第十話 伐剣者式オリエンテーション
初めて戦闘描写を書いた回になります。
書いてみて分かったのが、戦闘描写を書くことはすごく難しいという事でした。
そのため、いつもより長くなっていますが(文字数四千字越え)、お楽しみ頂ければ幸いです。
伐剣者式オリエンテーション。
まずは、実戦稽古を通して俺が皆の実力を図ることにするか。
「ふむ、ハーン教諭。ハーン教諭のいう伐剣者式オリエンテーションというのは、言い方が違うだけで模擬戦と変わらないのではないか?」
クラウディアの問いに、他の生徒達の顔を見る。他も、頭の上にハテナマークを付けているな。
俺の認識では、模擬戦は『実戦に似せて行うもので実戦そのものではない』のだが、生徒達は違うのだろうか。
「まあ、やってみればわかるよ。見た感じ普段使っている装備を身に付けているようだし、それを使ってやろうか。後はそうだな…実戦で使っている触媒を用意して、三人でどうやるか相談してくれ。それが終わったら早速始めよう」
「えっ、この稽古って修練場の武器を使って、俺達と先生が総当たりで戦うんじゃないのか?」
ああ、ディータもアニータもそう思っていたようだ。それじゃあ、模擬戦と変わらないと思うよな。
「違う違う、実戦稽古って言っただろ?俺が、三人を同時に相手するから、君達は俺が魔獣のつもりで連携してかかってきてくれ」
そして、見とり稽古では何をすればいいのかをキチンと伝えておかないとな。
「それじゃあ、ルディ君。君は、これからの稽古を見てどんな魔術が使われているか、その行動にどんな思惑があったのかを考えながら見ていてくれ。稽古が終わったら聞くから、よく見ておくんだよ」
◇◆◇◆◇◆
あまり納得がいっていないようだが、生徒達はとりあえず準備を始める。
だが、普段の武具を身に付けているということから、身体能力強化の魔術は使っているのだろうが、それ以外の魔術触媒は用意していないように見える。
あれ?実戦での装備と言ったのにな。あっ、いや、もしかしてもう既に身に付けているのか?
「みんな、身に付けていないなら今使える魔術の触媒もキチンと用意しておきなよ」
そう言うと、「先生なんて、なにも魔術触媒を用意してないじゃん」と言われてしまった。
ああ、俺が特に準備をしないから、生徒も普段の武具で戦えるように身体強化の魔術触媒だけを準備しただけなのか。
「ごめんごめん、俺は身体能力強化と、後はもう一つ魔術を使うための触媒を既に身に付けているよ。だけど、さっき俺を魔獣と思うようにと言っただろ。だから、俺はこの二つの魔術だけで戦うけど、君達の戦い方には制限をかけない。今使える総ての魔術を使ってくれて構わないし、そうでなければ困るんだよ」
そう言うと、生徒達の顔色が変わる。…なんか失言したか。
「なあ、先生さ。俺とアニータはランクはDだけど子供の頃から伐剣者の親父達に鍛えられてきてるんだ。だから、連携して戦うとBランクにも十に四は勝てるんだよ。先生のランクは分からないけど、装備からBランクまたはそれに近い実力があるのかな。それでも、自分は制限するけど俺達は何でもアリってのは無謀じゃないかな」
「私も、他国のとはいえ学園を卒業し、騎士としての研鑽を積んできている。それなのに、手加減するハーン教諭には全力の私でも相手にならないと言うのか」
ああ、俺が舐めてるって思ったのか。まあ、こんな装備なら正確なランクも分からないだろうし、そう判断する事もおかしくはない…か。
でもなぁ、君達。戦いに身を置く伐剣者や騎士が、ランクや装備の見た目だけで強さの強弱を断定している時点でまだまだなんだよ。
「まあ、色々と言いたいことはあるだろうけど、とりあえず君達の実力を見せてほしい。勝つか負けるかの前に、これは教育の一環なんだからさ」
そう、オリエンテーションは教育指導の一環なんだからさ。その言葉に、渋々ながらそれぞれの魔術触媒を身につけて俺の前に来る。まあ、生徒達の目を見ると"ヤル"気満々みたいなのでよかった。
よかったか?ま…まぁいいか。
俺は、腰に差している刀を鞘から抜き放ち、触媒に魔力を通すと身体強化の魔術を使い準備を終える。
