表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永久の戦艦 大和  作者: 呉提督
9/88

真の不沈艦

1938年 春



艦政本部の一室でAー140戦艦の図面を眺めるのは、

呉海軍工廠の牧野茂造船大佐。

Aー140戦艦こと一号艦、二号艦の設計を

担当したひとりである。


一号艦は去年の3月に横須賀で、

二号艦は去年の7月に佐世保で、

それぞれ起工されており、工事は順調に進んでいる。

主砲運搬専用艦樫野も進水し、46cm砲の建造も

進められている。


1936年、2,26事件が勃発し、

政党政治は完全に終わりを迎えた。

同年、日本はソ連に対する牽制として

日独防共協定を結び、ナチスと手を組んだ。

1937年には日中戦争が始まり、海軍も艦艇や

陸戦隊を派遣せざるをえなくなっていた。


アメリカを中心とする欧米諸国との

対立は深刻なものとなり、日米戦争が

現実味を帯びはじめたのだった。



Aー140の図面をまた眺める。

コンパクト化した船体、集中防御、煙突を守る

蜂の巣装甲板、注排水装置・・・・

どこも欠点がないように見えた。


そんな時、



「牧野大佐!!」



息を切らせ、慌てて飛び込んできた男の

顔を牧野はよく覚えていた。

Aー140戦艦の設計会議の時に軍令部から

派遣されていた真田正樹少佐だった。


「突然申し訳ありません。

呉からこちらに来ていると伺いまして。」


「まあまあ、座ってください。」



真田の話は他でもない。

戦艦のことであった。

呼吸を整えると、彼は矢継ぎ早に話はじめた。



「牧野さん、失礼を承知で申し上げます。

Aー140は、不沈戦艦ではありません。」


牧野は別に驚くこともなく、

真田に続きを促す。


「ほう。理由は?」


「実は少し前に航空機を使った攻撃演習を見たんです。

新鋭の九七式攻撃機による演習でした。

その中で長門と陸奥は航空機による魚雷攻撃に

手も足もでませんでした。

結果は10機による攻撃で魚雷7本が命中。

どちらも撃沈判定です。パイロットが選りすぐりだったのも

ありますが、空からの攻撃に戦艦がいかに脆いかを

認識させられました。」


牧野はだまって話を聞いている。

真田は続けた。


「Aー140戦艦は航空機による攻撃を想定していません。

あくまで制空権を確保した上での運用が前提です。

私はそれではいけないと思うのです。

万が一米国と戦争になった場合、米国はあっという間に航空機を

つくりあげ、こちらを圧倒してきます。

そうなったらもうAー140戦艦ではどうにもならない。」



「つまり、制空権を失った状態でもなお

戦える戦艦をつくれと?」


牧野が尋ねる。

真田は大きく頷いた。


「そうです。資源のない日本だからこそ

そのような戦艦が必要なのです!」



牧野はゆっくり椅子から立ち上がり、

図面を広げた机に真田を誘導した。


「私も同じことを考えていました。

実は先日、ドイツから若手の造船官がやってきましてね、

こちらの造船官と交流があったのです。

その時、ドイツの新型艦(ビスマルク級のこと)

の設計図の一部を見せてもらいました。

そしてあることに気がついたのです。」



牧野は図面の下部を示した。


「水雷防御・・・・ですか?」


「ご名答。

今まで水雷は駆逐艦や潜水艦の武器でした。

しかし、潜水艦の魚雷なんてそうそう当たらないし、

駆逐艦のものはもっと当たらない。だから

どの国も喫水線上部ばかり意識して、喫水線下部の

装甲は薄いままでした。

ですが、それに待ったをかけたものがいた。」


「航空機ですね?」


真田の連続正解に牧野の顔は明るくなる。


「そうです。私は専門外なので

詳しいことはわかりませんが、今の航空機は

800キロの魚雷を200マイル(およそ360km/h)

で戦艦に撃ち込めるそうですね。

となれば戦艦はあっというまに戦闘不能に陥ります。」



「はい。だからこそ、

航空機に負けない戦艦を、予算や資材はこちらが

なんとかしますので・・・」


牧野はもう一度真田を見た。

そして、眼鏡の後ろの優しそうな目でにっこり笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