マリアナ沖大海戦 15
6月20日午後2時11分、
給油作業を終了し、
20ノットで
東南東へ進撃していた
大和以下第一艦隊司令部に
突如、衝撃が走った。
「艦隊1時方向、マスト複数を視認!」
水平線の向こうから次々現れる
大型の艦艇。
その艦影は時が経つにつれ、
より鮮明となってくる。
「あれは・・・空母か!?」
「マストに星条旗を視認!
米空母です!!」
実は、午後1時26分に
第二艦隊に襲撃された米機動部隊のうち、
第一任務群の南側に展開していた第三任務群と
第一任務群の南東側に展開していた第四任務群は
南に向かって逃走したのだが、
この第二任務群だけは北上したのである。
第二艦隊が出航直後から無線封鎖を厳重に
行っていたため、
米軍内に連合艦隊の水上部隊が
2部隊あることを知っている者は
いない。
スプルーアンスや参謀長のカール大佐なども
襲撃してきたのは、
例のモンスター戦艦だと考えており、
まさか、北方から本物のモンスターが
迫っているとは思ってすらいなかった。
一方の真田ら第一艦隊司令部も
米空母はほとんど南に逃走し、
追撃は難しいだろうと考えていたため、
まさに双方想定外の会敵だった。
「天祐だ・・・今なら米空母を砲戦で
やれます!
長官、発砲許可を!」
第一艦隊の若い参謀たちが血気盛んに
宇垣に指示を求めた。
宇垣も満足そうに頷く。
「砲撃戦用意!存分に叩け!」
森下は機関室に速度をあげるよう命令。
大和は25ノットの高速で米空母に肉薄し、
武蔵、信濃も大和に追従する。
米空母との距離は約23km。
絶好の間合いだ。
既に大和の主砲には
約2トンの鉄の塊が敵の装甲を
貫く時を今か今かと待っている。
「主砲旋回よし、照準よし、目標よし!」
「撃てぇぇぇぇ!」
音速を遥かに上回る速度で飛び出した
8発の鉄の暴力は、
第二任務群のエセックス級大型空母
イントレピットの周囲に200mを超える
水柱を屹立させた。
「初弾夾叉!!」
「次弾装填急げ!!」
米空母もようやく接近してきた
艦隊が、友軍の戦艦部隊ではなく、
日本艦隊だと気がついたらしい。
駆逐艦は煙幕を張り、空母は
大慌てで回避しようと
針路を変更したが、
時既に遅し。
「この天候で煙幕とは・・・」
つぶやく真田。
強風下での煙幕はまったくの無意味だ。
「次弾装填完了!」
「撃てぇぇぇ!」
大和の無慈悲な一撃は
空母イントレピットに飛び込んだ。
命中弾はわずか1発。
それでも十分すぎるほどだった。
着弾を示す水柱が消えた時、
イントレピットは全身から
爆炎を吹き出し、左に大きく傾いて
もはや虫の息であった。
「命中!命中!」
「よし、次の目標を狙え!」
その後、大和は第二任務群を
思いのままに蹂躙した。
逃走を図るもう一隻の正規空母タイコンデロガに
引導を渡し、
軽空母インディペンデンス、ガボットは
副砲のつるべ打ちで鉄屑に変え、
向かってくる重巡2隻と軽巡2隻を
赤子の手をひねるがごとく
一隻で叩きのめす。
戦闘は1時間で終了し、
午後3時50分、第一艦隊は
意気揚々と引き上げていったのであった。