第九話 親睦を深める方法は?
生徒との顔合わせが終わると、フリッツ先生が「では、私はこの辺で」と言って帰っていった。
そうして俺だけになると、生徒達を前にしてこれからの事を考える。どの様な授業をするにしても、まずは生徒達の性格や実力を把握して、クラスの結束を図ることが大事よな。さて、どうするか。
何かないかと記憶を遡ると一つだけ思い出した。すでに学期は始まっているが、俺のという意味では初めての授業に違いない。それなら、まず皆の戦い方なんかを聞きながら、今後の伐剣者として―クラウディアは騎士だけど―の方向付けと新しい環境に馴染ますことから始めるかな。
「よし。まずはオリエンテーションをすることにしよう」
そう言うと、生徒達は揃って首を捻っている。
「先生さ。えーと、オリエン…テンションだっけか?それって、何するんだ?」
ああ、オリエンテーションという言葉はないのか。えっと、どう言えばいいんだ?教育方針の決定だけじゃ意味として足りないしなぁ…
「ディータ君。オリエン"テンション"じゃなくてオリエン"テーション"だよ。一回目の授業だし、皆の戦闘スタイル…えーと、お互いの戦い方とかを知ることやメンバーでの親睦を深めることからしようと思うんだ。まあ、座談会みたいなのを通じて仲間内で出来ること出来ないことを把握し、一緒に今後の教育方法を探っていくという感じかな」
生徒達は、「そんなの初めての聞いた」と呟いているが、他の授業ではどうやって教育方法を定めてるんだ?まあ、いいか。知らないことを深く考えても時間の無駄だしな。
「まあ、親睦を図ろうとするのはいいんだけど、話すだけで戦い方やなんて分かるのかな。どうしても、俺達の戦い方を知りたいっていうのなら、先生が俺達と模擬戦でもすればいいんじゃない?」
ほかの生徒たちも頷いているな。あ、ルディだけはそうでもないけど三対一か。やっぱり、戦いをも生業とする伐剣者に、戦い方を聞くだけの中途半端なやり方は受け入れられないか。
うーむ、しかし模擬戦か。確かに、模擬戦をすれば戦闘スタイルも詳しくわかるし、後で感想や意見を言い合うことで親睦を深めるのも一つの手だな。…だけど、彼は大丈夫だろうか?
「君達としては模擬戦をすることに賛成なのかな?」
そう生徒達を見ながら聞いてみると、皆は首を縦に振り返事をするが、案の定ルディだけはなんの反応もなく返事をしなかった。
「ルディ。賛成なら賛成、反対なら反対とハッキリと言いなさい。伐剣者として、自分の意思をしっかり相手に伝えるのは必要不可欠なことなのよ」
アニータが、そう優しく問いかけるも俯いてしまった。
しかし、こう何と言うのだろうか。空気を読んでという条件がつくが、自分の意思を明確にしないという点では俺と被ることがあるからか、ルディにやけに親近感を覚えるんだよな。それに、内気だっていっていたよな。そうすると、初めて会う人物に対して、そう思っていることは言えまい。
「あー、アニータさん。そう言われても初対面なんだからルディ君も自分の意見を言いづらいと思うんだよ。もう少し時間を置いてというか何というか」
「先生!!これからこの子が伐剣者としてやっていくなら必要なことです。ただでさえ、家族や親しい人としかまともに話せないのに、このままではルディは伐剣者としてダメになってしまいます。今からでも、少しづつ慣らしておかないと後々困るのは自分自身なんですよ。それに、初級者コースの…」
「アニータ!!!!」
アニータが何か言いかけようとしたが、突然のディータの叫びに言葉を飲み込む。
初級者コースの時に何かあったのだろうか?しかし、確かにルディが伐剣者としてやっていこうと思っているなら、アニータの言うことにも一理ある。よし、ここは教師である俺からもっと歩み寄らないとな。
「ルディ君。とりあえず、顔を上げてくれないか?」
おずおずと顔を上げたルディに、「これから、幾つか質問をするから、"はい"なら縦に"いいえ"なら横に首を振ってくれないか」と伝える。こんな方法をとる伐剣者は、まずいないから驚いたような顔になったな。まあ、意味は理解してそうだから質問を始めるか。
「ルディ君は、体を動かすことは苦手かな?」
首が横に振られる。ということは、俺が彼に合わせて戦えば模擬戦の形にはなるかな。そう思い次の質問をする。
「俺は初級者コースの事を全く知らないのだけれども、ルディ君は初級者コースを修了して伐剣者として必要な基礎魔術は覚えているのかな?」
この質問に、ルディは一瞬ビックっとなったまま固まった。んん、この質問は地雷だったか。しかし、もう少し具体的に聞いてみないと判断できないよな。
ああ、涙目になりつつある彼を目の前にすると俺の方まで辛くなってくる。
