終戦への道 1
1944年 7月
その会場は、その豪華な内装とは
裏腹に、葬式とも言うべき重苦しさに
包まれていた。
アメリカ合衆国の首都、ワシントンD.C。
ホワイトハウスにアメリカの中心人物たちが
集められている。
集まった人物は9名。
アメリカ統合参謀本部から
ウィリアム・リーヒアメリカ陸海軍司令官付参謀長、
キング海軍作戦部長、
マーシャル陸軍参謀総長、
アーノルド陸軍航空軍司令官、
海軍省からノックス海軍長官、
さらに、ニミッツ太平洋艦隊司令官、
そして大統領ローズベルトと副大統領のヘンリー、
国務長官のコーデル・ハル。
会議の議題はいうまでもない。
対独、対日戦略の再検討である。
「ドイツは、フランス、スペインの海岸線に
強固な防御陣地を構築しています。
イギリス艦隊を壊滅させた巨大戦艦の所在も
未だはっきりしません。」
「イギリス再上陸については一応の目処が
立ちましたが、ナチスの降伏の見通しは
未だたっておりません。」
「東部戦線はどうなっている?
ソ連は優勢なのか・・?」
「優勢ではあるそうですが、
ナチスの抵抗も頑強で、突破に手間取っているようです。」
イギリスの降伏により、ジブラルタル、
スエズ運河などの戦略的要所はすべて
ナチスに抑えられている。
イギリスはニューヨークに亡命政府を樹立し、
各地に点在しているイギリス軍に徹底抗戦を
命じていたが、インド洋も日本海軍の通商破壊艦隊が
頻繁に出没していたため、最早戦力として
期待できるものではなくなっていた。
だが、ローズベルトの一番の関心はナチス
ではなかった。
憎き日本が建造したとされる、超巨大戦艦、
その性能にあったのだ。
「して、ジャップの戦艦は沈められるのだろうな?」
「はい・・・」
用意されていたホワイトボードに
貼られる資料。
海軍航空隊が撮った航空写真だ。
どれもかなり鮮明で、日本戦艦が主砲を
振りかざして戦う神々しく、猛々しい姿が
克明に写し出されていた。
「これらの写真から推測したところ、
この戦艦の排水量は9万トン以上、
主砲は20インチ以上。
優秀なレーダーと無数の対空砲を備え、
予備浮力にも余裕がある設計がなされています。」
「同様の戦艦を造るのにあとどのくらいかかる?」
「優秀な造船官に確認をとりました。
我が合衆国の技術をもってしても
設計、建造、就役まで6〜7年はかかると。」
6年もあれば、日本海軍は
空母機動艦隊をさらに増強し、
ハワイどころか西海岸まで脅かすかもしれない。
あの日本戦艦を戦艦で倒すことが不可能のである
ことをローズベルトは察せざるをえなかった。
「では、そのヤマトを沈めるのにどのくらいの
兵力が必要なのか!?」
ローズベルトの声が大きくなる。
病気を患っている体からは考えられない
大声に、一同は背筋を伸ばした。
「海軍航空隊の精鋭300機が猛爆撃を浴びせ、
最新鋭のモンタナ級を含む10隻の戦艦で
猛攻を加え、多数の16インチ砲弾を叩き込んだにも
関わらず、損傷らしい損傷を与えることは
できませんでした。
少なく見積もっても航行不能にさせるのに航空機600機
以上、撃沈するには航空機1000機以上と
水上艦の砲撃、魚雷が必要になると考えられます。」
航空機1000機、つまり、ヤマトを沈めるため
だけに大型空母10隻以上が必要となるのだ。
その周囲を固めるムサシという戦艦ですら
アイオワよりも優れているというのに。
ローズベルトは天井を仰いだ。
大の日本嫌いの彼にとって、日本が
世界一の戦艦を保有し、太平洋を暴れまわっている事実は
大統領職を追われること以上に
虫酸が走ることであったのは間違いない。
「最後に、海軍は先のマリアナ方面での
海戦における損害を報告せよ」
ローズベルトが消えいりそうな声で命じる。
キングが母親の顔色を伺う子供のように
ばつの悪そう表情で答えた。
「正規空母7、軽空母4、護衛空母1、
戦艦10、重巡洋艦11、軽巡洋艦6、駆逐艦17、
航空機620機以上・・・です・・・」
ローズベルトはそれに力なく頷くと、
意識を失って倒れ、緊急搬送されたのだった。