最後の航海 3
「10時方向!敵マスト複数見ゆ!」
「砲雷撃戦よ〜い!!」
「全主砲発射準備よし!!」
大和艦橋最上部で主砲を手足の如く操る
村田は、照準器を覗きながら、
23km離れた敵戦艦フリードリヒの
偏差を測る。
15mの測距儀で計測された敵艦との距離と
九八式方位盤で導きだされた方位などの情報が
射撃盤に送られ、
村田は主砲の引き金に手を掛けた。
ビー!ビー!ビー!
主砲の発射を示すブザーが艦内に鳴り響く。
武蔵型の46cm砲を凌駕する大和の51cm砲。
主砲発射時に甲板にいれば、人体はバラバラに
引き裂かれてしまう。
「撃ち方、始め!!」
まず、大和の前部主砲4門が轟音を伴い飛び出した。
主砲弾の速度は780m/s。
23km離れた敵艦に到達するまで約30秒を要する。
「敵艦発砲を確認!」
フリードリヒ、ヴィルヘルムの甲板に閃光が走った。
2隻も大和に向けて砲撃を開始したのだ。
その周囲を固めるビスマルク、ティルピッツも
次々と日本艦隊に砲弾を送り込む。
「だんちゃーく!!」
フリードリヒからやや離れたところに
フリードリヒの艦橋をも上回る4本の水柱が
屹立した。大和の初弾は遠弾となり、外れた。
「誤差修正、次弾後部主砲発射よ〜い!!」
だが、その前に大和の周囲をこれまた大きな
水柱が覆った。
「敵弾飛来!至近弾です!」
「艦長、回避行動を!」
「いや、このままでいい。」
副長、航海長らが艦橋下部の司令塔に避難する中、
森下と真田は部下の進言を断り、
大和の昼戦艦橋に仁王立ちしている。
回避運動をすれば、あと数斉射はかわせるだろうが、
そうすれば大和の主砲も照準しなおさないとならない。
「村田は必ず先に当てる。
本艦は世界一の戦闘艦なのだ。」
森下の言葉どおり、大和の後部主砲4門の
射撃はフリードリヒを夾叉した。
「この分なら次は直撃ですね。艦長。」
「だな。」
戦闘開始から5分。
先に命中弾を出したのは大和は第4斉射。
前部主砲の2発がフリードリヒを直撃した。
フリードリヒの中央部に命中した51cmの
鋼鉄の暴力は、彼女のヴァイタルパートを
貫通し、艦内で炸裂。
艦の心臓とも言える機関部を焼き付くされたフリードリヒは、
どす黒い煙を吹き出し、航行能力を失って
海上を漂流し始めた。
「命中を確認!!」
「見事だ、村田。」
艦橋にも伝声管を通じて射撃指揮所の
歓声が伝わってくる。
他の日本艦艇はドイツの駆逐艦、巡洋艦と
海上を駆け回り、砲雷戦を展開している。
太平洋で数多の海戦を経験していることもあり、
水雷戦は日本艦隊有利に進んでいる。
武蔵と砲火を交えていたビスマルクは
左舷を半ば水没させ、最早風前の灯火。
信濃と交戦中のティルピッツも艦上を目視
できないほどの火炎に覆われ、文字通りの
火の車と化している。
「残るはあいつだけだ。仕留めろ!」
大和の主砲が咆哮し、砲弾が天地を切り裂く。
戦闘がすべて終わった時、海上に浮いているドイツ艦は
ただの1隻もなかった・・。