「今から言う質問は大事だから、これだけは必ず首を振って返事をして欲しい。答えがどちらであっても、俺は怒ったり貶したりなんか絶対にしないと約束するからさ。ルディ君は、身体能力強化の魔術を使うことができるかい?また、自分が得意としている武器があるかい?」
この質問に、少し間を置いてからと二つとも首を横に振る。
ふむ、身体能力強化の魔術も得意武器もなし…か。これでは模擬戦をする意味がないな。
ただ、模擬戦をするかの有無を聞いてしまったし、別にディータ達だけとする分には何も問題がない。まあ、ルディがどう思うかは問題だが、模擬戦をしないという選択肢を選ぶ理由には弱いんだよな。伐剣者は、一度はいた言葉を何の問題もないのに安易な理由で撤回すると優柔不断のレッテルを貼られるから、今後の教育活動に影響が出てしまうのも厄介だ。
「ディータ君達は身体能力強化の魔術が使えて、得意武器もあるのかい」と聞いてみると全員が頷いた。なら、戦うという事を参考にしながら別の教育の方向性を定めていくか。
そうだなぁ…俺と彼等の戦いをルディが見て学ぶなんていいんじゃないかな。更に言えば、俺やルディが見るのは、彼らの"本気"の方がより教育的にはいいかな。
「よし、ディータ君の提案は一考の価値があった。そこで、提案を一部使わせてもらおうと思う。ただし、ルディ君は身体強化の魔術が使えないと言う事から見取り稽古とする。」
そう言うと、見取り稽古と疑問の声が上がる。そういや、見取り稽古という言葉はなかったなと独りごちて説明をする。すると、ルディは落ち込み、それを見たアニータが俺に猛然と抗議してきた。
「そんな。それじゃあ、ルディを一人だけ仲間はずれにするようなものじゃないですか!!」
「いや、今のルディ君では模擬戦をするには負担が大きすぎる。それに、今回は模擬戦をするわけではないのだから、稽古の種類が違うだけで仲間はずれにしている訳ではないよ」
そう言うと、アニータはキョトンとして「え?だってディータの提案て模擬戦をすることじゃ」と呟いている。
おやおや、ディータもクラウディアも不思議そうだ。
「俺は、最初に言ったよね。まず、『お互いの戦い方を知って、親睦を深める』事から始めようって。つまり、これからするのは、"本気"の君達を相手にした実戦稽古とその戦いを見て実戦を学ぶ見取り稽古。そして、これらを通して俺が皆の教育方法を決める。そう"伐剣者式オリエンテーション"だ」
次回は4/22 12時頃に投稿します
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【伐剣者ランク】
・SSランク(白金タグ)←レオンハルト
最高位のランク。戦闘能力、探索能力、交渉術など様々な技能を満遍なく納めたものに与えられる。闘うことに至上の悦びを見つける者、金銭に対する執着の強い者などアクの強い人間が多い。これを得るためには、パーティーでの竜種の討伐(竜種の個体によってはソロ)が必要。
・Sランク(金タグ)
次席のランク。しかし、一つの技能ではSSランクと同等以上の能力を有する者もいる。また、アクの強さもSSランクに勝るとも劣らない。これを得るためには、パーティーでの王種の討伐(王種の個体によってはソロ)が必要。
・Aランク(金タグ)
一流と認められるランク。この時点から二つ名を名乗る事が許される。一つの技能ではSランクと同等以上の能力を有する者もいるため、三パーティー以上合同の場合には王種の討伐も許される。これを得るためには、二ヶ国以上のギルド本部から認められる必要がある。
・Bランク(銀タグ)
準一流とされるランク。この時点から、ある種の壁にぶち当たることで燃え尽き状態になり、伐剣者を辞める者もいる。これを得るためには、パーティーでの魔種の討伐(魔種の個体によってはソロ)が必要。
なお、ジギスムントでは帝立学院中級者コース伐剣者学部を卒業すると、伐剣者登録をしていない者もこのランクの試験を受ける資格を無条件で与えられる
・Cランク(銀タグ)
熟練者とされるランク。得意武器や魔術に熟達してきた者が多くいる。これを得るためには、パーティーでの覇種の討伐(覇種の個体によってはソロ)こなす必要がある。
・Dランク(赤銅タグ)←ディータ&アニータ
伐剣者としてある程度過ごした者のランク。この頃から頭角を現すものも当然にいる。このランクを得るためには、ギルドの指定する依頼を一定数こなす必要がある。
・Eランク(赤銅タグ)
ギルドの正構成員を得られるランク。ここから伐剣者の生活が始まると言っても過言ではない。このランクを得るためには十五歳以上で試験に受かる必要がある。
・Fランク(銅タグ)
ギルドの準構成員となるランク。十三歳から登録可能なため、依頼は危険の少ない採取や獣の討伐など難易度の低いものに限られる。