「よし、じゃあ君達が攻撃行為をすることで開始の合図とする。いつでも始めていいよ」
そう言い終わるやいなや、アニータは身の丈を越える巨大な戦斧を構え躊躇なく突っ込んできた。戦斧の重さを苦ともせずに一目散に駆けてくると、目と鼻の先で飛び上がり勢いをつけ全力で降り下ろす。
「ダァリャァァァァァッ!!!!」
この威力だと、受け止めたら武器の性能から考えても俺の動きが止められるな。そう判断し、半身をずらして迫り来る刃を避けると、戦斧は俺が元いた場所を縦に通って地面に叩きつけられた。
地面に当たり、ドギャンと派手な音を響かせると、戦斧の刃から焔が走り地面を焦がしながら迫ってくる。へぇ、付加魔術で、刃に炎の魔術を付加していたのか。
炎を避けるため横に飛びすさると、それを狙ったように、ディータは"両手"で紅い槍を持ち、勢いよく穂先を突き出してくる。胴体部分に集中して繰り出されるその刺突は、鋭く正確に急所を狙って来ているようだった。
この槍もデカいな。まともに食らうと致命傷になりそうだが、狙いが正確すぎるために読みやすい。
そう思い、突き出される攻撃を刀で受け流しながら接近していくと、途中アニータが戦斧で足元を攻撃してくる。
下に意識を向ければ槍の攻撃を、上に意識を向ければ戦斧での攻撃を食らうことになるな。実に嫌らしく、実戦的で素晴らしい連携だ。
繰り出される槍を受け流し戦斧の攻撃を避けながら、後少しで刃が届くかというところまで来ると嫌な感じがする。そうして、戦斧での攻撃を避けてから一歩身を引くと、"片手"に持たれた短めの蒼い槍が目の前で薙ぎ払われた。
「ちっ、かわされたか」
ここで背負っていた蒼い槍を使うために、わざと正確に狙ってこちらの行動を誘導していたのか。それに、意識が下に向く丁度いい瞬間でうまく連続させてきたな。
しかし、アニータの戦斧で意識を削ぎつつ、近づいたところを本命で狙い打つとか、なかなか上手い連携をとるじゃないか。
幼馴染みで伐剣者としてもコンビを組んでいると言うだけあって、まさに阿吽の呼吸だな。
この二人は、現時点でも十分な強さがある。
…二人?そういえば、クラウディアはどうしたんだと思った矢先、背後から殺気を感じた。
即座に、自身の勘に従って横に大きく飛びすさり、刀を前方に構え直す。
体勢を整えてから俺がいた場所を見ると、余裕をもって全身を隠せれるような大きな盾を持ったクラウディアが幅広の長剣を縦に振り終わりこちらの方を向いたのが見えた。
背後からの攻撃か。上手い手だけど、騎士の誇りとやらはこの世界には無いのかな?そう目で語っていたのか、クラウディアから返事がくる。
「ハーン教諭は、自らを魔獣と思えと仰った。魔獣に騎士の誇りなど不要です」
確かにそう言ったな。素直に教えを聞くことは大変よろしい、花丸をあげよう。
とりあえず、三人と距離を取りつつ、ここまでで分かったことを整理するか。
アニータとディータの連携はバッチリで、実戦で必要な嫌らしさもある。クラウディアは、それに合わせて俺の隙を付ける柔軟性あり、と。後は、武器主体か魔術主体か或いは両方かを見るくらいかな。
そう思って生徒達の方を見ていると、早速クラウディアが盾を前面に押し出し、アニータとディータがその後ろに隠れるように入っていく。
直後、カッと発光の魔術による閃光が、俺とクラウディア達の間に走る。
なるほど、自分達はクラウディアの盾によって防御し、俺の視覚を奪って攻撃に転じるつもりか。咄嗟に目を庇ったものの、やや視覚を奪われてしまったな。
そう思いながらやや掠れた視線を前に向けると、二人が戦斧と双槍を構えて駆けてくるのがなんとなく分かった。左右に別れているということは挟み撃ちか。
そう認識した矢先、何を思ったのか手にしていた短めの蒼い槍を俺の方に投げつける。『投擲か!!』と思ったが、明らかに距離が足りていない。
何の意味があるのかと考える俺の目の前で、失速し落下した槍は地面に突き刺さると同時に周囲を氷結していく。
どうやら行動を縛るための魔術みたいだが…そうなると、アニータやディータは魔術は補助的に止め、自身の武器による攻撃を主体とするスタイルなのかな。
一方、クラウディアは防御と全体をサポートする魔術主体のスタイルみたいだな。
