終戦への道 5
1944年8月15日午前9時、
海軍陸戦隊は帝都の制圧を完全に終了した。
このクーデターによる陸軍側の死者は800人にも
及び、陸戦隊員も70名が死傷した。
真田による東條の暗殺後、陛下は霞ヶ関一帯に
戒厳令を発令。
最終的には近衛師団司令部が陸戦隊の
説得に応じ、陸軍内部の混乱を沈静化したのだった。
8月17日、
天皇直々の要望と、内大臣木戸幸一の
推挙により、
総理大臣:岡田啓介、海軍大臣:米内光政、陸軍大臣:宇垣一成、
外務大臣:吉田茂らからなる終戦内閣が
組閣された。
それに伴い、吉田茂を全権とし、
海軍次官井上成美、連合艦隊参謀真田正樹を
オブザーバーとする対米交渉団が
20日、ハワイに向けて出発した。
「どうした、体調でも崩したか?」
日本を出発してから3日。
太平洋を横断する大和の防空指揮所で
佇む真田に森下が声をかけた。
「いえ、ちょっと海風に当たりたくて。」
「貴様のところ、来年には子供が生まれるそうじゃないか。」
「はい、今2ヶ月です。初めての子供ですからね。
嬉しいですよ。」
大和の周囲を守る護衛艦は4隻。
軽巡洋艦矢萩と秋月型駆逐艦が3隻。
米国に敵意のないことを示すための
日本側の配慮である。
「なら、この交渉で戦争を終わらせないといけんな。」
その覚悟は真田もできていた。
だがそれは同時に悲しい永遠の別れを
受け入れないと成り立たないこともまた、
真田はわかっている。
真っ暗な東の水平線が徐々に明るみ始めた。
真珠湾まで、あと6日―――――