第八話 初対面の印象は大事です2 ―生徒編
ジギスムント帝立学院には、幾つかの修練場が設置されている。
修練場は、その名のごとく技術や精神を磨くための場所で、ここでは体育館と同様に屋内施設をいい、屋外の場合には野外とつく。
ここは、主に騎士学部や伐剣者学部、そして武器や魔術の修練を希望する他学部の生徒が使うことを想定し、どの修練場もそれに見合った敷地面積を有していた。
また、その用途から四囲の壁は魔術をも防ぐ特殊な鉱石で補強され、床は木材と石材を使い分けているため、訓練及び実戦に耐えうる構造となっており、ある程度の無茶は利くように設計されている。
加えて訓練用の武器、例えば木剣や刃引きした鋼鉄製の剣などを揃えているため、生徒が試行錯誤しながら自分のスタイルを確立する一助になっていた。
その内の一つ、やや規模の小さい第三修練場には三人の生徒がすでに集まっており、フリッツ先生に気付くと雑談を切り上げこちらの方を向いた。
四人と聞いていたけど、一人足りないな。
「あれ、まだディータ君は来てないようですね。うーん、授業の予定もありますし、先に来ている生徒達との挨拶だけでも済ませておきましょうか」
フリッツ先生が、魔動力式の懐中時計を見ながらそう言ってくる。
ああ、ディータという生徒がいないのか。まあ、その内来るだろうし、来たら来たで挨拶をすればいいよな。
「皆さん。こちらが、今度から戦闘技術を教えてくれることになったレオンハルト・ハーン先生です。では、ハーン先生どうぞ」
フリッツ先生が、そう言うと俺は一歩前に出る。
同時に生徒達の目も一斉にこっちを向くので一瞬怯んでしまう。
「えー、本日から皆さんに戦闘技術を教えることになったレオンハルト・ハーンです。皆さんにあった教育を一緒に考えていきますので、これから一年の間どうぞよろしくお願いします」
無難な挨拶をするも、なんの反応もなかった。
あれっとなったが、この世界には挨拶の後に拍手するなんて習慣はなかったことに思い出し、生徒達に「それでは、皆さんの事を教えて下さい」と声をかける。
「はい。じゃあ、私から挨拶しますね。私はアニータ・ホルクって言います。一応、学院の初級者コースを卒業してから伐剣者として一年間活動していましたので、もうすぐ十六歳になります。ランクはDランクになったところです」
おお、伐剣者として活動してから、中級者コースの伐剣者学部に入ったのか。
準構成員のFランクから構成員のEランク試験を受けれるのは十五歳からだから、約一年でランクを更に一つあげたことになるし、なかなか優秀な子じゃないか。
そう思いながら、よろしくと返事を返して次の生徒の方を向くと、修練場の入口から元気な声が聞こえてきた。
「あぁー、もう始まってるのかよ。もしかして、遅れちまったか?」
「ああ、遅刻ですよディータ君。でも、まだ挨拶をし始めたところなので大丈夫です」
フリッツ先生がそう言うと、素直に「遅れてしまってごめんなさい!!」と謝ってくる。
うんうん、素直なのはいいことだぞ少年。
「ハーン先生…ですよね。始めまして!!俺は、ディータ・ランダウっていうんだ…です。初級者コースを卒業してから、幼馴染みのアニータとコンビを組んで一年間伐剣者をしていて、ランクはDになったとこなんだ…です」
丁寧な言葉遣いは苦手そうだが、それを補うように元気のある子だな。
それに、幼馴染みと言うことは同い年とみていいのかな?その年でアニータと同じDランクってことは、この子もまた鍛え甲斐がありそうだな。
「次は私だな。私は、クラウディア・ベルタ=ラヴクラフトという。ジギスムントとは同盟を結んでいるグラフベルン王国の学園を卒業し、この帝立学園中級者コースの騎士学部に入学してきた。そのため、皆より年上なので十七になる。よろしく頼むぞ、ハーン教諭」
えらく固い言い回しをする娘だな。しかし、騎士学部の生徒か……ん、騎士学部?
