マリアナ沖大海戦 11
「終わったな…。」
「はい…」
森下と真田は大和の艦橋で再び静寂が
戻った海面を見つめている。
宇垣長官の険しい表情がわずかに緩み、
安堵の心境がうかがえた。
モンタナ、いや、正確には
"モンタナだったもの"は
真っ赤に燃える火の玉と成って
海面を漂っていた。
32隻の威容を誇った米艦隊。
だが2時間の海戦を終えて残ったものは
その火の玉と救助を求める数えるほどの
米兵だけである。
「駆逐艦に米兵の救助と
敵戦艦の雷撃処分を命じよ。
艦隊をまとめ、2時間後に進撃を再開する。」
宇垣が命じる。
ここまでなんとかもっていた天候は
どんどん悪くなってきている。
雨が強くなり、波のうねりも増している。
2時間が日本艦隊に許されたギリギリの猶予だった。
戦闘に勝利したとはいえ、日本艦隊の
被害も決して少なくはない。
駆逐艦では長波と浜波が米巡の砲撃で航行不能と
なり、自沈処分、
巡洋艦だと妙高が米駆逐艦の魚雷2本を
受けて、呉に引き返すことになった。
そして、長門と陸奥である。
「長門より発光信号。
『我航行不能。自沈ヲ許可サレタシ』です・・・」
オハイオほどではないにしろ、2隻も
手酷くやられてしまった。
通信機器はすべて破壊され、通信手段が
ひとつ残った探照灯だけとはなんとも
悲壮である。
最早2隻にはかつてのビッグセブンの
威容はなく、砲身はすべて折れ曲がり、
艦橋から煙を吹き出し、
マストも副砲もなぎ倒された惨めな姿と
なっていた。
「長官、ご指示を・・」
真田は宇垣に指示を仰ぐ。
大艦巨砲主義者の宇垣には辛い決断であることは
間違いない。
彼はしばし考え、呟くように言った。
「雷撃処分せよ」
「総員甲板に整列せよ!」
激しい雨の中、手の空いた乗員は
甲板に綺麗に整列する。
日本海軍を支えた2隻の殊勲艦の最期を
見届けるために…。
「長門と陸奥に、敬礼!!」
午後10時24分、長門と陸奥は
駆逐艦の魚雷によって
10000mの海底に消えていった…。
だが、彼らに感傷に浸る時間はない。
「艦隊集結!
これより我々は米機動部隊及び米輸送船団を
追う!」
午後11時22分、日本艦隊は
陣形を整え、さらなる獲物を求めて
東進を再開した。