よし、各自の戦闘スタイルはだいたい分かったし、そろそろ終わらせるか。そう判断した俺は、足に用意していたもう一つの魔術を使う。
魔術を発動させると蒼い槍を迂回するように一瞬でディータに迫る。ディータは、突然目の前に現れた俺に驚いたものの、すぐさま紅い槍を突き出し反撃をしてくる…
だが遅い。
刀を返し、峰の部分で上手く防具に当たるよう、手加減に注意しながら振り抜く。そして、勢いそのまま援護に来ようとしていたアニータの方に向かうと、慌てて薙ぎ払われた戦斧を掻い潜り鳩尾を刀の柄頭で打ちつけると、二人は膝をつき倒れる。
これで二人は無力化できたなと考えていると、俺の目の端に斬撃が映つりこむ。咄嗟に、右の肩口に刀を斜めにして構え斬撃に備える。
ギギギギギキィーーーーン
俺の刀がクラウディアの剣を受けると鈍い音が聴こえるが、そのまま払いながら流し、攻撃の手を緩ませる。
しかし、すぐさま体勢を立て直すと次の斬撃が打ち出されてくる。縦に横にと縦横に振られる剣撃は一撃ごとにその鋭さと威力を増していく。
クラウディアは、防御寄りかと思ったが、この剣筋を見ると攻撃も出来るオールラウンダーってところか。危うく早合点してしまうところだった。
そう反省している間にも、振るわれる剣筋はどんどん鋭く、重くなっていく。
もうここまで見れば武器を使う能力についてはよくわかった。それにこれ以上は魔術行使をする様子もなさそうだし、もう十分だな。
振るわれる剣撃を避けいなしながら隙を窺うも、なかなか見つからないため、それならば作るかと、縦に振られた斬撃にタイミングを合わせることによって力の方向を誘導する。
そうして、たたらを踏んで体勢を崩した隙をつき、刀の峰で脇腹を打ち抜くとクラウディアはウッと言って倒れた。
その状態で暫し待ち、残心を終えると刀を鞘に納める。
ふう、これで伐剣者式オリエンテーションも終わるとしようか。彼等の本気を見ることで大体の方針も立てれそうだし、ルディにも学ぶところが多かったんじゃないかな。
そう思い、見学していたはずの場所へ視線を向けると…
そこには、発光の魔術による閃光をモロに受け、目を押さえて震えながら踞っているルディがいたのだった。
次回は4/24 18時くらいに投稿します.
2017.6.29 修正しました
(修正点は、ディータ達が既に装備を纏っている状態と分かるような表現、クラウディアとの戦闘描写の最後の部分になります)
◇◆◇◆◇◆
【魔術行使の仕方】
魔術は、触媒に魔力通すこと(ここら辺は個人の感覚による)によって発動する。そのため、手で触るなど肌に直接触れる行為が必要となる。
例えば、身体能力強化の魔術は伐剣者としての必須魔術で、その触媒である鉱石(あまり知られていないが、人によっては金属や木材)は、ペンダント形式にしてタグと一緒に首から掛けていることが多い。
その他には、触媒の種類によっては、装備の一部に使用したり、武器そのものが触媒であることもある。ただし、行使には魔力を正確に触媒に通す必要があるため、実際の戦闘時などで身に付けるのは多くても六つ程度が一般的。
*動植物が触媒の場合は、鮮度が大切になることから最長で数ヶ月、最短で数日の物がある。
【魔術情報1】
・身体能力強化[アクセル]の魔術
自身の身体能力(筋力や五感も含む)を魔術使用前に比べて大きく強化する。それは、術者にもよるが大体十倍程度の効果がある。伐剣者は、普段の行動時には武具を持てる最低限だけの魔力を使い魔力切れになるのを防いでいる。
【魔術情報2】
・付加魔術[エンチャント]
武器又は防具に炎や水、風や雷といった魔術の効果を付加させる。付加した魔術の効力を発揮させるのは物体と接触した時が多い。
この魔術は、触媒によって発生した魔術を、武器に施された魔術回路を通して定着させるもので、一般的な魔術体系とはやや異なるものとされている。
【魔術情報3】
・発光[ビュレッツェ]の魔術
触媒に込めた魔力の多さによって閃光の度合いが変わる。どこに発生させるかは術者の任意だが、距離が開くにつれ空間把握が難しく、その距離によって魔力消費量と難易度が上がってくる。