「えっと、クラウディアさんは騎士学部なんだよね。それなら、ヨーゼフ先生達がいるのになんで俺の授業を取ろうなんて思ったのかな?」
「そのことか。私は…まあ、ある理由があって、こちらの国の伯爵家に嫁いだ姉上の縁を辿ってやって来たのだが、特に目的を決めてなくてな。日々を無為に過ごすのもどうかと思い騎士学部とやらに入学したところ、数日前に伐剣者の教官が来ると聞いたのだ。この国は伐剣者発祥の地、その地の伐剣者の実力に興味があったので、これ幸いとこの授業を受けることにしたのだ」
実力ってことは、伐剣者の強さに興味があったんだ。まあ、それなら俺の授業を受けようと思っても問題ないか。
「それと、もう一つ、私はグラフベルンの貴族の出なのだが、どうも一緒に授業に出ている同輩達が遠慮するのでやりにくくてな。その時、ハーン教諭の授業を受ける生徒はほとんどいないだろうとの噂を聞いたので、こちらに逃げてきた次第だ」
受けるというか移る生徒がほとんどいないって噂されてたのか。
まあ、その結果生徒が増えるのだからなんとも変な感じだ。
…でもなぁ
「あのさ、俺はジギスムントじゃなくてガルクブルンナーの伐剣者だったんだよ。ジギスムントのってとこに期待しているみたいなんだけどそれでもいいのかな?」
「むっ、そうなのか。いや、しかし学院長が優秀な伐剣者と言っていると聞いたぞ。そういうことなら、ここジギスムントでも十分通用するほどの腕なのだろうから、目的には合致するので構わない」
そう判断しますか。
まあ、本人がいいと言うならいいんだろう。よし、最後の子だ。
そう結論付けると最後に残っている生徒の方を見る。
………………あれ?
「えっと、自己紹介をしてくれないかな」
そう言うと、俯いていた子はビクッと反応しただけだった。
「ルディ。挨拶はちゃんとしなさい」
アニータが俯いていた子に注意すると、その子が顔を上げ「…て、…ィ……クで…」と挨拶してきた。してきたのだが、何を言ってるのか全くわからん。
「えっと、ルディ君だったかな。その、ごめん。悪いけど、全く聞こえなかったんで、もう少し大きな声で言ってくれないかな」
俺が、優しく言っているにもかかわらず、ルディは目に涙をため俯いてしまった。
えっ、ちょ、何で泣いているんだこの子。はっ、まさか俺が怖いとか、無理矢理に大声を出させようとしてるとか考えたのか。
軽くパニックになってアワアワしていると、ディータが声をかけてくる。
「あー、先生先生。ルディって、口より手が先に出る行動力抜群の超怖い姉貴がいる反動か、人見知りで内気な性格がなかなか治らなくってさ、自分の思ったことがすぐに言えないんだよ」
あー、そうなのか。
ディータが、笑いながら教えてくれたので、俺が原因で泣かしたわけではないと分かりホッとする。
まあ、ディータは"口より先に手が出る"という言葉通りアニータに一発殴られていた訳だが、本人が言った通りの結果なのでしょうがない。
「すみません先生。この子は私の弟でルディ・ホルクって言います。初級者コースを卒業して、中級者コース伐剣者学部に入りたての十四歳です。これからよろしくお願いします」
そう言うと、ルディの頭に優しく手を置いてアニータは頭を下げる。一拍おいて、ルディも頭を下げると「…く…ます」と挨拶をしてくる。
…挨拶をしてるんだよな?いや生徒を疑うなんて教師失格だぞレオンハルト!!そうに決まっているじゃないか!!
やっぱり聞き取れなかったが、ルディについては追々慣れていってもらうとして、この四人が俺の生徒になるわけだ。
Dランク伐剣者の元気一杯なディータにアニータ
他国からやってきた騎士学部のクラウディア
そして、人見知りで内気な伐剣者学部のルディ
なかなか、個性の強い生徒達が集まったが、本当にうまくやってけるのだろうか。
まあ、やってみなけりゃ分からない…か。
次回は4/20 18時頃に投稿します
2017.6.27 文章の修正及び修練場の説明を加筆しました。
◇◆◇◆◇◆
【魔動力式の道具】
危険領域の中層から採れる、魔力を帯びた鉱石を動力にして動く道具一般をいう。
時計やカメラ、街灯や部屋に設置されるランプ型の照明器具などが一般的に使われている。
※ちなみに、町には時計塔が設置され、時刻を伝えることに役立てている。だだし、特定の時刻に鐘がなるということはない。
※帝都やシュラフスの街など都市部については、近代のガス灯のある町並みをイメージしてもらえると、分かりやすいのではないでしょうか。
◇◆◇◆◇◆
【お知らせ】
※時間の概念や表記方法は、変に凝るよりは分かりやすく地球と同じ基準にしようかと思っています。
※1日24時間で1時間60分、1分60秒とさせてもらいます。
そのため、1年365日に閏年がある場合は366日になるとします。
また、1週間も7日としますが、せめて曜日くらいは凝った方がいいのか目下のところ悩み中です。
※長さや重さ、距離も同じようち㎝や㎏、㎞などで表現にしようかと思っています。




