のため、高位伐剣者や騎士は魔力知覚能力を有する者が多い。
【レオンハルトの刀】
・刃渡り 二尺六寸(約79㎝)
・柄部分 一尺(約28㎝)
・反り 五分一厘(約1.55㎝)
・元幅 一寸二分(約3.6㎝)
・先幅 九分六厘(約2.88㎝)
*一尺=約30㎝、一寸=約3㎝、一分=約3㎜、一厘=約0.3㎜
*魔獣の(黒い)角を使い金属で裏打ちしているので、現実の刀とは乖離した部分も有りますが、こんな感じでご想像ください。また、見た目も刀とほぼ同じです。
ちなみに、生徒達の武器(戦斧・槍)防具(盾)は…主人公の武器よりデカいです。




