最後の航海 1
大変長らくお待たせ致しました。
激動の昭和19年が明けた昭和20年1月、
真田たちを乗せた大和はジブラルタルに
ひっそりと錨を降ろしている。
連合国側としてナチスに宣戦した日本は、
連合国のフランス上陸作戦を支援するため、
大和、武蔵、信濃ら水上部隊を
太平洋を越え、マゼラン海峡を越えて
大西洋まで派遣したのだ。
港内にはそれ以外にも、
米大西洋艦隊の空母や英国の残存艦艇も
出撃の時を待っている。
「これが、お前との最後の航海になりそうだな・・」
大和の防空指揮所で、彼女の鉄板を名残惜しそうに
撫でる男。
彼に海軍生活はこの大和がすべてだったと言っても
過言ではない。
"もっと、戦いたい"
彼女が回転させるディーゼル巡航タービンの振動が、
大西洋から吹き付ける偏西風と
相俟って、彼女の心の叫びのように聞こえた。
「真田大佐」
「艦長・・・」
いつもと変わらぬくわえ煙草で真田の横に並ぶ森下。
その視線は遠くを向いている。
「俺はもう何十年も現場一筋で生きてきたが、
こんなに良い艦にはもう一生巡り会えないだろうなぁ」
「はい、おそらく、もう作れないでしょう。」
経済基盤の脆弱な日本がこの艦をつくれたのは、
ひとえに"米国との戦争"という差し迫った脅威が
存在したからであり、戦争が終われば、
こんな停泊しているだけで陽炎型駆逐艦の
20倍の燃料を消費するような巨艦を建造する
予算は二度と下りないに違いない。
「だがな真田、例え実物が消えたとしても、
日本人のつくった戦艦がアメリカとドイツの
戦艦を蹴散らして世界中の海を暴れまわったという
"歴史"は消えることはない。」
森下の言葉に真田は小さく頷いた。
戦争が早く終わって、京子と子供と平和に暮らしたいという
想いと、大和とずっと航海をしたいという想い。
ふたつの想いが混じりあう中、
遂に大和に出撃命令が下されたのだった。